2020年6月データから見るスタートアップ転職市況 ~ポストコロナに向けた“席取りゲーム”序盤戦は終了間近

藤岡清高
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スタートアップ転職を考えているあなたに2020年6月末時点のデータをもとに情報提供し、転職活動の指針に役立ててもらえることが本コラムの目的です。読者の方からのご要望もあり第三弾となります。
4月コラム:リンク⇒https://amater.as/article/2020/05/15/covid-19-startup-202004/
5月コラム:リンク⇒https://amater.as/article/2020/06/12/covid-19-startup-202005/ 

新型コロナウイルス感染症(以下コロナ)の拡大が日本のスタートアップ転職市場にどのような影響を与えていて、今後どうなっていくのか、アマテラスサイトに登録している413社のスタートアップと転職者の直近数か月の動きからアマテラスの考えをお伝えします。

※ここで利用しているデータは、あくまでアマテラス登録企業の利用状況です。国内のスタートアップ全体の状況と合致するとは限りませんので、ご承知おき下さい。

【目次】
1.WITHコロナでスタートアップの採用は現状どうなっているのか?
1-1.コロナで積極採用のする業界・企業
1-2.CEOの意思決定力の差が出始めた6月
2.コロナによりスタートアップ転職市場はどうなるのか?
2-1. GWを境に買い手市場シフトは鮮明に。6月新規登録者数はアマテラス史上最多
2-2.転職活動が活発化している職種
2-3.人材流出が活発化している業種
3.オンライン面接で採用ミスマッチも。オンボーディングは慎重に
4.ポストコロナに向けた“席取りゲーム”序盤戦は終了間近

1. WITHコロナでスタートアップの採用は現状どうなっているのか?

1-1.コロナで積極採用する業界・企業

アマテラスに登録している企業を業種毎に区分し、2020年2~6月において採用アクティブ企業(=スカウトメッセージを送った企業)数の推移を見てみました。(表1参照)

WITHコロナ期がスタートした2月から約半年が経過しましたがコロナ前と比べて採用ペースが上昇もしくは、維持している業種カテゴリーは以下の7つです。

【採用拡大・維持業種(2月→6月比)】
① 100⇒500(5倍) 新素材・バイオテクノロジー(大学発コアテクノロジー関連)
② 100⇒200(2倍) サステナビリティ(再生エネルギー・EV関連等)
③ 100⇒200(2倍) コンサルティング(M&A、大企業とスタートアップのマッチング等)
④ 100⇒200(2倍) モビリティ・ロボティクス(自動運転・調理ロボット等)
⑤ 100⇒150(1.5倍)HRtech・Edtech(オンライン教育、リーガルテック等)
⑥ 100⇒100(1倍)金融・fintech(ビッグデータ・投資等)
⑦ 100⇒100(1倍)ヘルスケア・シニアサービス(認知症対策・オーダーメイドサプリ等)

6月は、特に素材・バイオベンチャーの採用活動が目立ちました。その多くは大学発ベンチャーで、長期的視点で研究開発を進めているためコロナ下の経済状況に左右されずに良い方がいれば採用するというスタンスです。GW以降転職マーケットに優秀層が増加し始めたこともあり、採用が増えている状況です。
ビフォーコロナ時に資金調達を完了していた大学発ベンチャーには潤沢な資金があり、ここにきて買い手市場の恩恵を受けている印象です。

それ以外の業種の採用トレンドは大きな変化はなく、総計すると2月と同程度という採用状況でした。

〔表1〕2020年2-6月の採用アクティブ企業数を業界別に比較
(2月の利用企業数を100として指数化)

1-2.CEOの意思決定力の差が出始めた6月

アマテラスでは各業界、各企業の動きをデータで確認し、CEOとのインタビューを継続していますが、6月にはCEOの意思決定力の差が目に見える形で出始めたように感じています。

2020年2月頃からコロナウイルスの感染拡大が騒がれ始め、その後緊急事態宣言が発出・解除され、現在は新しい生活様式での日常となっています。この間に5カ月が経過していますが、これはスタートアップが意思決定し、変革するのに十分な時間です。

この間に大きく3つのタイプの経営者に区分けされたと感じます。
① 攻めの意志を明確にして変革を実行した経営者
② 守りの意志を明確にして速やかに撤退した経営者
③ 意思決定できずに様子を見ている経営者

【①攻めの意志を明確にして変革を実行した経営者】
コロナの影響を受けておらず、表1で2月よりも積極採用に動いている業種の経営者に多いです。
このタイプの会社は先行き不透明感が最も高かった2,3月時に経営方針や採用の積極化をCEOが意思決定し、6月時点では目に見える形で結果が出ているという特徴があります。

アマテラス登録企業の株式会社RevComm(東京都渋谷区、會田武史代表取締役)は、同社のプロダクツ『MiiTel(ミーテル)』の無償提供や、カラクリ社・キャスター社との共同取組みなどをリリース。積極採用であることを會田代表取締役自らがSNS等で発信。この状況でも業績を伸ばすことに成功しています。

また、ベンチャー企業ではありませんが、私の古巣である株式会社ドリームインキュベータ(東京都千代田区、原田哲郎代表取締役CEO)は、コロナで社会変革スピード、世代交代が早まると判断し、短期間で経営陣の世代交代を意思決定して実施しました。
創業者の堀紘一氏と代表取締役社長の山川氏が退任し、次世代にバトンタッチ。経営陣自らが身を切る改革をしたわけですが、新時代に向けて経営体制を変えるというのも勇気ある経営判断だと思います。

【②守りの意志を明確にして速やかに撤退した経営者】
レジャー・飲食・不動産関連といったコロナ直撃業種に多く現れたと思います。

守り・撤退戦は決してネガティブなことではありません。逆風下で潰さないために早期の意思決定が出来る経営者は素晴らしいと思いますし、ポストコロナでの復活、成長にも期待ができます。

前回のコラムでも触れましたが、レジャーイベント関連事業を行うアソビュー株式会社(東京都渋谷区、山野智久代表取締役CEO)はコロナによる大幅な市場縮小を予見した上で、社員を他社に在籍出向させるという意思決定を行いました。
レジャー市場が復活した時、この会社もきっと成長軌道に戻るでしょう。

宿泊・キャンプ・教育事業を手掛ける株式会社R.project(東京都目黒区、丹埜倫代表取締役社長)は、宿泊事業が大きく縮小することを想定し、すぐに採用停止を決めました。
その後、宿泊事業は縮小したものの、キャンプ事業が成長しています。コロナで海外旅行はNG、国内旅行も自粛という状況下で、クルマで行ける近郊にあり、しかも三蜜が回避できるキャンプ場ニーズが増大したのです。ファミリー層を中心にキャンプ事業に追い風が吹き、再度積極採用へシフトチェンジしています。

経営層の意思決定が早ければ、復活のシフトチェンジも早いのだとR.project社の事例から感じます。

R.project社の様子(アマテラスサイト内より)

【③意思決定できずに様子を見ている経営者】
攻めや守りの意思決定をした経営者がいる一方で、やむを得ない経営状況もあるとは思いますが、2,3月時点で「採用は慎重に考える」と言っていたCEOが6月になっても慎重に考えたままなっている、といったことも散見されます。

「慎重に判断する」を連呼する経営者は要注意で、このタイプの経営者は残念ながら有事下で競合に差をつけられてしまうと感じています。

意思決定できない理由を挙げればキリがありません。
しかし、同じ業界で同じような規模感のスタートアップでも、意思決定に大きな違いが出ています。どんな状況でも意思決定する人はするし、しない人はしない。有事下でこそスタートアップは意思決定をしなければ、“窮すれば鈍する”というスパイラルに入ってしまいます。

実際にアマテラス取引先でもコロナ破綻が6月から出始めました。
その理由をよくよく聞いてみると、コロナで発生した想定外の事態に対応策を打つことが出来ず、手を打てない経営者に愛想をつかした社員が離れ、最終的に打ち手がなくなったといった状況です。つまり、意思決定をしなかったことがことの始まりです。

私は、これまで多くのスタートアップを見てきましたが、「会社というのは意外と潰れないものだな」と思っています。

2020年6月1日付日経産業新聞のWAmazing代表取締役社長CEO 加藤史子氏の連載記事から一部引用致します。

私には定期的に何度も読み返す文章がある。米国のアクセラレーター「Yコンビネーター」の創設者ポール・グレアム氏が投資先企業を集めた夕食会で行ったスピーチで、原題を「How not to die(死なないために)」という。ここに一部だけ紹介したい。

「スタートアップが死ぬときには、公式の理由はいつも資金切れか主要な創業者が抜けたためとされる。両方同時に起こる場合も多い。しかし、その背後にある理由は、彼らがやる気をなくしたためだと私は考えている。取引したり新機能を作り出したりして24時間働き続けているスタートアップが、つけを払えなくてISP(インターネットサービスプロバイダ)からサービスを切られたために死んだというような話はめったに聞かない。スタートアップがキーを打っている最中に死ぬことはめったにないのだ。だからキーを打ち続けよう!」

必死に生き残ろうとするスタートアップ企業はサバイバルします。会社のHPやCEOのSNSにその思いは現れています。経営者に生きる意志があれば、生存本能やファイティングスピリッツが何らかの形で表出してきます。
他方で、何も発信していない会社は手を止めてしまったのかもしれません。

2.コロナによるスタートアップ転職市場はどうなるか?

2-1.GWを境に買い手市場シフトは鮮明に。6月新規登録者数はアマテラス史上最多

さて、スタートアップ転職者動向についてお伝えします。
前回コラムでもお伝えしたようにアマテラスサイト内の新規登録者数はGW明けから増加傾向にあり、6月もその傾向が継続し、2月比で約1.7倍になりました。

6月は大企業のボーナス月でもあり通常時でも登録者数が増加する傾向にありますので、その影響を受けている可能性もあります。実際に登録者にメーカー・金融などいわゆる大企業在籍者が目立ちました。

〔表2〕2020年2-6月のアマテラスのプレミアム会員*の新規登録者数比較
(2月の新規登録者数を100として指数化)
(出所:アマテラスサイト内データ)
*アマテラスプレミアム会員:アマテラスの審査によりスタートアップで経営幹部候補人材として活躍できると判断された会員

2-2.転職活動が活発化している職種

次に転職活動を活発化させている職種状況についてお伝えします。
特に6月に目立ったのは生産・事業オペレーション職種の登録増です。2月に比べて6月は3.5倍の登録増になっています。

大手メーカーの方に多く、コロナの影響でサプライチェーンが滞ったり、生産量が不透明になることで仕事に影響が出たようです。ただ、よくよく聞いてみるとそれは表向きの理由で、元々自分のキャリアについて危機意識を持っていた方がコロナでキャリアシフトの意識が高まり、より裁量のある環境で実力をつけるためにスタートアップ転職を考えたという方が少なくありませんでした。

それ以外の職種について5月と大きな変化はありませんでした。
広告減や採用減の傾向は今後も継続する可能性があり、マーケティング・人事採用職種の登録は今後も増えることが予想されます。

また、人との接触が減ったことで個人向け営業(保険・ハウスメーカーの営業)や店舗事業(小売流通での個人向け販売)に関わる職種での登録増加傾向も目立ちます。

〔表3〕アマテラスのプレミアム会員の新規登録者の職種別推移

2-3.人材流出が活発化している業種

次に、アマテラス登録者の業種別割合を今回新たに調べてみました。

【新規登録者が増えている業種】
・建設・不動産:100→367
・金融    :100→312
・メディカル :100→300
・メーカー  :100→245
・流通・小売 :100→245

上記業種の登録者が大きく増加していますが、いわゆる大企業の若手社員(20代)が多いのが特徴です。

登録者の方々と話してみると、現勤務先の業績とはあまり関係なく、「今の会社にいても30代、下手すると40代まで若手扱いでしばらく裁量がない。今後はジョブ型に移行するので、早めに裁量ある環境で働いて市場価値を付ける働き方をしたい」といった回答が多く聞かれました。コロナをきっかけに「現職にビジネスマンとして成長できるカルチャーや風土があるか」といった危機感を抱き、登録されているようです。

メディカル業界では製薬会社のMRの方が多い状況です。現在は医療機関に出入りすることが難しくなり、営業活動が難しいことも影響しているかと思います。

一方でエンタメ業種の方の登録が少ないのは、Stay Homeによるエンタメ消費への追い風が影響していることもありそうです。実際にアマテラスに登録しているエンタメカテゴリーのスタートアップ企業は業績好調です。

〔表4〕アマテラスのプレミアム会員の新規登録者の業種別推移

3.オンライン面接で採用ミスマッチも。オンボーディングは慎重に

コロナで急速に進んだオンライン面接ですが、会社訪問せずにスピーディに話が進むという良い面がある一方で課題もあります。
・オフィスの様子や働いている社員の雰囲気を知る
・社長とのコミュニケーションを通じて相性を知る
という点ではオンライン面接では不十分な面があります。

残念なことにWITHコロナでの採用ミスマッチで入社3ヶ月以内の試用期間で退職というケースがアマテラスで数件発生しました。
WITHコロナでの採用ミスマッチ、オンボーディング失敗で共通していることは以下です。
・オンライン面接だけで採用決定
・採用プロセスで一度もオフィスにいくこともなく、CEOとも対面無し
・入社初日からリモートワーク

中には上記プロセスで入社して活躍している人もいるのですが、それが出来るのは、
・スタートアップで働いたことがあり、既に実績がある
・再現性のある専門性や高いプロフェッショナルスキルがあり、リモートでも価値が出せる
という方です。

もしあなたが初めてのスタートアップ転職で、さしあたり個人で成果を出すだけのスキルがまだ無いということでしたら、採用プロセスで以下についてしっかり確認しましょう。
・必ずCEOに会う。「この人と一緒に働きたい」と思えるか
・自身のスキルと会社が求める成果と時間軸にギャップがないか
・オフィスの雰囲気に違和感はないか
・人事、面接官、経営陣、CEOとコミュニケーションして違和感はないか
・働き方(労務管理やリモートワークなどについての考え方)

もし何らかの違和感があれば、納得行くまで話をするよう企業にお願いしましょう。
あなたのその要望に応じてくれない企業や、面接で違和感をぬぐい切れなければ、勇気をもって辞退しましょう。

コロナでスタートアップの即戦力採用ニーズは高まっており、リモートワークで成果主義の傾向は今後強まっていきます。特にシード・アーリーステージのスタートアップでは育成余力はなく、早めの成長、早めの成果が求められます。その時間軸は大企業のような年単位のものではなく、数か月程度で判断が下されます。
また、オフィスに出勤してもリモートワークで社員がほぼおらず、わからないことを聞ける人がいないという状況も多いです。

スタートアップ未経験者でプロフェッショナルな働き方の経験が少ない人にとって、コロナ下でのオンボーディングは難易度が高くなっています。「早めに内定が欲しい」という焦りやエージェントから回答期限を急かされるということがあるかもしれませんが、慌てず、焦らず検討して頂きたいと思います。

4.ポストコロナに向けた“席取りゲーム”序盤戦は終了間近

アマテラス登録者層のこれまでの流れを振り返ると、2020年3-5月の登録者はアーリーアダプター層、つまりキャリア感度の高いハイクラス人材の登録が多かったのですが、6月になると大企業若手サラリーマン層の登録が増加しました。

この流れでいくと、秋以降にかけては大企業サラリーマン中堅層、いわゆるボリューム層がスタートアップ転職市場へ流れていくことが予想されます。スタートアップ転職戦線はマス層も参戦してより混沌としていく、とアマテラスは見ています。

一方、〔表1〕で示した採用アクティブなスタートアップ企業はコロナシフトのCX(コーポレート・トランスフォーメーション)に対応し、アフターコロナに向けた事業開発に着手済みです。2020年夏頃にはPDCAのD(DO)、C(CHECK)フェーズに進むことでしょう。

アマテラスに登録している某スタートアップは、ポストコロナに向けた顧客ポートフォリオの入れ替えを既に始めています。ビフォーコロナでは東証一部上場クラスが主取引先でしたが、ポストコロナで台頭が予想されるマザーズ上場企業をメインターゲットに変更し、営業を開始しています。未来のニューリーダーといち早く付き合うことで、自分達を引き上げてもらおうという考えです。

業界内の秩序や序列が混沌とする中で、ビジョンあるスタートアップは虎視眈々と戦略を練り、“War for Talent(人材獲得競争)”にもいち早く動いています。
それに伴ってビジネスパーソンの新秩序に向けた“席取りゲーム”もすでに始まっており、その序盤戦は既に終了間近のように思われます。

コロナ禍は早く鎮静化してほしいと誰もが願っています。そして、コロナが沈静化した時に我々は新しい業界序列を見ることになるでしょう。GAFAなどのIT企業達が台頭したのはリーマンショック後でした。今回も歴史は繰り返すことになるでしょう。

アマテラスに登録してスタートアップ転職をはじめる方はこちらから。

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藤岡清高

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