フードテック(FoodTech)スタートアップ(4):水産物消費の減少にどう対抗するか~フーディソンの挑戦~

フーディソンが運営するsakana baccaが販売する魚介類。直売で販売される魚の中には築地でも珍しいものもあるが、サイズ・大きさ・加工の度合いなど状況に応じたITによる情報整理も行われている。(出典:筆者撮影)

 

シリーズ・フードテック第4弾は水産物の流通を追います。

前回は主に野菜・果物を中心とした農産物流通を追いましたが、今回の水産はそれを上回る深刻さ、かつ解決の難しい課題となっています。これまでも幾つかのベンチャー企業/スタートアップが挑んだものの、断念した経緯がある分野となっています。そんな中でも新たに動き出したベンチャー企業/スタートアップが存在します。その概要を皆様にご紹介できればと思います。

世界的な需要増加とは裏腹に減少を続ける日本の水産物消費量

食用魚介類1人あたりの年間供給量(人口100万人以上)の推移。かつてはダントツの世界一だった日本のみが減少傾向にあるのが見て取れる。(出典:http://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h24_h/trend/1/t1_1_1_2.html)

寿司・刺身・焼き魚・煮魚など和食には欠かせない食材である水産物。事実水産物は伝統的に畜産が盛んでなかった我が国において、主要なたんぱく源となっていました。その消費量は世界的に見ても高く、かつては人口100万人以上の国において、一人当たりの消費量は世界一を誇っていました。
しかし近年は肉類の消費量増加などの影響を受け、消費量は急速に減少することになりました。前述した人口100万人以上の国における一人当たりの消費量の統計でも、2007年にポルトガル、2009年に韓国に抜かれ世界第3位にまで転落しています。上述したグラフを見ると健康志向の高まりを受け世界的に水産物需要は増加しているものの、日本のみが減少しているという珍しい事態が起きているのが見て取れます。
また食べられる魚種も限られてきているという現状があります。これまで日本人は世界屈指の漁場を持つだけに各地で多様な魚種を食べてきましたが、スーパーでよく扱われるサケなどの一部の魚種を除けばどの魚種も大幅な減少傾向にあります。特に白身魚については、「タラ」や「ヒラメ」に関して2000年以降家計年俸でも現れなくなるなど高度成長期以降大きく消費量を減少させています。

消費量が減少している理由は、水産物に潜む構造問題にある

長年にわたり東京および日本の水産物市場を支えてきた築地市場。しかし歴史がある故に情報化を始めとする社会の変化に対応できないという、問題を内包している市場でもあった。

Tsukiji as seen from Shiodome” by Chris 73 / Wikimedia Commons. Licensed under CC 表示-継承 3.0 via ウィキメディア・コモンズ.

しかし、日本人がここ20年で魚嫌いになったかというと、そうではありません。マルハニチロが2014年に1000人に対して行った「魚食文化に関する調査」によると「今後、魚介類を食べる頻度を増やしたい」と答えた人は全体の6割強にも上り、魚介類を食べたいと潜在的には考えている人は未だに多いということが考察されます。特に健康意識の高い人の間では、魚介類をより食べようとする考えが強くあるようです。
それでも魚離れが進む理由としては、水産庁が平成18年度の「水産白書」の中で、①子どもの魚嫌い、②肉よりも強い割高感、③調理の面倒くささの3点を指摘しています。
このうち①の子どもの魚嫌いについては、マルハニチロの調査では子どもの6割は魚が好きという結果が出ているため、調査によっては回答が異なるものと言えそうです。しかし残りの2点については、長年水産業を悩ましている問題点が関わっています。高度成長期以降加工技術が発達し輸入関税の減少に伴い価格が低下し続けた肉類に対し、魚は高い値段のまま据え置かれかつ多くの魚が丸魚のまま売られる状況が長く続いたことで、女性の社会進出に伴う調理時間の削減ニーズなどに対応することができなくなったことが消費量減少に大きく関わっています。
また、スーパーが流通の中心となり従来水産流通にとって不可欠であった目利きたちが使われなくなったことも、消費量減少に大きな影響を与えています。水産物は鮮度や品質の分別をつける際に高度な目利きの技術を必要とするため、漁師により漁獲されたのち、産地と消費地2箇所で卸・中卸による値付けや等級付けがなされる多段階の流通方法をとってきました。しかしこの構造は多くの流通業者を挟むために中間マージンの削減を望むスーパーの流通に合わず、スーパーが流通の中心となるにつれて目利きのいる卸売市場を経由しないルートが選択されるようになりました。結果目利きによる選別を必要としていた多くの種類の魚が都心にて取引されなくなり、私たちの食卓に登る魚の種類が減少し、消費量そのものも減少してしまうという問題をもたらしてしまいました。
さらに築地市場を始めとする水産物の卸売市場は、施設そのものが古くIT技術を始めとする高効率な仕組みが取られていないのも、消費の現場に影響を与えていると思われます。水産物の取引現場では未だにファックスでの送信やエクセルでの価格付けなど効率の悪い業務が行われており、水揚げ日や産地、鮮度の状況など魚介類には必要不可欠となる品質に関する情報が未だにIT化が進んでいない現状にあります。この業務効率の悪さによる弊害は大きく、水産物の高価格につながっているとも言われています。また情報の少なさは供給の不安定性にもつながるため、加工業者にとって魚介類は仕入れにくい商材となりえます。結果として食の簡便化という消費者ニーズに対応できず消費量を減少させているといえます。

多種多様な魚を取引することで注目されるフーディソンの試み

フーディソンが運営するsakana baccaが販売する魚介類。直売で販売される魚の中には築地でも珍しいものもあるが、サイズ・大きさ・加工の度合いなど状況に応じたITによる情報整理も行われている。(出典:筆者撮影)

この水産物の消費量減少・消費される水産物の種類の減少といった問題に取り組むベンチャー企業/スタートアップがあります。それが株式会社フーディソンです。
フーディソンでは外食店舗向けに鮮魚の発注システム「魚ポチ」を提供するのと同時に、都内5箇所に「sakana bacca」という魚屋を営み、多様な種類の魚をどう仕入れどう効率的に消費者へと売るのかを日々検討しています。実際この店舗では、展示ケースに並べられた魚を刺身や切り身など好みの形に加工する・丸魚のまま(自宅で魚を捌く)なら割引で販売するなど様々な消費者ニーズに応えようと努力を続けています。また売れた水産物に対して、どの形態(丸魚かそれとも刺身などに加工したのか)で売り、どの産地のものが売れたのかを調べ上げ、水産物のデータベースを作ることを日々練っています。同社では今後も水産業界の問題解決のため様々なビジネスを作り上げることが予想されており、5億円の資金調達を成し遂げるなどVCからも大きな注目を集めています。

株式会社フーディソンが営む「sakana bacca」は、2015年にグッドデザイン賞を受賞するなどおしゃれな外見・内装でも知られている。(出典:http://sakanabacca.jp/#)

伝統的大企業もベンチャー/スタートアップもわかる人材が求められている

水産物業界は旧態依然かつ消費量が減少しているという問題を抱えているうえ、まだデータ化されていない部分も多いためビジネスを営むうえではハードルの高い業界です。しかし魚介類に対する潜在需要は高く、やり方次第では発展を十分に臨める業界でもあります。
ゆえに注目度の高い業界ですが、非常に高度な人材が求められる業界でもあります。長年にわたる経験を持つ漁業者や市場関係者との交渉およびアイデアを次々と形にし新たなビジネスを考案するという、伝統的大企業とベンチャー/スタートアップ両方の考え方を求められる領域とも言えるかと思われます。

参考文献

この記事を書いた人

アバター画像


アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。