アフターコロナ時代に、成長するスタートアップ・ベンチャー企業とは?(アマテラス2021年版)

ようやくワクチン接種が始まり(2021年6月時点)、日本社会はアフターコロナステージに入りつつあります。

コロナによるパンデミックで社会変化が加速したと言われていますが、スタートアップ転職支援をしている我々が目のあたりにした変化の1つは、大企業からスタートアップへの人の移動がビフォーコロナよりも加速したという点です。

図1でアマテラスの新規登録者数推移を示していますが、日本でコロナ禍が始まった2020年2月からスタートアップ転職希望者は増加傾向で、ビフォーコロナ時よりも約1.6倍の登録者数になっています。

コロナ禍によって変化を担う人達が増えたということはある意味で素晴らしいことであると思うのですが、この時期のスタートアップ転職には普段以上に不安要素が多く、リスクが伴います。

”コロナ禍のパンデミックを受けて、アマテラスはどのようにスタートアップ・ベンチャー企業を厳選しているのでしょうか?”

”ポストコロナで成長するスタートアップの探し方を教えてください”

という質問を多くいただくようになりました。

そのような方に向けて、アマテラスがアフターコロナで成長するスタートアップ選びで重視している3つのポイントをお伝えしたいと思います。

①ヴァーチャル・ファースト(VIRTUAL FIRST)時代に適応したビジネスモデルか?

2020-2021年は、テクノロジーによってイノベーションと変化が加速する年となりました。10年先の社会がぐっと目の前に引き寄せられた感覚です。この変化を受けてあらゆるジャンルのビジネスが再定義され、企業や個人は DX(デジタルトランスフォーメーション)の可能性に目を向けるようになりました。

2021年のビジネスシーンで成功するのは、ヴァーチャル・ファーストな社会変化に適応し、デジタル戦略に対応する技術やソリューションを持ったスタートアップと考えています。

特に日本においては長時間労働・メンバーシップ雇用・女性の社会進出という働き方の課題が長らく燻ってきましたが、バーチャル・ファースト時代のテクノロジーによって働き方の『柔軟性』と『生産性』を高め、この重要課題を解決する好機になると考えています。

希望も込めて、アマテラスは日本のヴァーチャル・ファースト時代を牽引するスタートアップに期待しています。既に、世界中でバーチャル・ファースト時代への進化は始まっています。

例えば、イギリスではコロナウィルスによってプライマリ・ケア(初回の総合的な診察・診断医療)の 90%以上がオンライン医療に置き換わりました。オンライン医療によって遠隔診断のあり方が変わり地方の医療格差が解消する可能性が指摘されています。

アマテラス利用企業から、日本のバーチャル・ファースト時代の旗手になれるようなスタートアップ事例をいくつか紹介します。

【事例1】株式会社Synamon

XR技術を活用し、バーチャル空間であらゆるビジネス活動を可能にするVRイノベーションタワー「NEUTRANS」(ニュートランス)を開発。

Synamon武樋CEOとアマテラス対談記事はこちら
https://amater.as/article/interview/synamon/

【事例2】park&port株式会社

アパレル業界にヴァーチャル・ファーストの変革をもたらすpark&port株式会社。国内のアパレル業界ではオフラインの展示会で商談をするのが一般的でしたが、同社はバーチャル展示会のサービスを開発。コロナ禍で対面の商談ができなくなる一方で、同社のシステムにより非対面での取引が可能になりました。アパレルという巨大市場が同社のバーチャルシステムで大きく変わろうとしています。

【事例3】 ugo株式会社

警備アバターロボット「ugo(ユーゴー)」でビル内見回りを解決。
ロボティクス技術で人々の生活より豊かにするugo社。いまや社会インフラとなった「警備」をDXし、バーチャルサービスを実現しようとしています。

警備業務で必要とされる現場での日々の報告書(日次・週次・月次)をタブレット上で作成し、施設管理者にプラットフォーム上で即時共有することができます。

【事例4】株式会社かもめや

ドローン技術×離島で地方活性化を実現する香川瀬戸内スタートアップ。
日本列島には約7,000もの島があり、うち有人島は400ほど。その多くの島で過疎・高齢化が進み、医療や物流に課題を抱えています。
この社会課題を、ドローンテクノロジーの活用によって解決しようとしています。例えば病院がない離島でも、オンライン診療後、同社のドローン技術で離島に薬を届けることが可能です。不便な場所でこそバーチャル・ファースト社会は進むかもしれません。

②ウェルビーイング(Well-being)の価値観を社員に提供できているか?

楽天グループにはCWO(チーフウェルビーイングオフィサー)が設置され、”ウェルビーイング”を企業運営の柱に据えています。

コロナ禍で『人新生の「資本論」』(斎藤幸平著)がベストセラーになったのは、日本人の幸せの基準が経済成長や物質的豊かさよりも社会共生や自己実現軸に向かっているからではないでしょうか。

”ウェルビーイング”とは幸福や、心身ともによりよい状態を示す言葉ですが、働く人にとっては仕事を通じて自己実現をすることが”ウェルビーイングに繋がるとアマテラスは考えます。

図2:マズローの欲求5段階説

「カイシャのために自己・家庭を犠牲をする」といった昭和的価値観から、「自己実現のためにカイシャを選ぶ」時代へ。社会変化が加速するアフターコロナステージでは、カイシャのライフサイクルはより短くなる一方で、「人生100年時代」といわれるように個人寿命は長くなります。

日本でも、個人の概念はカイシャよりも重要になり、北欧をはじめ欧米の成熟社会のようにウェルビーイングへの意識はますます高まっていくはずです。その時、カイシャはゴールではなく、自己実現の手段になっていくでしょう。

アマテラスは願望も込めて、従業員に”ウェルビーイング”を提供できるカイシャがアフターコロナ時代に選ばれていくと考え、スタートアップ選定時に重視しています。

一方で、バーチャル・ファーストな社会の副産物として社員の孤独感・疎外感からくるメンタルへの影響があります。リモート生活によって自宅で過ごすことがメインとなることで、社会生活との分断は深まります。

リモートであっても社員が充実感に満たされ、自己実現できる職場作りは、我々日本人にとってはチャレンジングな状況です。

【事例5】Laboratik株式会社

リモートワークするチームのコンディションを見える化する「We.」の開発
社内や組織内のチャット会話から、自然言語処理技術を通じて関係性や感情などのエンゲージメントを、リアルタイム解析。
「デジタルワーク」の未来を創り、「離れているため組織が見えない」という問題を解決するウェルビーイング実現スタートアップ。

③令和版コーポレートガバナンスコードを導入しているか?

バーチャル・ファースト、そして、ウェルビーイング時代に適応するには、コーポレートガバナンスのあり方もアフターコロナバージョンに変革していく必要があります。

仕事の進め方をスポーツに例えるなら、
・昭和:個人の役割が明確で裁量の少ない野球型
・令和:個人の役割は曖昧で裁量が大きいサッカー型
といえるでしょう。

平成時代にじわじわとサッカー型へ進化していたところ、今般のコロナウィルスによって変化が加速し、会社のあり方もスピーディな変革が求められています。
プレー競技が変わったのであれば、会社の『ルール(憲法)』や『構え』が変わるのは当然です。

一流のプロ野球選手といえども、彼らがサッカーフィールドに移行してレアルマドリードやFCバルセロナのような世界のトップクラブには勝てません。
サッカーで勝つには、サッカー選手向けの育成・マネジメントシステムを整える必要があるように、ビジネスでも令和型のビジネスパーソンの育成・マネジメントスタイルのルールへの変更、憲法改正が求められます。まさにCX(コーポレート・トランスフォーメーション)です。

アマテラスが考える、令和版コーポレートガバナンスルールを挙げてみます。

・多様性の価値観:国籍、男女、年齢のポートフォリオがバランスしている。
・人材流動性が高い:通年採用。定年なし。転職は善。出戻り自由。
・ジョブ型雇用
・兼業・副業自由
・個人に求める忠誠心は、ジョブ>事業>会社
・新卒・中途は気にしない。誰も知らない。
・スキル・成果が中心の評価制度。
 - 評価されるスキルとは社外でも再現性をもって成果を出せるスキル。リーダーシップ、コミュニケーションスキル、ストレス耐性、協調性、調整力など。
 - 評価軸は社歴・学歴よりもどれだけ人の役に立つ仕事をしたか。
・卒業生がどれだけ社外で活躍しているかが会社のブランド。
・会社の価値は規模や歴史よりもどれだけ社会の役に立っているか?

*参考:「コーポレート・トランスフォーメーション 日本の会社をつくり変える」富山和彦著

こう書くと、リクルートは昭和真っ只中の1960年代創業ながらも、未来を見据えたコーポレートガバナンスシステムを敷いており、その先見性に驚かされます。

20-30代の経営者が起業するスタートアップの多くは、昭和型コーポレートガバナンスを知らないため、自然体で令和型コーポレートガバナンスを取り入れられるのは強みでもあります。

一方で、やや社歴が長いベンチャー企業や大企業資本の戦略子会社は、昭和型コーポレートガバナンスの『構え』で経営しており、変化対応に苦しんでいるように見えます。経営者自身がこの変化から目を逸らさず、未来を見据えて変革に対応できるかが問われています。

中堅企業のオーナー経営者がカイシャを変革させようとして、へッドハンター経由でスタートアップ人材を採用して失敗する事例はよくあります。その失敗原因の多くは、企業の底流にあるガバナンスルールが昭和型のままで、そこにプロトコルの違うタイプの人材を置いてしまうからです。

スタートアップ人材を迎え入れたいなら、その人材が活躍できるガバナンスルールの特区を創り、口を出さずに任せるほうがよいでしょう。

【事例6】Telexistence株式会社

テレイグジステンス技術(離れた場所にあるロボットを自らの分身のように操れる技術)を用いて、場所の制約なく働ける遠隔就労を支援する遠隔操縦ロボットおよびクラウド・データ解析サービスを展開。

同社の採用担当者はアメリカ在住で打ち合わせは当然オンライン。採用方針は性別不問、年齢不問、スキル重視が徹底されています。性別や年齢について質問をすると、「なぜそんな質問をするのですか?」と問い返されてしまいました。

世界中からトップタレントを集めて成長している採用スタイルやコーポレートガバナンスの先進性を実感しました。

ファミリーマートでの店頭陳列を遠隔で行っている様子

アマテラスのスタートアップ選びの原則

さて、ポストコロナを見据えて成長するスタートアップとは?という観点で
3つのポイントを示してきましたが、あくまでアマテラスのスタートアップ選びの基本原則はビフォーコロナから不変の要素ですので改めてお伝えします。

【厳選Step1】事業内容・ビジネスモデル審査

審査ポイント1:人の役に立つ事業か?
未解決の社会的課題解決や革新的開発にチャレンジしている。

審査ポイント2:競争優位性となる強み(コア・コンピタンス)を持っているか?
コアテクノロジー保有。技術開発力。模倣困難なビジネスモデルであるか、など

審査ポイント3: ルールブレイカー(rule breaker)であるか?
既存のルールを壊し、新しいルールを創出して新産業を創出している
例:Uber、Airbnbなど

審査ポイント4:市場規模は魅力的な大きさか?
ターゲットしている市場規模は1,000億円以上あるか。

審査ポイント5:回収エンジン(マネタイズ)の仕組みがあるか?
継続して利益を生む仕組みがある

【厳選Step2】アマテラス事務局による経営者との面接実施

審査ポイント:経営者の人間力、ビジョン
面談を通じて審査。

アマテラスのスタートアップ審査プロセス詳細についてはこちらを参照ください。
https://amater.as/deffenition/

アマテラスがお付き合いをしないスタートアップとは

アマテラスの大きな特徴の1つとして、審査通過率約15%のスタートアップ厳選という点があります。スタートアップ転職希望者が後悔することなく、よりよい未来を選ぶためにお付き合いする企業を厳選しています。

・経営者から”なぜその事業をするのか?”という説得力あるストーリーや理由を感じられない。
アマテラスは『創業経営者こそがスタートアップそのもの』と理解しています。経営者の想いは本当か? 困難に突き当たるのは当然のこの世界で、何があっても逃げずにやり遂げるだけの動機やストーリーが経営者にあるか? を確認するように努力しています。単に成長している領域だから、注目されている分野だから乗ってみる、程度の動機で事業をしている起業家に我々は共感することはありません。

・事業に公益性や社会貢献度がない。
儲かっているかどうかよりも人の役に立つ事業かどうかをアマテラスは重視しています。

・事業に新規性がない、もしくは大企業の下請け、受託業務のみをしている。
中小企業とスタートアップ企業は違う。

・経営者が採用・社員教育・育成を重視していない。

コロナ禍は、スタートアップ・ベンチャー企業成長の、そして、日本の働き方が変わる好機

社会的有事は優良企業が産まれる萌芽と言われています。平時には動かない優秀人材が企業から流出する機会というのがその一因です。リーマンショックの最中にシリコンバレーでは、Slack(コミュニケーションツール)、Pinterest(アイデアの画像検索)、Square(モバイル決済) などが産まれ世界的サービスに成長しました。

コロナによるパンデミックは悲惨な状況をもたらした一方で、テクノロジーによって働き方の「柔軟性」と「生産性」を高める機会を日本に提供しました。長時間労働・メンバーシップ型雇用・女性の社会進出という働き方課題に長らく苦しんできた日本にとって、大きく変化をするチャンスが到来したともいえでしょう。この機会をどう活かせるのか?我々はどう変われるか?が問われていると思います。

アマテラスはウィズ/アフターコロナ期に成長するベンチャー・スタートアップとは?という問いに対して、以下3点を挙げました。

①ヴァーチャル・ファースト社会に適応したビジネスモデルか?
②ウェルビーイング(Well-being)の価値観を提供できているか?
③令和型コーポレートガバナンスコード(新憲法)を導入できているか?

このような視点を持ったスタートアップが成長することで、日本そのものをアップグレードさせる可能性があります。

次世代を創っていく側に身を置いてコロナ禍を乗り越え、より良い社会作りに参画していきたい、そんな想いを持った方が、アマテラスで志ある起業家と出逢えることを願っております。

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』