自分は何がやりたいのか? 他の人ができなくて自分にしかできないことは何か?自問自答を繰り返しながら、『リノベーションマンションの流通』という使命にたどり着いた。

リノべる株式会社代表取締役社長 山下智弘氏

中古マンションをリノベーション*し流通させていくことをミッションとする『リノべる株式会社』

土地の狭い日本の都市部では新築マンションを建て続けるのは限界がある。一方で好立地にあるのは中古マンションだ。この中古マンションをリノベーションし有効活用するニーズが都市部で増えつつある。

『購入か賃貸か?』

という議論は良くされる。日本では『購入』とは『新築購入』を指すことが多い。

今後は、
『中古マンション+リノベーションか、新築購入か、賃貸か?』

という選択肢になるのではないか。
その時、中古マンション+リノベーションが持つ、好立地・リーズナブルな値段という要素はかなり魅力的ではないだろうか。

中古マンション流通の風雲児、リノべる株式会社の山下社長に迫りました。

*リノベーション:既存の建物に改修工事を行い、用途や機能を変更して性能を向上させたり価値を高めたりすること。マンションの一部屋から一棟、また、木造・RC造・鉄骨造等、特に構造に関係なく行うことが可能。
住宅リフォームとも混同されるが、リフォームは老朽化した建物を建築当初の性能に戻すことを言い、壁紙の張り替えなど比較的小規模な工事を指す。

山下智弘氏

代表取締役社長
山下智弘氏

1974年生まれ ゼネコン、デザイン事務所、家具工房などを経て
2003年 デザイン事務所 field設立
2004年 株式会社es 設立 代表取締役就任
    商空間・住空間から家具・野菜までを手作りで作りだす「ものづくり集団」をつくる
2010年 中古住宅のリノベーションに特化した会社リノベる株式会社 設立 代表取締役就任
    リノベーション住宅推進協議会 理事に就任
2013年3月 現在、東京・神奈川・埼玉・千葉・静岡・名古屋・京都・大阪・神戸・仙台・福岡・群馬の12エリアでサービスをしている。

自宅の洗面スペースを「お気に入りの歯ブラシに似合う空間にしたい」と自身で改造したことからリノベーションとの深い関係が始まる。住宅ディベロッパーを経て独立。住宅・店舗の設計施工を行う株式会社es(エス)を立ち上げる。esでリノベーションを手がけるなか、物件探し・リノベーションの設計施工・ローン組みをワンストップで提供するサービス「リノベる。」を考案。リノベーションを専門に行うリノベる株式会社を設立。リノベーションのセレクトショップとして定額制・セミオーダー制・専用ローンのサービスで全国にエリア展開中。
リノベーション住宅推進協議会の理事も務める。

リノべる株式会社

リノべる株式会社
https://renoveru.co.jp/

設立
2010年04月
社員数
27名(2013.5月時)

《 Mission 》
日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。
《 事業分野 》
建設・不動産
《 事業内容 》
中古住宅のリノベーション

自分しかできないことを追求して、中古マンション流通という使命にたどり着いた。

アマテラス:

リノべる株式会社設立までの経緯を教えてください

リノべる株式会社 代表取締役社長 山下智弘氏(以下敬称略):

関西で中学、高校、大学とずっとラグビーをやっていまして、社会人強豪チームの企業に就職しました。入社前の1年は企業負担でオーストラリアにラグビー留学までさせてくれ、意気揚々と入社したものの、全く通用しませんでした。ずっとラグビーをやってきて自分のことをラグビーの天才と思っていましたが(笑)、社会人ラグビーでは2軍どころか3軍以下で。。

ラグビーしかしてこなかったのにこれはヤバい、どうしようと。

そんな折、建築関係で働いている先輩からアルバイトに誘われ、建築現場でのアルバイトをしたのですがこれが面白くて、大学時代も建築を勉強していたこともあり、そのまま大手ゼネコンに転職しました。

ゼネコンでの仕事はデベロッパー(開発業者)の要望に応じて土地を仕入れたりするのですが、今の日本の都市部ではマンションが建つような好立地などほとんどない。となると好立地に住む人に立ち退きをしてもらう必要があり、“おばちゃん、どいてくれへんか?”などと言って土地オーナーにお金積んで立ち退きをしてもらったりして土地を確保していました。高いお金で土地を売れてハッピーになる人もいますが、そうでない人もいる。次第に新築マンションの建設という仕事に対して、『ほんまにこれでええんか?』、『しょうもないことをしているんちゃうのか?』、そんな疑問を持つようになりました。

もともと、面白いことをしたいという性格で、自分以外でもできることは他の誰かがやればいい、自分しかできないことをやりたい。新築マンションを建てる仕事は他の人でもできる。そう考えるようになっていたところで、大阪でも東京で起こったようなカフェブームが起きていました。カフェや飲食店のおしゃれなインテリアのデザインニーズ拡大を感じて、思い切って独立しデザイン事務所を立ち上げました。それが “es”という会社です。

アマテラス:

そのデザイン事務所“es”から“リノべる。”が生まれる背景は?

山下智弘:

“es”の事業運営は大変でした。最初はデザインの仕事だけでは食えないので、深夜バイト含めいろんなバイトをしながら食いつなぎました。そんな感じで1,2年やっているうちに点と点が繋がって行きました。
大阪の北新地のカフェ店舗のデザインを手掛けると、そのオーナー達から、“カフェのインテリアデザインみたいな感じでうちの家も手掛けてくれへん?“ という受注が入りだした。
カフェのインテリアデザインはスケルトンのままにするなど独特な風合いだが、個人宅のデザインにそういうデザインはまだ取り入れられていませんでした。

新しい方向性が見えた気がして、今後について悩みぬきました。『俺は何をしたいのか?』と自問自答を繰り返した。

『自分は限られた人にデザイナーとして、尖ったインテリアデザインを提供したいのか?』

それとも

『自分は多くの人にリノベーションを通じて、豊かな暮らしを提供したいのか?』

答えは後者でした。
多くの人に影響を残したい。

前者のように尖った(カフェ風の)インテリアデザインを提供したとしても世の中にはすごいデザイナーがたくさんいて、かなり尖らせたデザインを追求していかないと勝ち残れない。尖ったデザインを追求するのであれば、山下智弘デザイン事務所を立上げて、名前を売ればいい。しかしデザインを尖らせれば尖らせるほど刺さる人のパイは小さくなり、刺さらない人が増えてしまいます。実際に一時期はオシャレなメガネをかけてデザイナーっぽい外見をして活動していたのですが『どこかちゃうな。。』と感じていました。やはり自分は一人でも多くの人に影響を与える仕事がしたい。そんな風に考えるようになっていました。

一方で多くの人にリノベーションを提供するためにはどうしたらよいのか、、悩みぬいた結果
今の“リノべる。”のビジネスモデルを考え出しました。

”リノべる。” はリノベーションのセレクトショップ

アマテラス:

“リノべる。”のビジネスモデルとは?

山下智弘:

一言でいえば、リノベーションのセレクトショップです。個人のお客様が『リノべる。』に来て、こういうデザインの家が欲しいと相談すると、お客様の志向に合ったデザイナー、物件、金融機関(ローン)を選べるサービスです。

「フルオーダー」型の住宅ではありとあらゆるパーツを候補にオンリーワンを作る作業です。
”リノべる。”はお客様の選ぶ楽しみを第一にこの工程を「セミオーダー」にしました。セレクトショップのように、あらかじめ設計デザイナーたちが人気の高い素材・パーツを厳選し、用意しています。実際に全国に展開しているショールームでセレクトされた素材・パーツを確認いただけます。

「セミオーダー」だからといってデザインは制限されません。まず間取りはゼロから考えます。一人一人のライフスタイル、好みに合わせてバリュエーションを考えます。デザインクオリティは無限です。

アマテラス:

”リノべる。” 事業はいつからスタートしたのですか?

山下智弘:

2010年からです。店舗のインテリアデザインを手掛ける“es”は大阪に拠点を残し、“リノべる。”事業は別法人を立上げ、東京でゼロから立ち上げていくことにしました。”es”の全社員を集めて“リノべる。”事業を東京で始めるのでついてきてくれる人は?と応募を募ると誰も手が上がりません(笑)。結局最初は自分ひとりで東京に出てきて、知り合いの目黒のオフィスの一画を間借りしてスタートしました。現在の“リノべる。”のメンバーは皆新規メンバーばかりです。

アマテラス:

“リノべる。” をスタートして現在に至るまでに突き当たった大きな壁とは?

山下智弘:

壁ばかりでどれが壁だかわからなくなっていますが(笑) 『パートナー会社(不動産仲介会社等)に対するサービスの認知・教育』がこれまで突き当たった大きな壁で、今でも壁となっています。中古マンションをリノベーションし、流通させるというのは日本においては新しいビジネスです。その目的を達成するにあたり、自分だけでは限界があり、パートナー会社をいかに巻き込んでいくかというのが重要です。そのパートナー、特に不動産仲介会社にはこの新しいビジネスを理解してもらい、ともに情報連携し、優良物件情報を集め、お客様に購入して頂く仕組みを作ることが必要です。

これまで日本では新築マンションの販売に重きが置かれていました。新築:中古 = 9:1 の市場規模と言われているように、ほとんどの不動産関係者は新築販売に関わってきていて中古販売のオペレーションには慣れていないのが現実です。

“リノべる。”と一緒に仕事をするには、中古販売の新しいオペレーションに慣れてもらい、かつそれで儲けていただかないとビジネスとして続きません。実際に、不動産仲介会社のトップのみなさんには中古マンション流通という部分で社会的意義に共感してくれ、加盟店料を払ってくれるのですが、いざ実行段階になると現場レベルでは、中古マンションの取り扱いになれていない為に、なかなかうまく進まないということがよくあります。新築に比べるとリノベーション前の中古物件は見た目も良くなく取扱いが難しいのです。

このような方々にしっかり仕事を進めていただけるようにまず自社社員教育を進め、“リノべる。”と仕事をして儲かった、成功したといえるビジネスパートナーを作って行く、というのが当面の目標です。やはり意義に共感していただいても、儲からなければビジネスとして継続しないと思いますので、しっかりWIN-WINの関係・評判を作って行きたい、スタープレーヤーともいえる儲かる加盟店・ビジネスパートナーを創出していきたいと思います。そしてその成功事例を横展開していきたいですね。

アマテラス:

多くの起業家が最初の頃は『資金繰りの壁』にぶつかりますが“リノべる。”さんは?

山下智弘:

幸い、資金繰りの危険はこれまで遭遇することなく来ています。というのは、当社は在庫を抱えることがなく、工事が成約したら報酬が入る、もしくは先にお金をいただいてから動くビジネスモデルになっています。通常不動産ビジネスで資金繰りが危なくなるパターンは、不動産物件を在庫として保有し、販売できずにキャッシュが回らなくなり倒産、という形です。当社はデベロッパーではなく、あくまでリノベーション向き中古マンションの情報提供、コンサルティングが提供できる価値です。物件を保有してしまうとお客様の気持ちを無視して保有物件を販売するという行動に出てしまう可能性があります。お客様を第一に考え、物件保有はしないことにしています。いろんな不動産を見てきたので、これは売れるな、という物件に出会った時には保有したくなることもありますが(笑)。うちが投資するのは物件ではなく人材・社員教育です。

もがきながら自分が一生かけてやりたい課題・使命にたどり着いた

アマテラス:

“リノべる。”が解決する社会的課題は何ですか?

山下智弘:

『中古マンションの流通』を活性化していくことで、優良なストックを活用していくことです。最初に述べたように日本では好立地はほとんどなくなっていて、新築が建つ余地が少ない。にも拘わらず新築を買う文化が主流ですのでおのずと限界がきます。これからは新しい建物をどんどん作るよりも優良なストック(中古マンション)をリノベーションし、活用していくことが必要と考えています。

アマテラス:

山下さんはどのようにしてこのような課題、使命に出会ったのでしょうか?

山下智弘:

もがきながら、やりながら自分がやりたいことに気付いた、というのが正しいと思います。最初からこのような課題や使命感をもっていたわけではなく、最初はもてたい、カッコよくなりたい、、そんな自己満足の気持ちばかりだったと思います。そんな気持ちで仕事をしていた時は正直面白くなかったですね。

自分にしかできないことをやりたい、他人でできることは他人がすればいいという想いを持ち、『俺は何をしたいのか?』と自問自答しながら取り組んできました。紆余曲折を経て中古マンションのリノベーション事業に出会い、『なぜ中古マンションは日本では流通していないのか?』という問題意識が芽生えました。そして、この問題を解決できるのは、日本では自分しかいないのではないか、自分がやらなければいけないのではないか、人生をかけてもよいテーマだと思うようになりました。

“リノべる。”の名刺はジグソーパズルの形をしています。
もがきながら、動きながらいろんなことが繋がって”リノべる。”は今に至りました。そして繋げるのは人だと考えています。
名刺にもそんな想いを込めました。

アマテラス:

“リノべる。”がお客様に選ばれている理由は何ですか?

山下智弘:

やはり使いやすさ、中立的な立場でリノベーション向き中古マンションの情報を提供している点だと思います。
基本的に他社は自社の保有物件やお抱えデザイナーのデザインを提供しているので、相談するというより一方的に自社商品を販売しているという感じです。個人のお客さんからすると敷居が高く高級ショップに入っているというイメージかと思います。頑固なデザイナーも多く、デザイナーの言うことを聞かないといけない状況だったりします。

“リノべる。”では90%以上のお客様がインターネット経由で問い合わせをされて、セミナーに参加し、ショールームで相談されるというプロセスなのですが、お客様の希望に合わせて選んでもらうというカジュアルなスタイルです。幅広い選択肢の中から希望にあった物件・デザイナーから金融機関(ローン)に至るまで気軽にカスタマイズができる点を評価頂いていると思います。

アマテラス:

“リノべる。”の直近、中長期の経営課題は?

山下智弘:

直近の経営課題は、さきほども述べました『パートナー会社に対するサービスの認知・教育』だと思っています。まずはしっかりと自社社員を教育し、自社サービスをしっかりとパートナーに提供し、価値を創出していけるようになることです。

中長期的な経営課題としては、海外拠点の進出です。現在国内の各都市(東京、大阪、名古屋、神戸、岡山、福岡等)へ進出していますが、国内主要拠点への進出が終わった段階で海外展開を考えています。最初は台湾(台北)を検討しています。台湾(台北)進出の理由としては主に以下になります。
親日である
住宅問題を多く抱える(建物が古い、土地が少ない等)
スケルトン渡しの文化がある(購入してから内装工事を自分で行う)
台湾では、家を買ったら体重が5kg減る、ということわざがあるようです。家を買った後、自分で内装工事をするなど相当手間暇がかかるようです。このような環境において“リノべる。”が価値を提供できる余地が多いのではないかと考えます。

アマテラス:

“リノべる。”ではどんな人材が活躍していますか?

山下智弘:

“明るくて前向きな人”ですね。いろんな悩みがあったとしても人前でパーっとできるような、根がポジティブな人が多いと思います。チームプレーの精神を持っていて、明るく楽しく仕事ができることは重要です。それがなければどんなに賢くてもなかなかフィットしないですね。

世界中の面白いことを全部やる。

アマテラス:

最後になりますが山下さんの将来の夢は?

山下智弘:

世界中の面白いことを全部やる、ということです(笑)。日本でもこれだけ面白いことがあるので世界に行けばもっと面白いことがたくさんあると思います。海外に行って仕事をしながら面白いことを見つけたいですね。
当面は“リノべる。”の事業を世界に広げていきたいと思っています。できないことがあれば、できる人を探して一緒にしたいと思います。

アマテラス:

山下さん、ありがとうございました!

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』

リノべる株式会社

リノべる株式会社
https://renoveru.co.jp/

設立
2010年04月
社員数
27名(2013.5月時)

《 Mission 》
日本の暮らしを、世界で一番、かしこく素敵に。
《 事業分野 》
建設・不動産
《 事業内容 》
中古住宅のリノベーション