スタートアップ転職活動の進め方 その2~初めてベンチャー・スタートアップへ転職する時、第一歩はどうするべきか?~

スタートアップ転職の第一歩は、自分に合う企業フェーズを探すこと

これまで大企業で働いてきて初めてスタートアップへ転職する際に、
“第一歩はどの成長フェーズの会社を選べばよいのか?”
という問いに答えるのが本コラムの目的です。

以前書いたコラム『スタートアップ転職活動進め方』に多くの反響をいただきました。そこでお伝えしたのは、「スタートアップ転職の際にまず『森(適切な成長フェーズ)』を探してから『木(個別企業)』を探そう」というメッセージでした。

その後、「スタートアップ選びの際に木(個別企業)から探すのではなく、森(企業の成長フェーズ)から探すことの重要性は分かったが、一歩目としてどの森を選ぶべきか悩んでる」という相談を多く頂きました。そこで、今回はそのコラムの続編として、“あなたに合った森(スタートアップフェーズ)の探し方”について述べたいと思います。

尚、本コラムでは以下のような方を想定しています。

スタートアップをひとまとめにせず、成長フェーズごとに分類する

『スタートアップ』と言っても社員数名の会社もあれば、1,000人超の自称ベンチャーもあります。これらを一括りにするのではなく、成長フェーズごとに分類して考えましょう。
前回コラムでもお話したように、スタートアップに深く関わるプロフェッショナルは、未上場企業をシード・アーリー、シリーズA(ミドル)、シリーズB以降(レーター)という呼称でセグメントしています。

なぜ成長フェーズ毎に分類するかといえば、フェーズによって仕事の進め方、求められる経験やスキルが大きく異なるからです。自身の経験・スキル・特性が合っている適切なフェーズを選ぶことがミスマッチを防ぐ最初のステップです。

スタートアップについて詳しくない転職エージェントに登録すると、相談する前から個別企業(多くの場合、メガベンチャー)を推奨してくることがあるようですが、このようなエージェントはスタートアップのフェーズすら理解していない可能性があるので要注意です。

あなたがキャリアで解決してきたことは何ですか?

ここで、あなたに質問です。
“これまでのキャリアで解決してきたことは何でしょうか?”

少し立ち止まって考えてみて下さい。
その答えは以下A、B、C、Dのどれに当てはまるでしょうか?

A: “経営のWHYを解決した経験”
B: “経営のWHATを解決してきた経験”
C: “事業のHOWを解決してきた経験”
D: “上記のどれにもあてはまらない。もしくは問いの意味がわからない”

回答から今のあなたに適したスタートアップの森(成長フェーズ)がおおよそ決まります。
Aと答えた人→シード・アーリーフェーズ、もしくは起業が向いている
Bと答えた人→ミドルフェーズ(シリーズA)が向いている
Cと答えた人→レーターフェーズ(シリーズB以降)が向いている
Dと答えた人→裁量を持って仕事をしたことがないか、問題意識が希薄かのどちらかです。現時点ではスタートアップに向いていない可能性が高いです。

参画できるスタートアップのフェーズは、あなたの経験・スキルで決まる

各成長フェーズで求められる人材等の特徴を下表にまとめました。
ご自身のスキルや実績、得たい経験、求める待遇等から当てはまるフェーズが絞られると思います。あなたにフィットしそうなフェーズはどこでしょうか?

日系大企業に勤める20代~30代前半社員の多くは、経営的な意思決定経験よりも、与えられた目標を工夫して達成した経験をしている方が多いかと思います。その場合、ミドルやレーターフェーズで活躍できる可能性は十分あります。初めてのスタートアップ転職でソフトランディングするならここが狙い目です。

創業期の魅力から初めてのスタートアップ転職でシード・アーリーフェーズを希望される方も多いですが、求められるような経営者目線での経験・スキルを持つ若手は限られているのが現実です。

国内金融機関で数年の営業経験の後、アメリカの超一流大学院でMBA取得した30歳の方が、「先端テクノロジースタートアップのCOOかCFOになりたいが、全部落ちている。私は何でもできるのに、なぜなのか?」と怒って相談に来たことがありました。
その方は一般的に優秀と言われる方だと思いますが、創業期のCEOにとってはどうでしょうか?スタートアップで実績を上げたことがない方に、事業の成長を委ねることが出来るでしょうか?

スタートアップへの転職にあたってそれぞれの希望や想いはあるのでしょうが、経営者目線で見れば、置かれた経営状況に応じて必要なスキル・能力のある人を選び、その中で会社のビジョンに共感する方を採用したいと考えます。よって、現実的にはスキルと経験値で転職できる企業フェーズはほぼ決まってきます。

とはいえ、創業スタートアップのCxOを諦める必要はありません。
まずは自らの経験・スキルにあったフェーズのスタートアップ企業で一歩目を踏み出し、そこで意思決定経験を積み、スタートアップらしい動き方やスキルを身に着けて要件を満たしたタイミングで次のステップ(ミドル、シード・アーリーや起業)に進めばよいのです。

Jリーガーの欧州移籍と大企業からのスタートアップ転職は似ている

私がサッカー好きということもあり、スタートアップ転職をJリーガーの海外移籍に例えて説明することが多いです。Jリーガーが海外移籍をする際に第一歩としてどこの国のリーグを選ぶのか?と、スタートアップ転職で最初にどの森を選ぶのか?という話には、とても近いものがあると思います。

Jリーグで実績があるからと言って、いきなりFCバルセロナのトップチームに移籍はできません。同じサッカーでもアジアとヨーロッパでは評価の物差しが違うので、日本で活躍しても欧州で活躍できるとは評価されないからです。まずは欧州というマーケットに第一歩を踏み入れ、欧州のものさしで評価されて徐々にステップアップしてトップクラブを目指すのが定石です。

典型的なステップアップとしては欧州強豪リーグ(イングランド・スペイン・イタリア・ドイツ)へのショーケースリーグと言われる中堅リーグ(オランダ・ポルトガル・ロシアなど)へ移籍し、手堅く試合に出る。そこでの実績をアピールして強豪リーグのクラブへ移籍し、そこで圧倒的な結果を示した選手がFCバルセロナ、レアルマドリード、ユベントスというトップクラブへ移籍を果たすというのが王道のキャリアパスでしょう。

本田圭祐選手はJ1の名古屋グランパスで実績を出し、欧州での第一歩は中堅のオランダリーグでした。そこで大活躍してロシアリーグの強豪チームの目に止まり移籍後、主力として活躍。ビッククラブのACミラン(イタリア)への移籍を果たしました。
国内では半端ない実績を残していた大迫選手(元鹿島アントラーズ)も欧州の第一歩はドイツの2部リーグ。その後、ドイツブンデスリーガ1部にステップアップし、さらに上のクラブを目指しています。

彼らのキャリアをアドバイスした代理人の手腕は、一流の転職エージェントのスキルと近いものがあると感じます。二人の実力であれば最初から強豪リーグのチームで通用した可能性もありますが、ギャンブルはせずに着実にステップアップさせるというキャリアビジョンを描いた代理人がいたと考えています。
海外移籍から短期間で帰国するJリーガーもいますが、それは実力だけの問題ではなく、自身の特徴や実力とミスマッチしたリーグ、チームを選んだ可能性が高いと思います。

選手寿命が長くないサッカー選手が身の丈以上のチャレンジをしてしまう気持ちは理解できなくありません。
しかし、人生100年時代を迎えるビジネスパーソンの皆さんには長い時間があるので、焦らず・慌てず、自分の実力とキャリアビジョンに沿って適切な判断をすべきでしょう。まずは本田選手や大迫選手同様に着実な一歩を。千里の道も一歩から、です。

シード・アーリーフェーズにフィットするのは事業化経験者

ここからは各成長フェーズの仕事の特徴や、フィットする人材像について説明します。

まずシード・アーリーフェーズですが、ここは最も過酷なフェーズと言えるでしょう。大企業から初めてスタートアップに転職する場合、最もハードランディングになる可能性が高く、覚悟が必要です。

『死の谷』とも言われるこのフェーズを乗り越える成功可能性は低く(数%程度)、金もなく(給与も低い)、人材も不足し、プロダクトもない状況です。あるのは“なぜ(WHY)この事業をやるのか?” という想いだけで、それを事業化するための方法を自ら考え、事業という形に具現化していくための貢献が求められます。

このフェーズは資金が尽きる前にスピーディに事業を形にすることが求められるため未経験者・ポテンシャル人材をじっくり育てる余裕はなく、事業にすぐ貢献できる能力・経験を持った即戦力人材が求められます。“経営のWHYを解決してきた経験のある人”が最も適任となります。

リクルートのような新規事業創出に力をいれている会社やメガベンチャーでは若手でも事業責任者を任せてもらえることがあるので、このような方はシード・アーリーフェーズに求められる経験を積んでいると言えます。

しかし、一般的な大企業でそのような経験を積める場は、
・新規事業を任された
・子会社の社長に任命された
くらいで、若手がこのようなチャンスを得られることはなかなか難しいと思います。

レアスキルがあればシード・アーリーフェーズへの道が拓ける

一般的な日系大企業の若手がシード・アーリーフェーズへ転職することは不可能か?というと、必ずしもそうではありません。最先端スキルや特定業界の特殊スキルを身に着けていれば、プロフェッショナル人材として採用の可能性が出てきます。

例えば、
・データサイエンティスト
・機械学習やAIのプログラミングスキル
・ヘルスケア領域の知財法務スキル
といったスキルです。

大企業は幅広い事業を手掛けていて、最先端事業に若手メンバーがアサインされることが少なくありません。そのようなチャンスがあれば手を挙げてみるのは一つの手です。そこでレアな経験を積むことで転職マーケットにおいても市場価値の高いレアキャラになれる可能性があります。

ここで得た価値あるスキル・経験はシード・アーリーフェーズのスタートアップでも評価されます。実際にアマテラス登録者で以下のような事例がありました。
・大企業のビッグデータ部署でデータ分析を担当し、データサイエンティストとして経験を積む
 →シードフェーズのAIスタートアップへ事業開発として転職
・大手ヘルスケア企業で知財法務担当
 →AI×ヘルスケアスタートアップへ知財戦略担当として転職。

いずれも0→1の経験はありませんでしたが、AIスタートアップで即戦力になるような特殊スキルが評価されて参画のチャンスを得ることができました。参画当初はカルチャーギャップが大きく苦しんだようですが、レアな専門スキルがあったため、社内でも貴重な人材として活躍するうちにスタートアップ文化にも慣れ、1年後にはすっかり幹部人材として定着することができました。

ミドルフェーズで求められるのは目標設定から計画、実行で成果創出する力

ミドルフェーズは、プロダクトやビジネスモデルの目途が付き、人とお金を投入し事業を拡大(1→10)していくフェーズです。シリーズAという億単位の資金調達を行うのもこのタイミングが多いです。

ここでは事業の目標を設定し、事業計画~アクションプランにまで落とし込んで実行し、成果創出した経験やスキルを求められます。経営の“WHAT”を解決してきた経験です。
日系大企業でいえば、このような裁量を任せられるのは30~40代のマネジメント層になるでしょう。

では、部下がおらず、役職もない若手はそうなるまで待たねばならないかというと、必ずしもそうではありません。マネジメント経験はあった方がよいですが、部下をもった経験がなくても構わないことも多いです。ミドルフェーズのスタートアップは組織階層が少なく、CEO以外はプレイングマネジャーということが多いからです。

求められるのは、言われたことをただやるのではなく、目標設定からアクションプランまで主体的に考え、その達成に向けて実行した経験がある方です。組織全体でなく、自分の業務範囲でも構いませんが、そのようなプロセスを回し、そこから成果創出した実体験はキャリアに繋がります。
仕事を進めるにあたり常にそういった意識をもって行っている方は、ミドルフェーズで求められる人材かと思います。

若手のスタートアップ第一歩に適適しているレーターフェーズ

レーターフェーズはスタートアップに初めて転職する方にはもっともハードルが低く、ソフトランディングしたいならお勧めです。

プロダクト開発、市場適合(PMF:Product Market Fit)という壁を乗り越えて、安定成長、収益化に向けて経営体制を確立、効率化するフェーズです。“創業メンバー”という強い力を持つ人々が上層部にいるのも特徴で、中途採用人材が入社時から経営幹部やコアメンバーとして参画するのは難しく、マネージャー以下での参画が多いです。

ミドルフェーズ頃までは「○○さんがいるから売上が立った」、「△△さんが辞めたから組織が回らなくなった」ということがあったと思いますが、レーターフェーズ以降では誰が辞めても仕事が回るよう指揮系統や業務フロー、マネジメントシステムは仕組み化されつつあります。合理的な判断やプロセスで物事が進む体制になっているため、大企業で行ってきた仕事の進め方が通用することが多く、それ以前のフェーズに比べると違和感なく着地できる可能性があります。

ここから参画する方は経営層が定めた各事業目標や計画を創意工夫しつつ(HOW)達成することが求められます。極端にいえば、リーダーシップよりもフォロワーシップが求められるともいえます。
大企業では目標を達成するために行動(DO)レベルで管理をされることが多いですが、このフェーズの経営環境は変化が早く、そこまでビジネスモデルが確立されていないため成果を出すにあたり、大企業に比べると創意工夫の余地が多く、裁量を持って働けることが多いです。

経営のWHY、WHATを解決してきたことがなくても、大企業で3年程働いた方であれば目標達成の為に創意工夫した経験はしてきているはずです。
シードアーリー・ミドルフェーズでは経験スキルが不足していると言われる方でも、レーターフェーズ企業にターゲットを決めて転職活動をすれば、「スキル・経験が不足している」と言われる可能性は低くなります。

回り道はせず、まずはスタートアップ村に入ることがお勧め

「スキル不足を補うために、スタートアップへの転職前にコンサルやMBA留学に行くのはどうでしょうか?」という質問をよく受けます。スタートアップで経営に携わるキャリアや将来の起業を希望されるのではれば、回り道はせずスタートアップ村に入ることをお勧めしています。

いずれ事業家として成功したいのであれば、経営者になり、経験を積むしかありません。そして、結果を残せた人だけが、プロの経営者と呼ばれます。同様に、スタートアップでキャリアを築くためにはスタートアップで働き、結果を出していくしかないと思います。

コンサルティング会社で経験を積んだり、MBAで学び、経営本を読むこともよいと思いますが、それだけではスタートアップ人材、経営人材にはなれません。
しかも、意思決定等の経営スキルは、変化の早いITスキル等とは異なり、累積経験が利きます。経営人材としてのキャリアを目指していくのであれば、早めに裁量の大きいスタートアップで経験を積む方がよいと思います。

また、スタートアップ転職を目指してマザーズ上場企業やメガベンチャーに行く方がいますが、これも私にとって遠回りに見えます。スタートアップ転職の大きな魅力は裁量の大きさですが、マザーズ上場以降の企業ではそれなりの管理体制が構築されており、短期間で経験を積める程の裁量があるかは疑問です。

実際、メガベンチャーに転職したものの仕事の進め方等が大企業時とあまり変わらず、未上場フェーズに改めて転職したいといった相談が少なくありません。

スタートアップでキャリアを築いていこうと考えているのであれば、遠回りせずスタートアップ村に入村することが私のお勧めです。Just dive into Startups!

まとめ:自分の実力とキャリアビジョンに沿って着実な第一歩を

スタートアップ転職においてまずは成長フェーズ選びが重要であると伝えてきましたが、どのように選ぶべきかの説明が不足していたかと思います。

今回のコラムでは、
・自らのスキル・経験から参画できる企業フェーズが決まってくる
・シード・アーリー、ミドル、レーターのそれぞれのフェーズで求められるスキル・経験
・将来参画したい企業フェーズや最終的な姿に向けてキャリアパスを考えることが重要。その中でスタートアップでの第一歩は着実なものにすべき。
・スタートアップ希望なら、回り道せずスタートアップ村に一歩を踏み入れる
についてお話しました。

一番お伝えしたかったのは、『人生100年』と言われる時代で充分な時間はあります。スタートアップという不確実性のある領域に飛び込むにあたり、最初から目的地に直行する必要はなく、焦らず適切なステップを踏む道があるということです。成功可能性を高めるキャリアパスを着実に歩んだ末に、あなたの目指す事業の実現やプロ経営人材としての成功があると思います。

初めてスタートアップに転職する皆様に幸あれ。

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』