ソフトウェアの世界では個人の民主化は既に起こっている。
カブクは”ハードウェア・モノ作りにおける個人の民主化”を実現したい。

株式会社カブク代表取締役 稲田雅彦氏

カブク株式会社は2013年1月に設立されたベンチャー企業。

事業内容は3Dプリンティング技術を活用した商品でCtoC(個人間取引)のオンラインマーケットプレイスを運営。

3Dプリンティング、CtoC。
成長可能性を感じる言葉が並ぶ事業に有望性を感じ稲田社長にインタビューさせていただいたが、カブクを起業した背景には日本人がより高い山に登るためにはどうすればよいのか、日本のベンチャー企業の発展のために何ができるのか、、稲田社長のとても高い志と強い問題意識が根底にあった。

人工知能・生物多様性など、しっかりとした学問的知識、教養をベースにチャレンジする稲田社長がなぜ起業したのか、生い立ちにも迫りました。

稲田雅彦氏

代表取締役
稲田雅彦氏

大阪府出身。2009年東京大学大学院修了(コンピュータサイエンス)。大学院にて人工知能の研究に従事。研究の傍ら人工知能や3Dインターフェースを用いた作品を発表し、メディアアート活動を行う。同年、博報堂入社。入社当初から、様々な業種の新規事業開発、統合コミュニケーション戦略・クリエイティブ開発を行う。カンヌ、アドフェスト、ロンドン広告祭、TIAAなど、受賞歴多数。2013年株式会社カブクを設立。

株式会社カブク

株式会社カブク
https://www.kabuku.co.jp/

設立
2013年01月
社員数
23人(2018年現在)

《 Mission 》
「ものづくりの民主化へ。」
KABUKUの「かぶく」は、歌舞伎の語源でもあります。
「かぶく」ことは、新しい価値観の発見と創造です。
私たちは新しい「つくる」を通して、社会を楽しくするお手伝いをしていきます。
《 事業分野 》
次世代テクノロジー
《 事業内容 》
3Dプリンティング技術を活用した商品のCtoC(個人間取引)のオンラインマーケットプレイスの運営

ソフトウェアの世界のスター選手がFacebookだとしたら、我々はハードウェアのスター選手になりたい。

アマテラス:

カブクの事業内容を教えてください

株式会社カブク 代表取締役 稲田雅彦氏(以下敬称略):

“rinkak”というサービスで、3Dプリンティング技術を活用した商品のCtoC(個人間取引)のオンラインマーケットプレイスを運営しています。クリエイターがハンドメイド商品を1品からでも出品できるプラットフォームです。従来の工業製品のような商品ですと、クリエイターさんが工場を口説いて金型を作る作業が発生します。そうすると、1回金型を作って100万円、という作業を4-5回繰り返して400万、500万。それを繰り返して最終的に商品を作ろうとなったときに、ミニマムの生産ロットが5千とか1万になってくる。そうなると、初期投資が4000万、5000万になってくるので普通のクリエイターさんは手が出せない。それが、3Dプリンティング技術を活用すると、1個から製造できて売れる。かつ、在庫を持たずに、受注がくれば、その都度カブクの提携工場で製造して発送される。クリエイターさんがいて、商品データだけあれば、製造・発送・販売までできるプラットフォームを運営しています。

ビジネスモデルはGoogleplayとか、Apple Storeと同じモデルで、売れたときにクリエイターさんが例えば1000円の原価に対して、1000円マークアップを乗せていただくと、2000円で売ります。そのときに、2000円のものが一個売れれば、粗利は1000円で、その中の3割を、システム手数料としてカブクがいただくという仕組みです。

出品料は基本無料なので、売れなければ、クリエイターさんは出品手数料がかからない。また、出品にあたり、カブクで用意したテンプレートがあるので、ガイドラインに沿って操作すれば簡単に出品できる。

商品そのものがなくてもデータがあればイメージを自動的に生成してサイトに陳列することもできます。これは実はCG画像です↓

アマテラス:

これ、CGなんですか?リアルな商品と見分けがつかないですね。影までしっかりついていますし。色もしっかりついている。

稲田雅彦:

体積に応じて自動で原価が計算されたりとか、その3Dデータにエラーがあるかないかまで我々のほうで自動チェックできます。

弊社の強みは、商品のデータから自動的にCGに起こすとか、データに対して自動で修正やチェックを入れるなどソフトウェアの技術力にあります。普通のWebサービスの会社さんではなかなかできない深いレイヤーといいますか、例えば音楽でしたら、音楽を再生すること自体は普通のWebサービスでもできますが、音楽の中の波形をいじって音を変えるとか繋ぎあわせるなどの信号処理の深い技術までコミットしていることになります。

アマテラス:

“rinkak”事業の市場規模や規模感を教えて頂けますか?

稲田雅彦:

例えばクールジャパンといわれる市場ですと、雑貨、インテリア雑貨、キッチン雑貨、文具雑貨、ファッション雑貨、ギフト、DIYにフィギュアなど、それぞれ数兆円規模になります。

”ハードウェアにおける個人の民主化”を実現したい。

アマテラス:

“カブク”を起業したきっかけを教えてください。

稲田雅彦:

僕が博報堂にいたときに2年くらい前に仕事を通じて足立(現 カブク取締役CTO)と知合い、“ハードウェアにおける個人の民主化”を行なおうと考えてカブクを立ち上げました。

2人はもともと人工知能の研究をしていて、そのソフトウェアの世界ではインターネットとかオープンソースという考え方は当たり前で、その恩恵をずっと受けてきました。足立はあるアプリをパソコン一台で全部作って世に出したところ評判になり全世界で700万ダウンロードを超えています。

つまり、ソフトウェアの民主化は既に起こっていて、僕らとしてはその世界を当然のように歩んできた。Facebookしかりmixiしかり。

それに対しハードウェア、ものづくりの世界になるとまだまだ村社会で閉じている世界です。それに、そもそも個人として参入できるような世界ではないというのが現状です。ただ、個々人がものすごい突破力で行けば、大企業も追い越せないものを作れる時代でもあるので、ハードウエア・ものづくりの世界でも、個人でもものづくりのスター選手になれないかと考えました。

そういう経緯で立ち上げたのが“カブク”です。ものづくり・ハードウェアの世界で個人の民主化を起こしたい。それを解決する1つのサービスとして“rinkak”があるという流れです。

“rinkak”のサービスを見て、3Dプリンターの会社と思われるのですが、そうではなくて、3Dプリンターは手段というかツールにしか過ぎない。実は3Dプリンターそのものは、2、30年位前からありますし、僕の大学院時代にも大学に既にありました。

アマテラス:

生い立ちなども教えて頂けますか?

稲田雅彦:

出身は大阪の東の地域で、そこには町工場がたくさんあって、エンジニアとか工場のおっちゃんたちがいっぱいいて、みんなモノ作りをしていたようなところでした。そういう町で育ったので、モノに対する好奇心は自然とあるのだと思います。モノ作りに対する好奇心があって当たり前というところでした。

もともと起業したいという思いもありました。祖父が黒門市場という大阪の築地市場みたいなところで商売をしていましたので商人精神はあるのかなと思っています。親は、公務員ですが、そこは影響を受けなかったようです(笑)

大学院を卒業してから博報堂に入りました。それはむしろエンジニアの知識だけではではうまくいかないだろうと思っていて、博報堂に入ってしっかりマーケティングに取り組みたいと。実際にクリエーター、マーケッター、戦略コンサルタントとして働いていました。

そして、足立と知り合って今に至るという経緯です。

人工知能を通じて”生物多様性”の重要性に気付く。

アマテラス:

稲田さんが研究されていた『人工知能』とはどのようなものか教えて頂けますか?

稲田雅彦:

専門的な話が多くなるのですが、僕らの研究していた人工知能はある種のボトムアップの精神があります。普通コンピュータはトップダウンで動きます。例えば条件がA or Bのときか、次はそれがC or Dのときかと分岐していくのが普通のプログラムです。トップダウンのやり方で、条件分岐があるというのが基本的なプログラムなんですけど、人工知能のボトムアップ型の僕らがやってきた手法は、ある程度の枠組みだけを作って、その環境に対して小さいプログラムを投げ込むんですね。そこからいいプログラムが生まれて子供が出来て生き残っていく。

勝手にアルゴリズムが動いて、勝手にその中でプログラムが生成されていくということです。その中で競争が起き、淘汰されて生き残ったのが一番強いプログラム、というような。この手法は機械学習の一つで近年注目されている人工知能の分野でもあります。

すべてをプログラムしないんですね。ある種の神のように生き物みたいなプログラムをある環境の中に放り込む。放り込む作業まではこちら側がやって、後は任せます。ある種の神的視点で眺めて最後に強いモノが生まれる、そういう感じなんです。

最終的にその環境で強い生き物が生まれるかというのは、やってみないとわかりません。環境に強い集団って、同一の人ばかりではなく、変わった人もいた方が最終的には大きな山に登れるとかそういうことがあるんです。そういうノウハウは人工知能をやってないと共有できないみたいなことがあり、エコシステムの考え方とか、生物多様性みたいな話と全く一緒です。その真髄というのは、多様性であったりとか、次の環境に生き残るには、1つのところにあまり適応しすぎないほうがよくて、少しずぼらでルーズなほうが、その環境に適応するというのがあります。

アマテラス:

人工知能で得るノウハウはダーウィンの進化論みたいですね。強いモノが生き残るのではなくて、環境に適応するモノが強い。

稲田雅彦:

その哲学を持っていると、自分だけで全てやるのではなくて、適切に他の人たちも巻き込んで、「みんなでいい山に登る」という話をするのですが、みんなで大きい山に登るにはどうしたら良いのかというのが、僕たちには面白く感じます。それが“rinkak”を立ち上げることに繋がるのですが、いろんな裾野を広げて多様性を増やして、今いるプレーヤー以外にもいろんな血が入ってくることで、競争環境が生まれて、最終的に今よりも遥かに大きな山に登れる。

アマテラス:

そういう話を聞くと、日本のような単一民族よりもアメリカのような多様性に富んだ民族の方が環境変化に逞しく対応していけそうに思います。

稲田雅彦:

そう、まさに多様性なんです。アメリカのシリコンバレーは生物多様性の考え方をもう30年前から敷いていて、そういうやり方を実践しています。哲学として東洋のスピリチュアルな思想は、ヒッピーの思想に通じるのですけれども、それって何なんだろうということを科学的に解きほぐしている理論が生物多様性とかオートポイエーシス(*autopoiesis:生命システムを特徴づける概念。自己生産を意味し、システムの構成要素を再生産するメカニズム)なんです。ダーウィンの進化論とも繋がってます。日本のほうはスピリチュアルで、精神国家の感じがするんですけど、実はアメリカ西海岸の方が多様性があって八百万の感じがあって、根底にその考えがインストールされている感じがあると思います。

“カブク”を立ち上げたのもそもそも大きな山を登れるようなことをしていきたいという考えが根底にあります。

アマテラス:

会社はまだ立ち上げて1年目ですが、立上げ時の資金工面や人材集めはどうされたのですか?

稲田雅彦:

最初は自己資金とシードマネーとして、エンジェル(個人投資家)さん複数人に投資していただきました。

アマテラス:

今後のビジョンや、“rinkak”以外の事業立ち上げのイメージは?

稲田雅彦:

うちのメンバーはハードウェアもソフトウェアもできるので、まずはアプリサービスみたいなことになるかもしれない。ハードソフトを問わず、ものを作っていくというのはやっていこうと思います。

デジタル製造業は、次の製造業を作ると思っていまして、サービスに近いものになってくると考えています。サービスが基本的にあって、たまたまそれをハードとして使えると便利だからハード作るぐらいの感じかなと思っています。

どういうことかと言うと、例えばiTunesでいえば、音楽を無限に持ち歩くというコンセプトが先にあって、iTunesを使って音楽を聴くからiPodがある。iPodを作りたいという発想からではなく、音楽を持ち歩くという発想から始まったサービス。

スマートフォンさえあればアプリを作ればいいよねという形になれば今後はスマートフォンを作る必要がなくて、アプリだけ作ればいいかもしれない。

たとえば、FITBITという歩数計があって、全部アプリとWebに自動で連携する。

これもサービスがあるから、そのサービスを取るために、今はこの手段しかないのでFITBITをつけている。そのようにモノを作るというよりも今後はサービスを作ってゆくという形になると思っています。

”rinkak”で文化を作っていきたい。

アマテラス:

“カブク”の経営課題について教えて頂けますか?

稲田雅彦:

“rinkak”を使って商品を創造し提供していくことをムーブメントにしていく、文化にしていくことだと思います。ソフトウェアだとみんなでいいもの作るというのが当たり前だと思うのですが、それがハードウェアの世界でもこういう形で文化になっていくというのが、とても大事だと思っています。

アマテラス:

クリエイターの裾野を拡げるということに対し、“カブク”ができることはどんなことでしょうか?

稲田雅彦:

スター選手が生まれるか、スター選手をいかに育てるかみたいなのは大事だと思っていまして、それはプロ野球やJリーグと全く一緒で、やっぱり裾野が拡がらないと上も伸びないし、上も伸びないと裾野も伸びない。裾野を広げていくための活動を粛々とやっていくつもりです。

”ゼロイチ”ができる人材求む

アマテラス:

“カブク”が今後仲間になる社員に求める人材像についても教えて頂けますでしょうか?

稲田雅彦:

抽象的になってしまうのですが、今のステージに関してはゼロイチ(ゼロから事業を創っていくこと)ができる人ですね。僕らとして大事なのは、エンジニアとサイエンスの知見があって、アートとデザインの感性も持ち合わせている人。

エンジニアだけだと職人気質になってしまい、サイエンスだけだと理論寄りになってしまう。アートだけだと過度に理想主義になり、デザインだけだと過度に現場主義になってしまう。単純にエンジニアリングだけできると言うよりも、そこにプラス、ギターやってるとかピアノやってますでもいい。エンジニアとサイエンスとアートとデザイン、プラス、ビジネスと言う、そのバランス感を持っている方を求めています。難しいのは分かっているのですが(笑)

ゼロイチというとある種包含していて、アートであれデザインであれエンジニアであれサイエンスであれビジネスというのはどの世界でも基本的にはクリエイティビティを求められていると思っています。どこかに軸足があって、ありとあらゆる事を全く躊躇なくやれるというか、「0から1を生み出してやろう」という思いがある人がいいなぁと。

アマテラス:

そういう意味で言うと、起業家の人ってゼロから全てを創っていくので、起業家タイプの人は求めるイメージに近いですね。

稲田雅彦:

まさにそうです。起業家の方はなんでもやるのでそういう人は合っていると思います。

エンジェルを継続的に生み育てるような仕組みを作りたい

アマテラス:

最後に稲田さんの夢について教えてください。

稲田雅彦:

自分としてもエンジェルさんになれるよう成長して、エンジェルになるだけではなく、エンジェルを生み育てるような仕組みを作っていけたらと思っています。自分がボンと出て終わりということではなくて、ポンポンつながっていくようにしていきたいと思います。

前職時に西海岸へちょくちょく行っていたのですが向こうはタテのつながりがすごくあって、脈々とエンジェルさんが若い芽を育てて、それがぐるぐる回ってまた新しい芽が生まれて、成功した人がまたエンジェルになってというサイクルができていました。日本は徐々にそのサイクルが生まれはじめているかなぐらいの感じです。

僕らもエンジェルさんに投資していただいていますけれども、日本には初期にリスクを取る投資家がなかなかいないので今のエンジェルさんは本当に神みたいな存在です。

トヨタとかソニーは偉大なベンチャーですが、アメリカというのはそもそも、ベンチャーで作られている、ベンチャーが国を背負っていますよね。日本もベンチャーで活気づく一助になれたらと思います。

アマテラス:

稲田さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』

株式会社カブク

株式会社カブク
https://www.kabuku.co.jp/

設立
2013年01月
社員数
23人(2018年現在)

《 Mission 》
「ものづくりの民主化へ。」
KABUKUの「かぶく」は、歌舞伎の語源でもあります。
「かぶく」ことは、新しい価値観の発見と創造です。
私たちは新しい「つくる」を通して、社会を楽しくするお手伝いをしていきます。
《 事業分野 》
次世代テクノロジー
《 事業内容 》
3Dプリンティング技術を活用した商品のCtoC(個人間取引)のオンラインマーケットプレイスの運営