「自分が実現したいこと」を考え、本気でチャレンジできる会社へ

ランサーズ株式会社CEvO(チーフエヴァンジェリストオフィサー) 根岸泰之氏

仕事のオンラインマッチングサービスを展開するランサーズ株式会社CEvO(チーフエヴァンジェリストオフィサー)根岸泰之氏にお話を伺いました。ランサーズ株式会社は、独自のデータベースを元に開発したサービスで、個人間、個人-法人間の仕事のオープンタレントプラットフォームを運営しています。
当時は社員5名程だったランサーズに参画し、役員として上場を果たし、現在まで会社の成長を担ってきた経緯や、スタートアップ転職を考える際の心構え等貴重なお話を伺いました。

根岸泰之氏

CEvO(チーフエヴァンジェリストオフィサー)
根岸泰之氏

2001年、フリーライターとしてキャリアをスタート。
2003年に人材総合サービスを展開するエン・ジャパン株式会社にコピーライターとして入社。制作部門長、プロ-モーション本部長を歴任。人と仕事のマッチングに関して、マーケティング・プロモーション・クリエイティブ、それを支える組織育成など、幅広い観点から約10年間従事する。
2013年4月、ランサーズにマーケティングマネージャーとして参画し、現在はCEvO(チーフエヴァンジェリストオフィサー)としてランサーズが掲げる『スマート経営』を広める活動を行っている。

ランサーズ株式会社

ランサーズ株式会社
https://www.lancers.co.jp

設立
2008年04月
社員数
約200名

《 Mission 》
個のエンパワーメント
《 事業内容 》
テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる

ニーズの高度化・多様化により質と量を両立したサービス提供が最初の壁

アマテラス:

根岸さんがランサーズに参画されたのは2013年。入社当時は4~5名だった社員も、現在は200名を超えました。そんな大変革期の中で、会社がどのような壁に突き当たり、どのように乗り越えていらしたかお聞かせ下さい。

ランサーズ株式会社 CEvO 根岸泰之氏(以下敬称略):

壁はたくさんありましたが、まず大変だったのはサービスの壁でした。
当初はCEOの秋好が自らプログラミングしたサービスを提供していましたが、あっという間に市場のニーズが我々の想定を大きく上回る事態になりました。10人住める家を建てたら1万人来てしまった、萱葺き屋根で設計していたら鉄筋コンクリート建てが必要だった、みたいな状態です。

量と質を両立したサービスの提供が最初に突き当たった大きな壁でしたが、画期的な解決策はありませんでした。

アマテラス:

具体的にはどういった問題が起こっていたのでしょうか。

根岸泰之:

例えば受注方法ですが、当初はコンペ方式が中心でしたが、途中からプロジェクト方式の受注が増えてきました。納品物を提案したらあとは受注を待つというコンペ方式に対し、プロジェクト方式は受注してからクライアントとやり取りしながら進めていくもので、業務フローが全く異なります。
どちらの受注方法にも対応するため双方にリソースを費やす必要がありました。

組織拡大に伴い、共通認識を持つ必要性を痛感

アマテラス:

早急に人材拡充をする必要があったと思いますが、組織の拡大に伴う問題などは起こりませんでしたか?

根岸泰之:

一般的に言われるよりも問題は少なかったと感じています。秋好のビジョンが非常にはっきりしていましたし、ビジョンの実現にコミットするか否かを不動の採用方針としていたので、社員間で目指す方向性に関するブレはありませんでした。

ただ、人数が増えるにつれ目指すところは一緒なのに取るべき共通のルートが見えにくくなっていると感じる時期があり、その頃に少しまとまった人数が抜けてしまいました。皆で共通認識を持つ必要性を痛感した時期で、そこが組織としてぶつかった壁だったかもしれません。

アマテラス:

そこは、どのように乗り越えて行かれたのですか?

根岸泰之:

情報共有のために会議体を設計し、意思決定プロセスを明確にしました。また、事前に「こういうことが起こりそうだから、こういう対策をしておこう」といった準備を行うようにもなりました。ある意味会社らしくなり、それに伴い組織も徐々に大きくなった気がします。

また、秋好の人間力も大きかったと思います。経営者としての勘が良く、社外の経験ある方に助けを乞うタイミングなどを見ると、人を巻き込むのが上手いと感じます。助けが必要だと考えると率直にお願いし、「秋好のためなら」と手を差し伸べてくれる方々に大変助けられて来たと思います。

オープンタレントプラットフォームとして様々なサービスを展開

DeNAショック――Vision実現のため皆で乗り越えた

根岸泰之:

組織の危機としてもう1つ思い出すのは、やはり「DeNAショック」です。DeNAが運営していたヘルスケア情報キュレーションメディア「WELQ」や「MERY」などの記事作成にランサーズのプラットフォームを提供していたことで世間から批判され、利用者も激減しました。

売上が落ちたことはきつかったとは言え一時的なものでしたが、社内の担当部署が一生懸命積み上げてきた努力の結果が「社会悪だ」と批判されたことが、辛かったです。

アマテラス:

そのときは、社内ではどのように対応されたのでしょうか。

根岸泰之:

現実に起こった問題はしっかり受け止める必要がありましたし、やはり組織としてどうにかしなくてはいけないと考えました。

そこで、対外的には広報がプラットフォーマーとしての今後の指針を発信し、社内には品質向上委員会を立ち上げ、そこに医療系などの専門家を招いてルールを整理したりもしました。
「時間と場所に囚われない働き方をつくる」を実現したいと本気で思っていたので、皆で乗り越えようと頑張りました。

新規事業の頓挫から学んだ意思決定のタイミング

アマテラス:

新規事業にも色々チャレンジされて来たと思いますが、事業開拓にはどんな壁がありましたか?

根岸泰之:

新しいことに飛び付いて手を拡げ過ぎたことに対する反省はあります。新規事業が一朝一夕で軌道に乗るものではない、粘って粘って勝率1割の世界だとは分かっていても、状況が変化する中で限られたリソースを見直さざるを得ず、結果的に頓挫してしまうケースもありました。

そこで学んだのは、判断のタイミングを予め決めておくことです。最初の意思決定をする際に「このタイミングでKPIがこういう状態になっていたら継続、なっていなかったら検討、次の手が見付からなければクローズ」というような認識合わせをしておくことで、同じ失敗は防げるようになってきたと思います。

社内各所から率直な声を吸い上げることで全体最適を目指す

アマテラス:

根岸さんご自身のお話もお聞かせ下さい。 ランサーズに参画されて7年。当初はプレイヤーとして活躍され、途中から経営層となられました。その間にはどのような意識の変化がありましたか?

根岸泰之:

ランサーズに来て初めて経営者の立場になったので、経営者が使う単語なども最初は分かりませんでした。また、前職で部長職を経験していたのですが、例えば「部下をこの分野で育てる」といった自分の部署しか見ておらず、部分最適しか出来ていませんでした。

プレイヤーから脱却し、自分がいなくても回る組織を育てて会社全体を最適化するための目線の置き方などを少しずつ勉強しました。
と言っても、具体的に取った対策は単純で、時間を作って社内を歩き回っては「最近どう?」と仕事と関係のない話を続け、声を掛けやすい状況を作るようにしていました。全体最適で組織を作るためには、色々な部署からの率直な声を吸い上げる必要性があると感じたからです。

アマテラス:

人事組織マネジメントなどの専門知識のない中、暗中模索だったのではないでしょうか。

根岸泰之:

そうですね。我々だけでは難しかったので、初期の頃は外部の人事制度設計のプロに相談したり、人事経験がある人を採用したりしました。ある程度理論に裏打ちされた評価システムがないと、優秀な人材を正当に評価できずに辞められてしまう可能性もありましたから。

組織が拡大する中、経営スピードの維持のため責任と権限の移譲を進める

アマテラス:

社員数増加に伴い、仕事の進め方も変わらざるを得ないと思います。少人数で決められた時代と比べると、会議体も含めて組織を動かすことが難しくなってきたのではないでしょうか。根岸さんご自身は、こうした変化にどのように対応されたのでしょうか。

根岸泰之:

以前は一瞬で決まっていたことが、現場から経営会議までいくつもステップを踏むため意思決定に時間がかかるようになっていました。

しかし、組織が大きくなっても経営や事業推進のスピードは維持しなければいけないので、適宜現場に責任と権限を移譲して意思決定のルールを整理しました。現在経営会議に付議するのは、会社のビジョンを揺るがしそうなことに限られています。

ポジションはあくまでも役割。ビジョン実現の為ならば役割にはこだわらない

アマテラス:

優秀な人材が後から入って来る中で根岸さんはずっと社員から信頼されて今のポジションにいらっしゃる。そのことについてはどう感じていらっしゃいますか?

根岸泰之:

ポジションはあくまでもチーム内の役割だと考えていて、構成メンバーによっては役割が変わっていいと思っています。やりたいこと、実現したいことはビジョンの実現なので、その手段がマーケティングでも、他の機能でも構わないのです。
ビジョンの実現という大義に共感して来てくれる優秀な人材は全員ウェルカムですし、長が向いている人がいるのならば、ポジションを渡すことにも全くこだわりません。

一方で、ポジションがあるから頑張れる人がいるのも事実です。ポジションによって採用がしやすくなることもありますし、ビジョンよりもポジション条件を重視して転職してくる人もゼロではありません。ただ、やはりそういう人たちは目指す道が違うので、あまり増えると組織としてブレが出て来てしまう。そういう組織課題を感じることはあります。

ランサーズ社内スタッフミーティングの様子

「フリーランス」という働き方――裾野が拡がる一方、社会インフラ整備の遅れが課題

アマテラス:

根岸さんが参画された頃と現在を比較して、フリーランスという働き方の啓蒙についてはどの程度手応えを感じていますか?

根岸泰之:

まず、フリーランスに対するイメージが大きく変わったと思います。
以前は「電通から独立してカンヌ取りました」みたいなスーパークリエイターにしか認められない選択肢だったものが、稼ぎの多寡は別として「誰もが検討できる選択肢の1つになった」という感覚はあります。

データ的にも日本のフリーランス人口は1千万人を超えており、アメリカでは2027年には雇用されている人とされていない人の比率が逆転するとも言われています。女性は出産などを機にフリーランスになり、落ち着いたらまた正社員に戻るといった状況に応じた就労形態を採り入れている人が増えており、裾野の拡がりを確実に感じます。

ただ、この働き方を普及させる際の課題として社会インフラ整備の遅れがあると考えています。
フリーランスには保険や福利厚生などが認められていませんし、副業のしにくさやフリーランスに対する信用欠如等の問題もあります。これらがフリーランスという選択を限定的にしているのではないでしょうか。

フリーランスが自分を守りやすくするツールを目指す

アマテラス:

究極的には、国がある程度動く必要があるということでしょうか。

根岸泰之:

そういうレベルだと思います。社会保険の整備もそうですし、正社員だったら36協定などがあるので社員を酷使している企業には行政指導が入ったりしますが、フリーランスにはそれはありません。厚労省も何とかしようと頑張ってくれていますが、国が何かを変えるのには時間が掛かります。

そこで、自前でできるところはまずやってみようと考えて作ったのが「仮払いシステム」です。
秋好が「これだけは絶対に作る」と言って作ったサービスで、企業とフリーランスの間にランサーズが入り、企業から仕事を発注する際に一旦予定額をランサーズに預けないと仕事を開始しないという仕組みです。フリーランスは未払いのリスク、企業側はお金を払ったのにフリーランスが逃げてしまうというリスクから解放されます。

契約時の不公平や支払時のトラブルなど、フリーランスは自分で自分を守るしかないのですが、そのサポートという位置づけで利用頂いています。

アマテラス:

こちらのサービスの課題はありますか?

根岸泰之:

まだまだ途上で、取り組むべき課題はたくさんあります。例えば、欧米のプロジェクト型の働き方ではメンバー・役割・業務内容・期限などの要件整理をすることが常識のためフリーランスとの契約も簡単なのですが、日本の曖昧さが残る文化には今ひとつフィットしません。

この『仕事の要件整理』が新たな価値観として社会に浸透しないと次のブレークスルーは来ないかもしれないと危惧しています。このままの状態が続くと、2000年以降生まれのデジタルネイティブが企業の意思決定者になる15年後になるのではと思っていますが、そこまで待っていられないので我々が頑張っているところです。

フリーランス普及の大きな転換点は「震災」と「働き方改革」

アマテラス:

田辺誠一さんの出ているテレビCMも拝見していましたが、やはりフリーランスが普及するにあたり、テレビの力は大きな転換点になりましたか?

根岸泰之:

テレビCMもありましたが、それ以上に震災が大きな転換点になりました。フリーランスとまでは行かなくても個人で在宅ワークなどをする人が増えたことがきっかけです。
次の転換点は働き方改革です。国がフリーランスという単語を発信し始めたことで、一気に拡がりました。ランサーズのビジョンにも「時間と場所にとらわれない働き方」という言葉を入れました。

フリーランスという働き方の定着自体は喜ばしいことですが、一方で普及のさせ方を間違えないようにしなければとも思っています。例えば「フリーランス=フリーター」のような拡がり方をしてはいけないので、ブランディングは時間が掛かっても正しくじわじわと拡げて行けたらと考えています。

インタビュー時の様子(右:根岸氏、左:弊社藤岡)

昨年12月の株式上場も、「ゴールではなく、あくまでも通過点」

アマテラス:

ランサーズ社は昨年12月に上場されましたが、上場して変わったと感じることはありますか?社外など周囲の反応はいかがでしょうか。

根岸泰之:

準備は大変でしたが、「上場はゴールではなく、あくまでも通過点」という認識を皆持っていましたので、社内はそれほど変わった印象はありません。ただ株主に対する責任はありますから、対外的な約束を守り、ビジョンの実現を早めたいという空気はあります。

社外的にも上場前後で明確な変化は実感していませんが、予想外で嬉しかったのは多くのユーザーの方達が上場を大変喜んでくれたことです。Twitter上でも「ランサーズ上場した。やったー、自分も頑張るぞ」といったツイートがたくさんあり、これは自分達が今までランサー第一主義でやってきたことの大きな資産なのではと感じています。

アマテラス:

ご家族やご友人の反応はいかがでしたか?

根岸泰之:

ランサーズに転職した当時は子どももまだ小さく、マンションも契約したばかりでしたから、妻には大変な心配をかけました。それでも最終的に背中を押してくれたから今があるわけで、本当に感謝しています。上場に対しては喜んでいると言うよりはほっとしている感じがします。友達には「何か奢れ」と言われるくらいですね。

転職では「自分が実現したいこと」をとことん考え、本気でチャレンジできる会社へ

アマテラス:

最後にスタートアップへの転職を考えている方へのアドバイスをいただきたいと思います。スタートアップに転職されてここまで来られた根岸さんから見て、転職者は会社のどんなところを見るべきだと思いますか?

根岸泰之:

まずは、「自分が実現したいと思っていることは何か」をしっかり考えることに尽きると思っています。スタートアップを考える人は「何かチャレンジしたい」という気持ちが少なからずあるはずなので、それに本気でチャレンジできる会社、やりたいことができる最善の環境をしっかり見極めることで進むべき道は見えてくるはずです。

会社のトップも大切です。私自身、「秋好と一緒に仕事をしたい」と思い、転職を決めました。ベンチャー企業のトップは何か強い思いがあり、自らリスクを背負って何かを始めようという人たちですから、「トップがどういう人なのか」、「全幅の信頼を置いて共に進んでいける人なのか」ということは必ず見るべきポイントです。

転職がうまく行かない人を見ると、「上場しそう」、「年収が上がりそう」などと安易に判断している印象があります。個人的には、今の売上や年収などは、先にお話ししたことと比べればどうでも良いことだと考えています。

成長のカギは、少し先を行く人からのアドバイス

アマテラス:

大企業と比べると、会社の成長のスピードは異次元の早さに感じられると思うのですが、ご自身が会社と共に成長するために必要なこととは何だと思われますか?

根岸泰之:

知識面の問題はもう勉強で解決するしかありません。その他で私がやって来て良かったと思うことは、自分より先を行っている他のベンチャーの先輩方や、業界のプロの方に会いに行っていることです。そういう人たちは今我々が直面している壁は既に乗り越えて来ているので、色々と貴重な話が伺えます。

当然全ての話をランサーズに置き換えられるわけではありませんが、彼らから教えてもらった失敗談や解決策などの数々は私を大きく成長させてくれました。自分に足りないものや何を勉強すべきかのヒントが必ずあり、そのお陰で悩みながらも着実に前進することができたと思います。

その時には「成長しよう」と思ってやっていたことではありませんが、今振り返ると「何とかしないと」と必死で積み重ねて来た結果、いつの間に昔できなかったことがポンと解決できるようになって来た気がします。とは言え、絶えず次の壁が待っているのですが。

アマテラス:

本日は素敵なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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河西あすか

慶應義塾大学経済学部卒業後、食品メーカーにて商品企画等のマーケティングを担当。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、企業再生・変革の実行支援コンサルティングファームに在籍。

ランサーズ株式会社

ランサーズ株式会社
https://www.lancers.co.jp

設立
2008年04月
社員数
約200名

《 Mission 》
個のエンパワーメント
《 事業内容 》
テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる