当たり前だと思っていることを “なぜなんだろう” と問い直してみる。
実は当たり前でなかったことが意外とあるんです。
私は空きスペースを見るとお金が落ちているように見える。

軒先株式会社代表取締役 西浦明子氏

軒先.comは2008年に設立され、今では3,000以上の空きスペース情報を扱う有望なサービスに成長した。

空きスペースの有効活用、軒先を使わせてもらいたい人と軒先を貸したい人のマッチングビジネス。言われてみれば当たり前のことのように見えてしまう事だが、話を聞くと、こんなビジネスがあったのか、と思えてしまう。日常生活の中で当たり前の出来事や不満要素に”なぜだろう”と疑問を持つとこのようなビジネスアイデアにつながる典型的な起業例。

ユニークな発想から軒先株式会社を起業し、成長軌道に乗せているのは人生でベンチャー起業などほとんど考えもしなかったという西浦明子氏。

自分自身、起業していることに驚いているという西浦氏の生い立ちや思いに迫りました。

西浦明子氏

代表取締役
西浦明子氏

1991年 上智大学外国語学部卒業
1991年 ソニー株式会社に入社
2008年 軒先.com設立

軒先株式会社

軒先株式会社
https://www.nokisaki.com/

設立
2009年04月
社員数
15名

《 Mission 》
『軒先から始めよう、最初の一歩』 『あなたのスペースが作る日本の未来』
《 事業分野 》
建設・不動産
《 事業内容 》
週貸し・1日貸し・時間帯貸しスペースの検索・予約サイト『軒先.com』の運営
社会問題を解決するシェア型パーキングサービス『軒先パーキング』の運営
個人間の自転車シェアサービス『軒先シェアサイクル』の運営

起業とは縁もゆかりもない生活をしてきた

アマテラス:

西浦さんの生い立ちについて教えていただけますか?

軒先株式会社 代表取締役 西浦明子氏(以下敬称略):

どちらかというと私の場合は起業と縁もゆかりもない生活をしてきまして、父はサラリーマンで、母は専業主婦という家庭でした。ただ教育熱心な両親だったので、中学受験をして中高一貫の進学校に入学しました。同じ環境にいると同じ友達が集まりますので、大学受験して卒業後は大手企業に勤めて、というのを何も迷わず、それしか選択肢はないだろうと迷うことなく生きてきたんですね。

周りには、起業している人や自営業の人すらもいなかったんです。唯一言うと祖父が開業医で叔父が歯科医だったり、いわゆる士業だったりとか、医師みたいなのはいたんですけど。事業をやってるような人は知人・友人・親族含めほとんどいなかった。

ですので起業とか事業をやると考えることはゼロでした。どちらかというと、はたから見て起業するとか自営業って、なんでわざわざ大変なことをするんだろうと思っていたくらいだったんですね。まさか何十年後かに自分が起業してこんな苦労するとは思いもしませんでした(笑)

今思うとぬるい中で育って来て、何も失敗したり挫折を味わうことなく大学卒業して、就職して。多分軒先を始めるまではほとんど道を外した経験がないままでした。
起業家の方は小さいときに苦労したり大きな挫折を経験した方が多いと思います。環境が生き方とか考え方とか左右すると思うので、私の場合は当然ながらそういう環境が周りになかったので、起業という選択肢は自分の中で何十年もなかったんですよね。本当に。なので、過去の自分が今の私を見たら驚いてると思います。何やってるのって(笑)

アマテラス:

大学卒業して大企業で勤めた後のイメージは結婚して主婦、もしくはワーキングウーマンのどちらでしたか?

西浦明子:

ワーキングウーマンになっていこうと。大学に入る前から、私は語学が好きだったんですけど、何か言葉を使った仕事をしたいと思っていたので、もし結婚して子供を産んだり家庭を持ったりしても、翻訳とか通訳の仕事とかいわゆる独立系のような仕事はしていきたいと思っていました。海外に関わっていた仕事もしたいと思っていましたけど、まさか事業を行うとかは全く考えていませんでしたね。

ちょっとした不満から始めたビジネス

アマテラス:

軒先株式会社を起業した背景・きっかけを教えてください。

西浦明子:

起業したのは38歳で、妊娠して会社を退職し時間がたくさんありました。新卒で入った会社で南米に駐在していたのですが、その時の知り合いを通じて南米から雑貨を輸入してネットで販売したいと考えました。まずは実店舗で小さく販売してお客さんの反応を見たいな、と思い店舗を探したのですが、なかなか場所が見つからなくて、そのうえ賃料が凄く高い。
なのに街中を見回してみると、自由が丘とか二子玉川とかよく見ると空きスペースはたくさんある。このちょっとした空きスペースを自分で使いたかったということと、このような空きスペースを使いたい人と貸したい人のマッチングニーズはあるのではないかと始めたのがきっかけです。ちょっと面白そうだなと思っただけで、すごい事業計画を立ててやるぞと立ち上げた訳ではなくて。小さく小さく始めただけだったんですよ。

最初は先行投資があまりかからなくて、10万円くらいかけてホームページを簡単なもの作っただけでした。あと物件の情報があればいいと考え、近所の学芸大学駅(東京都目黒区)の商店街に目を付けた。学芸大学の東口商店街のレコード屋さんやお茶屋さんに、“すいません、定休日に軒先貸してください”というのが始まりだった。

あと私はニッチな分野が好きというのがもともとありました。
大学の学科がポルトガル学科でした。英語学科とかフランス語学科とかでなく、ポルトガル語を選んだのは本当は英語を勉強したかったんですけど、帰国子女の方とかいっぱいいる中で自分が英語学科に行っても絶対1番にはなれないだろうと。逆に18歳の浅はかさでポルトガル語を勉強してそれだけニーズがあるかといったらそうではないことまでは思いが至らなくて。ポルトガル語とかニッチな言語を習得して、その中で1番を目指せば、恐らく英語よりは楽なんじゃないかなと思いました。狭い分野でも1位になる方がいいだろうなと考える傾向は、学生時代からあったと思います。

アマテラス:

事業未経験分野で起業に踏み切るというのは簡単ではないと思います。西浦さんの背中を押した要因はあるのですか?

西浦明子:

2つあると思っています。
1つは夫の影響が大きかった。夫にこの事業アイデアの話をしたら、“面白いね、なんでやらないの?やってみたら”とすごい後押しをしてくれました。また事業を始めるにあたって大きな投資が必要ではなかったのと、誰かが始める前にやりたいよねって盛り上がったのでそれが大きかったんですよね。夫は私と全く正反対の性格で普通に生活していたら全然混じ合わなかったような人種なんです(笑)。全然違う友人を通じて知り合ったので、通常の自分の付き合う範囲内の人間ではなかった。共通の友人がいて紹介してもらったんですけど。やっぱり夫の生き方とか考え方に影響を受けたというのもあると思います。

あと1つはその当時出産準備中で時間があって、暇をもてあましていたのがあって、何かやりたいなという思いがあった。出産してからてんてこまいになることはあまり考えずに、今は仕事してないし暇だし何かしようと、それが大きかったんですよね。それでちょっとやってみようと思ったのがきっかけです。

アマテラス:

未経験分野で起業してみた最初の感想は?

西浦明子:

実際にやってみて感じたことは、相対でうちの軒先空いてるから知り合いに貸すわっていうのは全国各地であると思うんですけど、その仲介を専門とする事業者がなかなかない。日本の場合不動産に対しての敷居がいろんな意味で高くて場所を借りたり使ったり、不動産の貸し借りに関して一般の素人は踏み込んではいけない領域だと思っている節がある。

スペースを貸したいけれども、許認可が必要なんじゃないかとか、借りたいけれども資金が必要なんじゃないかとか、不動産事業に対する精神的なハードルが高いと日本の場合は刷り込まれている気がしていて。実はよくよく調べてみるとそこには大きなしがらみも、許認可も、法令もないというのが一つと、不動産業自体が大きなロットを一人の方に販売するとか、大きなロットでの取引が圧倒的に多くて、そこでの手数料を稼ぐところがメインのビジネスが多い。

弊社のように不動産をコンビニ化するというか、小さく切り売りして手数料稼ぐということに対して魅力を感じる方があまりいなかったんじゃないかと思います。

事業に手応えを感じ、強い使命感に変わっていった

アマテラス:

この事業の手応えや成長性はどの辺りで実感しましたか?

西浦明子:

今、『軒先ドットコム』と『軒先パーキング』という2つのサイトを運営しているのですが『軒先ドットコム』は始めた当初から“場所探してるんです”というお声が非常に多くて、その方々が求めてらっしゃる物件を提供しきれずにいたので、割と始めた段階から評判がよくてこれは市場があるなと感じました。
ただ、モノを販売したり、販促したりするようなビジネスユーザーの方が圧倒的に多くてリピート率はすごく高いので地道にじわじわと伸びてきていますが個人・エンドユーザーの方が『軒先ドットコム』を使ってくれるようになるとより大きく成長するようになると思います。

あと1つのサイトですが1年前に『軒先パーキング』という一般個人向けの駐車場予約サービスを始めました。今週末東京ドームで日本シリーズ見に行くので、東京ドーム周辺で駐車場予約してから行きたいというときに使えるんですね。こちらは『軒先ドットコム』のユーザーの10倍くらいの速さでばーっと増えてきていて、個人・エンドユーザー相手のビジネスは非常に裾野が広いと感じています。

車で出かけられる方は昔からいる訳で、行く先々で駐車場を探すという行為はされているので、それに対して予約できる駐車場がなかった。行き先の駐車場を予約できるという付加価値をつけると意外にニーズが大きかった。

またREIT(不動産投資)物件などの投資用不動産関係のピカピカのオフィスビルも登録いただいている。そういう方は0.1%でも収益あげたいと考えてられる方達なので、リスクも考えられるけど、より収益率を上げたいとか、中に入ってるテナントさんのためにランチ販売される方を誘致して、テナントの満足率をあげたいとか、そういうところをみてくださるかたも増えていて、いろんなニーズを実感しています。

アマテラス:

サービスの『使いやすさ』が利用者増につながっていると聞きましたが?

西浦明子:

『軒先ドットコム』の方はいろんなご商売の方がいろんな用途で使われるので、事前に弊社の方で書類の審査をしますが、提出書類などもわかりやすくサポートしています。クルマでたこ焼きを売られる方もいらっしゃれば、携帯電話の販促会社さんだったりとさまざまです。

一方で『軒先パーキング』の方はクレジットカード1枚ですぐ予約して、その場で使っていただくことができるんですね。スマートフォンとクレジットカード1枚あればどこでも使っていただけるという手軽さがあります。一度使ってしまえばみなさん繰り返し使っていただけています。

アマテラス:

初めてサービスを使って頂く時のハードルが高いと思いますがどう解決しているのですか?

西浦明子:

恐らく弊社のサービスを使われる方は、いつどこに行くかが明確に決まってる方なんですね。どうしても行きたいイベントがあって、例えば東方神起のコンサートが日産スタジアムであって絶対行くことが決まっていて、クルマで行く場合は必ず事前に駐車場とかホテルとか検索・アクションされる方なんですね。

弊社の場合シンプルで、エリアプラス駐車場、例えば“日産スタジアム 駐車場”でインターネット検索すると上位にあがるようにしています。おそらくみなさん行かれることが明確に決まっていて、駐車場を探す行為があらかじめわかっている方なので、そこに予約ができるという付加価値が安心感です。特に今はコンサート会場とかスタジアムとかの周辺の駐車場を多く開拓しています。

アマテラス:

利用料金は他の駐車場より安いことが多いようですね。

西浦明子:

今はそういう風に提案しています。たとえば軒先パーキングの場合は時間貸しではなくて一日貸しなんですね、全部。朝9時から夜夕方の8時までという感じです。近隣のコインパーキングの12時間最大料金よりは安く設定してもらっていることが多いです。その12時間の間は出入り自由で、その間は必ず空いてる保証がある。

サムライインキュベート榊原氏との出会いで道が開ける

アマテラス:

事業を進める中で資金繰りや仲間集めでも苦労されたと思いますがどう乗り越えてきたのですか?

西浦明子:

資金繰りも仲間集めもかなり苦しみました。売る商品がないと仲間を集められないので、物件を集めることが何よりも最初の問題でした。物件を集めるにあたっては、どうしても皆さん能動的に自分の永久資産を何か活用しようという方はなかなかいなくて、“弊社のようなサービスがあるので、1日単位で場所貸せますよ”ということを、啓蒙活動しつつ営業活動しないとなかなかアクション起こしていただけない。

場所を貸してくださる方、しかも人通りが多いところとか付加価値が高そうな、物を販売したり販促活動したりするのに適した場所をお持ちの方を集めるには、やはり人海戦術しかなかったわけですね、その当時は。

最初は私一人でやっていて、途中から夫が協力してくれました。今では夫は軒先株式会社で一緒にやっています。でも私と旦那だけではとても足りなくて、一人営業マンを採用したいということになり、それまで自宅でやってたんですけど、事務所を借りないといけない。人を雇うなら狭くてもいいから事務所が必要だし、給料払わないといけないし、保険もろもろ手続きやらないといけない。最初は旦那と二人だけであればなんとかできたんですが一人正式に社員採用となった瞬間に、あれもこれも用意しなきゃいけないで、ばっと計算すると1000万、2000万円は手元に事業資金としてないと。黒字化もしていなかったので、まずいねと。かつ資金というところだけでなくて、サービスも拡大する中で人的なネットワークも必要になってきます。起業するまでベンチャーキャピタル(VC)という言葉を知らなかったんですね。VCって何をする業種かも知らなかったんですよ、恥ずかしながら(笑)

やっぱり事業やるなら銀行からお金借りるくらいしか手段はないと思っていました、その当時は。でも銀行はできたてのベンチャー企業になかなか貸してくれないし、担保入れて借入するのも怖い。

そんな折、夫の幼馴染で起業して上場まで経験ある人が資金調達のアドバイスをしてくれました(今ではその方は軒先株式会社の役員に就任)。彼の会社はYahooBBのパラソル部隊とかがんがんやって携帯電話やOA機器の販売で急成長した会社だった。

軒先の空きスペースを貸し出すというビジネスモデルにピンと来られたみたいです。彼の会社は年間2万箇所で携帯などの販促をしていたので催事の場所の確保とかで苦労していたのでこれは面白いねと。

事業を大きくするんだったら、まず事業計画を書きなさい、それを持ってVCさんをまわりましょうと、ABCから教えていただきました。それで初めて事業計画書を作ったんです。ただ、今とは環境が随分違っていて、完全なアーリーベンチャーに出資してくださるようなVCさんやインキュベーターさんはなかなかいらっしゃらなかった。

事業モデルが珍しいので、VCさんからのコンタクトは結構あって、投資してくれるのかと勝手に期待していましたが大きな勘違いでした、全然話が進まない。

そういうなかでアーリーステージに特化して出資している人知っていますよとサムライインキュベートの榊原さんを紹介してくださった方がいて榊原さんとお会いしました。彼は初めてあったときから軒先のこと知ってくださっていたんですよ。“僕、軒先のビジネスモデルは面白いと思ってたんですよ”と言ってくださって、2回目に会った時に出資しますとおっしゃってくださって、やりましょうと。そこで話が決まりました。

アマテラス:

まさにホワイトナイトですね。資金が入って次は何をされたのですか?

西浦明子:

営業マンをすぐに入れようということとウェブサイトがすごいひどいサイトだったのでここをテコ入れしようと考えました。

営業マンも実は榊原さんに紹介してもらったんです。“営業マンいい人を知ってるよ”と紹介してもらって、営業マンに対しての研修も含めて榊原さんがやってくださったんですよ。

アマテラス:

出資者が紹介する人でしたら、絶対変な人紹介しないですから安心ですよね。ベンチャーの採用は必ずしもお金があればいい人がとれる訳じゃないので紹介だと安全です。

西浦明子:

本当にそうです。あと、もとのウェブサイトですが外注先を選ぶ目利き力がなかったので、とんでもない会社さんにお願いしてしまったんです。ネット上のサービスで“見積もりください”って出して、一番安いところで発注したら、とてもチープなサイトが出来上がってきました。開発を自社ではやってなくて、デザインはしているけど外注しているというところで、、
ほんとに目利きができないことがどれだけ怖いかっていうのをよくよく感じました。
サムライインキュベート榊原さんが出資してくれたお金でサイトも改善しました。

アマテラス:

西浦さんはもともと営業経験がなかったと思いますが、それはネックにならなかったのですか?

西浦明子:

確かにこれまで営業は経験したことなかったですが他人任せにせず自分でもやりました。“場所を貸してください”とお願いする仕事は職種としては“営業”なんでしょうけど、貸してくださったあなたにも収益がありますよ、こんないいことがありますよやらないんですかという話をするので、自分としては営業しているというより、いいことを教えてあげてるんですという感じで、全然苦痛ではなかったです。

むしろ私が自分で営業をやりたい、でも一人では足りないのでもっと人を欲しいという感じでした。

業界未経験が強みになる

アマテラス:

不動産業界も未経験でしたが?

西浦明子:

良い面と悪い面と両方あって、不動産業界を詳しく知っていたら、恐らくこの領域には深入りしたがらなかったろうなと思うんですね。特に不動産仲介の立場からすれば面倒なことやトラブルは回避するというのが大前提だと思います。決まったルールの中で右から左に物件情報を紹介して、手数料をいただくっていうのが大鉄則で、その中でいかにトラブルを少なくして安定的な収入を得るかが重要なところです。

弊社の場合全く逆で、いろんな人が入れ替わり立ち替わり使っていて、どんな人がくるかもわからないようなお客さんで、一方で単価は安い。仲介手数料はチャリンっていうくらいにしかならないし数をこなしていかないとまわっていかない。普通に不動産業を営んでいる人からするとなんでそんな面倒くさいことをやってるのかと思うでしょう。物珍しい人だなっとしかみられてないんだと思います。それを知らないが故に私はやってしまった(笑)

不動産仲介ビジネスを良く知っていたら敬遠していたと思います。もっと楽に稼げる方法あるのに、そんなわざわざ細かくてトラブルがありそうなところに手を出すのは懸命ではないと判断していたかもしれません。

大手がやるようなことではないし、個人がやるには面倒くさいし、トラブル多そうだし、敬遠されがちな領域なんじゃないかなって思います。この事業を4年やってますが、似たようなサイトは出ては消えています。サイトを立ち上げるだけでは物件情報は集まってこないので、しっかりと物件情報を集めることが大事です。

弊社は特に最初の3年くらいは相当営業をかけて物件の獲得に力を入れました、がりがりがりっと。今では全国で3000件超の物件を集めています。

アマテラス:

逆に不動産の業界知識や常識を知らないことでトラブルが起こってしまったことはありましたか?

西浦明子:

幸いそれはなくて、今に至っています。ですが、最初は業法的に軒先株式会社の立ち位置ってどこなのってよく聞かれたんですね。宅建業の免許とかいらないの?とか。どう考えても1日1000円の駐車場を仲介するのに、重要事項説明する必要あるとはとても思えない。でもそれは私の判断であって、それは御上に判断してもらわないといけないので、国交省にサービス確認してもらって、お宅は宅建業免許いらないですよと確認しました。場所のレンタルになるので賃貸業ではないですねと確認していただいたので、それ以降は安心してウェブ上で成約できるようになりました。

最初は軒先の事業はグレーなんじゃないかとか、何の根拠もなく言われることあったんですよ。最初は実績もなかったですし。法的な部分はしっかり白黒させないと、大きくしていく中で問題があるだろうと感じたので。

実際に事業をやってみた中で場所を貸してくださる方は、いろんな方が入れ替わり立ち替わり使うのを漠然と不安に思う方もいらっしゃるので、途中から保険を導入したりはしました。やりながら一個一個出てくる問題を丁寧に対応しているという感じですね。

女性だからこそ

アマテラス:

会社も拡大しつつありますが、女性経営者としての難しさ、事業をするうえでの壁はどのようなものがありましたか?

西浦明子:

今のところあまり問題はないのですが、子育てをしながらという点では独身男性と比べると事業に割ける時間が半分以下だと思うんです。
私は基本的に勤務時間が平日は9時から19時までです。子供が寝たあとの時間帯とか、早朝とか週末に仕事をする感じです。なかなか時間的に余裕はないですね。

私は起業するタイミングが出産と同じだったのですが、可能だったら独身で子供がいない状態で起業した方がいいんじゃないかなと思います。同じことを勧めるかというと、できるなら早いうちに、独り身の内に起業したほうがいいと思いますね。

アマテラス:

女性だからこそ良かったことはありましたか?

西浦明子:

女性だからこそ得したことは多くて、例えば不動産業界は女性(経営者)が少ないのですがその分注目されて、弊社事業を取り上げて頂くことが多いです。不動産業関係の会合にはよく顔出すようにしているのですが、教えて頂けることも多くて女性だからこそ得したことの方がすごく多かったと感じています。

アマテラス:

最初にふとしたきっかけで始めた事業ですが、事業を始めてみて西浦さんの意識はどう変わりましたか?

西浦明子:

軒先の事業は小さく始めたのですが、ユーザーからの反響がすごく大きかったので、これはやはり役に立ってるサービスなんだなというのを強く感じました。このサービスが世の中に受け入れられないはずはないだろうという大きな妄想があったのですが事業に取り組む中でそれが揺るがないものになってきています。そこが大きなモチベーションの源になっていると思います。

軒先ドットコムで場所を借りてお野菜を売ってらっしゃる方とか、お弁当売ってらっしゃる方とか、軒先ドットコムの場所が明日なくなったら生計立てるのに困るだろうなっていう方が最近増えてきました。目指しているのは軒先がそうやって社会インフラになっていくことです。ちゃんとした店舗を構える代わりに店舗の軒先をにわか店舗に仕立ててビジネスをする、そういう方たちが大勢いらっしゃるので、おいそれとは辞めるわけにはいかない事業になったなと強い責任を感じています。

アマテラス:

軒先株式会社の直近、中長期の経営課題を教えてください

西浦明子:

直近で言うと、弊社は『軒先パーキング』に軸足を置いていて、『軒先パーキング』は『軒先ドットコム』の初期段階のように駐車場の数を全国に増やそうという段階にあるんです。『軒先パーキング』の駐車場数を全国規模で増やすことが目下の課題です。

中長期的には、遊休地を有効活用するという概念と軒先の事業をより多くの人に知っていただきたいです。
特に『軒先ドットコム』の場合はビジネスユーザーさんがメインですけど、もっと一般個人の方に使ってもらえるようにしたいですね。例えば、趣味で作った手芸品を週に1回売ってみたいとか、生け花教室を開きたいけど家でやるほどでも、店舗を借りてやるほどではないけど毎週火曜日に定期的にやりたいとか。個人の方の趣味もしくは起業の一歩手前の活動の新しいインフラになりうるだろうなと。まだそこまで一般の方にアプローチしきれてない。ただ裾野はすごく広いなと思っています。

個人が情報発信できる(ソーシャル)メディアが増えてきていて、個人の方が教室を開くとか、オンラインで発信できたりとかたくさんあるんですけど、その手段の一つとしてリアルな場所を提供するインフラになりたいと思ってます。もっと一般個人の方に対してサービスを拡大していきたいなと思います。

アマテラス:

西浦様の目標や夢について教えてください。

西浦明子:

“軒先”の事業を広く拡大していきたいっていうのは目指しているところであって、コンビニの数ほどではなくてもワンブロックに一つ位“軒先”のステッカーを貼ってある状態にしたい。“軒先”をブランドにしていきたいですしね。

『軒先ドットコム』の方は現在は具体的な数値目標はおいてませんが、『軒先パーキング』は全国で3万台は目指したいと思ってます。3年以内に。今はまだ1,000台分くらいです。
TIMESさんのコインパーキングが全国で40万台あるんです。ほかのコインパーキング事業者さんもいれると200万台以上はあってとても大きなマーケットのビジネスだと思います。要はどれだけ軒先のサービスが認知されるか、必要とされるかだと思います。

当たり前だと思っていることを “なぜなんだろう” と疑ってみる

アマテラス:

起業を考えている若い方や女性向けにメッセージをお願いします。

西浦明子:

当たり前だと思ってることを、改めてなぜなんだろうと問い直してみることってとても大事だと思っています。当たり前だと思っていることを視点を変えてみてみると実は当たり前でなかったことが意外とあるんです。
誰にとっても価値がないと思っていたものが、視点を変えるとお金が落ちているように見える。私は町を歩いていると空きスペースがそう見える。1日1万円で貸せるのにって。同じように見える風景も見方を変えると見えてこなかったものが急に見えてくることがある。そういう視点をもつこと、自分が解決したい問題を常に意識していると見えてくると思う。

私自身、もともと起業なんて考えてなくて偉そうに言えることは何ひとつないんですが(笑)、特に学生時代や若いうちに楽しい経験でも辛い経験でも、リアルな経験をたくさんするのがたくさんするといいと思います。留学したり、異文化に触れたり、いろんな人と意見交換したりとか。新しい経験をたくさん積むのは人間としての引き出しを増やすことになると思います。スマホばっかりいじってないで、外に出てください!(笑)

アマテラス:

まったく同意です(笑) 西浦様、ありがとうございました!

この記事を書いた人

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藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』

軒先株式会社

軒先株式会社
https://www.nokisaki.com/

設立
2009年04月
社員数
15名

《 Mission 》
『軒先から始めよう、最初の一歩』 『あなたのスペースが作る日本の未来』
《 事業分野 》
建設・不動産
《 事業内容 》
週貸し・1日貸し・時間帯貸しスペースの検索・予約サイト『軒先.com』の運営
社会問題を解決するシェア型パーキングサービス『軒先パーキング』の運営
個人間の自転車シェアサービス『軒先シェアサイクル』の運営