国土交通省によれば、日本の建設業界は平成10年前後をピークに業者数・就業者数とも減少の一途を辿っており、人手不足が大きな問題となっています。また、就業者の4分の1が60歳以上と言われており、若手の育成や技術の継承も喫緊の課題です。
一方で、耐用年数を越えたまま地中に埋まっている水道管や老朽化した橋やトンネルなどが多数存在しており、私たちの生活インフラは危機に直面しています。他にも、大阪万博をはじめとする大規模プロジェクトや自然災害への対策など、建築需要は継続的に延びることが予想されています。
こうした人手不足問題解消に貢献し、建設業界の抱える様々な課題を解決することを目的に創業されたのがH&Company社です。
取締役の佐々木貴志氏は岩手県釜石市に生まれ、電気工事業を営む父の背中を見て育ちました。そして2011年の東日本大震災で、故郷釜石で懸命に復旧作業に取り組む建設業の人々の尊さに胸を打たれ、この業界を支えたいと創業を決意したそうです。
インタビューでは、創業までのストーリーや「工事士.com」に込めた思い、そして建設業界で働く人々の環境改善に向けた今後のビジョンなど、様々なお話を伺いました。
代表取締役
佐々木 貴志氏
1972年、岩手県釜石市出身。実家は電気設備業を営む。
中央大学卒業、中央大学大学院修士課程修了。その後UC Berkeley, Professional Diploma Program Marketing修了。
人材サービス企業(東証一部)にて事業企画分野の責任者を担当。広告代理店では営業として大手化粧品会社を担当。その後、新規事業開発、上場準備を担当。
2011年に株式会社H&Company設立、代表取締役に就任。日本初となる電気設備業界特化の求人サイト「工事士.com」を立ち上げる。
株式会社H&Company
https://www.h-company.co.jp/
- 設立
- 2011年03月
- 社員数
- 30人
《 Mission 》
ITとアイデアと情熱で、日本の生活インフラを守る
《 事業分野 》
HRTech / 建設
《 事業内容 》
・Webサイトの企画・運営/工事士.com/施工管理求人.com
・人材紹介事業
・建設業界を応援する情報サイト/建設魂
・オンラインコミュニティサイト/電工タウン
・建設業界専門のCMSサービス/BT-web
- 目次 -
三陸で電気工事業を営む家庭に育つ
佐々木さんの生い立ちについてお聞かせ下さい。幼少期の家庭環境や、今の仕事に繋がる原体験などがありましたら教えていただけますか?
僕は岩手県釜石市、三陸の出身で、父親が電気工事業を営む自営の家庭で育ちました。祖母、両親と男3人兄弟という家族構成で、僕は長男でした。
中学時代などの多感な時期は、父の仕事の手伝いをさせられることもあったのですが、それがあまり好きではありませんでした。駅の構内でヘルメット被って手伝っている前を友達が通ると、すごく恥ずかしい気持ちになったことを覚えています。
お父様の働く姿はどのように見えていましたか?
本当によく働く人でした。休日返上で働いていたためか、一緒に出かけた記憶もほとんどありません。それでも一時期は「3人の息子を全員高校に行かせられると思わなかった」というほど経済的に厳しかったようです。
それが少しずつ軌道に乗り、高校どころか大学院、そしてアメリカ留学まで行かせてもらいました。会社として40年以上続いていることは、息子としても経営者の後輩としても尊敬の気持ちがあります。
東日本大震災をきっかけに、建設業界の役に立ちたいと起業を決意
大学院修了後にはアメリカに留学されたとのことですが、帰国からH&Company社を起業するまでの経緯を教えていただけますか?
帰国後、最初に入社したのは大手人材会社です。
当時、その会社はすでにメガベンチャーでしたが、勝ち馬に乗ろうというタイプの人は見当たらず、会社全体がガツガツした雰囲気だったことを覚えています。
ここでは経営企画部門で新規事業開発や事業運営など、様々な経験をさせてもらいました。夜中まで働くこともありましたが本当に充実した日々で、あのときの知識や人脈がなければ今の僕は存在していないと思います。
その後は不動産会社に転職したのですが、リーマンショックの影響もあり倒産の憂き目に遭います。朝礼のたびに社員が減っていく様子や、後ろ向きの業務に皆が精神を削られていく様子を目の当たりにし、「こんな会社を1社でも減らしたい」と思い、次に選んだのは事業再生のコンサル会社でした。
その後、どのようなきっかけで起業を決意されたのでしょうか。
直接のきっかけとなったのは2011年の東日本大震災です。
実はこの3か月ほど前に実家の電気工事会社を継いでいた弟が、その翌月に祖母が亡くなるという不幸が続き、かなりバタバタしていたところに震災が来ました。釜石市も津波で壊滅的な被害を受け、故郷のあまりの惨状に愕然としたことを覚えています。
被災地で真っ先に求められるのは「復興」ではなく、電気や水道など生活インフラの「復旧」です。僕の実家はそこまで被害が大きくなかったこともあり、地域の電気の復旧を引き受けることになりました。
国交省や東北電力からの依頼を受け、動ける業者さんにどんどん仕事を割り振っていく父の背中を介して見えたのは、復旧作業の中心に立っているのは建設業の人たちだということです。
電気を点け、スマホを充電する。そんな当たり前の日常は、この人たちがいてこそ成立しているのだと思ったとき、建設業に対し心から尊敬の念が湧いて来ました。
建設業界は常に人手不足が大きな課題です。しかし、この業界に特化した人材サービスはありません。そして、奇しくも僕には人材ビジネスの長い経験がありました。
これらが全て結びつく形で、自然と「自分を育ててくれた電気工事業を中心に、人手不足解消に貢献するのが自分の役割なのではないか」という思いに至り、この会社を立ち上げました。
困ったときには救いの手が差し伸べられる幸運に恵まれ、資金難を乗り越える
創業初期のスタートアップは資金繰りと仲間集めに苦労する経営者が多いですが、 佐々木さんはいかがでしたか?
やはり、最初に直面したのは資金問題です。創業当初は以前からの経営コンサルタント業も続けていたため、「当面の食い扶持くらいは何とかなる」と気楽に構えていました。しかし、「工事士.com」をリリースした後も、1人の稼ぎには限界があり、お金がないので人も雇えず事業のスピードも上がらないという悪循環にいきなり陥りました。
必死で働きピンチをしのいでも、お金の問題とは常に隣り合わせでした。会社の口座に3万円しかなかったこともあります。ただ、困ったときには必ず救いの手が差し伸べられるという幸運に恵まれて来た気がします。
「会社のお金があと3万円」のときは後輩から紹介された税理士さんの助けで政策金融公庫から貸付を得て危機を脱することができましたし、消費者金融からキャッシングしながら綱渡りしていたときには飛び込み営業に来た三井住友銀行さんに助けられました。
いつも「人に頼らず自分の力で何とかしなければ」と思っていましたが、こうやって周囲の助けがなければここまでたどり着けなかったはずだと感謝しています。
採用側が料金を払う習慣がまだなかった時代、契約を取るのに苦労する
「工事士.com」の立ち上げ時には、どのような困難がありましたか?
新しいサイトなので「求人ゼロ、閲覧者数ゼロ」からのスタートであることは当然ですが、そこから利用者が全く増えないというのが最初に直面した大きな問題でした。
日本には10万社近い電気工事会社があり、その多くが人手不足に直面しています。そして求人媒体はほぼハローワークのみ。
料金さえ安く設定すれば契約は取れるだろうと当初は楽観視していたものの、実際にスタートしてみると全く契約が取れませんでした。建設業は労働者のセーフティネット的な意味合いもあり、十数年前には採用側が料金を払うという感覚がなかったのだと思います。
そこから少しずつ問い合わせが来るようになり、じわじわと契約は増えていきましが、求人広告は一定期間が経過すると掲載が終了するものなので、絶えず新規の求人や求職者を獲得する必要があります。
「求人を掲載しても結果が出ない」などのクレームもあり、事務処理や営業のアルバイトを雇ってもすぐに辞めてしまうのが悩みの種でした。
そこで、お金が借りられたタイミングで正社員の採用とオフィスの移転を決意します。
以前のオフィスはワンルームに近く、ドアを開けたら目の前に執務室が1部屋のみという環境でしたが、オフィスの環境を整えると採用も以前より進むようになり、それに伴い売上も伸びていきました。
この立派なオフィスに移転したことで、何が一番変わりましたか?
社員の働きやすさは間違いなく向上したと思います。思う存分働くために環境を整えることは経営者の大切な役割だと思っているので、そこは素直に良かったなと感じています。
ただ、働きやすさに過剰に重きを置くことは僕の意図しているところではありません。
価値観の比重が働きやすさに寄り過ぎると、自分たちの方向性を見失うことになりかねず、そこの舵取りは今後もしっかりやっていくつもりです。
経営者の視座を持ち、社員との調整弁となってくれる人材を採用したい
佐々木さんが経営者として進化を感じるとき、逆に思い悩むときは、どんなときでしょうか。
進化している実感は、正直なところあまりありません。
「三歩進んで二歩下がる」の繰り返しで、会社の成長カーブが緩いのではと感じることも多く、「他の経営者だったらもっとうまくやれていたのかな」と思うことも多々あります。
最も思い悩むことが多いのは、社員とのコミュニケーションについてかもしれません。特に自分の意思決定が社員にあまり理解してもらえないときは、思いをうまく伝えられる言葉の選び方に悩みます。
コミュニケーションの問題は、この会社の取締役が僕1人しかおらず(2024年5月現在)、メンバーとの調整役となる人材がいないことが原因の1つかもしれないと考えています。
組織の円滑化や成長のためにも、今後は経営者と同じ視座で働き、社員との調整弁となってくれるような経営幹部などの採用を進め、人材の層を厚くしていくつもりです。
建設業界で圧倒的な地位を築き、不可欠な存在に
佐々木さんが考える、会社の未来像をお聞かせいただけますか?
僕たちは建設業の皆さんに向けたソリューションを提供しており、その先にある価値を会社のミッションとしています。
今、耐用年数を越えてなお日本の地中に埋まったままの水道管は、地球3周以上の長さに達しています。あと数年もすれば、建設して50年以上経過した橋が全体の約6割に達します。トンネルは約4割です。
こうした生活インフラの危機に直面している私達の生活を支えてくれているのが建設業です。当社は、そうした建設業の方々を支えることで、間接的に日本の生活インフラを支えることにつながると考え、それを使命としています。
建設業の方々が、工事に集中できる環境を整えるためにも、「採用し、育成し、辞めさせない」という一連の流れに沿ってサービスを展開し、この業界で圧倒的地位を築くことを目指しています。
ただ現在は、その入口である「採用する」という部分が混迷を極めていると感じます。以前は例えば「〇〇ならリクナビ」「〇〇ならDODA」という風にそれぞれの会社が特色をもって事業展開していましたが、現在はその境界が見えにくくなくなってしまいました。
つまり、求職者にとっても、求人企業にとっても、「ここなら間違いない」「まずはここだ」という絶対的なサービスが存在していません。このことも採用難に拍車をかけている要因と考えています。
僕たちは「工事士.com」を建設業界で唯一無二の就職サイトに育て、この業界で働く人たちに大きな価値を提供したいと考えています。そして、そこから「育成し、辞めさせない」という流れに繋げ、建設業のコミュニティを作っていけたらと思っています。
理想とするのは突破力ある人材が形成する組織効力感の高い集団
佐々木さんの考える理想の組織や、求める人物像について教えて下さい。
僕が理想とする組織は「組織効力感の高い集団」、そしてこの成長フェーズにおいて求める人物像は「突破力のある人材」です。自分で問題を見つけ出し、その原因と解決策を突き止め、実際に行動に移して事態を打開する力を持つ人たちが機能的に働ける組織を目指しています。
現在のメンバーは非常に優しく誠実で、真面目に仕事に向き合ってくれる一方で、「これ以上出過ぎるとおせっかいになるのでは」という「配慮のつもりの遠慮」によって誰も手を付けない空白地帯が散見されます。
主体性や突破力が身に付けばさらに大きく成長が期待できるメンバーばかりなので、ここは今後の課題と考えています。
佐々木さんが経営者として大切にしている考えを伺えますか?
「起こることは全て必然、ムダなことは何一つない」ということでしょうか。人生のめぐり合わせは全て何かしらの意味を持っていると思っています。
28歳で社会人になった僕は遅咲きも遅咲きです。アメリカ留学ではほかの学生と異なり働いた経験がなかったために、それなりに苦労もしました。
ただ、人の能力は経験のあるなしだけで判断できるものではありませんし、実際に皆とは異なる経験が活きる場面もたくさんありました。
振り返ってみると、辛い経験も全て成長の機会であり、その先の自分にとって必要な試練だったのだと感じます。それをムダな経験として終わらせてしまうかどうかは自分次第だと肝に銘じ、今後も努力を重ねていくつもりです。
実現したいことを叶え、自分のキャリアを自ら築き上げることができる会社に
このタイミング(2024年5月現在)で御社に参画する魅力、働きがいを教えてください。
役職もまだ空位だらけですから、「責任ある立場でチャレンジをしたい、何かを成し遂げたい」という希望を持っている人にとっては、実現のチャンスが溢れているのがこの会社です。
自分のキャリアビジョンが会社のミッションやビジョンと合致すれば、その人が実現したいことはきっとこの会社で叶えられる環境は用意されています。自分のキャリアを自ら築けることに大きな魅力を感じてくれる人も多いのではないでしょうか。
この会社は僕自身の生きた証として、この先ずっとやっていくつもりです。そして、そのマイルストーンの一つとして今後は上場を見据えています。そこを一緒に目指すことができれば、やりがいも収入も十分満足いただけるものになるはずです。
僕は以前の職場で2回の上場に携わり、成功も失敗も経験しています。審査や社内体制の整備など準備は過酷ですが、得られるものは本当に大きいです。上場に寄与できたことへの自信にも繋がりますし、その後の転職時の市場価値も高まると思います。
最後に、今後の展望をお伺いできますか?
人材ビジネスからスタートしていますが、「採用し、育成し、辞めさせない」という一連の流れにそってサービス拡充をしていきます。
その一方で、建設業界で働く人たちの声を世の中に伝え、働く環境を少しでも改善できるよう、収益事業とともに、パブリックフェアーズ(※企業やNPO・NGOなどの民間団体が政府や世論に対して行う、社会の機運醸成やルール形成のための働きかけ活動)を経営の両輪として活動していきたいと思っています。
我々のサービスや活動を通じて、「助かったよ」「便利になった」「この業界も悪くないね」など、そうした声をより多く生み出したいと思っています。
本日は素敵なお話をありがとうございました。
株式会社H&Company
https://www.h-company.co.jp/
- 設立
- 2011年03月
- 社員数
- 30人
《 Mission 》
ITとアイデアと情熱で、日本の生活インフラを守る
《 事業分野 》
HRTech / 建設
《 事業内容 》
・Webサイトの企画・運営/工事士.com/施工管理求人.com
・人材紹介事業
・建設業界を応援する情報サイト/建設魂
・オンラインコミュニティサイト/電工タウン
・建設業界専門のCMSサービス/BT-web