IPOなどで話題となりながらも、伸び悩びが長年伝えられる大学発ベンチャー。その課題を皆様にお伝えいたします。
皆様、はじめまして。私はアマテラスの前林広樹と申します。これからベンチャー企業の人材に関する情報を皆様にお伝え頂ければと思います。第一回目は大学発ベンチャーについて特集します。ベンチャー企業において重要視されるのが既存の企業とは違う新たな価値。その価値を生みやすいのが大学の研究です。これを活かした大学発ベンチャー企業がメディアを騒がせる機会は多いですが、課題についても多く寄せられています。その課題とは何か。ベンチャー企業への人材供給を担ってきたアマテラスなりの解釈を皆様にお伝えできればと思います。
資金調達方法が増加し、エクジットは6年間で約2倍に。
大手アパレルメーカー・ボールドウィンとの提携でも知られるようになった、慶應義塾大学発の大学発ベンチャー・Spiber(スパイバー)。関山社長の学生時代からのクモ糸研究が実を結んだ形だ。 (https://www.spiber.jp/)
大学発ベンチャーのエクジットも注目されています。平成26年度の上場企業は47社と、平成20年度の24社に比べほぼ倍増となりました。ミドリムシ培養のユーグレナの東証一部上場や介護ロボットのサイバーダインの東証マザーズ上場はメディアでも大きな話題となりました。また海外企業へのバイアウトも話題を集めています。2014年にはグーグルが東大発ロボットベンチャーのシャフトを、2015年6月にはバイドゥが東大発のネット広告ベンチャー・ポップインをそれぞれ買収したことがメディアで話題となりました。
新規の資金調達や大企業との提携で注目を集める大学発ベンチャーもあります。慶應義塾大学発の大学発ベンチャーで、クモ糸の量産で知られるSpiber(スパイバー)はこれまでに96億円を調達し、大手アパレルメーカー・ボールドウィンと組んだ製品開発に取り組んだことが近年知られるようになりました。
さらに政府の施策も追い風となります。大学発ベンチャーについては、「大学の知的財産を活かした産業創出」として政府の成長戦略にも含まれ様々な施策が練られています。例えば2014年に施行された産業競争力強化法により国立大学のベンチャーキャピタルへの出資が可能になり、リスクマネー供給が大幅に増えることになりました。実際大阪大学や東北大学によるベンチャーキャピタル設立はメディアで大きな話題となりました。更に2015年9月には、国立大学が企業に直接出資することも可能となり、大学発ベンチャー企業の資金調達先の多様化が進んでいます。
大学発ベンチャー企業は減少傾向。5年で308社が消滅。
ここ数年の成功事例や政府の施策もあり注目を集める大学発ベンチャーですが、設立数でみると停滞傾向にあるという厳しい現実にも直面しています。経済産業省によると平成21~26年度の5年間のうちに設立された企業は415社あるのに対し閉鎖された企業は723社となっています。実に5年間で300社以上もの企業が減少しているということになります。リーマン・ショック後の不況や東日本大震災の影響があるとはいえ、現在ある大学発ベンチャー企業のうち6分の1が消えていることになります。かなり多い数値といえるのではないでしょうか。
大学発ベンチャーは資金は十分。人材不足は大きな課題。
では何が大学発ベンチャーの成長を妨げているのでしょうか。その答えが経済産業省の「大学発ベンチャー調査結果」にあります。同調査では、大学発ベンチャーに関してVCが行っている21個の支援策の支援数および有効度について調べています。その結果は以下のグラフに表されています。
この調査において、支援数の多さと有効度の高さにおいて上位に分類される施策は資金調達や財務面でのアドバイスなど、ファイナンスに関するものが多くなっています。またビジネスモデルの精査や国内での顧客紹介などの効果も高くなっています。金融機関が担う領域に関してはサポート体制が確立されてきたということがこの調査から伺えます。ベンチャーキャピタルなどによるリスクマネー供給の増加など、資金面に関する諸施策が効果をなしていると言えるでしょう。
一方悪い結果が目立つのが、人材紹介に関する支援策です。中でも「研究開発人材の紹介」、「営業・販売系人材の紹介」は支援数・有効度とも際立って悪い結果になっています。「経営人材の紹介」・「経営幹部の派遣」に関しても支援数自体はある程度確保されているものの、友好度が低いという結果がなされています。人材以外では、「M&Aに関する助言」、「業務提携先」、「海外顧客の紹介」など、売上を伸ばし組織を発展するために必要な事項に関して悪い結果が目立ちます。
以上のことから大学発ベンチャーは資金調達やビジネスモデルの精査など財務面においては悩みが解消されつつあるものの、売上を伸ばし組織を拡大・発展させる環境整備、特に担い手となる人材の確保に対する悩みが広まりつつあると言えそうです。特に(1)自社の技術を国内外へ積極的にアピールし顧客層を広めていくことのできる営業人材、(2)業務拡大や買収により組織を拡大する人材の確保、(3)ビジネスおよび組織の急拡大を支えるマネジメント人材の確保が大きな課題であると思われます。