利益より社会貢献を優先させ、研究者とともに持続可能な事業を目指す。産総研の技術資産を活用し、技術の実用化を加速させる

株式会社AIST Solutions 大塚聡太氏

AIST Solutions_eye

失われた30年といわれる、日本の長い不景気。その大きな原因は産業の競争力低下にあります。ただ、技術力が失われたわけではありません。GDPの停滞は、世界で勝ち抜けるだけのマーケティング力や技術を事業化させるスピードがなかったためです。

つくば市には、社会課題の解決と産業の競争力強化をミッションとした機関があります。国内12カ所に研究拠点を持ち、約2,300名の研究者を抱える日本最大級の国の研究機関、産総研(産業技術総合研究所)です。

これまで産総研は多くの企業と先進的な研究開発を行ってきましたが、研究成果の社会実装については企業に任せていました。しかし昨年4月、産総研の100%出資で株式会社AIST Solutionsを設立。多岐にわたる産総研の技術資産と技術資源を総動員し、技術の事業化に自ら取り組み始めました。

2024年2月にAIST Solutionsに入社した大塚聡太さんに、同社の認定ベンチャーになるメリットやつくば発のスタートアップに参画する魅力、社会課題解決への想いなどを聞きました。

大塚聡太氏


大塚聡太氏

埼玉県出身。早稲田大学教育学部社会科学専修卒業後、不動産デベロッパー企業にて経営企画、法人向け賃貸管理業務、予算管理業務を担当。同社在勤中に早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)を修了し、今年から株式会社AIST Solutionsに入社。AIST Solutionsでは経営戦略本部・プロデュース事業本部を兼任し、経営戦略策定や産総研の研究アセットを用いた事業開発を担当。

株式会社AIST Solutions

株式会社AIST Solutions
https://www.aist-solutions.co.jp/

設立
2023年04月

様々な企業様に対する国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)との共同研究、受託(請負)研究及び技術コンサルティングのご提案、また産総研の研究成果を用いた事業開発について、2023年度よりAIST Solutionsが主体となり、産総研グループ一体となって事業を進めております。

ショッピングセンターの運営から異色のキャリアチェンジ

アマテラス:

いま携わっている仕事について教えてください。

株式会社AIST Solutions 大塚聡太氏 (以下敬称略):

主に経営戦略本部と事業開発を行うプロデュース事業本部という2部署に関わっていて、経営戦略本部では経営計画の策定、新規プロジェクトの戦略策定サポートや解消策の提示などを行っています。

プロデュース事業本部では、AIST Solutions が取り組む事業6領域のひとつであるエナジーソリューションの分野で、事業の開発・立ち上げを担当しています。具体的には、温室効果ガス排出量をはじめとした事業活動の環境影響を計算するためのIDEAというデータベースを活用した事業計画の策定、データベースの販売スキームの策定と販売システムの要件定義、契約交渉などを担っています。また、同本部内ではゼネラルチームという形で各事業部門の壁打ち相手となって進捗管理を行う業務もしています。

アマテラス:

どんな経緯でAIST Solutionsに入社することになったのでしょうか。

大塚聡太:

前職では不動産開発企業に勤務しショッピングセンターの運営に携わっていましたが、キャリアチェンジをしたいと考え、MBA取得のために大学院へ進学し、そこでのご縁でつくばに来ました。大学院では、スタートアップから大企業まで、様々なビジネスの基盤にテクノロジーがあるにもかかわらず、どうしてもビジネスサイドの事業家ばかりがクローズアップされているように感じていて、もっと研究者へのリスペクトがあるべきではないのかと思うようになりました。そんな折、偶然にも研究者・研究所が主体となって事業を作り出し、推進していく企業があると知って関心を持ち、AIST Solutionsに参画しました

インタビューは産総研つくばセンターにて行った。インタビュイーの大塚氏(右側)、インタビュアーの弊社藤岡(左側)
インタビューは産総研つくばセンターにて行った。インタビュイーの大塚氏(右側)、インタビュアーの弊社藤岡(左側)

将来的な技術や資源を考えると、つくばには圧倒的なポテンシャルがある

アマテラス:

つくば発のスタートアップに参画する魅力は何だとお考えですか?

大塚聡太:

少し自分つくばには立派な研究所がたくさんありますが、ビジネス色がまだ薄く、この点が少しもったいなく感じています。都心部では大手町や日本橋にオフィスを構えているベンチャー企業がたくさんありますが、技術・学術的な資産を含めた総合力はつくばの方が圧倒的に高いポテンシャルを持っています。目の前のお金や土地ではなく、将来的な技術や資源を見てほしいと思います。

研究者サイドよりビジネスサイドの存在感が大きく見えるのは、資金を引っ張ってきたり利益をもたらしたりできるからでしょう。それならつくばにもビジネス機能を集積させた方が、まちとしての完成度が高まります。つくばにとってのミッシングピースであるビジネス面をスタートアップ企業によって埋めることができれば、集積する企業も全体としてより一層活性化し、つくばを中心としたビジネスエコシステムの誕生も期待できると思います。

少し自分の話をすると、私自身、文系の学部を出て不動産企業で働いていて、技術系のバックボーンが全くないままこの世界に飛び込みましたが、好奇心と社会課題解決への強い気持ち、高いモチベーションさえあれば、知識や能力はあとで身につければいいと思っています。相応の苦労はありますが、そうやって身につけた経験こそが市場価値を生むのではないでしょうか。もちろん知識を持っているに越したことはありませんが、意欲の方が大事かなと思います。東京でキラキラしたキャリアを目指すより、つくばで社会課題解決に向けて主体的に頑張る人の方がずっとかっこいいと私は思います。

東京とつくばの2拠点体制で、事業化の強化と加速を図る

アマテラス:

つくばのスタートアップ企業で働く人にとって、AIST Solutionsにはどんな魅力がありますか。御社の役割、位置付けを教えてください。

大塚聡太:

産総研内にあった社会実装組織をカーブアウトしたのが弊社で、事業化に関する産総研の窓口としての役割を担っています。弊社の使命は、共同研究、事業開発、技術コンサルティング、スタートアップ支援という4つの手法によって技術を事業化し、産業界に提供して社会実装すること。これまでも事業化は促進されてきましたが、より一層の強化と加速を図るために別組織として立ち上げられたんです。技術移転、事業化、出資などさまざまなスタートアップ支援を行っています。

アマテラス:

実際に入社して働いてみて、どんな感想をお持ちですか?

大塚聡太:

社員は200人程度と、母体である産総研に比べると身軽な組織体で、スピード感や柔軟性を期待されています。産総研の研究職出身者と事務系出身者、民間企業出身者が1対1対1ぐらいの割合で、技術起点の人とビジネス起点の人が混ざり合っています。手続きなど仕事の進め方は産総研を踏襲しているので、丁寧にきっちりと業務を進めていく体制ですね。最初はその点に民間との仕事の進め方でギャップを感じました。

ただ、不要な手続きはどんどん廃止されて効率化が進んでいます。入社直後は社内のコミュニケーションツールがバラバラで、DXもなかなか進んでいないなと感じていたところ、数か月で情報端末も更新され、購買手続きや決裁フローもかなり簡略化されました。スピード感のある対応で、スタートアップ風になってきたと感じています。

また、東京とつくばの2拠点体制で、企業との打合せは東京、研究所との業務はつくばと、都合に合わせて柔軟に活用できるのも便利です。ここに十分な人材がそろえば鬼に金棒でしょう。今は企業と産総研の間をつなぐ顔役として、研究所出身者も企業出身者もある程度の地位まで行った方が多いのですが、先を考えると若い力がもっと必要かなと思います。

AIST Solutionsの取り組み

AIST Solutionsの取り組み

「テクノロジー×マーケティング」を掲げ、技術力と事業力の両方を評価

アマテラス:

どんな基準でAIST Solutions発のベンチャー企業を認定されているのでしょうか。

大塚聡太:

当社内部の評価指標に則って審査しています。私たちは「テクノロジー×マーケティング」という標語を掲げていて、技術の強さと事業の強さの両方に注目して評価します。これまで研究所内のチームや製造業の企業などは、技術だけで勝負していた部分があったと認識しています。だからこそ社長の逢坂は、技術だけではなく、日本が世界で負けてきたマーケティングも重視。技術力と事業力のどちらも伸ばしていく考えです。広く門戸を開いていますので、今まで産総研に相談してご縁が無かった人たちも、ぜひもう一度声をかけてもらえたらと思います。

アマテラス:

AIST Solutionsの認定ベンチャー企業になると、どんなメリットがありますか?

大塚聡太:

まずは、当社が保有している知財を活かした技術支援です。産総研がこれまで研究開発してきた技術の移転を優先的に受けられるのは大きなメリットになるかと思います。産総研との共同研究の成果なら、技術資産のライセンス契約もサポートが可能です。次に、豊富なネットワークを活かした企業紹介などの経営助言。これまでさまざまな技術移転・共同研究で培ってきた経験を活かして、大企業はじめ様々な企業につなげることが可能です。まだ立ち上がったばかりの組織ですが、今後はもっと出資にも力を入れていきたいと考えています。

アマテラス:

企業がAIST Solutionsと接点を持つにはどんな方法がありますか?

大塚聡太:

各所の展示会、つくばコネクトのようなイベントに各部の担当者が顔を出しているので、そうしたところでお会いできる機会は多いと思います。ホームページでもご連絡を受け付けていますし、最近はfacebookなどSNSのメッセージ機能を使って担当者へ直接連絡して頂ける人も増えてきました。社内にはスタートアップコミュニティに元々いた方も多いので、そんな風に気軽に連絡してくださればと思います。

※AIST Solutionsスタートアップ支援の取り組み:https://www.aist-solutions.co.jp/service/service_menu/page000043.html

社会貢献意識が強い人は、つくばとの親和性が高い

アマテラス:

つくばのディープテック企業、スタートアップ企業への転職は、どんな人に向いていると思いますか?

大塚聡太:

東京に比べ、つくばは官・学が強いエリアです。ビジネスライクに事業を考える人より、社会課題に強い興味を抱いている人の方がつくばとの親和性が高いでしょう。大企業の本社が建ち並ぶ東京では、大きな資本を背景にした企業との協業を持ち掛けやすい側面もあります。ですがその代わりに、社会課題解決はそこそこにして、単独の利益を優先させる企業も少なくないと感じています。その点、つくばの自治体や産総研のような公法人は、単独のプレイヤーが独占的に利益を得ることを嫌います。

弊社でも民業圧迫にならないか、という視点は常に厳しく持っていますし、社会に資する独自の資産を持っているからこそ正当な対価によって持続できる事業を目指しています。そうした社会のためになる事業を前提としています。そこに共感できる社会貢献意識の強い人、何年後にイグジットとかいう話ではなく、長期的な視点を持ち一緒に考え抜ける人が向いているのではないでしょうか。つくばにいる研究者は研究に一生を捧げる覚悟が決まった人ばかりです。そういった想いを汲み取って一緒にやっていける人と仕事ができると良いなと思います。

アマテラス:

つくばのスタートアップ企業で働きたいと考え、AIST Solutionsさんと接点を持ちたい方に、アドバイスがあればお願いします。

大塚聡太:

AIST Solutionsとの接点を持ちたい方について言えば、ある程度は課題感や問題意識を明確にしてから来ていただかないと、なかなか話が進みません。産総研には実に多彩なシーズがあるので、ある意味いくらでもアプローチができてしまう。漠然とした相談内容を持ちかけられると、私たちも漠然とした回答や提案しかできないということが起こりがちです。ある程度方向性を絞ってもらえれば、提供できるものが定めやすいです。

つくばの住環境については、特に不満の持ちようがないですね。むしろつくばに来て感じたのは、思った以上に利便性が高いということ。前職の感覚で捉えるなら、交通も整備されていて便利だし、行政機能もしっかりと計画されているきれいな都市だと感じています。

アマテラス:

素敵なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

アバター画像


アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

株式会社AIST Solutions

株式会社AIST Solutions
https://www.aist-solutions.co.jp/

設立
2023年04月

様々な企業様に対する国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)との共同研究、受託(請負)研究及び技術コンサルティングのご提案、また産総研の研究成果を用いた事業開発について、2023年度よりAIST Solutionsが主体となり、産総研グループ一体となって事業を進めております。