スタートアップでは、経験に囚われず、一から取り組む人が伸びる

Hmcomm株式会社第1技術開発センター 研究員 熊切凌平氏

今回は、エンジニアとしてHmcomm株式会社に転職された熊切凌平さんにお話を伺いました。

Hmcomm社は、音声認識技術を用いたシステム開発、ソリューションサービスを行っているスタートアップ企業です。最近では、通販大手ディノス・セシールとコールセンターの音声Bot」の共同開発や
ブログ・SNSリアルタイム投稿監視業務大手のイー・ガーディアンと連携しリアルタイムAI動画監視フィルタの共同開発を行っています。

熊切さんは「Excelも分からない」状態でIT業界に飛び込まれ、その後幅広い知識を身に付けながらキャリアアップされました。何も分からない状態からプロジェクトを牽引するまでになるまでのご自身の努力や、スタートアップで働く魅力、そして、スタートアップ転職に必要な覚悟についてお話し頂きました。

熊切凌平氏

第1技術開発センター 研究員
熊切凌平氏

2013年 東京大学文学部卒業
2013年 システム開発会社に入社
入社後は機材管理システム、番号管理システム、求職者・求人レコメンド等数多くの設計・開発に関わる。
2017年Hmcomm株式会社入社

Hmcomm株式会社

Hmcomm株式会社
http://www.hmcom.co.jp/

設立
2012年07月
社員数
40名

《 Mission 》
音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献する
《 事業内容 》
・産総研独自の音声処理技術を用いた要素技術の研究/開発、ソリューション/サービスの提供
・先進諸国が直面する人や社会の複合課題を解決するための新たな学術領域、サイバニクス事業の推進

将来に対する漠然とした不安を感じていた小学時代

アマテラス:

まずは、熊切さんの生い立ちからですが、家庭環境や幼少時のご経験の中で思い出されることなどがあったらお聞かせ下さい。ご出身はどちらですか。

Hmcomm株式会社 第1技術開発センター 研究員 熊切凌平氏(以下敬称略):

埼玉県です。父は製造関係のエンジニア、母は幼稚園の先生でした。
非常に教育熱心な家庭で、僕自身も勉強は頑張って取り組んでいました。しかし、将来の夢などは全くなかったので、そういう意味での不安感がずっとあったような気がします。

アマテラス:

小中学生時代のエピソードなどは、何かありますか?

熊切凌平:

中学ではソフトテニス部に入り、その部活動が楽しかった記憶があります。
小学校時代はサッカーをやっていたのですが、「協調性がない」と親から指摘を受けたこともあり、中学では協力する人数が比較的少ないテニスを選びました。一人で熱中できることと、サッカーよりも周囲を見渡さなくて済むので向いていたと思います。

しかし、高校1年まででソフトテニス部は辞めてしまいました。高校受験がやや不完全燃焼だったこともあり、その後はひたすら勉強に集中していました。

東京大学では哲学を専攻し、「不確実性」に興味を持つ

アマテラス:

大学は東京大学文学部に進学されたということですが、大学在学中で、何か記憶に残っていることはありますか?

熊切凌平:

哲学科を専攻し、興味を持って取り組んでいました。中でも、当時の流行りでもあったのですが、「不確実性」についての講義は面白かったです。

「リーマンショック」が「不確実性」に関心を持つきっかけの1つだったと思います。
当時、頭の良い人達が統計の知見を全てつぎ込んだり、ノーベル経済学賞受賞者がファンドを作ったり、そういった商品がいくつもあったと思うのですが、結果コンマ何%の確率を引き当てて経済は破綻してしまった。

それが強烈に記憶に残っていて、「そういうものを捉えることができる方法はあるのだろうか」という興味から、不確実性の研究に興味がわきました。その当時においては頑張って探しましたが、結局「あれを制御する術はなかった、どうしようもなかった」という結論でしたが。

就職先にITを選択するも、スキルゼロからのスタート

アマテラス:

就職活動では、どういう方向を考えていたのでしょうか?

熊切凌平:

当初は、「良い大学に進学して大企業に入り、そのまま定年まで働くのだろう」といったある意味甘い考えを持っていたのですが、就職活動時はリーマンショック後で、大企業もどんどん人員を削減していた時期でした。

とても安定していると言えない状況の中で、そんな不安定な中でもできる限りダメージの少ない方向を模索したところ、ITというジャンルにたどり着きました。
しかし、全くの未経験領域で、当時はExcelが何かもよく分からない状態でした。

その中でも選択肢は色々あったかと思うのですが、入社企業を選ばれた理由は何ですか?

熊切凌平:

ネットなどで語られるエンジニアの世界は非常に過酷で、いわゆるブラック企業のような印象があったのですが、説明会で出会ったその企業の方達は大変親切で、「ここなら仮に業務が過酷でも、何とかやっていけるのではないか」と感じたのが最大の理由です。
入社当時は100名程度の社員がおり、受託開発がメインの企業でした。

インタビュー時の熊切氏

「最先端のプロジェクトに」と言い続けて希望を実現

アマテラス:

全くスキルがない状況から、どのようなプロジェクトに関わり、どのようにスキルアップして行かれたのでしょうか。

熊切凌平:

まず3ヶ月ほどの研修を受け、基礎的な知識を習得しました。その後、公共系のJavaのシステム開発を合計3年程度、次にビッグデータなどを扱うような業務に携わるようになりました。

入社当時から「最先端のプロジェクトに携わりたい」と言い続けていました。今考えるとスキルもないのに非常識でしたが、諦めずにしつこくお願いしていたら3年目くらいからビッグデータや機械学習に関するプロジェクトに配属させてもらえるようになったのです。

アマテラス:

熊切さんが担当された2016~2017年頃は、ビッグデータや機械学習といった考え自体がまだあまり普及していなかった時期だと思うのですが、社内には教えられる方がいらっしゃったのですか?

熊切凌平:

私より先に配属されている方が何人かいましたから、彼らに教えてもらったり、あとは配属先の自社以外のメンバーに訊いたりしていました。また、社外でも機械学習に詳しい人がいれば、その都度教えてもらっていました。

上流工程への関わりを求めて転職を決意し、音声認識技術に惹かれHmcommへ

アマテラス:

前職からHmcomm社に転職されたきっかけは何でしょうか。その背景があれば、それも含めてお聞かせ下さい。

熊切凌平:

当時勤めていたシステム開発会社は受託中心で、クライアント先に常駐して受託開発を行っていると、全体の流れがよく分からないまま仕事をしていることが多いのが少し不満でした。大きな会社に行くことが多かったので、その中のほんの一部に携わっていると、「自分でなくても、誰でもできるのではないか」と感じるようになりました。
そして、小規模なベンチャーなどに行って、もっと根幹から関わりたいと考えるようになりました。

アマテラス:

「もっと上流工程から関わりたい」という希望が出て来たのですね。数あるスタートアップ企業の中でHmcomm社を選ばれたのはどうしてですか?

熊切凌平:

アマテラスに登録してすぐスカウト頂いたのがHmcomm社だったということもありますが、実際に話を聞く中で音声認識が様々な可能性のある技術だと言うことが分かりました。そこがこの会社を選んだ最大の要因だと思います。

アマテラス:

面談ではどのような印象を受けましたか?おそらく、それまでいらした会社とは大分違ったのではないでしょうか。

熊切凌平:

そうですね。非常に明るく、ユーモアのある人達だと新鮮な驚きがありました。大変な場面でも冗談を言い合っている感じが好印象で、困難な局面もこうやって乗り越えていくのだろうと、とても頼もしく感じました。

音声認識の理解と新たな知識の吸収に苦労した転職初期

アマテラス:

入社されて1年半ほどになると思いますが、これまでどのようなプロジェクトに関わっていらしたのですか。

熊切凌平:

音声認識サーバの開発の中で、主に音声の認識率を上げる業務がメインです。それぞれのお客様に特化したカスタマイズだったり、ベースのエンジンになっている部分の底上げだったりと色々ありますが、基本的には音声を文字に置き換える精度を上げていこうというところですね。

アマテラス:

転職されて、全てが順調に行ったわけではないと思います。入社当初に考えていたこととのギャップ等について教えて下さい。

熊切凌平:

以前からデータサイエンスに近い部分はやっていたので、前職での経験が役に立っていることは勿論あります。ただ、音声認識の仕組みが思っていたよりも複雑怪奇で、元からあった知識ではとても対応できませんでした。当初は理解するのに苦労しましたし、今でも全て分かっているとは言い難いです。
特に入社時は音声認識関連のスキルが何もなかったので、何も貢献できるところがないのに給料だけはいただいているという状態が非常に申し訳なかったです。

熊切氏が携わっているVContact

開き直って周囲に訊くことでキャッチアップ

アマテラス:

その状況をどのように解決されたのでしょうか?

熊切凌平:

キャッチアップするために、まずは自分で色々調べたりしてみました。しかし、それではプロジェクトの要求スピードにとてもついていけません。
そこから、ある種開き直って色んな方に物凄く質問するようになりました。人の仕事を妨害することになりますが、「それで怒られたら辞めれば良い」というくらいに気持ちを切り替えて社内はもちろん、技術顧問の先生やパートナーの方々にもSlackでバンバン質問を投げていましたね。

入社後10ヶ月程してようやく音声認識の音響モデルを作るところまで行ったので、その辺りでようやく今の仕事でのスタートを切れた感覚がありました。

アマテラス:

メンタル的にも、やはり辛かったのではないでしょうか。

熊切凌平:

貢献できないままお給料をもらうという状況は以前の会社では経験がなかったので、辛かったです。ただ、会社の方達も良い人ばかりで、周囲に助けられて何とか乗り越えることが出来ました。

AIという未来の社会基盤の一端を担う

アマテラス:

熊切さんは、エンジニアとしてHmcomm社で働く面白さはどのようなにあると感じていますか?

熊切凌平:

最先端の技術に携われる環境は、エンジニアとして大きな魅力です。今後AIは社会の基盤の一端を担って行くことになると思うので、そこに深く関わる仕事ができることに大変やりがいを感じています。

また、仕事の進め方にある程度の裁量を与えてもらえますし、期限が短すぎるタスクに急かされる等のストレスもなく、とても働きやすい環境だと感じています。

アマテラス:

音声認識分野は社会に新しいインパクトを与えるビジネスだと思いますが、熊切さんご自身はご自分の取り組みが社会を変えていると感じられる時はありますか?

熊切凌平:

仕事をする中で直接感じる機会はそれほど多くはありませんが、色々な企業と業務提携を組んで新たな分野に進出していることで、音声認識の技術がどんどん社会に普及していると感じますし、自分がそこに携われていることに素直に喜びがあります。

自由度の高い職場環境

アマテラス:

会社の組織や仕事環境についてはいかがですか?急速な会社の成長に伴って職場の雰囲気の変化や、組織の混乱などもあるかと思います。

熊切凌平:

マネジメントがしっかりしていた以前の会社と比較すると、良く言えば自由度が高く、その分あまり秩序がないと感じる部分もあるかと思います。
ただ、僕自身は周囲に守られてエンジニアとしてプロジェクトを回す業務に集中させてもらえており、よい環境の中で仕事をさせてもらっているという実感があります。

アマテラス:

社員が急速に増える一方で、退職者も出るかと思います。周囲のエンジニアにも退職された方がいらっしゃるのではないでしょうか。そのあたりは、どのようにお感じになっていますか?

熊切凌平:

前職でも辞める人はいましたので、ある程度は仕方ないとは思っています。ただ、去って行くのが少し早いかなと感じます。
色々な事情があると思いますが、音声認識技術の難しさがその要因の一つになっていると思います。音声認識技術について非常に苦労し、結果退職してしまったケースもあったかと思うので、「早く気付いて手助けできれば、もっと定着したのでは…」といった自分なりの悔いはあります。

オフィスでの熊切氏

前職で学んだことを一旦忘れ、一から勉強する

アマテラス:

最後の話題になりますが、熊切さんのようにスタートアップへの転職を考えているエンジニアに向けて、色々とアドバイスを伺っていきたいと思います。 初めてスタートアップに転職されるエンジニアに対して、覚悟しておくべきことや乗り越えなければいけないことなどのアドバイスはありますか?

熊切凌平:

スタートアップは組織がかっちりしていない会社が多いと思うので、1つの業務をやっていれば良い訳ではなく、興味の有無にかかわらず様々な業務に携わることがあると思います。そうすると幅広い知識も必要になりますし、恐らく当初の想像と違う部分が出て来ることはあるはずなので、そのあたりはある程度覚悟が必要かもしれません。

また、個人的には「あまり前職などに拘らないこと」がスタートアップで成長するためには大事だと思っています。特定の技術を買われて入社したという人は別ですが、そうでなければ前職で学んだことを一旦忘れて一から勉強するくらいの気持ちで取り組める人が伸びしろがあると感じます。

アマテラス:

それはエンジニアだけでなく、スタートアップに関わる全ての方について言えることかもしれませんね。日進月歩の業界ですから、過去に拘って前に進めないうちに状況が大きく変わることになりかねませんから。

「入社時の給与条件」への拘りは意味がない

アマテラス:

熊切さんの転職活動で、「やっていて良かった」こと、逆に「無駄だった」という活動はありますか?

熊切凌平:

入社時の給与条件を調べたことは、後になってみると無駄だった気がします。仮に、入社時に高めのオファーを頂いても、入社後に成果が出せなければ翌年下げられますし。

「やっておいて良かった」ことは、直接の転職活動ではないのですが、前職で出来る限りの努力をして成果を出すことでしょうか。僕は前職で大量のデータ処理に2時間程かかっていたものを15分位にするプロジェクトをやったことがありましたが、それが転職時に高く評価された経験があります。前の職場と関係が切れるとしても、そこでできる限りの努力をして成果を出すことは大切かと思います。

アマテラスには「将来性のある、面白そうな企業」が厳選されていた

アマテラス:

ところで、転職時にアマテラスをご利用いただきましたが、利用者としての率直なご感想をいただけますか?大規模な広告も出していませんし、他のエンジニア向けサイトと比べると異色な感じがあると思うのですが。

熊切凌平:

ネット検索で上位に表示された転職サイトのいくつかに登録しましたが、他の媒体と比較してアマテラスには面白そうな企業が掲載されていると感じました。

アマテラス:

エンジニア向けのサイトでは言語などのポジション条件が豊富に掲載されていますが、弊社では企業の成長性や社会的意義などの視点から厳選して掲載しています。

熊切凌平:

「この技術を使っているからこの会社に」というような基準ではなく、「もっと面白いことができる、もっと成長できる環境に身を置ける会社に行きたい」と考えた時に、アマテラスは最適でした。
他の転職エージェントからは前職と似ている会社を勧められることが多かったのですが、アマテラスでは全くやったこと分野の企業からもオファーを頂けたりするのが嬉しかったです。

アマテラス:

ありがとうございます。私達もそういう思いでやっているので、そのようなご感想が頂けて大変嬉しいです。 本日は貴重なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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河西あすか

慶應義塾大学経済学部卒業後、食品メーカーにて商品企画等のマーケティングを担当。 慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了後、企業再生・変革の実行支援コンサルティングファームに在籍。

Hmcomm株式会社

Hmcomm株式会社
http://www.hmcom.co.jp/

設立
2012年07月
社員数
40名

《 Mission 》
音から価値を創出し、革新的サービスを提供することにより社会に貢献する
《 事業内容 》
・産総研独自の音声処理技術を用いた要素技術の研究/開発、ソリューション/サービスの提供
・先進諸国が直面する人や社会の複合課題を解決するための新たな学術領域、サイバニクス事業の推進