正しい選択はない、その選択を正しくする事だけが出来る

株式会社LiquidCOO(最高執行責任者) 長谷川敬起氏

「正しい選択はない、その選択を正しくする事だけが出来る」ということばは今回インタビューした株式会社Liquid COO長谷川さんの座右の銘です。

株式会社Liquid(リキッド)は、生体認証により人が直接インターネットに繋がるIoP(Internet of Person)プラットフォームの構築を目指し、独自の生体認識エンジンを活用した決済サービスや認証サービスの開発を行っている企業です。

「リアルな世界を革新する」という思いに強く共感し、異業種から株式会社Liquidに参画した長谷川さんに、現在のお仕事、その魅力と苦労、そして、ご自身の転職活動等について伺いました。

長谷川敬起氏

COO(最高執行責任者)
長谷川敬起氏

慶應義塾大学大学院卒業後、PwCコンサルティング株式会社を経て、株式会社ドリコムにてブログ事業統括、ゲーム事業及びデータ分析部の立上げ、楽天社との教育事業JVの立上げ、広告・メディア事業統括を歴任。2016年11月株式会社Liquidに入社し、COO(最高執行責任者)就任。

株式会社Liquid

株式会社Liquid
https://liquidinc.asia/

設立
2013年12月
社員数
50人(2017年10月現在)

《 Mission 》
生体認証で生活をより便利に安全に
《 事業内容 》
画像認識エンジンの研究・開発 生体照合端末の企画・開発・製造 金融決済基盤の企画・開発・販売

「仕事は自分で何とかするもの」とドリコムに飛び込む

アマテラス:

まずは長谷川さんの現職に至る道のりについて伺いたいと思います。

株式会社Liquid COO 長谷川敬起氏 (以下敬称略):

大学時代は原子物理学の研究をしていて、全国大会で新人賞を頂いた事もあり、その道に進もうと思っていました。

しかし、選択授業で『ベンチャー企業経営論』を受け、その頃のベンチャーブームもあり、興味を持ちました。ただ、いきなりベンチャーというのもイメージが湧かなかったので、まずは経営などを学べる業界に行こうと考え、コンサルティング会社に入社しました。

PwCで3年目くらいの頃、私の後輩が株式会社ドリコムに転職し、社長の内藤さんを紹介されました。元々ベンチャーに興味がありましたので、「ネットベンチャーとはどういうものなのか?」と思い、お話を伺いました。ドリコムは当時まだ上場もしておらず、「Webによって人々のコミュニケーションはどう変わるか」を模索している状態でした。

PwCでの仕事はコンサルティングですから、何か新しいものを生み出すのではなく、クライアントである企業の課題を解決するお手伝いです。徹底的に黒子で、意思決定はしません。
他方、ドリコムは、まだ世の中にないものを生み出していく、何がどう発展していくかわからない中で、人とのコミュニケーションを新しくデザインしていこうとしている、その点に魅力を感じました。

安定した会社ではない、どうなるか先行きがわからないのは理解していましたが、結局、自分次第なので、それを不安に思う事はありませんでした。
仕事は、この先「どうなるのか」と考えるのではなく、「自分で何とかする」ものだと思っています。

「社会を革新する」ビッグビジョンに共感し、Liquidへ

アマテラス:

Liquidに転職した理由を教えてください。

長谷川敬起:

ドリコムでネット専業の仕事をしていて思ったのは、「どんなにこの仕事をしても、私が企画開発したゲームを使うのは若い人達が中心で、私の祖父母や友人が使う事はないだろう」ということでした。

そして、「リアルな社会で人々の暮らしをもっと便利に、使いやすく、楽しくする仕事がしたい」という気持ちが大きくなり、ネット専業の限界を感じるようになりました。
世の中により大きな価値が提供できる事業がしたいと思うに至ったのです。

私は転職をする際、「会社と自分の目指すところが一致しているかどうか」について丁寧に確認するようにしています。野球でいうなら、地方のベスト8狙いなのか、甲子園を狙うのか、ワールドシリーズ優勝を狙うのか。

Liquidには「これが出来たらすごいことだ!」と思えるビジョンが明確にあり、それは私の望んでいたことでしたので、参画を決めました。
世の中のあらゆるサービスが、一つのIDで利用が出来るという便利さ、効率化のインパクトは非常に大きいので、それを実現させようとしていた久田(Liquid代表取締役 久田康弘氏)のビジョンに共感し、「これでチャレンジして、もし失敗しても後悔はない」と思ったのです。

画像認識技術に関する知識は全くありませんでしたので、とにかく久田に質問しました。そして、久田自身のビジョンに対するアプローチ、それまでに築き上げていたコネクション等がわかるにつれ、「実現出来るのではないか」と思いが強まりました。そして、「ここに参画したい」という気持ちが圧倒的に大きくなりました。

Liquidへの参画を決めた経緯を語る長谷川氏

指紋や顔認証による決済、入退室管理を実現

アマテラス:

Liquidの事業について教えてください。

長谷川敬起:

Liquidの事業は、子会社も含めたグループとして大きく3つあります。
1つ目はLiquid本体のメインである『PASS』等の指紋や顔認証による本人認証・決済サービスです。

『PASS』は認証決済サービスで、登録した指紋をかざすだけで、登録しておいたクレジットカード等で決済が出来たり、身分証明書と顔の情報を照合して銀行の口座開設を即時化することを目指しています。本人認証や決済を無人化し、指紋や顔を使用しますので、なりすましも極めて困難です。

『リキッドキー』は指紋によってオフィス等の入退室を管理できるシステムです。カードリーダーと同等の機能・価格で導入出来ます。
私達が本社を構え、金融とITを融合したフィンテック企業が集積する東京・大手町ビル4階のFINOLAB(フィノラボ)には、リキッドキーが約60台設置され、入退室管理に使われています。

また、ここを運営している三菱地所の本社にはPASSとリキッドキーが約80台入っています。ここの社員食堂のPOSレジに導入したPASSには日本初の銀行口座後払いの仕組みを採用し、クレジットカードを持っていなくても利用出来るほか、カード導入に必要な加盟店側の手数料を低減出来る次世代の決済方法として、展開を図っています。

指紋認証の出来る『リキッドレジ』は、タブレット型レジシステムで、軽減税率や海外からの旅行客にも対応が可能です。指紋の他、クレジットカードや電子マネーなどの決済にも対応できます。

日常生活のIoTを実現する技術・サービス

長谷川敬起:

2つ目の事業は、子会社『SYMBOL』での3次元ボディサイジングです。
約2メートルの高さの、試着室より狭いくらいの筺体に入って、5秒で5万点の測定点で細かく身体のサイズを測定出来るデバイス(装置)を企業に提供しています。各企業のカスタマーの測定データを自社で持ち、それをビジネスに活かしていくお手伝いをしています。

そして、3つ目は『MYCITY』という子会社で、集合住宅やオフィスビル向けに空間認識の技術とスマートフォンアプリケーションを組み合わせた技術開発をしています。
三菱地所や東京不動産等と組み、弊社のビル管理システムやセンサーと連携して、住み良い住環境、次世代のマンションやオフィスビル作りについて取り組んでいるところです。

指紋認証であらゆるサービスが利用できる世界に

長谷川敬起:

私は決済サービス『PASS』の統括、およびCOOとして全体戦略策定/組織構築を主管しています。
PASSという認証の基盤となるプラットフォームを、どういう業界の、どういう企業に提供するとニーズに合致してサービスを提供出来るのか、その戦略を考えるのが役割です。

ユーザーや加盟店をどう増やすかも、これからの課題です。
既にいるユーザーに対して、その方達に向けてより使いやすく、一回の利用だけでなく、様々な加盟店でも使える回遊性をどう持たせるか、といった点も考えています。業態でいうと、様々な需要が考えられます。

例えば、ハウステンボスでは、つい先日HISグループの澤田会長が園内の完全キャッシュレス化を発表されました。これは、『テンボスコイン』というデジタル独自通貨を発行し、年間300万人にのぼるすべての入場者、すべての決済をそれに集約する構想です。

我々がこのシステムを全面的に行っており、これは認証サービス技術とブロックチェーンを活用した最新鋭の仕組みになると考えています。
リアルでの認証およびキャッシュレス決済基盤の構築、それとまた別軸でブロックチェーンなどのFin-techを組み合わせたソリューションを提供できる企業は、世界的に見てもそうないと自負しています。

また、昨今大きな問題となっているコンサート等のチケットの高額転売があります。そこで、プレイガイドやローソンチケット、楽天チケット等と連携し、当社のPASSが導入されました。PASSは指紋認証ですので、入場時の「なりすまし」が不可能となり、チケット転売の防止に繋がっています。
実際に4/28、29に55,000人の入場規模で開催された荒吐ロックフェスでご利用頂きました。

更に、つい最近のリリースですが、住信SBIネット銀行と共に、近い将来にWebでの即時口座開設の実現ができる規制緩和を見据え、オンラインでの本人確認の仕組みの構築に取り組んでいます。
これは、ドイツのFidor bankなど、次世代銀行として注目を浴びている、口座開設やローンの可否判断などをWebだけで60秒程度で判断していく仕組みに向けた、最初の一歩となるものと考えています。

将来的に、誰もが一度、自分のユーザー登録、アカウントを作れば、社会のあらゆるサービスを利用出来る、という世界観を実現しようとしています。

Liquid社メインサービス「PASS」

「最新技術を使って社会を変革したい」人には最高の職場

アマテラス:

実際にLiquidで働いてみて、ここで働く魅力を教えてください。

長谷川敬起:

3つ程挙げると、まず1つは「自分がこれをやりたい」ということを、久田を中心に経営が応援してくれることです。
やりたいことが出来るような機会を与えることに、とても意識が強い会社です。「本人がしたい事をさせるのが、一番モチベーションが高く、パフォーマンスが発揮される」という考え方が強くベースにあります。

「それぞれがしたい事を実現する」という点に意識を払いながら、全体最適やマッチングを図るところの意識と行動の速さが特に強く、そこが魅力だと感じています。

2つ目としては、新しいプロダクトやサービス、オペレーション等を、常に誰でも提案が出来る、もしくは一緒に考える環境があります。

具体的には、社員全員が入っているSlack(ビジネスを中心としたチャットツール)に顧客ニーズから得たアイデア等を書くと、それらが経営会議で討議にかけられたり、B2Cのサービスアイデアを社内ハッカソンで競ったりしています。ベンチャーでもこういう事をしているところは、意外と少ないのではないかと思います。

そして、3つ目の、最大の魅力は、私自身、強く共感した『リアル社会を革新したい』という想いです。
「画像認識やIoTなどテクノロジーの力で、世界を、社会を良くする、革新する」というグループのミッションは、漠然としているように感じられるかも知れませんが、だからこそ様々な可能性を考え、実現に向けて努力する事が出来ます。

現在、Liquidには銀行や商社等から転職してくる方もいます。既存の業界で何十年と受け継がれてきたレールの上でビジネスを行ってきて、勿論それも意義のある仕事なのですが、「新しい価値の提供がしたい」と考える人が増えてきていると感じます。

それは、社会を新しく変革するだけの材料が揃いつつあるからだと思うのです。
Liquidでは、ニューテクノロジーをキャッチアップし続けており、「それを使って社会を変革したい」という思いがある人にとっては、最高の職場だと思います。

モノづくりや技術の応用の難しさに直面

アマテラス:

Liquidに入社してから、大変なことやギャップ等はありましたか?また、それはどのように解決されましたか?

長谷川敬起:

いろいろ想定をして入社したつもりでしたが、いくつかの壁にぶつかることはありました。

1つは、規制緩和に関わる時間軸の課題です。
Liquidでは、社会をより便利にするため、革新するため、それを阻む規制の緩和に関して、関係省庁と討議することが度々あります。

その際、我々やクライアント企業のニーズの実現のために関係省庁やその規制に関わるあらゆるステークホルダーのことを考えて調整していかなければなりませんが、それは簡単なことではありません。関係省庁の皆さんにはとてもよくご支援頂けているのですが、それでも社会全体への影響を考えた場合にはそれなりな時間を掛け、実証などを通しながら課題の解決を図っていく必要があります。

ここはネット専業で、B2Cでビジネスをしてきた自分にはない体験でした。
ただ翻って考えれば、より大きなインパクトを社会に与えようとするならば、そういう時間軸と法的な制約をも含めた大きな変革が必要なわけで、そういったことに携われること自体はとてもいい経験であり喜びです。

2つ目は、ネット専業のドリコムから転職し、「ハードのビジネスは、品質の保持のレベルや、技術開発の時間やお金のかかり方など全然次元が違うだろう」と予想はしていましたが、思っていた以上に「ハード一つ完成させる事は、とても難しい」ことを痛感しました。

「これでいこう」と金型を作り、多少量産に入ったタイミングでも、そこからたくさん課題が出てきて、結果的に使用不可能になってしまうという事も起きます。
ハードでのモノづくりの難しさに対する認識が足りていませんでした。そこもとても学びになりました。

3つ目は、「技術」を実際の現場で活用する際の難しさです。
既得権益によってコスト構造がアンバランスになっているようなビジネスに対して、ベンチャーとして飛び込み、今までより低額で、より良いソリューションをご提案するような取り組みを行っているのですが、実環境での利用状況によって様々な問題が露呈したことがあります。

その時は画像認識技術を使って決済ソリューションにつなぐようなことを検討していたのですが、実環境ではなかなか画像認識が出来ない。そこで、機器に工夫をしたところ、利用者としては見た目が悪い、邪魔で使いにくい、という問題が発生しました。

「実環境でどのような使い方が出来、きちんと使えるようにするにはどういう条件を付加しないと出来ないのか」という事を明確にして合意を進めていかないと、コストや時間の面でも大変で、想定外でした。「実環境での利用状況の問題点を早く見出していく」という学びになりました。

Liquid社のサービス「LIQUID Regi」、「PASS」、「LIQUID Key」

転職活動では多くの人に会って情報精度を上げ、選択を絞る

アマテラス:

長谷川さんは異業種に転職されましたが、異業種だと知り合いもなく、「どうしたら良いか、わからない」と考えている転職希望者にアドバイスはありますか?

長谷川敬起:

「どうしたら良いか、わからない」と思っている人は、本当に転職したいのでしょうか?そう思って止まっているのであれば、その時点でベンチャー企業への転職には向いていない方かも知れません。

まずは「自分が何を成し遂げたいか」、そして、「それを成し遂げるためにどんな要素が必要なのか」という事を自分の中で明確にした状態で、多くの人達と会う事が大切なのではないでしょうか。

本当に自分がしたい仕事があれば、その仕事で活躍している人達と接するために、何とか方法を考えるはずです。
例えば、自分の行きたい業界のメディア、インタビューを読んだりすれば、そこで働いている人の名前等が掲載されています。今の時代、繋がろうと思えば、「この方をどなたかご存知ありませんか?」と呟いても良いですし、絶対繋がれるはずです。

なるべく多くの人と会って、自分の情報精度を突きつめて、選択の幅を絞っていくべきだと思います。
今回の転職で、私は研究室と企業を合わせて20〜30くらいには会っていると思います。
そして、自分の本当にしたい事に合わないものは外れて行きました。また、方向性が合っていても、「どのくらいで実現出来そうか」を見極めることも大事なポイントです。

また、ファウンダー、オーナーとの会談がとても重要で、オーナーの本気度、「その人がそれを実現するために何を大事にしているか」といったところを重点的に見ていました。結局、何を大事にしているかが自分と違うと、ビジョンが良くても実現出来ない事もあると思うのです。

例えば、「自分達で製品開発をする必要はない」という考えの人もいると思います。ただ、私は製品開発の基盤を持たないで世界を変えられるとは思えないので、ビジョンが優れていても、私の考えとは合わないと思います。

フットワークを軽くして、とにかく動いてみる

長谷川敬起:

私は元々ポジティブなので、「自分のした行動に意味がなかった」とは、あまり思わない方なのですが、それでも、いわゆる無駄球は多々打っていると思います。ただ、それを自分では無駄球と思っていません。「当たり球に当たるには、これくらいの無駄球を打たなければ当たるわけがない」と思っているのです。

私は「人づてで多くの人にお会いする」という事に非常に大きな意味がある、と思っています。例えば、本を読んで気になった著者がいると、その著者に直接メールして、会いに行く事もあります。
SNS等を使っても良いですが、人の繋がりでその行き先を開拓していく、という事がとても大切だと考えています。ですので、遠慮せずに、周囲に『助けてほしい』とお願いをするのが一番良いのではないかと思います。

お薦めとしては、転職活動というはっきりした目標がなくても、常にアンテナを張った動きをしていた方が絶対良いと思います。関心があるなら、その関係のイベントに行ってみたり、そういう人に会ってみると良いです。

「きっかけが生まれてから行動する」でも良いのですが、普段からしていれば、人脈も広がります。フットワークを軽くして、とにかく動いてみる。そういう事をまだしていないようでしたら、騙されたと思って一度挑戦してみて欲しいです。何かが変わると思います。

正しい選択はない、その選択を正しくする事だけが出来る

アマテラス:

最終的な決定は、どのようにされるのですか。

長谷川敬起:

答えになっていないかも知れませんが、結局、実際にやってみないと、絶対わからないですよね。やる前に「どうなるのか」なんて、誰にもわかりません。

これは私がPwC時代の上司にもらった言葉なのですが
『You can’t make a right choice, you can make your choice right』
(正しい選択などない、その選択を正しくする事だけが出来る。)

これは私の座右の銘で、とても好きな言葉です。「これがベストかどうか?」ではなく「これをベストにする」という思いです。

ベストの選択は誰にもわかりません。ですから「自分の選択をベストにする」と一番強く思える選択をする事が大切だと思います。
今回の転職に関して言えば、「Liquidのビジョンを久田と共に実現する」ことがそう思えたことだったのです。

アマテラス:

素敵なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

アバター画像


河西あすか

慶應義塾大学経済学部卒業後、食品メーカーにて商品企画等のマーケティングを担当。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、企業再生・変革の実行支援コンサルティングファームに在籍。

株式会社Liquid

株式会社Liquid
https://liquidinc.asia/

設立
2013年12月
社員数
50人(2017年10月現在)

《 Mission 》
生体認証で生活をより便利に安全に
《 事業内容 》
画像認識エンジンの研究・開発 生体照合端末の企画・開発・製造 金融決済基盤の企画・開発・販売