フードテック(FoodTech)スタートアップ(3):スタートアップが解決する農産物流通3つの課題

農業総合研究所が展開する「都会の直売所」。「道の駅」などで売られているような生産者が好んで生産した農産物を都会のスーパーで購入できるビジネスモデルだ。(出典: http://j-net21.smrj.go.jp/expand/agriculture/entry/20130318101.html )

 

シリーズ・フードテック第三弾は農産物の流通を追います。

生産・輸入・加工してから飲食店や食卓に届けられるまでの食品流通過程には多くの構造問題があることを指摘するメディアは多数見受けられます。しかしあまりに問題が多すぎて、何が本当の問題なのかがはっきりしない、と考えている人も多いのではないかと思います。そこでアマテラスではベンチャー企業/スタートアップの活動に着目し、日本の食品流通、 特に野菜や果物に潜む課題を3点ほど提案させていただければと思います。

1.生産者が好きなものを売れず、農家のこだわりが伝わらない構造

農業総合研究所が展開する「都会の直売所」。「道の駅」に並ぶ直売農産物を都会で購入できるビジネスモデルだ。 (出典: http://j-net21.smrj.go.jp/expand/agriculture/entry/20130318101.html)

農業総合研究所の倉庫。農家が自ら選んだ農産物がここで仕分けされて全国のスーパーへと運ばれる。http://j-net21.smrj.go.jp/expand/agriculture/entry/20130318101.html

日本で最もオーソドックスな農産物流通である系統出荷は、生産者が自ら生産した1種類の農産物を農協に出荷するところから始まります。そして卸売市場の卸・仲卸を経て小売店に並ぶという形態をたどっています。このルートは一つの地域で生産した大量の農産物を都会に輸送するには極めて高い効率を発揮し、今日でも青果物の62.4%が市場経由で運ばれているなど、農産物流通の主要な手段となっています。

しかし農協経由での出荷は、農家が自分で好きな作物を栽培してはいけない仕組みとなっていました。地域ごとに一つの作物の産地を形成しなければならないことをJAが定めているため、地域の農協では生産作物を指定しそれ以外の作物は流通できない仕組みとなっています。例えばりんごを栽培しなければならない地域と定められた地域の農協はりんご以外買い取ってもらえないため、ぶどうや桃が好きで高い栽培技術を持っている農家であっても農協では取り扱ってくれないという構造が成り立っていました。

この構造の転換に挑むのが、和歌山県に本社を置く農業総合研究所です。同社では都会のスーパーや百貨店などの野菜売り場の一角に産直コーナー(「都会の直売所」)を設け、その場所に農家が直接出荷できる流通システムを提供しています。このシステムの活用により、農家では自分たちが好きな作物を栽培し出荷することができ、かつ市場価格よりも高い価格で販売することを可能にしています。

2.ミスマッチの多い産業構造〜食料廃棄の多さと必要な食材が手に入らない両輪〜

食関連の質問に答えるAndroidのアプリ・FoodQ。匿名性で安心して質問できることに特徴がある。(出典:http://food-q.com/lp/)

野菜や果物の流通を始めとする食品業界は、流通過程における無駄の目立つ業界でもあります。生産・流通・加工・配送の分業がなされていて、それぞれの業者間で評価基準が異なるために、流通過程で多くの農産物が価値のないという判定を受け廃棄される現状にあります。また情報の分断が起こるため、産地偽装などの遠因ともなっています。

この弊害は相当なもので多大な経済損失を起こしています。農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)の立ち上げメンバーを務め国内の食品流通に詳しい菊池紳氏によれば、食料廃棄の経済規模は日本で11兆円、アメリカで13兆円、世界では74兆円ともいわれ、生産現場での未出荷や廃棄を入れるとこの1.5倍になるという試算を出しています。一方世界では人口増加による食料不足に悩む国も多く、食料が満たされている先進国であっても安心・安全な食べ物の入手に苦しむ消費者や高品質な食材の入手に苦しむ飲食店関係者が数多く存在するのが現状です。この課題は野菜や果物ですとさらに深刻さを増します。野菜や果物の食品ロス(食料需給表の減耗量)は極めて大きく、その数値は消費者向け仕入れ量のうち前者は10%強、後者は17%と多くても1%~5%程度にとどまる他の食品と比べても多い数値となっています。

このミスマッチにビジネスチャンスを見出す企業もあります。その一例が前述した菊池紳氏が社長を務める株式会社プラネット・テーブルです。同社では狭小エリアで食料の生産者とレストランを直接つなぐ流通サービス「SEND」や食べ物に関する安全性や栄養素などの質問を匿名で利用することのできるQ&Aアプリ「FoodQ」といったサービスを展開することで、食関連の流通プラットフォームを再整備し食品ロスを始めとする流通の無駄・情報の遮断を防ごうと検討を進めています。

生産者から直接仕入れ、レストランへと配送する食流通プラットフォーム・SEND。食品流通過程で出る無駄を省くことを目指している試みの一つだ。
(出典:https://send.farm/lp/)

3.欧米に比べ低い日本人の野菜・果物消費量〜手軽に食べるための工夫が重要に〜

OFFICE DE YASAIで提供される野菜や果物。オフィスでの需要に応え小さめ・少量にしているのが特徴だ。 (出典:http://jp.techcrunch.com/2014/04/22/jp20140422office-de-yasai/)

これまでは生産や加工、流通の過程について話してきましたが、野菜や果物の流通においては消費量の少なさも問題となっています。日本食というと一般的に健康に良いと思われがちで日本人は野菜や果物を多く食べると思われがちです。しかし、現在の日本人の野菜や果物の消費量は世界的に見てもそれほど多いとはいけません。

まず野菜の消費量ですが、2009年の国連食糧農業機関(FAO)の統計を見ると、日本の国民一人あたりの年間野菜消費量は104kgと、中国の270kg・韓国の211kgの半分以下という極めて低い数値となっています。この数値はフランスの142kg、アメリカの123kgを下回る数値であり、欧米諸国と比べても日本人は野菜を消費しない国民ということが言えます。

また、果物に至っては世界的に見ても相当に少ない量となっています。2009年の国連食糧農業機関(FAO)の統計では、日本人一人当たりの年間果物消費量は144gと調査対象の176カ国中でも127位という極めて低い水準にあたります。これは先進国では最低レベル(欧米の3分の1から半分)で、世界平均の200gにも達していません。

その背景としては野菜や果物は手軽に食べられないという問題を抱えていることにあります。多くの野菜や果物は皮をむくなど準備に手間がかかることや量が多すぎて食べきれないケースも多いという問題もあり、年々増加する一人暮らしの世帯、特に若い世代ほど食べない傾向にあるのが現状です。

また果物の場合、野菜同様食材として扱われている欧米に比べ日本は果物をデザートという嗜好品として位置づける傾向にあります。この結果食の多様化に伴い、果物の消費量が抑えられてきたということも消費量が少ない原因として挙げられます。

このビジネスに勝機を見出しているスタートアップ/ベンチャー企業もあります。その一つが「OFFICE DE YASAI」を運営する株式会社KOMPEITOです。この企業はオフィスに冷蔵庫を設置し、季節ごとの旬に合わせて野菜や果物を毎週送るという、「オフィスでグリコ」の野菜版とも言えるビジネスを展開しています。この企業が送る野菜はミニトマトやミニパプリカなど小さなサイズの野菜となっているため、オフィスで気軽に食べられるのが特徴です。調理の手間を省き健康によい野菜や果物を摂取できることからIT系スタートアップを始めとする多くの企業からの注目を集め、注文を増やしています。2014年11月にはキューピーからの出資も決まり、事業規模の拡大に乗り出しています。

必要なのは泥臭い業務に耐えられる人材

また農協の場合、形や品質に対する基準も非常に厳しく、一旦B級品というレッテルを貼られてしまえば、たとえ味がA級品と変わらない・もしくは上回っていても出荷できないというデメリットがありました。さらには無農薬や有機栽培など農協が定めている基準には当てはまらないメリットを持つ野菜を、農協では価値が認められず高い価格で買い取ってもらえないという問題点も生じています。さらには卸売市場を経由するうちに付加価値の情報伝達量が小さくなり、農家ごとのこだわりが消費者に伝わらないという問題も起こりました。

今回挙げた3つの問題は、マスコミでもよく報道される社会問題であるだけにそれらに取り組むスタートアップ/ベンチャー企業も注目されることは多いです。これらの企業は拡大志向も強く、多くの人材ニーズがあります。

しかし世間の注目とは裏腹に、実際の業務には極めて泥臭いものがあります。例えば、農家を訪れて交渉する営業や自社での配送、冷蔵庫での在庫管理など一見するとスタートアップ/ベンチャー企業とはとても思えないような業務内容も含まれます。これらの業務に耐えられる人材こそ、強く求められているといえるでしょう。

参考文献

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。