Agtech(農業ベンチャー)1:家庭菜園に切り込むスタートアップへの招待

安心・安全かつ新鮮な野菜を自分で作れるのが魅力の家庭菜園。市場規模も拡大中だが・・・(参照:http://www.photo-ac.com/main/detail/203386?title=%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E8%8F%9C%E5%9C%92)

皆様はAgtechという言葉をご存知でしょうか?これはAgricultureとTechnologyを掛け合わせた言葉で、最新のテクノロジーやアイデアを持って農業分野に革新を起こそうと動くベンチャー企業/スタートアップのことです。欧米を中心に数多くの企業が登場し、最近ではTechcrunchなど欧米系のベンチャー/スタートアップのメディアでも数多くの記事が書かれている存在にまでなっています。

ただ残念なことに、Agtechは日本ではあまり報道されていません。日本の農業規制の厳しさや既得権益の大きさにより、なかなか新しい試みを実施できないことが大いに影響しているといえるでしょう。しかし、最近ではアベノミクス「第三の矢」の成長戦略でも、農業分野の規制緩和が重要視されるなど農業分野においてもベンチャー企業/スタートアップが活躍できる土壌が整えられつつあり、実際に動き出し始めたベンチャー企業/スタートアップも出てきました。また農業問題はよく報道されるだけに人々の関心も高く、実際にアマテラスを訪れる転職志望者の方にも農業に興味のある方は数多くいらっしゃいます

アマテラスではこれから日本におけるAgtechをご紹介していきたいと思います。第一弾としては拡大傾向にある家庭菜園市場に触れます。

家庭菜園市場はかなり大きく、潜在ニーズも高い。

安心・安全かつ新鮮な野菜を自分で作れるのが魅力の家庭菜園。市場規模も拡大中だが・・・(参照:http://www.photo-ac.com/main/detail/203386?title=%E5%AE%B6%E5%BA%AD%E8%8F%9C%E5%9C%92)

家庭菜園市場はデータで見ると極めて可能性の大きな市場となっています。実際家庭菜園を含むガーデニング市場は2013年時点で2,220億円(矢野経済研究所調べ)と、映画の興行収入(2070億円,2014年)や人材紹介業(1850億円,2014年)を超える市場になっています。また2013年時点での野菜苗・果物苗市場の規模も150億円と同年の3Dプリンターと同規模の市場規模を誇るものになっています。

また家庭菜園は潜在ニーズも高い市場でもあります。世界最大の電動工具メーカー・ブラック・アンド・デッカーが2011年から2012年にかけて行った調査によると、ガーデニング・家庭菜園に「興味がある」と答えた人の割合は全体の62%。このうち「すでに実践している」のは2割強(23%)ですが、「今後はじめたい」と考えている層も2割近く(18%)にのぼりました。このデータは少々古いデータではあるものの、家庭菜園に対する期待の大きさが伺えます。

食の安全問題や野菜の高騰などが数多く報道される中、家庭菜園は子育て世代や定年退職後の60代以降の世代を中心に注目を集めつつあります。そのため今後も市場規模が拡大すると予想されています。

土地問題が大きな制約に

前述通り家庭菜園の潜在需要は非常に高いものの、供給面で大きな課題を抱えています。それは①土地の問題と②道具の問題に分類されます。

①土地の問題

人口が多く市場規模の大きい東京や大阪などの大都市では庭を設けられるほど広い土地を買うのは容易ではありません。そのため市民農園に頼ることとなりますが、大都市の場合増加傾向ではありますが数が不足しているのが現状です。2010年時点での競争率は、東京都特別区で2.6倍、大阪市で2.8倍、川崎市で3.8倍、名古屋市に至っては4.2倍という極めて大きなものになっています。

また市民農園や貸し農園を増やそうとすると規制の厚い壁にあたるのも現状です。農地の貸し出しについては認められるようになり、市民農園についても平成17年の特定農地貸付法の改正により企業やNPOによる供給が可能になるなど規制緩和は進められつつあります。しかし、企業による供給所有は未だ認められていないなど規制は未だに厚いものとなっています。

特に壁となっているのが個人農家の代表や農協、市町村の担当者による農業委員会の存在です。個人の農地を貸し出したり、市民農園に転用する際には、農業委員会の許可が必要なため非常に時間がかかります。これは本来農地が適切に利用されているかを監視するために設けられている規制ですが、実際は「地元が反対しているからダメ」など根拠のない理由で転用や貸し出し許可をさせないケースが目立ち全国的な問題となっています。

また農地には相続税がほとんどかからないなど、農家が農地を手放すインセンティブは乏しいものになっています。そのため農家は耕作しない農地を将来公共事業や住宅地での転用を図るために持ち続けてしまうという問題が発生しています。これが故に家庭菜園をやりたい人は多いにも関わらず、耕作放棄地は増加し続けるという一見すると矛盾した現象が発生しています。

②道具の問題

家庭菜園を行う際には手ぶらでは当然できません。野菜や果物の種や苗、水をやるためのジョウロ、土地を耕すための鍬、成長を促すための肥料など数多くのものが必要となります。これらをホームセンターなどで購入するとなると農地を利用する以外にも多額の費用がかかってしまいます。また農器具には非常に重く嵩張るものも含まれるため、保管場所に困る・自家用車での移動が必要になるなどの問題を抱えています。特に東京や大阪など自家用車の所有が難しい場所では、自家用車がないとできないというのは大きな制約条件になってしまいます。

注目される家庭菜園に関するスタートアップ

株式会社アグリメディアが展開する「シェア畑」。(参照:http://www.sharebatake.com/farmer/kawasaki-tama/)

そんな中注目されるのが、農地のレンタルサービスを実施するベンチャー/スタートアップです。

その代表例といえるのが。株式会社アグリメディアです。同社はサポート付きの貸し農園「シェア畑」を首都圏の1都3県にて運営しています。野菜栽培経験の豊富なスタッフによる指導が受けられる、農器具や苗・肥料など栽培に必要な道具はすべて利用料に含まれるなど、始めて家庭菜園を行いたいユーザーにとって気軽に使えるのがこの農園の特徴です。基本的には住宅地に設けられた場所が中心ですが、駅に近い立地も多く中には千駄ヶ谷など東京都の中心部に設けられた場所も存在します。月額使用料は1万円前後と自治体が運営する市民農園に比べて高いものの、手ぶらでいける気軽さや週1回の世話だけで済み初心者でも安心できるサポート体制により人気を集めています。シェア畑は49農園、5,500区画にまで拡大し、会員数は1万人に迫っています。最近では収穫体験のみを実施する事業や農園の近くでのレストラン事業を開始するなど、「気軽に農業体験」をコンセプトに行う事業を数多く営んでいるのも特徴です。

その競合といえるのが株式会社マイファームです。こちらは関西を中心に11都府県に体験農園を展開し関東ではアグリメディアとの熾烈な競争を繰り広げています。同社では「自産自消」(「自分で野菜を作り、収穫し、食べるという一連の作業を通して、一人一人が自然と対峙し、自分の世界観を深め、他人との共生を考える、そしてそこから、より豊かな生活が得られる社会を作ること」)をコンセプトに農業の現場と農業に関心のある個人をつなげる事業を数多く展開しています。株式会社アグリメディアよりもプロ志向の強い傾向にあり、農業経営者を要請する学校である「アグリイノベーション大学校」や農具専門セレクトショップ「My Farmer」などがその代表例といえます。

マイファームの農園。アグリメディアの競合にあたるが、強いのは地盤の関西。京都が拠点だ。(参照:http://myfarmer.jp/farms/61/)

ロジックだけでなく感情も必要。タフな交渉力が求められる。

家庭菜園にベンチャー/スタートアップが入るようになったのはここ2~3年での出来事ですが、メディアでの注目度は高くそれが故に拡大傾向にあります。故に人材ニーズも多いのが特徴です。

ただし極めて流動性が低い農地の貸し出し数を増やすことがビジネス拡大のカギとなる分野であるだけに、長い時間をかけて一つの事業に取り組めるだけの泥臭いことができる人材が必要です。特に営業では農地を持つ地主との粘り強い交渉のできるタフ・ネゴシエーターであることが確実に求められます。現にアグリメディアの諸藤社長も、大手不動産業にて数年がかりの大型プロジェクトを務めた 経験を生かして農業委員会との交渉に成功した経緯があります。ロジックだけでなく感情に訴えるのも苦にしないというのも、家庭菜園のベンチャー/スタートアップにて求められる要素といえるでしょう。

参考文献

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。