スタートアップ転職活動の進め方

スタートアップへの転職を志す多くの方が悩みとして口にするのが、「自分にあったスタートアップはどのように探せばいいのかわからない」ということです。

ネット検索をすればするほど膨大なスタートアップの数に圧倒され、情報収集フェーズで途方に暮れてしまうことでしょう。
しかし、スタートアップに行くと決めた以上は自分のための正しい1社を選ばなければなりません。
この重要な決定には、“まず森(企業フェーズ)を探してから木(個別企業)を探す”という2つのステップをお勧めします。

しかし実際には、多くのスタートアップ転職者が“木を見て森を見ず”という迷走トラップにはまっています。

この迷走トラップにはまってしまうのは、スタートアップ転職の目的が不明瞭なまま動き始めてしまい、“とりあえず話してみる”からです。
転職活動を成功させるためには、“なぜスタートアップに転職するのか?”を明確にすることが最も重要です。

ここからは、今まで誰も教えてくれなかった ”自分にあったスタートアップの探し方” についてご紹介していきます。

自分に合ったスタートアップの探し方

STEP1:森(企業フェーズ)を探す

スタートアップ転職の目的を明確にすることで発展段階・企業フェーズを特定する。

アマテラスはこのステップが最も重要だと考えます。
まずは“スタートアップの転職目的”を自問自答してください。
大抵は下の①、②、③に集約されてきます。


① 創業メンバーとして参画したい(0→1フェーズを経験したい)
→Seed/Early, Middle(シリーズA)フェーズ向き

② 拡大フェーズにある組織で裁量権のある仕事がしたい(1→10フェーズ)
→Middle(シリーズA), Later(シリーズB・C)フェーズ向き

③ スタートアップで働きたいがそこまでアドベンチャーはしたくないので資金調達済の会社や、安定軌道にのりつつあるスタートアップ企業で働きたい
→Later(シリーズB・C), Mothers上場企業向き


大抵の人はスタートアップに転職したい理由として“裁量を求めて”と言います。

“それはどのくらいの裁量なのか?” 
→ 経営幹部クラス or事業責任者クラス orマネジャークラス?

“求める裁量とその人の実力・実績はバランスが取れているか?”
→ あなたは即戦力人材? 条件付き即戦力人材? ポテンシャル人材? 

“その裁量に伴い、取れるリスクはどれほどか?”
→ 年収ダウン、倒産リスク など

このように話を突き詰めていくとおおよその発展段階・企業フェーズが定まってきます。下の図を見てあなたの希望するおおよそのフェーズを絞り込んで下さい。

よくあるケース別でみる”森(企業フェーズ)の探し方”

このCASE1(新卒でメガバンクに入社し、法人営業経験、32才、年収900万円)の方には
“Later・Mothers” という企業フェーズから企業探しをすることをお勧めします。

といいますのは、
・メガバンクでの法人営業経験スキルは、クリエイティブ性が低くSeed/Early・Middleフェーズのスタートアップでは評価されず、
・希望年収が700万円以上というのはスタートアップでは高めの水準で、即戦力人材でなければ満たせるLater・Mothersフェーズの会社になるからです。

Seed/Early・Middleフェーズの会社で0→1の事業責任者が務まる人材は立派な実績があるにも関わらず、ストックオプションがあれば年収600万円でも良い、と言える人材です。
なぜならその人は経験に基づいた自信があり、会社の懐事情を理解しているので目先の報酬には拘らずに事業を成功させることにコミットできるからです。

そして、この方はスタートアップでコミットできる成果が少ないにも関わらず求める年収が高い。その場合は資金的余裕があるLaterもしくはMothers上場企業という企業フェーズに絞られていきます。
Seed/Early/Middleフェーズを希望するのであれば、年収を下げて、かつこれまでの法人営業力を活かして即戦力になれるような会社を探すべきでしょう。

このCASE2(大手自動車メーカーを経てコンサルティングファームでマネジャー経験、34歳、年収1,500万円)の方には、
“ Middle > Seed/Early ”のフェーズ順にお勧めです。

戦略立案、企画力のスキルがあり、大企業経験もあるため社内外の人も巻き込んだ事業推進で活躍できると判断されますが、0→1フェーズのカオスな環境で活躍できるかは未知のため、Middleフェーズのフィット感が高い可能性があります。

年収の大幅ダウン(500万円前後)を許容し、リスクを取って挑戦したいという場合は Seed/Early フェーズもお勧めできます。

経営人材になるという思いを実現するには経営者の近くのポジションが必須ですが、Laterフェーズ以降だと経営者との距離が遠くなるため避けたほうがよいでしょう。

このCASE3(メガベンチャーで新規事業リーダー経験有り、29歳、年収600万円)のような方はスタートアップにおけるのモテ人材ですのでどのフェーズでも選べますが
“ Seed/Early ”フェーズがお勧めです。

これまで事業責任者として大きな裁量を与えられ実績を出してきたので、この人のさらなる成長欲求を満たすのは、起業、もしくはCEO直下で大きな裁量、権限がある環境となることが多いです。
即戦力人材ですし、ストックオプションなどのエクイティをもらい、社員数10名以下の Seed/Early フェーズでその敏腕をフルスィングできる環境がお勧めです。

STEP2:木(個別企業)を探す

森(企業フェーズ)が定まったら、次は具体的に木(個別企業)を探すステップです。

A:分野を絞る
B:ターゲット企業リストを作成する

の2段階に分けてご説明します。

STEP2-A:分野を絞る

あなたが選んだ森の中から情熱を傾けられる分野を見つけましょう。その際には以下のような自問自答が有効です。

・BtoC とBtoB どちらが良いか?
・誰のために働きたいか?なぜその顧客のために働きたいのか?
・最先端領域(AI、IoT、バイオなど)か、成長市場領域(シニア、ヘルスケアなど)か、解決したい課題(働き方改革、女性の社会進出、BOP教育、地方創生など)で選ぶのか? それはなぜか?
・競争優位性のあるコアテクノロジー保有企業が良いか?
・自社プロダクトがある会社がよいか?
・好きな業種、好きではない業種は何か? それはなぜか?


例えば、あなたに病気や貧困で十分な教育を受けられなかったという原体験があり、教育分野をテクノロジーで変革したいという問題意識があれば、“EDTECH(教育テクノロジー)”は適切なターゲット分野でしょう。
また、これまでコンサルティング会社で他社の支援をし続けることにやりがいを見いだせず、自社プロダクトを持つ会社でサービスを育てていきたくなったという方もいるでしょう。

そして、可能性のある3つ程度の分野に絞るのが妥当です。
“分野や業種に拘りはなく分野を絞れない”という方がいますが、そのような方はスタートアップ向きではありません。
起業家は強烈な想いと覚悟をもって事業に取り組んでいますので、想いの無い方は起業家と共に働くのは難しいでしょう。

STEP2-B:ターゲット企業リストを作成する

分野が定まったらその次は個別企業名を記したターゲットリストを作成します。
1分野あたり3-5社のリスト、3分野で10-15社程度あれば良いでしょう。

有効な方法はあなたがターゲットした分野に詳しいスタートアップのプロフェッショナルに有望企業を聞くことです。

成功する会社はスタートアップのプロに聞け。

スタートアップのプロとは以下のような人達を指します。

・ベンチャーキャピタリスト(VC)
・エンジェル投資家
・創業経営者(マザーズ上場、M&AによるEXITを経験した人)
・証券会社のIPO関係者(公開引受部・審査部・法人営業)
・監査法人のIPO関係者
・東京証券取引所・マザーズ関係者
 など

私自身も(ドリームインキュベータにて)ベンチャーキャピタリストを経て現在もスタートアッププロの世界におりますが、ここは完全会員制クラブのような敷居の高いコミュニティが構成されており、インサイダーにならなければ良質な情報が入手できません。
我々はプロとしてスタートアップ業界の分析を緻密に行い、起業家とのネットワーキングも頻繁に行っています。個人の方がこのプロ達と接点を持つのは簡単ではないですが、勉強会やイベントに出て接点を持つことは可能ですし、彼らのSNSやオウンドメディアなどには良質な情報が掲載されています。優良なVCのHPから投資先リストを見てみるのも有効です。

>転職コラム「スタートアップ転職で悩んだら、優良ベンチャーキャピタルの投資先を探してみよう」

スタートアップのプロと人材エージェントでは“良いスタートアップ”の定義が違う

人材エージェント、ヘッドハンターは私の感覚ではスタートアップのプロではありません。

スタートアップのプロにとっての“良いスタートアップ”とはエクセレントカンパニーの卵ですが、人材エージェントにとっての“良いスタートアップ”はたくさん採用してくれる会社を指します。

ヘッドハンターが紹介してくる案件は必ずしも成長ポテンシャルの高い会社ではなく、離職率が高い会社、採用ハードルが低いだけである可能性もあります。複数の人材エージェントが強く薦める会社は特に怪しいと思ったほうが良いでしょう。企業がエージェントに対して紹介料のインセンティブを弾んでいることもあります(有名ゲーム会社さんがよくやっています)。
本当に良いスタートアップはコスト効率面からリファラルやダイレクトリクルーティングといった採用手法を好み、わざわざ高コストをかけてヘッドハンターやエージェントに採用依頼をかけません。

絞り込んだ企業から1つを選ぶ

スタートアップのCEOに話を聞きに行く

ある程度(10-15社)の企業リストを創ったら、ここで初めて“話を聞く”というアクションを起こしましょう。
良いスタートアップほど常に良い人材を求めており、採用に時間を割くことを厭いません。明確なスタートアップ転職の目的と動機を持ち、採用可能性のある経歴があれば会ってくれます。本文章にあるようなプロセスをしっかり踏んだ方であればスタートアップ経営者とディスカッションできる準備も出来ているはずです。

企業に話を聞くうえで重要なことは4つあります。

1) 基本的にはCEOに会いに行く。
2) 各業界のトップ企業を教えてもらう。
3) 気になる会社とトップ企業との差は何かを知る。
4) 気になる会社の競合にも話を聞く。


スタートアップを理解することとは、創業者であるCEOの価値観や人間性を理解することと同義です。本当のビジョンや戦略はCEOしか語れません。後悔ない選択をしたければ憶することなくCEOにアプローチしましょう。

そして、成長産業であれば必ずプレーヤーが複数存在し、その中でもリーディング企業がどんな会社かはヒアリングを通じて把握しておくべきです。以前は各業界上位3社までが勝ち組でしたが、ITが発達した今はNo1企業だけが生き残る生態系になりつつあります。
転職したあとで自社が負け組と知ったところで後の祭りになってしまいます。勝算がある会社かどうかはしっかり事前リサーチすべきです。

意中のスタートアップで希望ポジションが募集中であるか不明でも応募してみよう

”意中のスタートアップの採用ページなどを見ても希望するポジションで募集がされていないので応募しないほうがよいのでしょうか?”という質問を受けることがあります。

関心ある会社であれば応募の有無関係なくまずはアプローチしてみてください。
概してスタートアップでは、ポジションに人を当てはめるというより、良い人がいればその人のためにポジションを創出します。

スタートアップ経営者がアマテラス登録人材に求める典型的な求人依頼は以下のようなものです。
「現在、弊社には空いているポジション(職)はありません。でも、とにかく応募してみてください。面談して、会社のためにできること、そして、どうやったら会社がそのポジションを作り出せるのか提案してください。」

また、スタートアップでは環境変化に応じて会社も変化しなければならず、1人が対応する業務が広範になりがちです。入社前に想定していたポジション以外の仕事をすることも多く、ミスマッチを防ぐために敢えて募集ポジションを明記しないことも一般的です。

特に大企業出身者の方は、仕事に対して明確な業務内容やジョブディスクリプション(職務記述書)を求めるため、希望するポジションが記載されていないという理由で応募を諦めてしまう方が少なくありません。
大事なことは貴方がその会社にどのような貢献をしたいかを伝えることです。
スタートアップでは一部の専門的なポジション(エンジニアや財務経理等)を除き、ポジションは自分で創出し、確立していくものです。
道(ポジション)を切り拓いてください。

1社に決める

採用プロセスが進み、1社に決める際にきっとあなたは良い意味で“迷う”でしょう。
その時は原点に立ち返り、STEP1で定めた“転職の目的”が何だったかを自問してみましょう。
敢えてスタートアップに転職をしようという目的はその会社で満たせるでしょうか?

気になる会社が複数あり、採用面接プロセスだけでは決められない、という場合のお勧めは数日間の“短期間インターンシップ”です。
NDA(機密保持契約)を締結したうえで数日間、インサイダーになってみると会社の雰囲気や仕事の進め方がよく見えます。数日間の休暇取得が難しい場合は経営会議や営業会議など自分に関係の深い会議に出席させてもらう、というのも有効です。

そして最後は“良い会社”ではなく、“好きな社長”を選ぶのが吉です。
スタートアップではビジネスモデルが頻繁に変化するので今は良い会社でも将来はわかりません。スタートアップで唯一変わらないのは創業社長のみ、と考えてください。この人とだったらどんな困難も乗り越えられる、と思える社長の顔が浮かんだら、そこがあなたがBETする1つの場所です。

人生の戦略に、良い起業家との出逢いを。

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』