自分のやりたいことを実現するためにスタートアップに行く

株式会社ZenmuTech研究開発本部 開発統括部 石田祐介氏

株式会社ZenmuTechは、秘密分散技術に基づきデータを変換・分割することで無意味化する「ZENMU」により、情報の安全を当たり前と感じる社会の実現を目指す企業です。
石田裕介さんは2017年12月よりZenmuTechに参画し、当該技術の安全性証明の作成等の分野で活躍されています。
今回は、転職の決め手になったZenmuTechの技術への強いこだわり、ご自身の技術に対する思い、そしてスタートアップ企業に転職を考えるエンジニアへのアドバイスなどについてじっくりお話を伺いました。

石田祐介氏

研究開発本部 開発統括部
石田祐介氏

2006年キヤノン株式会社に入社。プロジェクターの研究開発に従事。モーター制御、画像処理、通信、組込みLinux、デスクトップアプリケーション等幅広く経験。
2015年に独立し、グリッドロー株式会社を設立。ソフトウェア開発をサポートするアプリケーション及びWebサービスを自社開発。
2017年12月より現職。ファイル共有環境下で秘密分散するソフト「ZENMU for Meister」や、新ファイルシステム、秘密分散技術、暗号理論の研究開発を担当。

株式会社ZenmuTech

株式会社ZenmuTech
https://zenmutech.com/

設立
2014年03月
社員数
18名

《 Mission 》
革新的な技術力とオープンイノベーションによる創造力にて「情報の安全」を提供し、広く社会に貢献します。
《 事業内容 》
・オープン・セキュリティインフラストラクチャ“ZENMU”の開発・販売
・シンクライアント用仮想USBデバイス統合管理ソフト“VUMS”の開発・販売
・PC端末をよりセキュアに、より使いやすく“お好みセキュアPC”の開発・販売
・シンクライアント基盤最適化コンサルティング

子供の頃から好きだった情報系の道に進み、キヤノンに入社

アマテラス:

まずは、石田さんの生い立ち等について教えて下さい。

株式会社ZenmuTech 研究開発本部 開発統括部 石田祐介氏(以下敬称略):

私はずっとエンジニアとしてやって来ているのですが、思い起こすと子供の頃からパソコンが好きで、プログラミングも小学生の頃からやっていた記憶があります。

親が東芝に勤めていたこともあり、dynabookの型落ちのパソコンを「使って良いよ」と与えられたのが始まりでした。ゲームも入っていましたが、いじっているうちに「自分でゲームを作りたい」と考えるようになりました。教えてくれる人がいなかったので、本を見ながらコードを書き写したりしながら自分で勉強していました。当時は勉強という感覚もありませんでしたね。

そして、大学でも情報系を専攻し、卒業後はキヤノンに就職しました。

アマテラス:

新卒でキヤノンを選ばれたのは、どうしてですか?

石田祐介:

大学ではコンピュータグラフィックスやコンピュータビジョンと言って写真から3次元の立体復元をするなど、画像処理の研究をやっていたこともあり、画像を扱う仕事がしたいと思っていました。
そのような経緯から、カメラメーカーで、入力機器などでも有名だったキヤノンを選びました。

アマテラス:

入社後はプロジェクターの研究開発などに携わったと言うことでしたが、これは希望通りの配属だったのでしょうか。

石田祐介:

これが実は希望通りではありませんでした(笑)。元々はカメラ関係の部署に行きたかったのですが、やはり大企業ですから思い通りの部署に配属される訳はないですよね。

キヤノンと言えばカメラ、あとは複写機やコピー機、プリンターというイメージが強いですが、その中でプロジェクターの部署は当初小さかったこともあり働きやすく、手を動かした物がすぐに製品に反映されていく面白さがありました。
しかし、9年程勤める中でどんどん規模が大きくなり、動きにくくなってしまいました。

自らのキャリアパスに疑問を抱き、退職を決意

アマテラス:

キヤノンは給与面やワークライフバランス、終身雇用が守られている点など様々な条件を考えるととてもよい会社ですよね。転職される方はレアだという印象がありますが、石田さんはなぜ辞めようと思われたのですか?

石田祐介:

私はずっとエンジニアだったのですが、様々な技術的な課題が見えてきたというのが率直な理由でしょうか。
色々な開発を行いますが、自分が「こうした方が絶対に良くなる」と思っても、チームでやっており、ましてや大企業なのでその意見がすぐに採用されて製品になるわけではありません。もちろん、キヤノンだけでなく大企業はどこでも同じだとは思いますが、自分が良いと思ったアイデアをすぐに試せる環境ではないことが「悔しい」と思うようになりました。

また、上司などの状況から、ゆくゆくは自分で実際に手を動かすことから離れて行かなければならないというキャリアパスが見えてきましたが、「そこは自分が進みたい方向なのか」という疑問が出て来ました。
それらが、「抜け出したい、自分でやってみたい」と思うようになった理由です。

インタビュー中の石田氏(写真左)とアマテラス藤岡(写真右)

起業の道を選択するも、2年で区切りをつける

アマテラス:

退職後に『グリッドロー』という会社を立ち上げられたわけですが、転職など様々な選択肢があった中で、起業という最もハードな道を選択された理由をお聞かせいただけますか?

石田祐介:

元々技術的にも色々つまみ食いしているような感じもあり、やってみたいことはたくさんありました。キャリアパスについて考え、起業するに決めたのです。

事業としてはwebサービスとWindowsのアプリケーションで動くツールの2本立てだったのですが、それを自社で開発し、企業に送り込んで使っていただく、という形で進めていました。
当初は私1人で、途中から2人になりました。私は開発もやりつつ営業に行ったりしていましたが、もう1人は純粋にエンジニアとして開発に集中してもらっていました。

アマテラス:

エンジニアの方が起業し、更に営業も行うというのはかなり大変だったのではないですか。

石田祐介:

営業についてはちょっと苦労した部分ではありますね。個人的なツテを頼ったりもしました。
また、税金や保険の事務手続き等会社が処理してくれていたものが、起業すると全て自分でやらなくてはなりません。元々やりたいのは技術でしたが、起業に伴う社会のシステム的なことを勉強できたのは良い経験になったと思います。

アマテラス:

売上や利益等はどんな状況でしたか?

石田祐介:

売上、利益はあまり上がりませんでした。家族は応援してくれていましたが、だからこそだらだら続けず、「引く時はちゃんと引かないといけない」と思っていたので、起業後2年程で区切りを付けることにしました。

その最大の要因は営業力でしょうか。この業界の「あるある」ですが、「技術はあるが、売る人がいない」という状態でした。起業前には「うちはこういう風にはならない」と思っていたのですが、振り返ってみるとまさにその「あるある」だったなと(笑)。

製品は8割方完成していましたが、企業やユーザーのフィードバックを受けて改善していく必要があります。そこを一緒にやってくれるところを探してもなかなか難しく、営業やヒアリングの場では「面白い」と言ってもらえるものの、出資してはもらえませんでした。

また、マーケティング的な観点のズレもあったかと思います。私の「これを作りたい」というところからスタートしましたが、その製品が実際にユーザーのどんな痛みを解決するか、という発想が不足していたのだと思います。

技術への強いこだわりに惹かれZenmuTechに参画

アマテラス:

その後、ZenmuTechに参加されるわけですが、どのような背景があったのでしょうか?

石田祐介:

正式に社員となったのは2017年12月でしたが、同年6月頃から業務委託という形で付き合いがスタートしており、その中で「社員にならないか」と声をかけてもらったという流れです。

当時から宇都宮に住んでいたのですが、「リモートで構わない」と言ってもらえたので助かりました。
就職も検討しなくはなかったのですが、宇都宮ではあまり良い就職先がなかったこともあり、しばらくはエンジニアとして業務委託やフリーランス的な働き方をしようかと考えていたところでした。

アマテラス:

ZenmuTechへの参画を決めたのは、なぜですか。

石田祐介:

新しい技術で事業をしているというところに惹かれたというが一番でしょうか。
社名のZenmuTechの「ゼンム」は「全」と「無」を組み合わせたもので、これはAONT(All-or-Nothing Transform)という技術名の略語です。セキュリティの技術で、秘密にしたいデータをAONTという変換をかけてバラバラに保管するのですが、これらのバラバラになったかけらを全て集めないと絶対に復元ができないという技術です。

それをそのまま会社名にしているということは、「技術に対してこだわりがあるのだろう」と感じました。
『AONT方式』なんて一般的にあまり聞かない言葉ですし、実際まだあまり世間に認知されていない技術ですが、それを社名として出すという取り組み姿勢に魅力を感じました。

アマテラス:

元々セキュリティ分野に問題意識や関心があったのでしょうか?

石田祐介:

実はあまり・・・(笑)。キヤノン時代は画像処理やモーター制御などの全く違う畑でしたから、セキュリティ分野は詳しかったわけではありません。
実際に色々と話を聞く中で、秘密分散という暗号化とはまた違うセキュリティ技術があることを知り、純粋に面白さや魅力を感じたというところが大きかったです。

ZenmuTechの秘密分散技術

自由度の高い働き方が出来る

アマテラス:

業務委託時代を含めるとZenmuTechでの仕事は1年ほどになりますが、現在はどのような業務に携わっていらっしゃいますか?

石田祐介:

今は秘密分散技術の論理面のサポートをしています。AONTの技術が安全だと言っても、ユーザー側からすれば「本当に安全なのか?」という疑問が残るわけです。その安全性を理論的に示す「安全性証明」を作成する業務に携わっています。また、秘密分散技術を使った新しいアイデアを提案したりもしています。

アマテラス:

エンジニアとして、ZenmuTechで働く魅力はどんなところにありますか?

石田祐介:

一番は、先ほども少しお話ししましたが、地元で仕事をやらせてもらえていることです。
月に4~5回程度全体ミーティング等の出席が必要な時のみ出社している状況で、自宅で時間的に余裕を持って作業ができるのでとても良いです。
リモート業務に対してここまで理解があるのは凄くありがたいです。大企業ですとセキュリティ面で難しかったりもしますし、残業等の時間管理も非常に厳しいので、これはスタートアップならではのメリットかも知れません。

また、かなり自由にやらせてもらっています。私は1から10まで指示されるのは性に合わず、自分からやりたいことを提案して進めていきたいと考えていますが、それを受け入れてくれ、リモートで実現できる環境を整えてもらっています。
スタートアップは皆が忙しいですし、自分から何かやりたいことを言わない限り実現しません。それだけに、誰もがアイデアを出し合う環境が醸成されているのかも知れません。

アマテラス:

リモートでの仕事で、やりづらさなど業務上の支障を感じることはありますか?

石田祐介:

特に支障なくできていると思います。コミュニケーションの必要があればSkypeやSlackがありますし、安全証明書作成業務は理論を組み立てて文章を書く作業で人とコミュニケーションを取る必要はないので、集中できる環境の方が良いくらいです。

アマテラス:

仕事をされている中で、どんな時にやりがいを感じますか?

石田祐介:

秘密分散技術そのものが社会にあまり広まっていない段階だからこそ、エンジニア魂がくすぐられる部分があります。
また、「こうすれば顧客の課題解決になるのでは」、「技術的にこうしたらどうだろう」と思えばすぐにお客様に提案できたり、自由にアイデアを試せたりというところに面白味を感じています。

スタートアップでは会社の方向性変更に伴って、業務が変更することも…

アマテラス:

ネガティブなお話もお伺いしたいのですが、元々キヤノンにいらした方からすれば、今の会社に入られて色々なところでギャップを感じたと思います。

石田祐介:

今は安全性証明という理論面のサポート業務に従事していますが、当初からそれをやろうと思って入社したわけではありません。Linuxやネットワーク関連の開発からスタートし、その後Windowsアプリケーションの開発等紆余曲折を経て今の業務に落ち着いたわけです。

スタートアップでは色々と方向性が変わることも多いので、当初「これだ!」と思っていたことが続けられるわけではないのだと実感しています。

アマテラス:

当初の希望とは違う業務をやっていく中で、モチベーションが下がったりはしませんでしたか?また、それをどうやって解決されたのですか。

石田祐介:

秘密分散技術にベースを置いているという部分にブレはなかったので、意外に大丈夫でしたね。例えばWindowsアプリケーションにしても、それまでじっくり取り組んだことはなかったので「勉強する良い機会だ」と捉えていました。また、自分が提案したものが取り入れてもらえたりしていたので、モチベーションが下がることはありませんでした。

求められるのは「最終製品をイメージし、そこに向けて自ら提案できる人」

アマテラス:

ZenmuTechのエンジニアに共通する特徴や人物像などはありますか?ZenmuTechが求めるエンジニア像について教えて下さい。

石田祐介:

求めているのは、「最終製品をイメージして、そこに対して自分で色々考えて提案できる人」です。
流行のAIやディープラーニングでさえ人材が少ないと言われているので、秘密分散に詳しい人材はほぼいないと思います。技術力も当然必要ですが、それよりも技術からイメージを膨らませて、「自分ならこうできる」、「こうしたい」と発信できる力が重要だと思います。

アマテラス:

大企業にいると、そういう発想がなかなか身に付かない気がするのですが、そういうマインドを持った人材ってどんなところにいるのでしょうか?

石田祐介:

そのバックグラウンドはやはり技術だと思います。私自身も技術へのこだわりは強かったので、「とりあえず実装できればいいや」と思ったことは一度もなく、絶えず「この新しい技術の方が面白そう」、「この技術を試してみたい」という思いでやって来ました。
大企業出身でも、秘密分散が未経験の分野であっても、強いこだわりを持って取り組むことができれば、技術は必要に応じて勉強して身に付けて行くことが可能だと思います。

多くの特許技術を保有するZenmuTech社

「自分のやりたいことを実現するためにスタートアップに行く」と考えるべき

アマテラス:

次に、初めてスタートアップに転職を考えているエンジニア向けにアドバイスをいただきたいと思います。スタートアップで活躍する先輩としてぜひお願いします。

石田祐介:

大企業とスタートアップの違いは動きの速さです。やりたいことをすぐに実現できる環境と魅力がスタートアップにはあります。その中で、いかに自分が能動的・主体的に動けるかというところがやはり大事だと思います。
「自分のやりたいことを実現するためにスタートアップに行くのだ」と考えて欲しいです。

アマテラス:

スタートアップに行くことを目的化するのは間違いで、やりたいことがあって、それを実現する選択肢の一つとしてスタートアップというのはありだということですね。

石田祐介:

そうですね、そこだと思います。

スタートアップでは能動的・主体的に動く姿勢が最重要

アマテラス:

他方、スタートアップがパラダイスであるわけではなく、安定面等の点で大企業と比較すればないこと尽くしでしょうから、色々と覚悟は必要かと思います。ご自身の体験も含めて、このあたりはどう思われますか?

石田祐介:

やはり主体性の話にも被ってきますが、会社が何かやってくれることを期待してはいけないと思っています。
例えば、大企業には研修等があり、社員は受け身の状態です。しかし、スタートアップでは異なりますので、「必要なことは全て自分で勉強する」という気概が必要です。参考になる資料等最初の取っかかりを聞くのは良いと思いますが、最終的に自分の物にするためには自分が勉強するしかないので、受け身の姿勢ではスタートアップでやっていくのは難しいと感じます。

アマテラス:

スタートアップ企業を見ると、パフォーマンスしているエンジニアとそうでないエンジニアに分かれている印象があるのですが、その差はなぜ起こると思われますか?先ほどの主体性の話が答えのような気はしますが。

石田祐介:

はい、やはりそこに落ち着きますね。私はリモートで働いていますから、社内とコミュニケーションを取るためには自分から働きかけないと「あの人何やっているの?」状態になってしまいます。スタートアップで自分がやりたいパフォーマンスができる人はやはり主体的に動けている人です。主体的であることが重要です。

「自分が実現したいことが出来る場か?」という視点で企業を選ぶ

アマテラス:

最後の質問ですが、初めてスタートアップに転職するエンジニアにとって、無数にあるスタートアップから希望先を選びきれないと聞きます。この問いにはどうお答えになりますか?

石田祐介:

私は元々技術にこだわりがあったので、「技術を大切にしているところ」という観点で探しました。実際に入ってみなければ本当のところは分からないと思いますが、面接等の際に「入社したらこんなことがしたい」という思いをぶつけてみて、「それは面白いね」という反応が返ってくるような企業が良いとは思います。

アマテラス:

無数にある中からある程度絞り込みはどのように行うと効率が良いと思われますか?創業からの年数や社員数などのフェーズでの検討等はなさいましたか?

石田祐介:

私の場合、自社開発で製品を作っているところを探しました。「自分のやりたいことができるところ」、「技術にこだわりのあるところ」という視点で探したので、会社の規模等のフェーズでの絞り込みはしていませんでした。

社長の思いに共感できるかも重要

アマテラス:

エンジニア以外ですと、「社長のビジョンに共感できるか」等社長との面談を重視する人も多いかと思います。石田さんの場合は社長との相性や考え方についてどの程度重視されましたか?

石田祐介:

そこを重視しないというのは嘘になります。ZenmuTechは技術の名前を社名にしているくらいですから、(社長のである)田口の「この技術を世に広めたい」という強い思いに共感しました。

アマテラス:

御社の田口社長、本当に良い意味で技術に対する思いが熱く、凄みを感じました。

石田祐介:

私もそれは感じました。私自身が社長をやっていた短い期間に色々な会社社長に会った経験がありますが、田口のような熱のある社長はなかなかいないと感じます。熱い社長が率いている会社であるというところに惹かれた面はありますね。

アマテラス:

必ずしも社長が技術者である必要はないけれど、技術に対する強い思いが、その会社を選ぶ理由の一つにはなっていると言うことですね。 本日は素敵なお話をお聞かせいただき、どうもありがとうございました。

この記事を書いた人

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河西あすか

慶應義塾大学経済学部卒業後、食品メーカーにて商品企画等のマーケティングを担当。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、企業再生・変革の実行支援コンサルティングファームに在籍。

株式会社ZenmuTech

株式会社ZenmuTech
https://zenmutech.com/

設立
2014年03月
社員数
18名

《 Mission 》
革新的な技術力とオープンイノベーションによる創造力にて「情報の安全」を提供し、広く社会に貢献します。
《 事業内容 》
・オープン・セキュリティインフラストラクチャ“ZENMU”の開発・販売
・シンクライアント用仮想USBデバイス統合管理ソフト“VUMS”の開発・販売
・PC端末をよりセキュアに、より使いやすく“お好みセキュアPC”の開発・販売
・シンクライアント基盤最適化コンサルティング