フードテック(FoodTech)スタートアップ(5):飲食店人材不足に立ち向かうスタートアップ

Showcase Gigが提供する飲食店向け人材メディア「Counter’s」。人気飲食店経営者へのインタビューも掲載され、読み物としても楽しめるのが特徴だ。(参照:https://www.counters.me/)

シリーズ・フードテック第五弾は飲食店の人材不足です。

ミシュランで三ツ星のつく店舗が世界一になるなど、世界各地から評価される日本の飲食店。しかし賃金の安さや過剰労働のために人材が慢性的に不足しており、メディアを連日騒がせています。その問題を解決すべく立ち上がったベンチャー企業/スタートアップをお伝えできればと思います。

深刻さを増す飲食店の人材不足

2014年前半、極めて大きな社会問題となった「すき家」のアルバイト問題。退職が続出し、写真のように一時閉店する店が相次いだ。(参照:http://shigotonews.com/archives/4645739.html)

飲食業の人材不足は数値に現れるものになっています。リクルートワークス研究所によると、2014年4月〜6月における飲食サービス業者のうち正社員の中途採用は33.3%の企業が、パート・アルバイトでは42.4%の企業が必要な人数を確保できなかったと回答しています。また、正社員離職率の高さも深刻な問題です。厚生労働省によると2014年の1年間の離職率の中で「宿泊業、飲食サービス業」は31.5%と最も高い数字を記録しています。新卒学生の場合事態はさらに深刻で、2011年3月に卒業した学生のうち3年以内に離職した人の割合は52.3%、2人に1人が辞めるという事態に陥っています。
これらの問題の背景にあるのが労働環境の悪さです。厚労省が2015年10月15日に発表した「就労条件総合調査」によると、「宿泊業、飲食サービス業」の「週所定労働時間」は40時間17分と全企業平均39時間26分を約50分上回っているほか、年間休日総数が平均よりも12日少ない95.3日、有給休暇の取得率は平均より15.4%少ない32.2%となっています。これらの数字は全業種の中でワースト記録となっています。また所定内賃金も25万7528円も「生活関連サービス業・娯楽業」の25万6077円に次ぐワースト2位となっています。これらのデータに裏付けされた飲食業の「低賃金・長時間労働」のイメージにより、飲食業に人が集まらなくなるという実態が起きています。
そしてそれを決定付けたのが、メディアでも大きく報道されるようになった大手飲食チェーンの労働問題です。なかでも2014年に発生した「すき家」のアルバイト問題は、大きな問題となりました。同年2月に提供を始めた鍋定食の調理負担の重さから従業員の不満が高まり、3月にはアルバイトの退職が激増。何の事前情報もなく突然100店舗以上が一時閉店に追い込まれるという極めて異例の事態となりました。これと同時に深夜営業時間帯での従業員一人での営業(いわゆるワンオペ)を始めとする運営元・ゼンショーの勤務実態の過酷さが次々と露呈し、7月には第三者委員会によりワンオペ廃止などの是正勧告を受けました。その結果複数人勤務ができない店舗は深夜営業できなくなり、2015年3月にゼンショーは1997年の上場来初の赤字に転落。従業員に対する過酷な勤務環境と人材不足は、牛丼業界最大手の経営を傾かせるまでに深刻な問題となりました。この問題をきっかけに飲食業界の労働環境の過酷さが次々と報道されるようになり、飲食業はさらに人が集まらない事態に陥っています。
飲食店の人材不足問題は大手チェーンだけではなく、個人経営の店舗にも広まっています。実際アマテラスのある青山でも昼には行列ができるくらい繁盛していた店が人材不足により突然閉店に追い込まれるという事態を見ています。

メディア化と労務負担削減から挑むベンチャー/スタートアップ

Showcase Gigが提供する飲食店向け人材メディア「Counter’s」。人気飲食店経営者へのインタビューも掲載され、読み物としても楽しめるのが特徴だ。(参照:https://www.counters.me/)

上記の通り飲食業の労務環境の過酷さとそれにともなう人手不足に悩む企業は大手から個人経営の店に至るまで業界全体でかなりの数に昇っています。一つの解決方法として賃金を増やすという手段があり実際に行っている企業も見受けられますが、利益確保上デメリットも大きく持続的な試みとはいえません。
単に賃金を増やすだけでなく、飲食業の労働環境と人手不足を解消するにはどうすればいいのか。この問題に対し2つのアプローチから商機を見出すベンチャー企業/スタートアップが現れています。
ひとつの手段としては「求人をメディア化し、イメージを上げる」という問題が挙げられます。Showcase Gigでは2015年10月より飲食店向けメディア一体型求人サービス「Counter’s」を提供開始。画像や動画、経営者へのインタビューといった多数のコンテンツを用いることで店舗の魅力を求職者にアピールすることができるという試みとなっています。またフードテック特集第一弾で紹介したBAKEでは求人媒体に頼らずに自社サイトから応募がくることをひとつの目的に自社でWEBメディア「Bake Magazine」を運用し始めました。BAKEの特徴や働いている従業員の姿を数多く記事に掲載した結果、同社の社風が伝わるようになり求職者の多くが読んでから面接を受けに来るようになりマッチング率が上がるようになったといいます。この2社が提供しているメディアは募集している職種を紹介するというよりは、読み物としても大変面白く業務上参考になる記事も多いというのが特徴だと思います。
もうひとつの手段としては「ITを活用して、業務効率を上げる」という方法です。飲食店の業務の中には、予約管理やレジ打ちなど直接売上につながらないうえ現場負担の大きい業務も多数含まれています。飲食業はIT化が遅れており、これらの事務的な作業も人手に頼っている状況でした。しかし人手が不足するようになった結果、業務量を削減するサービスへのニーズが強まり、多くのサービスが作られるようになりました。
主なサービスとしては、Showcase Gigが提供し事前オーダーやスタンプ管理などの機能を提供した集客やCRMを担う「O:der」、トレタが提供する飲食店の予約/顧客台帳をクラウドで管理する「トレタ」などが挙げられます。これらのサービスは、大手チェーンを含め多くの企業に導入され導入企業のオペレーション効率化に貢献しています。

飲食業改革にはスタートアップが切り込むニーズがまだ多く存在する

予約/顧客台帳を管理するアプリ「トレタ」。飲食店を経営した中村仁氏が、自らも悩んだ紙の予約台帳を管理するという問題を解消したいという思いから生まれたサービス。PC操作が苦手な人にも使い易いのも特徴だ。(参照:https://toreta.in/)

飲食業の労務環境改善・人手不足解消に向けたビジネスが注目されるようになったのはここ数年の出来事です。そのため「求人情報のメディア化」にしても「業務量削減」の仕組みにしてもまだ多くのチャンスがある領域といえるでしょう。特に後者の業務量削減に関しては、ウェイター業務や調理業務のロボット化など IT以外にも数多くの解決手段が必要とされていると思われます。数多くのアイデアを出しその中から収益化できるビジネスモデルを作れる人材は特に求められているといえるでしょう。
またIT化の遅れた領域でもあるため、PCやスマホの操作に慣れていない人でもわかり易いサービスを作れることも飲食業の労務環境改善・人手不足解消に挑むベンチャー/スタートアップでは重要なことです。直感的で使い易いユーザーインターフェースを作れるデザイナーやエンジニアは、このような業界に向く人材であると言えます。

参考文献

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。