「途上国の教育格差是正のためにできること」~そこで求められる人材像とは~【2016年11月アマテラスセミナー】

株式会社すららネット代表取締役社長 湯野川孝彦氏

今回のアマテラスセミナーは、ICTによって急速に変革している教育業界で躍進するすららネットの湯野川社長にご登壇頂きました。
すららネットは、低学力層という独特のターゲッティングと独自のeラーニング開発によって国内の事業拡大に成功してきました。そして、現在では海外でも展開を始めています。
今回のセミナーでは、教育ベンチャーの最先端を走る湯野川社長に「ICTによって、教育業界はどのような変革を遂げるのか?」、「海外に向けた事業展開の現状は?」、「教育ベンチャーで働く醍醐味は?」といった疑問にも答えていただきました。

湯野川孝彦氏

代表取締役社長
湯野川孝彦氏

株式会社すららネット 代表取締役社長。
東証一部上場企業の新規事業担当役員時代にeラーニング教材『すらら』の事業を 企画・開発。教育格差是正を目指し、ボトムアップ層を対象に事業を展開。日本にとどまらず、スリランカ・インドネシア・ インドにも進出している。
2015年、政府 の「教育再生実行会議」有識者委員にも 選出。
2016年日本ベンチャー大賞 社会課題解決賞受賞。

株式会社すららネット

株式会社すららネット
http://surala.jp/

設立
2008年08月
社員数
30名

《 Mission 》
教育に変革を、子どもたちに生きる力を。
《 事業分野 》
教育・Edtech
《 事業内容 》
e-ラーニングによる教育サービスの提供および運用コンサルティング、マーケティングプロモーション及びホームページの運営

理想のeラーニングを目指して起業

株式会社すららネット 代表取締役社長 湯野川孝彦氏(以下敬称略):

すららネットの設立以前、私は女性専門のフィットネス事業の拡大に携わっていました。まだ日本にはなく、アメリカをはじめ世界で1000店舗くらい展開していた急成長ベンチャーに注目し、テキサス州の本部やシカゴの店舗などを視察に行き、役員陣で「これは成功する」と確信して即座に交渉に入ったのです。そのフィットネスは、今は他資本グループになっていますが、日本でゼロから事業拡大を始めて今や1500、1600店舗を展開し、日本最大規模にまで成長したフィットネスチェーンを育てることになりました。
このように新規事業をつくって、育てるということが私の専門、得意分野でした。

2004年に、その会社で、個別学習指導塾のフランチャイズ加盟店開発代行の支援をしたことが教育分野と関わりをもったきっかけでした。その際に、「個別指導塾のフランチャイズ展開をする以上、自分達でも経営をしてみないと実際のことが分からない」という話になり、一店舗加盟して運営を始めました。私としても初めての塾経営でしたが、任されて結構うまくいったのです。しかし、同時にうまくいかないこともあり、教育分野に対する関心が増しました。

何がうまくいかなかったかというと、子供たちの成績を上げることです。成績が上がる子はとても上がりますが、下がる子も出てきました。
その原因はオペレーションの仕方というよりは、個別指導塾の業態そのものの問題点にあると思いました。それならば、理想のeラーニングを開発すれば解決できるのではないかと考え、当時の勤務先のCEOに企画を提案し、実現させることになりました。そして、2005年に開発を始めて、2007年に完成しました。

新しいeラーニングは、子供たちがより理解できるようになったということもあり、比較的順調でした。
しかし、会社が本業で傾いてしまい、最終的には民事再生で倒産してしまいました。倒産前に、私はMBOでその事業を個人的に買い取りました。つまり、企業内起業で立ち上げた事業を、自分で買い取って独立したというのが私のキャリアです。

「独立後は、思ったようにはうまくいかないでしょう」とよく言われるのですが、私の場合はほぼ思ったようにいきました。というのも、それまで散々新規事業の立ち上げに携わった経験があったのと、予め十分に考え抜いていたからです。

新しい“教育×ICT”を学校・塾で実現

湯野川孝彦:

今は、BtoBtoCのビジネスモデル、つまり学校と塾への販売が今の収益のメインですが、その一例が新島学園です。この学園は群馬県にある、新島襄(日本の宗教家、教育者。同志社英学校〔後の同志社大学〕を興した)にゆかりがあるところなのですが、そこで250台のパソコンに向かって生徒たちが一斉に学んでいます。

同時に学んでいながら、同一の授業ではなく学年もバラバラですし、科目もバラバラです。そして、すららのeラーニングは、後で詳しく説明しますが、一人一人の生徒に合うようにできており、同じところを学習していても生徒によって違う問題が出てくるのです。生徒がeラーニングを使って学習している時、先生はタブレットで生徒の状況を全体的に把握したり、個別に細かく見たりしています。

このようにICTの使用により、たくさんの生徒が個別の学習を同時に行うということが実現しています。文部科学省が将来的にやろうとしていることを、ベンチャーが先に体現しているのです。

すららネットはベンチャーなので、他にもいろいろな最先端のことをやっていこうと思っています。
例えば、NTTドコモの人工知能である自然対話プラットフォームを使って、「Aサポーター」という機能を開発しました。ログインすると「ニャンロイド」というキャラクターが出てきて、学習ログに基づき、適切な励ましの声がけをしてくれるのです。

これは慶応大学と共同研究をしていて、3パターンの声かけのシナリオの中から、どれが一番学習行動を変えるのかといったことを研究しています。EdTechの世界は、今後、ビッグデータ解析で「いかに生徒の行動や行動習慣を変えるのか」という勝負になってくると思います。

“教育×ICT”は成長市場

湯野川孝彦:

今、塾業界は、個別指導がブラックバイト問題などで叩かれていますが、『すらら』を活用した塾ではアルバイト雇用は0人で、塾長1人で50人くらいの生徒を持つことができます。学習はほとんど「すらら」で進めていけるのでこういうことができます。非常に損益分岐点が低く、労務管理がいらない塾ということで、今、校舎数が伸びています。現在650程のこういった塾がありますが、このうちの半分程度が、ほぼ『すらら』だけで教えています。そして更に拡がっています。

2016年は、経済産業省の日本ベンチャー大賞という賞もいただきました。すららネットの他には、メルカリや医療ベンチャーのペプチドリームなどのベンチャーが受賞していました。

他に、教育再生実行会議に2015年から参加しています。私が参加した年期は第二次メンバーですが、二次メンバーのテーマは、それまでは学力が高い子たちを見ていたのを下の方に目を向け、発達障害や学習障害、不登校などに加え、経済的に問題がある家庭の子に注目し政策を議論しようというものでした。

今は色々なところにICTを活用しようとする動きがでています。教育産業にいる者として思うのですが、教育の個別化が今ますます要望されており、従来だとそれを少人数学級という形態で実現するのですが、あまりに少人数では予算がとてもかさみます。そして、予算的な制約の中で「やっぱりICTの活用が必要不可欠」という結論に至るのです。すららネットは、このICTの活用を中心にやってきたので、この会議に招集されたと思っています。

このように文部科学省がICTの活用について声を大にして言っているので、これからの公教育はどんどんデジタル化が進みますし、民間教育も同様だと思います。ですから、成長市場だと言えます。

参入相次ぐ教育業界で、マネタイズに成功

湯野川孝彦:

そして、教育界は今大きく変化しています。2014年頃はエドテックベンチャーが次々と誕生し、もてはやされ、資金調達も順調でした。しかし、この1年程で状況は様変わりしています。進出していたエドテックベンチャーの問題が色々と明らかになってきたからです。

その問題とは、教育ベンチャーがマネタイズ(事業から収益が得られる仕組みを作ること)をなかなかできていないことです。つまり、稼ぐことができていない。資金調達を華々しくやっていたのですが、基本的に赤字なので、次々と資金調達し続けないと事業が続かないということになり、次第に疲弊してきてしまったのです。

一方で、タブレットの開発で教育業界が爆発的に成長するようになり、大手が参入するようになりました。そのため、この1年は大手によるベンチャーの吸収合併が頻発しています。

リクルートが、クイッパーというDeNA創業者が立ち上げたロンドン発の会社を完全買収し、代ゼミグループがベストティーチャーを買収しました。更に、Z会はマナボと資本業務提携をし、楽天はドリュコムが作った『えいぽんたん』という英単語アプリの会社の株式の50%を占めるようになりました。

すららネットは、数少ないマネタイズに成功している会社なので、独立した経営で成長することができています。

低学力の子にこそ教育を

湯野川孝彦:

現在の『すらら』は英語・数学・国語の3教科、対象生徒は小学校高学年からですが、2017年春には低学年版も出します。『すらら』の最大の特徴は、低学力の生徒でも理解できる、低学力に強いということです。学力が高い子は、従来型のカリスマ先生の講義をストリーミングで流すというようなスタイルの学習でも集中力が続くからいいのですが、学力の低い子はそうはいきません。

しかし、誰もそこへ解決方法を出さなかった。そこに我々が解決策を出したのです。未だにこの低学力の生徒を対象とする分野には明確な競合は存在せず、相変わらず「高学力の子向けの教育はレッドオーシャンで、低学力向けはブルーオーシャン」というのが教育業界の現状です。

この分野に競合が現れないのには色々な理由があります。低学力の子は学習習慣がない子ですので、まず習慣付けから始まります。我々はこういった厄介な問題に取り組んでいるわけです。

どうやって実現しているかというと、例えばゲーミフィケーション(遊びや競争等、人を楽しませて熱中させるゲームの要素や考え方を、ゲーム以外の分野でユーザーとのコミュニケーションに応用する取り組み)があります。成長を可視化したり、ステータスが変わったり、地域ランキングが出たり、全国の生徒との繋がりが持てたりと、色々と取り組んでいます。

『すらら』の強みは“相互性”と“適応性”

湯野川孝彦:

実際に『すらら』の授業が始まると、アニメーションのように声優が喋って、インタラクティブなレクチャーが始まります。この“インタラクティブ”というのが大きな特徴です。低学力の子でも、声優が語りかけてきて途中まで教えたら、「じゃあ、ちょっと質問!」などと問いかけてくる。答えて正解だったら「やったー」とか「エクセレント」、間違えると「残念!」など言ってくれるのです。これによって学力の低い子でも集中力が続くというのが大きなポイントです。

他にも、アダプティブな要素があり、学習を進めているうちにスローステップで難しくなっていきます。もし不正解が続くなら、「この子にはちょっと難しいかもしれない」ということで簡単な問題になっていきます。生徒の実力に応じて1問1問、問題の難易度を変化させることができるのです。問題の数も、生徒に定着したことが分かるとすぐ次の段階に移る、逆にちゃんと分かっていないとわかるとしつこく出題されるようになっています。

また、たまに『診断結果』というのが出てきて、生徒の苦手な分野やつまずきを分析してくれます。生徒が間違えた原因を自動分析して、そこに戻って学び直すというリコメンドが出るようになっています。人知れず自分の課題を見つけて、先生にも気付かれずに、実は管理画面で気付かれているわけですが、自分でそれを克服することができるのです。

ここまで細かくやっているのは、今は『すらら』ぐらいです。今後も進化させていきたいと思っています。
これらは我々が特許取得している技術も用いてプログラムを作り込んでおり、低学力の生徒に強いという状況を実現しています。

貧困や障害に苦しむ層を本業で支援

湯野川孝彦:

さらに我々の理念は、所得格差と教育格差の負のスパイラルという、日本や世界にある問題を解決しようということで、独立間もない頃から収益事業と共に色々やっています。

例えば、仙台で震災にあった子供達や貧困世帯の子供達の学習支援を行うNPOと一緒に活動をしています。先に言った通り、塾や学校に対してサービスを提供して収益を得るのが、当社のマネタイズの基本パターンですが、ピラミッドの底辺層の人達には、なかなかリーチすることができませんでした。しかし、NPOや自治体と組むことによって、その層へのリーチが可能になり、本業そのもので社会貢献ができるようになりました。これと同じことを同じやり方で、スリランカでも現在展開しています。

また、発達障害や学習障害を抱えた人は60数万人程いると言われていますが、そういった方向けにも今準備をしています。現在開発している小学校低学年版は、実は発達障害や学習障害の子でも分かるように、先駆けて作っています。

日本の教育を海外の子供たちへ

湯野川孝彦:

JICAの事業採択を通して海外でも事業を展開しています。『すらら』のような低学力に強いeラーニングは、海外でも通用するのではないかと思ったのです。「海外に行きたい」と考えていたのですが、ベンチャー企業ではなかなか難しい。しかし、JICAの事業採択を受けると補助金を受けることができます。そして、スリランカで応募したら通ったという経緯です。

スリランカでマイクロファイナンスをしている『女性銀行』というところと組んで事業を始めました。スリランカのコロンボ周辺のスラム街にある、女性銀行支部の3階に掘建小屋を作って、そこにパソコン、椅子や机を置き、子供たちが集まってきて学ぶといったことを実現しています。

生まれて初めてパソコンに触れる子もいるので、きちんと操作できるかが心配でしたが、すぐにできていました。子供たちはすごく楽しそうに喰らい付いてきます。
説明会等でも子供達の反応はとてもいいです。プロジェクターでeラーニングを映して説明するのですが、生徒50名定員のところ、大体100名から、多いと200名以上が申し込んでくれます。ほぼ、オープン即日空席待ちをする人もできるのです。

この件はJICAから非常に注目されています。というのは、子供達の学習支援やっているスタッフが、スラム地域の素人を集めて、4日間の訓練をして、ファシリテーターやチューターに育てているからです。貧困地域の子供達の学習支援と女性の雇用促進を同時に実現しているのです。しかも、全く補助金を使わずに継続できているというので注目されているようです。

海外版では、数を数えるところから始めています。当初、中学生版から作ろうと思ったのですが、日本以上に根本的に分かってない子供たちがいたので、数を数え始めるくらいの子供達でも分かるように作りました。日本版ではこの部分はなく、海外版で先に作りました。足し算や引き算という基本的なことも、向こうの学校は大雑把で、細かい操作は教えておらず、子供たちができない、ということが起こっています。

現在、海外では学習塾などが、それこそ日本で予備校が勃興した時期と同じような勢いで盛り上がっています。そして、日本の教育は、日本のイメージがいいので、海外での評判が非常にいいです。すららはアニメ型なので、やはり日本のアニメファンの若年層にはうけがいいですね。成績も1年弱で、引き算が100点中9.2点程だったのが、3倍ぐらいになるといった結果も出ています。
アッパーミドル層向けの塾も、徐々にオープンしていこうと思っています。2015年5月にスタートして、現在13校にあり、2016年内にもう3,4校開校予定です。

インドネシアでも、インドネシア教育大学と組んで、学校で実施しています。また、リコーと組んでインドでもトライアルをやっています。

国内では、ICTが教育にどんどん入っていっており、少子化の中でも伸びていく業界です。そして、海外についても、巨大な市場があると思っており、現状ではとても手応えを感じています。

すららネットが求めるのは、自分で考えて行動できる人

湯野川孝彦:

さて、すららネットが求める人物像ですが、まずは理念に共感できる方。そして、べンチャーなので、道なき道を歩むのを喜びとする人や、考え抜くことができる方です。

ベンチャーの場合、とりあえずやってみることが大切で、何か決まった道筋があって、それをいかに効率的にオペレーションするかという話とは全く違います。1つ1つが、小さな新規事業みたいなので、そういうことを自分の頭で考えながらできる方がいいです。

更に、少人数でたくさんのことをやっているので、大手企業の人からすると、かなり次元が違うマルチタスクさです。そういうことをむしろ楽しめる方がいいです。

ですが、ブラック企業ではなく、深夜労働はほぼないです。22時以降は基本的には人がいません。

子供がいる女性陣も多いので、「子供が熱出したので、今日はもう帰ります」ということもあります。ちなみに、当社では、結婚している女性陣が次々と妊娠して、次々と産休・育休に入っていくのですが、今のところ100%復帰して、働いています。さらに、奥さんが旦那を引き込んで、夫婦で当社勤務というのも2組います(笑)。

具体的な仕事内容は、国内においては全国の学校、学習塾が抱える課題を解決するために、企画や事業運営を提案するというものです。

低学力に強いeラーニングを提供するだけではなく、きちんと運用をしてもらわないといけない。ですので、運用してくれるように塾や学校に提案したり、オペレーションへの助言等もしています。すららは、独自のeラーニングを持っている上に、現場に入り込んでコンサルティング的なこともやって、使い方にまで口を出しているという両面があって、低学力の生徒の成績アップを実現しています。

他にも様々なことに取り組んでいます。例えば、他の代理店などを使わずに少人数で全国をカバーするには、凄く効率化しなければなりません。ですので、すららではウェブ会議システムを徹底的に使いこなしています。これはフォローだけでなく、営業にも使っています。こういうことをしていたら、今度はシンガポールや上海にお客さんができるといったような、当初想定していなかったことも実現しました。

また、新卒で4月に入社したら、最初の夏休みに一人で研修講師をすることが目標なので、徹底的に鍛えられます。先輩が本当に面倒を見てくれて、皆が同じように研修講師ができるようになるということが最初のゴールです。

「研修講師をするには3年は経たないといけない」とかいうのは、当社では一切ありません。すららネットはそうような会社です。

以上です。ありがとうございました。

転換期の教育業界で得られる経験と「レベルの違う」やりがい

アマテラス:

先ほど教育界にICTがどんどん入っていると仰っていましたが、今の教育業界でしか得られない経験ややりがいを教えてください。

湯野川孝彦:

今の日本の教育業界は大きな転換期で、アナログな紙と鉛筆の世界、猛烈な勢いでデジタルが入ってきています。一種の革命が起きているところで、業界に破壊的イノベーションが入ってきている時に、そこに入り込みながら勝ち上がっていくようなことは、非常におもしろい体験だと思いますね。そういう時代での動き方や、求められるスピードがありますので、そういうことが体験できます。

やりがいは、とてもあります。実は、私も最初は「教育って、辛気臭い」と思っていました(笑)。(前職で)『牛角』などのお店を運営していると、「美味しかったよ。ありがとう」といったお客様の言葉でやりがいを感じるので、「そちらの方がいいのでは」と思っていました。

しかし、複数の事業を並行して運営している時、『すらら』の塾に成績がオール1の女子中学生がいました。その子が、「生まれて初めて英語の勉強を楽しいと思った!」と言ってくれたのです。「これは美味しい飲食チェーンを作るのとは、レベルが違う価値を与えられるな」と感じました。

そこから教育の方に傾きました。子どもが、分からなかったことが分かるようになるというのは、目の輝きから声の出し方から姿勢から全部が変わってきます。その子の基礎となる人生が変わるのです。こんなにやりがいのある職業はないのではないかと思い始めたのです。

先生は目の前にいる子供たちを教えることで影響力を与えられます。それが、eラーニングだと、何百人、何千人という大きなスケールでできるのです。『すらら』には現在3万5千人程の生徒がいますが、彼らに影響を与えられるのです。

そして、海外では、新興国のK-12(幼稚園~高校卒業までの教育期間)で我々のように本当に基礎教育を根本から教える分野には意外と競合がいません。新興国は、国の成長のために底上げをしたいと思っていますが、欧米系は出てきません。欧米系は、高等教育や英語教材等には参入していますが、下の層には現地語対応が必要になるので、そんな面倒くさいことはしていないのです。

ですので、現在市場は空いています。これを早く押さえることができれば、本当にグーグル、フェイスブック級になれるのではないかと思っていて、今焦っているところです。インドには学校に行っている子供たちだけで3,4億いますから、その市場の大きさも魅力です。

少子化が学力格差を顕在化させている

参加者A:

国内では人口の減少もあり、どちらかと言えばボトムアップ、つまり中間層がターゲットのようですが、海外では学力がとても低い層がターゲットであると聞き、ターゲットが違うのではと疑問を持ちました。

湯野川孝彦:

日本において、学力格差は以前よりも問題になっています。なぜそれが起きているかというと、実は少子化だからです。

少子化ということは、需要が減っている。しかし、学校数や塾の数という供給は、あまり減っていません。そこで何が起こるかというと、学校や塾のそれぞれが定員を維持しようと努力すると、最トップ校は別として、従来は採っていなかったようなレベルの生徒を募集せざるをえないのです。すると、学校等で「昔だったらこんなこと皆分かったのに、今は全然分からない子がいる」というような状況となり、低学力の問題に日本中が一斉に頭を悩ましています。

海外は海外で、やはり先生の質などの問題があり、低学力の子を生んでいるのです。全く違う理由ですが、当社は両方で通用するというポジションにいます。

参加者B:

人数が減っている分、小学校や中学校での教育の供給が1人あたりに対して多くなる、ということには繋がらないのですか。

湯野川孝彦:

その分、教員も減らしています。文科省と財務省のせめぎ合いもあり、公立学校では教員数が減少する中で需要と供給のアンバランスも生じています。更に、少人数学級で子供一人ひとりをカバーしようとしても、それが今は難しく、子供の勉強するモチベーションが下がっています。「頑張って追いつこう」という気持ちが子供からなくなり、益々学力格差が開いていることを、現場の先生の誰しもが実感しています。

ICTで伸長する国内教育市場と急成長の新興国市場がターゲット

アマテラス:

対世界を含めて、日本の教育ビジネスの将来性とその課題について教えて下さい。

湯野川孝彦:

市場としては、日本は少子化ですが、タブレット等が入ったことで数年前から爆発的に成長しています。市場規模は、少し前まで100億程度だとあるレポートで言われていたのですが、今は1000億を超えており、若干基準が変わったこともありますが、数年で10倍になりました。そういう意味では、しばらくICT教育の浸透の後押しで、少子化とは関係なしに市場としては伸びています。

世界で言うと、アジアの途上国・新興国が急成長市場で、大きな可能性があると思っています。私が思うのは、「日本の教育はやはりレベルが高い」ということです。国内では何かと批判も多いのですが、日本の教科書はやはりよく組み立てられており、カラフルで見やすい。海外の教科書を見ると、「何でこんな順番で教えるの?」ということもあったりします。ですので、日本の教育は世界でも非常にニーズもありますし、価値もあるので、市場性もあるのではないかと思っています。

自ら事業を企画し、推進する力がつく

アマテラス:

教育企業、教育ベンチャー、もしくはすららネットのことでもいいのですが、その業界で働くとどのような専門性やスキルが身につくのでしょうか。

湯野川孝彦:

教育企業で働くと勿論教育業についての見地が深まります。また、ベンチャー企業で、まだカタチになっていないことを自分で企画を立てて進めていく、推進力も付きます。

私がもともと新規事業を立ち上げるプロであり、それは焼肉屋であっても、女性のフィットネスであっても、教育事業であっても、私から見ると根は同じようなところがあります。ベンチャービジネスを立ち上げるスピード感や、様々な出来事に対処していくことは比較的共通項なので、そういうことを成長しているベンチャーの中で身に付けていくということは、非常に価値があると思っています。

アマテラス:

教育ベンチャー、もしくはすららネットさんで働くとどのようなキャリアパスになりますか。つまり、キャリア上のメリットは何ですか。

湯野川孝彦:

営業職で言うと、恐らく一般的な企業だと少なくとも何年かは継続して勤務していることが条件だったりしますが、当社は基本的にないです。ここで突然ですが、葉山さんを紹介します。

株式会社すららネット 葉山氏(以下敬称略):

すららネットの葉山といいます。私は、3年前にアマテラスを通じてすららネットに入社しました。前職はエン・ジャパンで営業部長や事業部長、新規事業をしていました。

すららネット入社当時は、一営業スタッフとしてスタートして、新規電話などをかけていました。そうしているうちに色々な偶然も重なったりして、管理職の代理を任されました。それが入社後1年の時でした。ベンチャー企業では、この1回の代理というチャンスを確実に活かせるかどうかが、とても大事です。そこで営業の組織がうまく回る等の結果を出すことができて、今年から取締役を務めています。あとはBtoCという形でエンドユーザー向けのサービスの担当役員もしています。

湯野川孝彦:

もう1人、アマテラスから転職してきた人がいます。彼は元々「海外でやりたい」という意向を持っていましたが、「日本の営業で一人前にならないと、海外には行けないよ。それでいいですか」と言ったところ、「それでいいです」と答えました。そして、入社後にすごい力を発揮してくれ、通常はもう少しかかると思っていたのですが、たった1年で一人前になりました。ですので、九州担当でしたが、「もうちょっと南に行こう」ということでインドネシア担当になりました(笑)。

葉山:

キャリパスは、一般的なものもありますが、基本的にはその人の能力や、今の戦略において必要なポジションなどに合わせて、必要なキャリアパスを作っていくというのが正しいのだと思います。

先程マルチタスクの話もありましたが、仕事の領域が広いです。私の場合、営業の担当役員をする傍ら、今でも営業もしています。かつ、NTT西日本等の大手企業とのアライアンス関係も私が担当しています。このように様々な業務があるので、どこでもやっていけるスキルが身につくように思います。

女性・男性関係なく活躍できる会社

アマテラス:

葉山さんのように色々な方が活躍していると思いますが、具体的に年齢、経歴、どんな活躍をされているのか、教えていただけますか。

湯野川孝彦:

年齢的には30代前半、後半、40代半ばぐらいまでが多いです。男性・女性比率でいうと、人数は半々です。力関係は2・8ぐらいで女性が強いです(笑)。女性は使命感や達成意欲、責任感が高いですね。30歳前後で結婚して、子供ができて産休・育休を取って、また復帰してきてバリバリ働いているような方が多いです。しかも、事務職だけでなく、営業をしている女性もいます。

当社では女性が働きやすい環境を意図的に作っています。優秀な女性達がいるので、彼女たちの力を発揮できるような職場環境を作ろうと思っていたら、自然とそうなりました。就業時間も割と自由で、子供の事情等で遅れてきたり、早く帰ったりとかいうのは普通にやっています。

アマテラス:

今のすららネットで働く魅力を教えてください。

湯野川孝彦:

社会の問題を正面から見て解決していると実感でき、IPOを目指している、まさにベンチャーらしいスピード感を感じられることですね。

教育の原体験が低学力の子供達。彼らをイメージして『すらら』が出来た

参加者C:

ボトムアップに注目していることに「凄い」と思いました。教育分野ではマネタイズが難しいのに、そこでマネタイズに成功していることにも感心します。ボトムアップにフォーカスした流れや、最初からボトムアップに注目していたのか、それとも既に持っているものを活かそうとした過程でそこに行ったのか、そのあたりについてお聞きしたいです。

湯野川孝彦:

実は、偶然の要素が大きいです。冒頭でもお話ししたように2004年に個別指導塾チェーンの支援を始めた時に、実際に東京で塾を運営しました。東京においてブランド力のない塾を下町に作るとどうなるか?初めに集まってきた生徒は極めて低学力の生徒ばかりだったのです。

定期的に私もそこに行って教えたりしていたのですが、すごく印象に残ることがありました。
ある時視察に行くと、女の子が「先生、ちょっと教えてよ」と言ってきました。私はコンサルタントをしていますから、分かりやすく教えるのはプロだという自覚もあり、数学を図解しながら教えました。「こうなんだよ、分かった?」と言うと、「全然分からない」と言われたのです。ものすごくショックでした。

2005年から『すらら』を企画して作る時、頭の中にはその子供達のイメージがありました。ターゲットが、戦略ではなくて、彼らになったのです。当時のCEOと結構言い合いもしました。途中まで作ったものを見せると、「そんなに細かく教えなくてもいいのではないか」と言われて、「いやいや、出来ない子にはこのくらいはしないと分かりません」とか言い合いをしました。たまたま、私の教育の原体験が低学力の子供達だったのです。

そして、やっていくうちに、「今の日本では、この層の子供達に、誰もソリューションを提供していない」ということに気がつきました。それからは「やはり、うちが行く道はこれだ」と、どんどん進んでいきました。

アマテラス:

これをもって今日のセミナーを終わらせていただきます。湯野川さん、本日は貴重なお話しをありがとうございました。

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

株式会社すららネット

株式会社すららネット
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設立
2008年08月
社員数
30名

《 Mission 》
教育に変革を、子どもたちに生きる力を。
《 事業分野 》
教育・Edtech
《 事業内容 》
e-ラーニングによる教育サービスの提供および運用コンサルティング、マーケティングプロモーション及びホームページの運営