2050年のカーボンニュートラル達成に向け、再生可能エネルギーの切り札として「ペロブスカイト太陽電池」が注目を集めています。軽くて柔軟、低コスト、日本で主要材料が確保できるなど多くの利点を持ち、将来的な市場ニーズは非常に高いと考えられています。
2024年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」にもペロブスカイト太陽電池の社会実装に向けた支援や制度措置などが明記され、政府として注力していく計画です。
株式会社エネコートテクノロジーズは、京都大学インキュベーションプログラム採択第1号として、京都大学の全面的なバックアップのもとペロブスカイト太陽電池の研究開発に取り組むスタートアップです。
代表取締役CEOの加藤尚哉氏は、国内外の投資銀行やプライベートエクイティファンドなどで経営管理の手腕を磨いたのち、エネコートテクノロジーズを創業しました。
今回のインタビューでは、ものづくり未経験だった加藤氏がこの業界に足を踏み入れた訳や、ここに至るまでに突き当たってきた壁、そして持続可能な社会の実現に向けての今後の展望など、詳しく伺いました。
代表取締役社長 執行役員CEO
加藤尚哉氏
京都大学工学部工業化学科卒業。
内外資投資銀行において不動産・事業再生等多数の投資案件に従事。
独立系PEファンドの創業メンバーとしてバイアウト投資実務を経験。
2016年11月より京都大学インキュベーションプログラムにおいて本スタートアッププロジェクトの事業化推進責任者として活動。
2018年1月 エネコートテクノロジーズを共同設立、代表取締役に就任。
株式会社エネコートテクノロジーズ
https://enecoat.com/
- 設立
- 2018年01月
- 社員数
- 69名 (2024年7月現在)
≪MISSION≫
①京都大学の研究者による知を事業化すること
②PSCsによる「どこでも電源®」化を実現し様々なデバイスの利便性の向上やIoT化の促進に貢献すること
③PSCsの主力電源化を目指し、カーボンニュートラル達成、超長期的なエネルギー問題解決に貢献すること
≪事業分野≫
新素材・バイオテクノロジー/ サステナビリティ・環境
≪事業内容≫
ペロブスカイト太陽電池(PSCs)及びその関連材料の開発、製造、販売など
- 目次 -
転校を繰り返し、適応力を身に付けた子供時代
はじめに、加藤さんの生い立ちについて教えていただけますか?
両親と兄、妹と私の5人家族で育ちました。
父が日本長期信用銀行に勤める転勤族でした。父と一緒に私たちも国内を転々としたため、地元と言える場所がありません。小学校では3度転校を経験し、新しい環境に適応する能力が身についたと思います。
現在も単身赴任中で、特定の拠点を持つことなく、どこでも仕事ができることは自分の強みと言えるかもしれません。
ご家庭の教育方針で、印象に残っていることはありますか?
両親は完全な放任主義でしたが、優秀な兄と妹に引っ張られて頑張っていた気がします。3人とも同じ公立中学校に通っていましたが、私以外の2人は学年トップの成績を収める一方で、私だけトップを取ったことがなく、悔しかったことを記憶しています。
環境次第では、道を踏み外してもおかしくなかったかもしれませんね。
大学は京都大学工学部工業化学科に進学しましたが、お世辞にも出来の良い方ではありませんでした。卒業後にはアカデミアの道に進まず、就職することにしました。
大和証券・メリルリンチ・シティグループなどで多くの経験を積む
卒業後は、大和証券でキャリアをスタートしました。銀行員の父のもと、子ども時代から安定した生活ができていたこともあり、自然と銀行や商社といった「稼げる業界」を志向していた気がします。
大和証券を選んだ理由は、終身雇用をアピールする会社が多い中でリクルーターに「ここで経験を積んで、外資系に転職して成功するといいよ」と言われて面白いと感じたからです。
その後、実際に外資に転職することになりましたから、結果的にはあのときの決断は正しかったのだと思います。
大和証券では投資業務に従事し、不良債権の取引などを経験しました。その後、メリルリンチやシティグループといった外資系金融機関を経て、独立系のプライベートエクイティファンドの立ち上げに参画しました。
この経験を通して、大規模な資金調達や企業買収、そして経営管理の実務を深く学ぶことができました。特にハンズオンで経営管理業務ができたことは貴重な経験になったと思います。
リーマンショックを機に退職した後は「今度は自分の好きなことをやろう」と飲食業にも挑戦しましたが、残念ながらこちらの経営はうまく行かず店舗を畳むことになります。
そして子どもの小学校入学のタイミングで、妻の地元でもある香川県に移住、不動産仲介業者で東京事業開発室長として事業用不動産の仲介業務に従事しました。
紆余曲折ありましたが、こうして積み重ねてきた多くの経験が、現在の事業運営に非常に役立っていると感じます。
京都大学インキュベーションプログラムへの採択を機に創業
エネコートテクノロジーズ社に参画された経緯を教えて下さい。
2015年秋に、大学時代の同期で大親友でもある若宮先生(若宮淳志・京都大学化学研究所教授)から誘われる形で、ペロブスカイト太陽電池(以下PSCs)の実用化プロジェクトへの参加を決めたことが参画の発端です。
そして、翌2016年に京都大学の起業支援プログラム「京都大学インキュベーションプログラム(以下IPG)」第1号に採択され、約2年の準備期間を経てエネコートテクノロジーズを創業しました。
実は、もともと僕は人をグイグイと引っ張っていくタイプではないし、現に飲食業の経営は失敗している、ということで経営には向いていないという自覚があり、また一般的にハイリスクと言われているスタートアップへの参画には大きな躊躇がありました。
それでもこの話を引き受けたのは、PSCsという画期的な技術に大きな魅力を感じたことが最大の理由です。
PSCsは薄くて軽量な上に高い発電効率を誇り、災害時のテントやスマホ、腕時計などあらゆる場所での利用が可能です。若宮先生の事業化構想を聞く中で、「これはいずれ世界に大きなインパクトを与える製品になる」と確信しました。
そして、「この凄い技術は近い将来必ず誰かが事業化するだろう。それなら他の誰かではなく、自分の手で実現したい」と強く思ったのです。
また、京都大学という自分にとって特別な場所で、IPGという大学初の取り組みに関われる名誉は、代えがたい喜びがありました。
IPGとは、官民イノベーションプログラムを背景に国立大学における研究成果の事業化を促し、大学発スタートアップをシード期から支援する制度です。3年間で9000万円という支援額は破格で、創業初期に資金繰りで苦労せずに済んだことに大変感謝しています。
シリーズAの資金調達と共同経営者との関係構築に苦しむ
創業から6年が経過しましたが、創業初期に経験されたご苦労について教えてください。加藤さんは初期の資金繰りには困らなかった珍しいパターンですが、他にはどのような壁にぶつかって来たのでしょうか。
創業資金こそIPGでまかなうことができましたが、実はシード、シリーズAの資金調達は非常に難航しました。
太陽電池ベンチャーに対する投資家の評価は低く、研究や事業を進めても「太陽電池には出資できない」という固定観念がなかなか取り払えなかったことが大きな理由です。
ハードテック全体の問題かもしれませんが、「いつ製品化できるのか」「実用化されたら投資する」といった反応ばかりで苦労しましたね。
また、人材の確保でも初っ端から大きく躓きました。
ものづくり経験のない私をサポートしてもらおうと考え、大企業出身の経験豊富なエンジニアをキーメンバーとして何度か迎えたのですが、せいぜい十数人程度の所帯にもかかわらず、組織階層にやたらこだわったり自らはなかなか手を動かさなかったりといった振る舞いが目立ち、経営方針を巡って意見が対立することが多く疲弊しました。
創業以来、候補者も含めるとCTOは3回、CFOは4回ほど替わり、現在はようやく理想と言える体制に落ち着いています。スタートアップの創業において初期メンバーがいかに重要か、身をもって実感した痛い経験です。
私自身も採用においては初心者だったため、会社のステージに合った目線で採用ができていなかったのかもしれないという反省があります。
現在の人材採用においては、そのときの学びが生きているのではないでしょうか?
そうですね。より注意深く採用するようになりましたし、以前と比較すると私の経営方針に共感してくれるメンバーが集まってくれています。
ただ、会社の成長スピードの進化に伴いフェーズが変わって来ており、社員に求められる役割も時々刻々と変化しています。その変化に柔軟に対応できる人材がますます重要だと感じているところです。
同時に、私自身も経営者として常に変わっていく姿勢が必要だと感じています。また、どんな状況でも「すべての責任は自分にある」という覚悟を徹底して経営に向き合っています。
政府のカーボンニュートラル宣言が事業拡大の大きな転機に
会社の成長というお話が出ましたが、PSCs事業の転換点となった出来事はあったのでしょうか?
率直に言うと、国の政策の変化が大きなターニングポイントになりました。
菅元総理がカーボンニュートラル宣言時に「ペロブスカイト」と具体的な発言をしたことを機にPSCsに対する世の中の注目が集まり、それが国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金採択にも繋がったと思います。
そして、これが大きな後押しとなり、シリーズBでは20億円の大型調達に成功しました。
シリーズBの時点で目立った開発成果が出ていたわけではなかったのですが、PSCsのポテンシャルを評価してもらえたということです。
この資金調達で大規模な生産設備を導入することが可能となり、製品の量産化に向けた体制が整いました。これにより、より本格的な実証実験や製品開発を進めることができるようになったのです。
地道に研究開発を進めてきた私たちがようやく迎えた、大きなブレイクスルーでした。
目下の課題は製品化に向けた技術開発と営業力の強化
加藤さんが考える、エネコートテクノロジーズ社の目指す未来や、実現のために乗り越えるべき課題について教えていただけますか?
多くのご支援もあり、当社はPSCsの実用化・社会実装を進め、カーボンニュートラル達成に向けてますます事業スピードを加速していく計画です。
その実現に向け、最優先課題としているのは製品化に向けた技術開発です。
現在、プロトタイプは完成しているものの、まだ一般販売できるレベルには至っていません。製品の完成に向けて全力で取り組んでいますが、確実に完成できるかどうかは未知数で、技術開発をはじめとしたさらなる努力が必要です。
それと同時に、営業力強化の必要性も感じています。
製品さえ完成すれば、市場から高い評価を得られるはずだという確信はありますが、実際に製品を市場に受け入れてもらうためには、適切な販売戦略が不可欠です。
今後は技術開発だけでなく、マーケティングや営業活動にも注力していく必要があります。
それらの実現のために、今後どのような組織作りをしていきたいと考えていますか?
私は「組織は1つのボートに乗り、同じ目的地を目指す仲間だ」という考えのもと、共通の価値観や行動指針に沿って業務に取り組める組織を目指しています。
そのため、当社には「エネコートスタンダード」という基準があり、年齢層別に「こうあって欲しい」という人物像や素養を具体的に示しています。
たとえば、管理部門がプロダクトへの関心を持たないのは困りますし、エンジニアも一人で黙々と作業するだけでなく、周りに進捗が伝わるよう心がけることが大切です。
こうした価値観を組織全体に浸透させ、お互いに良い関係を維持しながら組織を拡大していきたいと思っています。
PSCs製品化により持続可能な社会の実現に貢献したい
このタイミングでエネコートテクノロジーズ社に参画する魅力や働きがいはどのような点にあるとお考えですか?
当社は現在、PSCsの製品化に向けて全力で取り組んでおり、このタイミングで参画すれば、製品開発の初期段階から携わっていただけます。また完成の暁には大きな喜びや達成感を共に味わうことができると思います。
そして、開発に深く関わったが市場で成功する瞬間を目の当たりにするという経験は、他の企業ではなかなか得られない貴重な機会となるはずです。
また、当社は現在IPOを目指しており、その実現に向け邁進しています。IPOに向けた成長過程において、社員は会社の成長を肌で感じながら、自身のキャリアを築いていくことができると思っています。
当社の事業には再生可能エネルギーの普及を通じ、持続可能な社会を実現するという大きな社会的意義があります。従業員はそれぞれ、自分の仕事がより良い社会の未来に貢献していることを実感しながら大きなやりがいを持って働いています。
PSCsは「次世代太陽電池の大本命」ともいわれる夢の詰まった製品です。
私たちの事業に興味を持ち、世界を変える一員となっていいただける方、ご応募をお待ちしております!
株式会社エネコートテクノロジーズ
https://enecoat.com/
- 設立
- 2018年01月
- 社員数
- 69名 (2024年7月現在)
≪MISSION≫
①京都大学の研究者による知を事業化すること
②PSCsによる「どこでも電源®」化を実現し様々なデバイスの利便性の向上やIoT化の促進に貢献すること
③PSCsの主力電源化を目指し、カーボンニュートラル達成、超長期的なエネルギー問題解決に貢献すること
≪事業分野≫
新素材・バイオテクノロジー/ サステナビリティ・環境
≪事業内容≫
ペロブスカイト太陽電池(PSCs)及びその関連材料の開発、製造、販売など