担い手は従業員?フリーランス?オンデマンドエコノミーに潜むもう一つの大問題

ベンチャー企業/スタートアップに関心ある皆様は、Uberなどのオンデマンドエコノミーに注目される方も多いかと思います。使わない自家用車などの遊休資産で高い経済効果を産んでいることを賞賛する声がある一方、タクシー業界からの猛反発を巡り法制度のあり方が問われ実際に日本を含めて世界各国が規制のあり方を議論しているのをご存知の方は多いでしょう。

しかしオンデマンドエコノミーをめぐっては、法制度以外にも重要な問題が発生しています。それは「顧客にサービスを行う人(ドライバーなど)はサービス提供会社(Uberなど)に雇用された従業員なのか、それともサービス提供会社と契約したフリーランスへの業務委託という形をとるのか」というサービスを実際に提供する人の雇用契約に関する問題です。昨年以来シリコンバレーではこの議論を巡り、各オンデマンドサービス間で意見が割れている状況にあり、今後の事業方針をどう進めるかが重要な論点となっています。その詳細とアマテラスなりに考えた今後の展望、および日本での予測を皆様にお伝えできればと思います。

発端となったHomejoyの破綻

破綻した掃除代行サービスHomejoy。海外展開などのスケール拡大を順調に進めていたが・・・(出典:http://thinkapps.com/blog/post-launch/scaling-advice-homejoy-vp-growth/)

オンデマンドエコノミーの労働形態を巡る議論の発端となったのは2015年7月に起きた掃除代行サービス”Homejoy”の破綻です。この企業はサービス提供者(掃除を代行する人物)を「Homejoyと契約し業務委託を行うフリーランス」と考えていました。しかし家事代行者からは「Homejoyの従業員とみなし、福利厚生や賃金を与えるべき」という声が相次ぎ4度にもわたる裁判を起こされてしましました。その結果イメージが大幅に悪化し、資金調達が困難となり破綻したという結末を迎えました。このスタートアップは4000万ドルもの資金調達を果たし、米国だけでなくカナダや欧州にも進出するなど家事代行系サービスの筆頭として知られていたために、その衝撃は大きなものとなりました。

 Homejoy破綻を導いたことで、オンデマンドエコノミーのサービス提供者に関する議論は本格化し、Techcrunchなどのスタートアップ系メディアで騒がれる議論となりました。それまでオンデマンドエコノミーのサービス提供者は「サービス提供会社と業務委託契約を結んだフリーランス」という意見が主流でしたが、ここに「サービス提供会社の従業員」とみなす企業も出始めています。

サービス提供者の正社員化で注目されたInstacart。

買い物代行サービスのInstacart。店舗内で買い物を行う人を従業員化したことで注目された。(出典:http://www.forbes.com/sites/ryanmac/2014/12/30/grocery-delivery-startup-instacart-rings-up-210-million-investment/#2715e4857a0b4b09485f4174)

サービス提供者を従業員にしたことで注目されたのが米国の買い物代行サービスInstacartです。このビジネスでは買い物を行う店舗でものを買う人と各個人までものを届ける人の2種類の労働者がいますが、このうち店舗にて買い物を行う人物をInstacartの従業員にするという決断を下しました。Instacart同様、サービス提供者を従業員とした企業としては、フードデリバリーサービスのSprigやオンデマンドの駐車場サービスを展開するLuxe、遠隔医療のDoctor on Demand、介護サービスのHonorなどが挙げられます。

 サービスを提供する人を個人事業主ではなく、自社従業員と考える企業は提供者に任せる業務が高度化している場合が多いと思われます。Instacartの場合、店舗内で買い物を行う人を従業員にした理由は、サービス提供者に要求するスキルがあまりに高度であることが挙げられます。

 買い物の場合商品選びから購入に至までの時間や買うもののコスト削減、注文ミスの削減などを確認する必要があり、配慮する要素が多いため正社員として雇う必要があるほど複雑だと判断しています。(CEOのApoorva Mehta氏は、卵や果物を運ぶ際の手間について言及しています。)一方配達員の場合ものを人に配るだけなのでそれほどのスキルを要求していないことから引き続き契約者として雇っているようです。Instacartと同様サービス提供者を従業員化した企業の中にも、傷みやすい食品の配達を行うSprig、医療知識が必要なDoctor on Demandなど専門スキルが必要である企業が数多く含まれています。またLuxeのように顧客経験価値をより高めたいという考えている企業もあるようです。

 ただ社員として雇う場合はコストが多大にかかるため雇える人材が少なくなる、という理由から国内他都市や海外での展開、注文してから実行するまでのタイムラグ解消の際に障害になるケースがあります。またかかるコスト自体も膨大で痛みを伴う改革を行う企業も存在します。事実Instacartはサービス提供者を従業員とする際に、300人に増えた従業員のうち12人の解雇・料金の50%値上げという代償を払うことになりました。

サービス提供者は「業務委託したフリーランス」という姿勢を貫く企業も。その一つがUber。

シェアリングエコノミーで最も有名な企業Uber。各国政府・自治体との法制度での争いはしばしばニュースになるが、ドライバーに関しても問題を抱える。(出典:http://youknow.jp/wp/wp-content/uploads/2015/09/uber.jpg)

一方サービス提供者は「契約したフリーランス」という方針を貫いている企業もあります。その一つがUberです。

 Uberは、Instacartなどと違いサービスに要求する仕事内容自体は、運転だけなので高度なものではありません。また海外展開を行うために規模を求める必要があるという点、アプリで予約してから車を待つまでの時間はできるだけ短縮する点があるため多くのドライバーを必要としています。その結果、ドライバーを社員にしていてはコスト上合わなくなるため、「契約したフリーランス」という考えを貫いています。同じような方針を貫いている企業としては、物流ベンチャーのShypなどが挙げられます。Shypは ECサイト運営者に対し、商品の梱包と配送センターまでの配達のオンデマンドサービスを展開している企業で、梱包・配送といった単純作業を人に担わせています。この作業もそれほど高度なスキルは必要とされない一方、時間に対する要求は厳しいため多くの人に任せられる展開が必要とされています。

 しかしこの場合はHomejoyのように訴訟リスクを伴います。事実Uberは米国・カルフォルニア州にて3人のドライバーからUberの社員として雇用することを求めて訴えられるなど、実際に何度か訴訟を起こされています。また万が一敗訴した場合、支払う金額は莫大なものになることもあります。実際、ベンチャー企業/スタートアップとは言えないものの、Fedexは雇用形態に関する裁判に負け、2億2800億ドルという巨額の賠償料を支払うことになったという事例があります。

オンデマンドサービス提供者の労働形態を決める3つの要素

以上をまとめると、

  1. 任せるビジネスの内容は高度なのか:サービスの内容が高度なほど従業員として雇う必要が出てくる。
  2. オンデマンドサービスを注文してから作業に着手するまでの時間は短いほど良いのか:短いほど良い場合はフリーランスとみなす必要がある。
  3. サービスの展開範囲をどの程度検討しているのか:海外展開や他都市での展開を短期間で行いたい場合は、フリーランスとみなす必要がある。

という3点がオンデマンドサービスの労働形態を決める要因になりそうです。

 またリスクについても振り返ってみましょう。従業員としてみなす場合には社員として雇うためのコスト(保険などの福利厚生)が問題となり、Instacartのような問題が生じる可能性があります。一方フリーランスへの業務委託とみなす場合はコストを抑えられるものの、訴訟リスクが重いという問題点があります。前者の場合は社員として雇用できる十分な資金力、後者の場合は訴訟の際に対応できる法務部門の強化が重要な観点と言えます。特にUberの場合、世界各地で法務部門や政府機関と交渉する部門の人材を強化することで訴訟を起こされても十分に対抗できる体制を整えています。この姿勢は日本のオンデマンドエコノミーの企業も見習う必要が出てくるでしょう。

Uberの採用ページ。法務部門や公共政策部門の雇用も行っているのが大きな特徴だ。(出典:https://www.uber.com/ja/jobs)

日本ではフリーランスとの契約が中心になる可能性が高い。ただ教育が必要な分野はある。

家事代行のベアーズ。(出典:http://www.happy-bears.com)

では日本においてはどのような事項が考えられるのでしょうか。日本の場合解雇規制が非常に厳しく、社員として雇うリスクは米国に比べて相当高いものがあります。そのためサービス提供者は、フリーランスとみなす企業が大半を占めることが予想されます。

 ただ家事代行などサービスの内容が高度で行う人によって質の差が出るサービスの場合は、なんらかの形で質を伴わせる取り組みを行っている企業が重要になると思います。その点では社内で教育した登録者を派遣するベアーズ、注文者が家事代行を行う人に評価をつけられるエニタイムズなどの取り組みが注目されます。

最終的に勝つのはどちらか〜単純作業ならフリーランス、高度な作業なら社員化〜

さてオンデマンドエコノミーの労働形態をめぐる問題は今後どのような流れを産むのでしょうか。米国クラウドソーシング企業・FiverrのMicha Kaufman CEOは、フリーランス向けでも保険や交通手当てなどの福利厚生が充実していることやオンデマンド業界に勤める70%以上ものフリーランスは現在の仕事に満足していることを証拠に、最終的にフリーランスへの業務委託が主流になるだろうと予想はしています。確かに車の運転や箱の梱包など単純な作業においてはフリーランスへの業務委託でも構わないと考えられます。

 しかしオンデマンドサービスの中には、料理や掃除などサービスを提供する人に応じて目に見える形で質が異なるものも含むのが事実です。これらのサービスの場合、サービス提供者に教育を全くさせないフリーランスの業務委託という労働形態をとっては質を担保できず、結果としてリピート率の減少から収入の減少へとつながってしまいます。

 この議論の発端となった掃除代行サービス・Homejoyについては規模拡大のために労働形態をフリーランスにした結果、掃除の質を高めるための研修を行えず、結果として質が下がったことで顧客離れを起こしたことがサービス閉鎖の原因となりました。事実サービス提供者がホームレスだったというケースもあったということで批判を受けていることから、如何に問題の多いサービスであったかがわかります。

 このHomejoyの事実は料理や掃除など人によって質が大きく変わるサービスにおいては、教育機会を与えることが如何に大事かということを示しています。そのため、家事代行などの業務においては経営者の身近にいて教育させることが可能な従業員という雇用形態の方が向いているのではないかと考えています。またこれらのサービスの場合は、利用者がサービスを提供する人のプロフィールを見ることができたり、評価することができたりする評価システムを作るのも重要な課題となりうるでしょう。

 オンデマンドエコノミーはまだ新しい業界であることもあり今後も様々なビジネスが登場する可能性があります。そのような報道があった際には、従業員がどのくらい高度な作業を行う必要があるのか、という点に注目してビジネスの持続性を考えてみるとよいかもしれません。

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アマテラス編集部

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