日本から外国に留学することが盛んになってくるに連れて留学支援サービスが増えてきましたが、果たしてベンチャー企業が留学関連ビジネスに参入することは可能であるのか?
大手留学支援団体が奨学金サービス、留学先紹介、手続きサポートなどのサービスでビジネスを展開してある程度安定しているように見受けられますが、果たしてベンチャー企業が応えることの出来るニーズは存在するのか、また参入するメリットや障壁はあるのでしょうか。
今回の記事では現在の留学の現状と既存の留学関連ビジネスを紹介した上で、ベンチャー企業の留学関連ビジネス参入について述べていきたいと思います。
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留学の現状
一昔前では、留学は「特別な人がするもの」でしたが、現在は大学生をはじめとして多くの人が留学をするようになりました。
その理由の一つにベンチャー企業、中小企業、大企業全てが留学経験を必要としているということが挙げられます。学生も自分自身のキャリア形成のために留学という選択肢を選ぶことが多いと考えられます。
留学によって得られるものは数多くあると言われていますが、中でも仕事に直結する語学力、コミュニケーション能力、問題解決能力、異文化適応能力などの能力を身につけることができると言われています。
だからこそ、企業はそのような能力を兼ね備えた人材が必要であり、学生にとっても自分の将来やキャリアを考えた際に留学経験が必要となってくるでしょう。
しかし、その一方で留学に行きたくても行けない人たちも多くいるようです。
このデータから分かるように「就職」「経済」「体制」などの要因が留学の障壁となっていることが分かります。
一昔前と比べると、留学支援団体などのおかげで留学の障壁が少なくなり、留学に挑戦すること自体の仕切りは低くなったことは事実です。
しかし、留学支援団体などが多く存在するのにも関わらず、未だ障壁はあることは事実です。さらに海外でのテロや感染症が近年になって増えていき、それらも新たな障壁となっていると考えられます。それらの障壁を少なくすることが、グローバル人材の育成につながり、日本全体として企業が求めているグローバル人材が増えていき、世界でも戦っていくことのできる日本企業が増えていくでしょう。
別の視点で考えるならば、それらの障壁による留学希望者達のニーズに応えることがビジネスチャンスにもつながってくるかもしれません。
留学支援サービス
現在存在している有名な留学支援サービスをいくつか紹介します。
①トビタテ留学JAPAN
http://www.tobitate.mext.go.jp/
文部科学省が中心となり、官民協働のもと社会総掛かりで取り組む「留学促進キャンペーン」。意欲と能力がある全ての日本の若者が、海外留学に自ら一歩を踏み出す気運を醸成することを目的として、2013年10月に促進された。
「日本再興戦略~JAPAN is BACK」(2013年6月14日閣議決定)において掲げた目標である東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年までに大学生の海外留学12万人(現状6万人)、高校生の海外留学6万人(現状3万人)への倍増を目指している。留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」の主な取組のひとつとしてスタートした。
②J-CROSS
http://www.jcross.or.jp/about/
留学サービスの事業者団体(一般社団法人 海外留学協議会(JAOS)、留学・語学研修等協議会(CIEL))と、留学を専門に消費者相談や紛争処理を行う消費者団体(NPO法人 留学協会)が協働し、事業者が遵守すべき新たなルール(基準)を作成し、個々の事業者がそのルールを満たすかどうかの認証を第三者の立場で行うために設立した団体。
留学を希望する消費者の合理的な選択と安心の確保、また、一方では、留学サービス事業の適正化に寄与して行くことを目的としている。
③ECC海外留学センターLET’S
語学留学(短期・長期)、大学留学(1年間・正規)、英語+アルファ、ファミリー留学、シニア留学など様々なプログラムがあり、「最短1週間から留学できる」「一人のスタッフが最後まで担当する」などの独自システムを用意している。
④JASSO
JASSOの2つのS、“Student Services”を我々の活動の原点として、学生がどんなときでも安心して学ぶことができるよう、必要なサービスを提供していくことを組織の目的としている。
「奨学金貸与」、「留学生支援」、「学生生活支援」の3つの支援事業を行い、我が国の学生の学びを支える重要なインフラを提供する学生支援のナショナルセンターとして人材の育成に貢献している。
ベンチャー企業による留学支援サービス
上記したようなメジャーな留学支援サービスに加えてベンチャー企業も面白い留学支援サービスを展開しているので紹介します。
①Estrellita
留学生のキャリアコンシェルジュ
http://www.estrellita.co.jp/index.php/business/
〜キャリアコンシェルジュの事業内容〜
・セミナー・研修事業
海外生活予定者向け研修、大学生向けキャリアセミナー、
一般企業向け研修、留学支援会社向けセミナー
・コンサルティング事業
新卒採用コンサルティング、中途採用コンサルティング、
人事制度設計コンサルティング、大学キャリアセンター向けコンサルティング等
・就職支援・人材紹介事業(厚生労働大臣許可番号 13-ユ-303402)
一般企業向け人材紹介、パートナー人材会社向け登録促進および人材コーディネート
キャリアカウンセリングをはじめとする就・転職支援
・「海外生活サプリ」事業
留学希望者と留学生、帰国者、留学支援会社、英会話学校など…
海外に目を向ける人々をつなぐwebコミュニティサイト『海外生活サプリ』の運営
②Fourth Valley Concierge
大学生向け留学支援
http://www.4th-valley.com/services/univconsulting.html
〜Fourth Valley Conciergeの事業内容〜
・人材コンサルティング・採用支援事業
本格的なグローバル化が求められる企業の人材力向上の為、高度人材を採用する為の現地調査→戦略策定→採用支援→定着支援まで一気通貫したコンサルティングを提供している。数十ヵ国の細かな採用ネットワークやノウハウを軸に、貴社のグローバル化における各種ご要望に合わせたサービスを提供。
・大学向けコンサルティング・留学推進事業
大学の国際化(世界ランキング向上)、グローバル人材獲得に関する総合コンサルティングサービスの提供や、海外学生・教員・研究者の獲得支援、日本人学生の送り出し支援、大学の海外広報およびプロモーション代行している。
・グローバル推進事業
大学教授から、パイロット、寿司職人、スポーツ選手まで、あらゆるプロフェッショナルがグローバルに活躍するプラットフォームを創造している。また、翻訳・通訳、海外/外国人リサーチ、インバウンドコンサルティングなど、グローバル化に関わる各種事業を展開している。
③Qコン
日本初の休学コンサルティングサービス
Qコンとは、休学したいor休学している学生のための、コンサルティングサービスを模したコミュニティサービス、つまり休学をテーマにした学生のためのリアルな「溜まり場」をつくりたい、という意味。
〜Qコンの事業内容〜
・休学中の資金調達
・ステークホルダーへの交渉・説得
・関係各所への申請・手続き
・休学だけの関係の友達のネットワーキング
ベンチャー企業による留学関連ビジネスの考察
以上のようにベンチャー企業が留学関連ビジネスに参入している例はあるのが事実です。しかし、参入例はごくわずかで、参入してもビジネスとして拡大して成功しにくいのが現状であるようです。
しかし、留学に関するサービスの需要は増えていくと思います。なぜなら、留学の需要そのものが増えていき、留学の目的や方法が多様になってくるからです。むしろ、トビタテ留学JAPANやECCなどの大手留学支援団体の需要が留学における主要なニーズには答えているため、ベンチャー企業がはじめとなってニッチで多様なニーズに答えていくことが求められてくると考えられます。
それなのになぜ、ベンチャー企業にとって留学関連ビジネスは難しいのでしょうか。
その一番大きな理由は、
資金回収が難しい
ということです。
留学関連ビジネスの資金回収は主に①留学者、②学校、③企業の3者からになります。それぞれに対してどのようなビジネスモデルを展開しているのか、なぜ資金回収が難しいのかを1つずつ見ていきましょう。
①留学者
学生や社会人、自分の専門分野を海外で学びにいくなどの個人で留学先を探して行く人たちに留学先を紹介することや手続きをサポートすることを主とするビジネスです。
個人の留学者から資金回収が難しい理由は、出来高報酬であるため、初期投資を回収するまでに時間がかかってしまうからです。留学先を紹介してもその個人がその留学先を選ばない限り、資金を回収することが出来ないということです。さらに1人の留学者に対する初期投資が大きいビジネスであるため、大勢を対象にしてしまうと資金繰りが難しいという現状です。特に奨学金を借りて留学に行く学生に関しては、リターンを得られるまでの時間がさらにかかりそうです。
②学校
留学先の高校や大学と提携して行い、留学先の学校を紹介することを主とするビジネスです。
この場合も出来高報酬であり、学生が留学先の学校を決めてから資金を回収するケースがほとんどであるため、初期投資の回収に時間がかかるというのが現状です。
③企業
最後に、企業に関しては①と同じような個人に対して留学先を紹介することや手続きを手伝ったりするビジネスを行いつつ、グローバル人材を必要としている企業に留学経験者を紹介するビジネスもモデルです。上記した<ベンチャー企業による留学支援サービス>で紹介したEstrellitaやFourth Valley Conciergeなどが企業を対象とした留学関連サービスの良い例です。
これらはビジネスモデルとしては面白味がありそうですが、やはり出来高報酬になっており、学校を対象にしているビジネスよりもさらに資金回収に時間がかかってしまうのが現状です。また、グローバル人材を必要としている中小企業やベンチャー企業に人材を紹介する場合はニーズがあるものの、楽天やファーストリテーリング(ユニクロ)に対して人材を紹介するビジネスはニーズが少ないと考えられます。なぜなら、それらの企業は自然と留学経験者のようなグローバル人材が集まってくるため、留学経験者をわざわざ紹介してもらう必要性が少ないからです。
①留学者、②学校、③企業のいずれを対象にした場合でも、ビジネスの障壁になってしまう共通項は、「資金回収が難しい」ということになります。
仮にベンチャー企業が留学関連ビジネスに参入する場合は、資金回収を短期間で確実にすることが可能なビジネスである必要性が高いでしょう。そしておそらく、留学の目的や派遣先のように細かいセグメントでターゲティングをするのではなく、”広く浅い”ビジネスの方が向いていると考えられます。つまり、留学者全般に当てはまり、資金回収が早いモデルということです。
アイディアベースではありますが、以下のようなサービスであれば、ベンチャー企業による参入も可能であるのではないでしょうか。
①デリバリーサービス
長期の留学では、一度に持って行くことの出来る荷物が限られている上に、食べ物や書籍など日本でしか手に入らないものが途中で必要になるケースが多くみられます。それらを定期的にまとめて注文することが出来、住居地まで送信するサービスはニーズがあるのではないでしょうか。
②留学中/留学後のカウンセリングサービス
日本からアメリカやヨーロッパなどのアジア圏に留学した際に多くの人が直面するカルチャーショック(自分とは異なる考え方・慣習・生活様式などに接した際に受ける違和感やとまどい)やリバースカルチャーショック(外国から自国に帰国した際に自国の文化に馴染めないこと)の問題があります。それらをskypeなどの機能を使ってカウンセリングを行うサービスです。
特に高校生などは文化の違いを理解できずに苦しんで鬱になる人や早期帰国してしまう人も多いため、カウンセリングサービスも大きな需要があると考えられます。
③地域/学校ごとのOBOGマッチングサービス
留学先の国や学校などに経験した人にFacebook上でコンタクトをとり、相談などが出来るプラットフォームをつくり、その上でマッチングを行うサービスです。これから留学を考えている人は事前に情報収集することや現地の学校の関係者、友達などを紹介してもらうことも可能になり、留学経験者は後輩をサポートすることで自身の経験や学びの増幅、そして何より留学先との関係を続けやすくなります。
④通訳者/翻訳者のマッチングサービス
これに関してはごくわずかなニーズにはなりますが、言語を全く身につけていないのにも関わらず、海外でしか学べないものを学びたい人限定のサービスです。オンライン上、もしくは同行者としての通訳者・翻訳者をマッチングして留学先での学びをサポートするという内容です。具体例をあげるなら、英語が通じない国での教育研究、デザイン研究などを望む人向けとなります。
⑤人工知能による派遣先候補探し
個人によって留学の目的はさまざまになる一方、その目的に対してどのような場所に行けば良いのか判断することが難しくなってきています。派遣先の相談サービスは存在しているものの、文化や現地の学校に関する細かい情報までは入手できない場合が多く、自分自身で全てを探すことは不可能に近いです。そのため、多くの留学先に関するデータを蓄積することが可能になった場合、有能なサービスになることが考えられます。
今回は全般的に留学についてでしたが、次は留学に欠かせない語学についてのサービス(ベンチャー×語学)を紹介したいと思います。
参考文献
http://www.iesabroad.org/system/files/More is better (Dwyer, 2004).pdf
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/san_gaku_kyodo/sanko1-3.pdf
http://www.4th-valley.com/services/univconsulting.html
http://www.estrellita.co.jp/index.php/business/
http://www.tobitate.mext.go.jp/