電力自由化により、いよいよ2016年4月から一般家庭のお客さんの8兆円の市場が開きます。エナリスにいま参画することは楽天が、ソフトバンクが、ヤフーが生まれる瞬間に参加できますよという話です。

株式会社エナリス代表取締役社長・取締役  村上憲郎氏・渡部健氏

エナリスは2013年にマザーズに上場し、2014年12月に創業者が辞任。そして同月に元グーグル名誉会長の村上氏が社長に就任しました。

急成長したベンチャー企業の社長を引き継ぐことはとても大変だと思います。
しかし、新生エナリスにはとても大きな追い風が吹きつつあると私は思います。
2016年4月の電力自由化、IoT社会の到来、2020東京オリンピック、、等々。

村上氏は今この時を電電公社の民営化の時に例えています。その後30年間に何が起こったのかはこのコラムを読んでいる人は
身をもって知っているでしょう。インターネットによるイノベーションが起こり大きく社会が変わりました。

グーグルなどグローバル企業で要職を歴任してきた村上氏がなぜエナリスの社長に就任したのか、
そしてどのようにエナリスを経営していくのかに迫りました。

そして創業期のエナリスに参画し取締役としてエナリスを牽引する渡部氏にも今後のエナルギー社会について伺いました。ぜひご覧ください。

村上憲郎氏・渡部健氏

代表取締役社長・取締役 
村上憲郎氏・渡部健氏

代表取締役社長 村上憲郎氏
【経歴】
1947年大分県生まれ。70年京都大学工学部卒業。同年4月日立電子に入社し、ミニコンピュータシステムのエンジニアを務める。78年日本DECに入社。86年から米国本社勤務。91年に日本DECに帰任後、同社取締役に就任。その後、米インフォミックス副社長兼日本法人社長、ノーザンテレコムジャパン社長、ドーセントジャパン社長などを歴任。2003年グーグル米国本社副社長兼日本法人代表取締役社長に就任。2009年より同社名誉会長。2011年に村上憲郎事務所を開設し、2014年12月、エナリスの社長に就任。

取締役  渡部健氏
【経歴】
1977年埼玉県生まれ。2000年早稲田大学理工学部電気電子情報工学科卒業、2002年早稲田大学大学院理工学研究科修了。同年4月住友商事株式会社に入社し、海外の電力プロジェクト業務に従事。その後住友商事が手掛ける新電力であるサミットエナジー株式会社へ出向し、新電力の業務に幅広く従事。2009年一橋大学大学院国際企業戦略科(金融戦略MBA)修了、2009年9月株式会社エナリス入社、執行役員経営企画部長。2010年同社取締役就任、現在に至る。

株式会社エナリス

株式会社エナリス
https://www.eneres.co.jp/

設立
2004年12月
社員数
162名(2018年9月現在)

《 事業分野 》
サスティナビリティ
《 事業内容 》
エネルギーマネジメント事業、および、 パワーマーケティング事業

村上社長とエナリスとの出会い

アマテラス:

村上さんがエナリスに参画した背景を教えていただけますか?

株式会社エナリス 代表取締役社長 村上憲郎氏(以下敬称略):

昔、日立電子に勤めていました。そこでは、福島第二と中部電力の浜岡の二つの原子力発電所の建設時の振動試験を一部担当していました。
当時は、オイルショックの直後で、日本はエネルギー資源小国である中で、今後は原子力に頼る他ないという時代でしたので、月に200時間残業も経験しながら、何の疑いもなく勤めました。

そういう経験もあり、原子力に対する複雑な思いもある中で、今回、自分の人生の最後の仕事になるかもしれないタイミングで、また改めてエネルギーの仕事をさせていただくというのは、何とも言い難い運命の巡り合わせのような感覚を抱いております。

エナリスに参画する以前のグーグル時代のことです。2008年8月に少しばかり身体を壊して入院をし、9月には退院したのですが、免疫系のこの病気は完治しないという事がわかったので、グーグル日本法人の次期社長候補として入社していただいていた方に代行をお願いして、3カ月ほど自宅療養し、年度末である12月31日付けをもってGoogleのアメリカの副社長と日本の社長を退任いたしました。
2009年に入って、お医者様に「免疫も戻ってきたので、社会と接点持ってもいいですよ」という言葉を頂き、仕事をして良い事になりました。
それを聞きつけた当時GoogleのCEOだったエリック・シュミットから、「ノリオ、名誉会長というポジションで、日本でスマートグリッドの普及をやってくれないか」との言葉から、私の仕事復帰は始まりました。

この、スマートグリッドというのは、実は丁度2009年初頭に誕生したオバマ政権が打ち出した「グリーン・ニューディール」という施策の中の、ITにかかわる3本柱の一つに入っていました。ITというのは弱電とも言われ、それに対して電力系のことは強電と言います。スマートグリッドは重電力などの強電であると認識していました。しかし、ITの中に分類されていたという驚きが当時にはありました。
今考えるとITに分類されていた理由はIoT、所謂Internet of Thingsということであったことが分かります。

つまり、スマートグリッドは、簡単に言うと電気機器がインターネットにつながる端緒となるものなのですが、それをきっかけとして、モノがインターネットにつながってくるという時代を切り開くことが既に6年前にして、アメリカは国家戦略としてわかっていたということだと思います。
Googleはスマートグリッドが日本においても、普及して行くことを望んだのですね。
元来、私は通産省時代の「第五世代コンピュータプロジェクト」以来、何かと経産省のお手伝いをさせていただく立場で仕事をしてきました。なので、スマートグリッドの普及を行いたいとご挨拶に伺うと、経産省は非常に優秀な人が揃っているので、「では、日本も遅れをとらないようにスマートグリッドに取り組みましょう。」とご理解いただき、私の日本でのスマートグリッド普及というミッションが動き出しました。

それから1年ほど後にNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が事務局、スポンサーは経産省という形でスマートコミュニティ・アライアンスが発足しました。
いろんな日本の産業界の方たちが入られて、スマートグリッド、そして今回の電力システム改革に繋がるような動きが、そのあたりから本格的に始まるわけです。
そうして、2年経った2011年の3月11日に不幸にして東北大震災と、それに起因して福島の原発事故が起こり、計画停電等を経験する中から、犠牲になられた方々には大変申し訳ないですが、そのことがスマートグリッドの必要性と日本の電力システム改革の必要性の認識の背中を押すという形になりました

これまでの日本の電力システムというのは、絶対安定供給体制と言います。
一日の電力需要曲線の時間軸に対しての大きな波打ちに対して、その最大需要の、それも年間の最大需要も賄える設備を用意して電力を作っています。電力を需要したい人は好きなだけ勝手に使えるということです。
でも、これはよく言われる笑い話で、需要曲線が最大になる時間は年間にせいぜい10時間あるかないかなんですね。年間でもピークと言うのは、8月の最初の週の甲子園野球の準決勝と、決勝の時間くらいです。

その10時間にしか到達しない最大ピーク電力量を守れるような設備投資を、確実に準備しておくという話です。
この経済合理性に合わない仕組みを日本の電力会社は、着実に続けてきました。

国の方針として、絶対安定供給体制を守れと言われているので、設備投資を十分にして、その方法を続ける他ありませんでした。
なので、年間にわずか10時間しか使わないような過剰設備を抱え込む仕組みで日本は歩んできました。
ですが、3.11をきっかけとして、これは経済合理性に合わない事であると多くの人が理解したと感じています。
このような状態になると、需要曲線の縦軸である瞬間の電力量(キロワット)をどううまくコントロールしていくかというデマンドレスポンス、あるいは、節電を行ったらその節電量は、単に当然ながら請求されないだけでなく、ネガワット発電が行われたとみなして電力会社が買い取るネガワット買い取り制度や、そのネガワット発電量を取引するネガワット取引市場の創設。これらを日本においても取り入れていく他ありません。
その流れの中でエナリスと私は出会いました。
そのような事ができる会社が日本ではエナリスの他ありませんでした。

デマンドレスポンスの仕組み、メガワット発電への払い戻しなどを行える会社を国として探していた際にぱっと手を上げたのがエナリスでした。
そしてエナリスがマザーズ上場にあたり社外取締役を探しているというご相談をいただいて、このような背景の元にお引き受けいたしました。

花開くエネルギービジネス。IoT、2020年東京オリンピック。

アマテラス:

村上さんご自身がエナリスで達成したいことはどのようなことでしょうか?

村上憲郎:

私の思いを言いますと電力システム改革です。
電気事業法改正案は、2015年4月1日から施行され、新しく電力広域的運営推進機関が設立されました。
一部の電力会社が絶対的な供給責任を持っていた時代から、形的には半官半民の広域機関が電力の供給責任を持ちます。しかし、持っていると言っても、まだ形のみです。
私たち、エナリスも含めた民間企業600社が手を携えて絶対供給体制に匹敵するような安定供給の仕組みを作っていく5年間が、これから到来いたします。

昔の経済合理性に合わない仕組みではやっていけないと多くの人が理解したわけですから、今後需給バランスをどのように形成していくのか、その部分でエナリスが果たせる役割を、期待されていると感じています。
まずは、その期待を十分に果たしていきたいと考えています。

さらに、その先には2020年に東京オリンピックが開催されます。
これは、国として、スマートジャパンを見せつけなくてはならない機会だと感じています。
なので、それまでにきちっとした上で、更にスマートな電力システムを仕上げていくという面で貢献したいです。
また同時に、IoTは本当にそこから花開くと思っています。
IoTの発展の中で、エナリスがある一定の役割を果たせるような会社に社員と一緒に育て上げていくつもりです。

エナリス前社長の池田さんが「エネルギー情報業」という言い方をしていました。エネルギーを切り口とした情報業をということですが、今後IoTの時代になり、エネルギーに関しての情報業がオリンピックから先にさらに花開くと感じています。
エナリスとしてはそこを目指していこうと、社員の人たちと様々な作戦を練りつつありますね。

電気事業法の仕組みの中で貢献しながら、そこに留まらずに「エネルギー情報業」としての先行きをしっかりと見据えた企業という点を、再構築していく所存です。

一方で今回、不祥事を引き起こしてしまい、コーポレートガバナンスに関する問題として、しっかり対応していかないといけない事が山ほどあると考えています。その点はもちろん誠心誠意行っていくつもりでいます。

電電公社の民営化時、今のインターネット社会を予測できたものはいない。

アマテラス:

村上さんの長期的なビジョンを教えてください。

村上憲郎:

私は、長期的なビジョンほど、誰にも見えていないと思います。
それは、ちょうど30年前に、電電公社が民営化されましたよね。
その後、携帯電話がこんなことになろうとは、インターネットがこんなことになろうとは1986年には、誰も思っていなかったはずです。

そういう意味合いにおいて、長期ビジョンと藤岡さんがおっしゃいましたが、私は「誰も持っていない」と、正直思います。
なぜかと言うと、この電電公社の民営化以来、30年間で起こったような事が、これからの30年、いや10年ぐらいで、電力システムの周辺で起こると思います。

電話が携帯になりましたとか、インターネットの時代になりましたとか、このような事に匹敵する事が、電力システムの周辺でも、遅くとも東京オリンピックの前後から見えてくるはずです。
その中でも重要な役割をエナリスが果たしたいと思っているわけです。

例えば、電電公社の民営化でよく話題になるのは、稲盛和夫さんがDDIという会社をお作りになりましたよね。第二電電ということで、電話会社としてお作りになったのですが、その後様々な会社と離合集散を繰り返した結果として今はKDDIです。
KDDIさんは電話会社でもあるし、携帯の会社でもあるし、インターネットの会社でもあるわけです。
それに伴って、本来のNTTさんも、景気が良くなりましたね。
片側では、ソフトバンクさんのような会社が生まれ出ているわけです。

もう、何が起こるかわからないという意味合いにおいて、長期ビジョンを持っていますという発言するのは不遜極まりないですよね。
「何が起こるかわかりません。でも、今後とんでもないことが起こるでしょう」と。

とんでもないことが起こるビジネスチャンスを、その都度しっかり掴みながらこのエナリスという会社は、現在は電力システムの面で貢献する会社として歩みつつあります。

東京オリンピック前後に、本来のエネルギー情報業と呼んでいる実態が、きちんと絵に描けているとは言いません。
ですが、電電公社の民営化から30年間かけて起こったことが、これから10年ほどで起こるということを想定しつつ、エナリスという会社を育てていきたいと思っております。

渡部取締役のエナリス参画の背景

アマテラス:

渡部さんはどのような背景でエナリスに参画されたのですか?

取締役 渡部健氏(以下敬称略):

私は電力との出会いは大学時代でした。大学では電気工学科に進み、大学と大学院では電力システムを専門に研究していました。
ちょうど1999年で日本の電力の小売自由化が始まる少し手前でもあり研究テーマは「電力の自由化」でした。
大学院では電力自由化も含めた再生可能エネルギーの研究を少し行っていました。そのような研究室なので就職先としては電力会社に就職する人が多かったですね。

ですが、私は今後自由化が始まる際に攻める側に回りたいなと感じPPSに関する事業を行いたくて住友商事に入社しました。
父親がNTTに勤めていたので、守る側の立場でした。父親を近くで見ていると、やはり攻めるほうが自分としても面白いなと感じました。
電力会社が今後は守る側になるのではと思ったので、攻める側に回りたい、そのような単純な理由で商社に入りました。

電力の産業構造を変えたい、この業界に改革を起こすぐらいのつもりで考えていましたね。しかし、現実はそんなに簡単ではなくて、結果としては逆に手のひらの上で動かされているという感覚を覚えました。

住友商事に入社して、最初は海外の電力の仕事をしていました。
2年ほど経った時に、手を挙げてPPS(*Power Producer and Supplierの略。電力会社以外で、大口需要家に対し電気の供給を行う事業者のこと)の部署に移り、新電力の事業にトータルで5、6年ほど携わりました。
日本の1社がPPSでどのように頑張ってもシェア3%で、大手電力会社は大きなシェアを持っていて彼らの強さを身に染みて感じました。このままやっても何も変わらないと感じたので、少し視点を変えないといけないと思っていたところでちょうどエナリス前社長の池田さんと出会う機会がありました。
そこで、PPS1社でドンといくのではなく、いろんな思いを持ったPPSが集まり、集団アプローチとしてやっていく話を伺い、これなら多少インパクトが与えられるのではと感じました。

そうして池田さんと一緒にやっていこうというのが、エナリス参画の背景です。

大規模電源から分散電源の仕組みへ

アマテラス:

渡部さんがまだ少人数のエナリスに参画した当時、どのような成長ストーリーを描いていたのですか?

渡部健:

非常にニッチな市場ですが、PPSのニーズがゼロではないと感じていたのと、同時に自分自身も非常に小さな業界の中でしたが、経験を積んでいた人が少なかったというのもあり、この業界では自分はそれなりに経験やノウハウがある方だと自負していました。
そこにニーズがある事は確信していましたが、それを知らない人が多いという課題が存在していました。
布教活動のように説いて回る所から動いていけば何とかなるかなという気持ちで、住友商事から当時数十人のエナリスに転職いたしました。

電力システム改革が、当初はいろいろ揺れ動きながら、少しずつ進んでいたのですが、大きな変化がなく、大きな一歩を踏み出す事は出来ないでいました。
そこに不幸にして震災が起こった事で、エネルギーの世界観は、我々が一つ一つ啓蒙していく事よりも、日本に大きなインパクトを与えました。

おそらく多くの方が停電というものを初体験したと思います。
大きな発電所を作り、大きな送電システムを作り、電気を供給するという仕組みは、戦後70年経ちましたがずっと変わっていません。
その中で、大きい発電所が1個やられたらもう電気が来ないという事を多くの方が理解したでしょう。
我々は専門家なので知ってはいましたが、それをマネジメントするという意味では雑駁としか対応できません。
このエリアを停電させますとした時に、病院など絶対に電気を使わなければいけない施設がそのエリアの中に含まれている可能性はある。しかし、停電するしかない。
そうすると、あとは、自分で守ってくださいという話になってしまう。

分散電源の仕組み構築を目指す。

渡部健:

今、私がやりたいなと思っているのは分散電源の仕組みです。
一つ一つが全て究極的に繋がっていて、ここは絶対に電気がいるから電気を送る、しかし、その隣の家は普通の家なので、例えば今は電気はいりませんと。
そのように、1個1個がすべて繋がるような形で管理できていたとしたら計画停電というのはおそらく無かったことだと思います。

分散電源と言われる再生可能エネルギーの普及は国も含めて注力しているところだとは思うのですが分散電源はエネルギーコストが高いと言われています。
私は「コスト低減×技術革新×サービス」で、イノベーションは起こると考えています。
携帯電話も、最初に比べると、本体は実質的に安くなり、通信コストもだいぶ安くなり、その上にコンテンツが乗ってきています。
これと同じ変化が電力に起こってくると思っています。

大規模電源から分散電源に変わっていくという過程は、パソコンや携帯電話で起きた事と同じです。
大きな汎用機器が元々あったものが、今はもう1人1台パソコンを所持している。肩掛けの重たい携帯からスマートフォンに代わっている。電気も同じで、そのうち1家で1台太陽光発電設備ということになると電気は家で作るのが当たり前になる。そうなるとエネルギーの単位当たりのコストは下がって効率が上がってくる、そのような方向で考えると、電気を供給する仕組み自体が、逆になくなっていくわけです。
結果、分散型エネルギーの仕組みがあり、安定供給する大規模な仕組みがあり、大規模と分散の協調的な制御を行う、いわゆるスマートグリッドの話に繋がります。

そのような社会への変化が、いま起きかけていると思っています。
自分たちで電気を作る時代が到来すると、それに伴い我々のようなエネルギーをマネジメントするサービス事業が今後増えてくるでしょう。
それも見越して、発送電分離という方面も見えてくるのかなと思います。

サステイナブルな社会とは

渡部健:

分散電源になると家の中の器具が全部繋がってくるのでそこに情報が生まれます。電気や環境だけではサステイナブルな社会が形成しにくいなと思ったのが、愛知県豊田市でトヨタさんやドリームインキュベータさんとスマートコミュニティ実証試験に参加した時です。あの時は環境負荷の低い街を作るというテーマで、いい取組みだと思いました。「だけど誰がこのサービスにお金を払うの?」という話になったときに答えは出なかった。やはり経済性は必要で、環境性に加え経済性と社会性のバランスが成り立たないとサステイナブルには絶対にならないと感じています。とてもいい経験でした。
経済性というと、少し堅くなりますが、柔らかく言えば、何か便利であったり、豊かであったりという価値が提供できるような形にならないとサステイナブルな社会というのができません。

そこで、上手にエネルギーの情報を使うことが必要になってきます。
エネルギー単独の情報だけでも、様々なことがわかります。
例えば、在宅しているのかいないのかなど。

IH(「電磁誘導加熱」方式で加熱する調理器。「Induction(誘導)」+「Heating(加熱)」の頭文字。)クッキングヒーターでは、使用される電気の量を記録することで、「この人はIHを持っているのにほとんどIHを使っていない、家でご飯食べずに外で食べているのかな」など、電気の使い方だけを見ても生活パターンはわかります。自分の家でもモルモットになり実験してみました。
さらに、その電力の情報の上に購買情報などの他の情報とかけ合わせる。
それは、ビッグデータと言われる世界です。

ですが、これまでのエネルギー情報というのはほとんど蓄積されていません。
今まではそれを捨ててしまっていました。
電力会社も請求するだけのデータとしての活用がほとんどだと思います。

単独のデータとしても、ほかの業種とかけ合わせることでも様々な事が可能になります。そして、さらに進化して新しいサービスを作っていく事がスマートグリッドの次のステップです。

ステップとしては、3段ステップを考えています。
第1ステップは、リアルな電力システム改革です。これはエナリスが現在取り組んでいるビジネスの延長線上にあります。
第2ステップでは、エネルギーインフラが変化し、分散電源になるでしょう。
当然、IoTがあって、情報が生まれ、ビッグデータができます。その解析をしていく。
次の第3ステップは、何が起こるかまだわからないけれども、これまでにないサービスの部分が生まれてくると感じます。
ここに誰の何が入ってくるかという点に関しては、まさに誰も知らない世界だと思いますが、いまGoogle、Amazon、Appleが狙っている世界はおそらくこの世界です。
それを日本で作るというのが、私の一つの夢かなと思います。

現状のままでは、おそらくアメリカに全部やられてしまうと思います。
日本からアメリカに対抗できるような企業が生まれないというのも、少し関係ありますよね。最後に一番いいとこを取られてしまうという。

エナリスの競合は誰か?

アマテラス:

電気自動車などもこのままではGoogleの独壇場になってしまう可能性がありますね。

村上憲郎:

社員から「Googleと組む事はあるのですか?」という質問をたまに頂くのですが、私は手を組む可能性よりも、Googleと戦う可能性の方が大きいと考えています。
Apple、Amazon、Googleに代表される企業などは、そのうちコンペティターとして立ち塞がってくる可能性も視野に入れ、それに対して拮抗できるようIoTにおいて日本を代表する企業を目指そうと社員の方々には伝えています。

現場の力が会社の力。

アマテラス:

エナリスの経営の中で、今後変わっていく事、これまでと変わらない事はなんでしょうか。また村上流の経営についても教えてください。

村上憲郎:

皆様のご存知の通り、あのような問題を起こしてしまい、先ほども言及いたしましたが、再発防止に務めるとともに、コーポレートガバナンスに関しても、今まで以上に目を向けて整備を行っていきたいと感じています。

取締役の機能を強化するとともに、社外取締役を増員、また経営監視委員会を設置する事で社内外両面から会社を見ていく体制をとっていきます。
特設注意銘柄に指定を受けているので、エナリスをここから解消させていくことは株主の方々に対する最大の責務だと感じ、それを粛々とやっていく所存です。

今回、勇み足を起こしたのは、電源開発事業です。
現在仕掛かっている案件についてはきっちり調査して仕掛残高や棚卸資産などを着実とキャッシュに換えていくことで財務体質を強化するという意味合いにおいてやり続けます。しかし、新規に取り組むことはないでしょう。
一方で渡部さんが取り組んでいる電力システムの改革の中でしっかりと需給バランスを微調整していきます。

また、経営についてわかりやすいお話をするとエナリスは何故かドレスコードが厳しく設定されていました。ですがスーツが仕事をするのではないと私は考えています。就任時の挨拶で私、夏は短パンにアロハで仕事するからね(笑)と言いました。ドレスコードのような堅苦しい事は無しにして、それが象徴する何かというものを社員には感じとってほしいと思っています。

アマテラス:

社員のやる気を引き出していく村上様ならではの手法はありますか。

村上憲郎:

基本的に、そこの部門をおやりになっている方々の実力が、この会社の実力なんですね。だから、「どうしましょう?」というふうに聞かれても、そんなのがわかるんだったら、社長なんかやっていないよ、現場やっているよというね。

最終的な意思決定の責任は経営陣にありますが、少なくとも一つ一つの業務をこなしていく事に関しては現場主導型です。

現場が一番知恵を持っているべきだと思っていますね。
現場が、「A案とB案で迷っているのですが」と相談を受けた場合、あなたはどっちだと思うのですか?と私は聞きます。
そして、「A案だと思うのですが」と現場が言うのであれば、それはもうA案です。
その応答に象徴されるように、自分が任されている事を感じてもらいたいですね。
社員の方々が、自分の後ろを振り返ったとしても、この担当は自分以外誰もいません。
そのような人物として、自分はこの会社の、ここの部門に携わっているという事を日々感じてほしいと思っています。

アマテラス:

実際に社長に就任してみて感じたエナリスの強みはどのあたりですか?

村上憲郎:

やはり、各部門には知恵者とノウハウを蓄積した人たちがいます。
これは強みです。少なくとも電力に関わるところで、いろんな苦労も経験し、失敗もしてきた方々が揃っているので、それなりのノウハウが蓄積してきているという事は言えると思います。

特にオペレーションの部門は強いです。
仕組みとして、スケーラブルに完成されています。
もしも、これから取引量が増えていった場合も十分対応できる形が出来上がっています。この部分は、大したものだ、と正直思いました。

電電公社民営化時のDDIのような役割を果たしたい。

アマテラス:

今後、エナリスは社会からどのような見られ方をされていきたいとお考えですか?

村上憲郎:

繰り返しになりますが、電力システム改革というのは、どこかにもし前例を見つけるとしたら、電電公社の民営化のプロセスをどなたも思う事でしょう。
その中で稲盛さんのDDI(現KDDI)のような役割。あるいはソフトバンクの孫さんやヤフーの井上さんが果たしたような、あのような役割を担っていきたいと考えています。
わかりやすくお話ししますと、10年先を見た際に、そういう会社になったよね、というような所を目指したいです。
そして、そのような期待をしていただけるように、遅れをとらずに間髪を入れず、着実に施策なり、製品なり、サービスをクリエイトできるような会社になっていきたいと考えています。

今回このような問題を引き起こしてはしまったのですが、そこから立ち直って、次から次へと「お、次はこの手か」のように期待を常にされていきたいです。

電力自由化により、いよいよ来年2016年4月から一般家庭のお客さんの8兆円の市場が開きます。
それは、今までの10兆円規模の我々が行ってきたビジネスの世界とはまた違うノウハウの世界です。
正直、エナリスだけでやれるのかと言うと、首を素直に縦には振れません。
そこの部分は様々な面でのパートナーシップを考えています。
電電公社の民営化以来、30年間で起こった事がこれからまた違った形で起こるという事で、社員の方々にはエナリスがエナリスのままいく、とはお話ししていません、言い切ってしまうとそれは不誠実ですので。

社員に言っているのは、そのようなダイナミックな産業の発展の中を雄々しく生き延びていこうと、楽しく仕事をしていこうと。
とてつもなく、わくわくするような事柄がこの10年で起こる。
その中で、エナリスと言う会社の名前が残っているとありがたい事ですが、別に、目標にする必要もないと思っています。
「今、あの何とかと言う会社は、1回、とんでもないことをしでかした会社なんだ。」そのような事を後々言っていただけるような会社として、社員と一丸となって、役割を果たしていきたいと思っています。

イノベーティブな革新を常に期待されて、結局、10年後の革新的なサービスは「もともとエナリスの時代に連中がこつこつと暖めていたものだよね」という事を言っていただけるような、そのような期待をしていただける会社であり続けたいと思っていますし、社員にも、そのような話をしています。

アマテラス:

エナリスさんの経営課題について教えてください。

村上憲郎:

やはり、管理体制については重要課題です。
そしてもう一つはBtoCの力ですね。今まで、BtoBが中心でしたので。
BtoCという力を、どう獲得していくかという事が課題です。HEMS(Home Energy Management Systemの略。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム)の分野ですね。

Googleが約3300億円で買収したNestのようなBtoCのスマートデバイスを手がけていくということになると、これは正直言って誰も持ち合わせてはいない専門的なものになるので、どう作り上げていくのかという課題を担っていると思います。

渡部健:

コンシェルジュというよりも執事やバトラーサービスのようなものです。

村上憲郎:

バトラーサービスですね。先ほど申し上げたように、最後に出会う強敵は、Apple、Amazon、Googleですね。

会社が立ち直るプロセスを経験できるまたとない機会。

アマテラス:

今のエナリスに参画する魅力を教えてください。

村上憲郎:

会社、事業の立て直しは、ビジネスの専門性を見つけるという意味では、普通の会社で、自分の役割のみを担っているのとは違う意味で様々な事が身につくと思います。皮肉ですが。

電力システム改革に携わっている会社としては、極めてユニークなポジションにいるのでお客様は離れないで居てくださっており新規のお客も獲得できています。

また会社の中では営業なり全ての面で新たな仕組みをどんどん作っていっている段階です。もちろん仕組みに対してのトレーニングも行っています。

このような理由によって、このような手続きになりますという、コンプライアンスや、他の面に関しても様々なトレーニングが行われているわけです。
そうすると、普通知っているでしょう?という、普通の立派な会社だと、すっとやり過ごしてしまいそうな部分を、懇切丁寧に、「なるほどこのような問題を引き起こした結果、こういうことなのか」のような事が、とりあえずは1回トレースできます。

このようなチャンスは、中々得る事が出来ないので、先ほどから皮肉な状況ではありますけれども、問題を抱えた会社がそこから立ち直って行くというプロセスを経験するということは、得難いものがあると思っています。

アマテラス:

エナリスに参画する未来の仲間にメッセージをお願いします。

村上憲郎:

この68歳の老人が、これから10年かけてこれだけワクワクして若く話すことが出来る世界がやってきます。
エナリスにいま直接参画できる事というのは楽天が、ソフトバンクが、ヤフーが生まれる瞬間に参加できますよという話です。

滅多にないと思います。
産業が変わるその現場に、もう既に、とっかかりができている会社に参加してくということはとても貴重な機会だと思います。

アマテラス:

素敵なお話、ありがとうございました。

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』

株式会社エナリス

株式会社エナリス
https://www.eneres.co.jp/

設立
2004年12月
社員数
162名(2018年9月現在)

《 事業分野 》
サスティナビリティ
《 事業内容 》
エネルギーマネジメント事業、および、 パワーマーケティング事業