人工知能(AI)ベンチャーを見抜く3つの方法

近年「人工知能」、「AI」というキーワードが新聞でも散見されるようになり、それに伴うベンチャー企業/スタートアップの試みも多数報道されるようになりました。実際転職相談のためアマテラスにいらっしゃる皆様、アマテラス・オンラインを利用していただいている転職者の方にも興味を持たれている方が多数いらっしゃいます。

しかしこの分野を唄うベンチャー企業/スタートアップ、ないし事業の見極め方には注意が必要です。その理由としては「人工知能」「AI」という言葉は本来の定義を超えて乱用される傾向にあり、質の悪い取り組みも含まれることが多いためです。

では、「人工知能」「AI」分野における優良な取り組み、ないしそれを営むベンチャー企業/スタートアップを見抜くにはどうすればいいのでしょうか?アマテラスなりに考えた3つの取り組みをお伝えいたします。

1.その企業が宣伝している人工知能の技術は本当に人工知能なのか?

株式会社ZMPの自動運転システムを搭載した乗用車「RoboCar」。画像認識などの技術的背景がある技術こそが本当の人工知能といえる。(参照:https://amater.as/companies/62/)

まず重要なのは、該当事業・企業の「人工知能」「AI」が学問的に見てどのような取り組みにあたるかを見抜くことにあります。東京大学大学院准教授である松尾豊氏は、昨年のベストセラー「人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの」によると、世間で言われる人工知能を幾つかの4段階に分類しています。

  1. 単純な制御プログラムを「人工知能」と称している場合。厳密なルールのもとその通りに動くだけのプログラムを「人工知能」と唄っているだけのもの。
  2. 推論・探索・知識をベースにした古典的な人工知能。大量のものをルールに則って場合分けするもので、人工知能が人間とチェスや将棋で対決する際に用いられるなどの利用法が存在。1960年代より研究が続けられている。
  3. 機械学習を取り入れた人工知能。データの入力と出力の関連付けについてデータをもとにして学習する知能で、1990年代から進展している。検索エンジンやビックデータをもとにした人工知能で、現在主流となっている。
  4. ディープラーニングを取り入れた人工知能。機械学習をする際のデータを表すために使われる変数自体を学習する人工知能。米国では近年VCから注目を集める分野となっている。

 この技術的背景をもとにした定義に従えば、自らの商品を「人工知能」「AI」と唄っている企業の本質をつかむことができるかと思います。1番目にあてはまるものについては論外と言えるでしょう。勉強すれば誰でもわかる単純なプログラムをいうパターンであり、全くもって人工知能とはいえません。ただ実際多くの企業で使われているパターンであり、要注意といえます。

 2番目の推論・探索・知識をベースにした人工知能については、研究自体は古いものの、Siri(Apple)やワトソン(IBM)などの源流ともなっている分野です。3番目の機械学習については「ビックデータ」と報道でも活気付いている分野で、多くの企業から提案事項が出ています。どちらもまだまだ新たな研究およびそれを元にした製品が登場する地盤があり、注目できる分野です。そして4番目のディープラーニングについてはもっとも最先端のものであり、これからの進展に期待が持てる分野です。これら3つのうちどれかに当てはまる場合なら「人工知能」「AI」のベンチャー企業/スタートアップないし事業と考えていいのかと思います。

 よって「人工知能」「AI」と唄う企業や事業を見抜く場合は、その事業がただの制御プログラムなのかそれとも人工知能分野のどれか3つに当てはまるものなのかということをしっかり見極める必要があります。宣伝される製品・サービスや企業の技術的背景をきちんと知り、何がどう新しいかを把握するのが求められる能力であると言えます。

2.その企業の宣伝している人工知能で本当に儲けられるのか?社会的意義のある取り組みなのか?

先ほど世の中で宣伝されている「人工知能」には、人工知能と呼べないものから最先端を走るものまで様々な技術的背景があると語りました。では人工知能と学問的に呼べるものを技術的背景としてビジネスを営んでいれば、良いビジネス・良い企業とみなしていいのでしょうか?

 答えはNOです。人工知能が将棋でプロ棋士に勝つ。人工知能がクイズ番組の世界チャンピオンに勝つ。センター模試を受けた人工知能が8割以上の私立大学でA判定を出す。確かに凄い技術進歩です。しかしこれらの結果はあくまでも実験上の技術進歩・学問上の技術進歩であって、直接お金を生み出すことのできる実用的なものではありません。実際、前述した松尾氏によれば、実用的な利用方法が見つからないことが原因で、研究が停滞していた時代もあったと言います。

 では人工知能を用いた収益性のあるビジネスにはどのようなものがあるのでしょうか?米国では既に多くのベンチャー企業/スタートアップが勃興し、既存のプレーヤーも含め実施主体も多様になってきています。ブルームバークのアナリスト・Shivon Zilis氏は、2014年の9月から12にかけて機械学習に関する米国のスタートアップ2500社近くを調べ、次のような相関図を作成しています。

(参照:http://www.bloomberg.com/company/announcements/current-state-machine-intelligence/)

この図で紹介されている企業の中には画像認識や音声認識、自動運転、AR(拡張認識)など既に人工知能分野でよく知られているものもありますが、非常に意外なものがかなり多く含まれているのも特徴です。中でも注目されるのが、医療・法務・財務といった業界・不正検出や人事採用、秘書といった企業内部に関するスタートアップになります。これらの業界は、専門的で潜在的ニーズが高い、IT化の進展が遅く競合が少ない、といった要素があり人工知能が利用されるスタートアップとして注目される業界になってくると思われます。

 日本の場合は米国とは違うニーズがある可能性も期待されます。例えばグローバル化に対応するための翻訳、高齢化に伴う遠隔介護などは注目されるものになってくるかもしれません。

  逆に高度な人工知能技術を使っているものの、実際のサービスは現時点で広く使われているのとさして変わらないネット広告事業だった、なんの差別化要因のないゲームだった・・・といったケースもよくある話です。実際そのようなベンチャー企業/スタートアップも散見され、転職者の皆様およびベンチャーキャピタリストを始めとする人工知能ビジネスに興味のある方々を惑わしている状況が続いています。

 当該企業が売りにしている人工知能技術がどのようにして社会に影響を与えて行こうとしているのか、どんなニーズに答えた方がいいのか。技術だけでなく企業活動として持続可能なビジネスの要素も踏まえつつ、人工知能ベンチャー企業/スタートアップは見抜いていく必要があります。

3.その企業のビジョンと経営者の考えに共感できるか?

最後になりますが、人工知能に限らず最新技術を持ったベンチャー企業/スタートアップに転職する際に必ず重要視しなければならないことを申し上げます。それはビジョンや経営者の考え方に共感できる会社かどうかという話です。

 人工知能などの最新技術が生み出す世界は非常に将来性のあるもので、想像するだけで興奮がとまらなくなるものも数多く存在します。故にとても華やかで、メディアなどに大変注目される動きでもあります。

 しかし、「一緒に働き一緒にビジネスを創り上げる」上で一番重要なのは、その会社のトップにたつ経営者の考え方およびビジョンに共感することにあります。その会社を経営し何を成し遂げたいか。その会社の一員として参画することで社会をどう変えていくのか。その思いが明確な社長・社員がいる会社ほど、先端技術を駆使したビジネスを成功させていると思います。逆にいくら技術やビジネスが優れていても、トップの考え方が脆弱なために人が辞めていき企業として形を為さなくなり終わるというケースも多々見られます。

 人工知能を始めとする先端技術を駆使する企業に転職しようとした場合、どうも技術や事業の方に目が行きがちで、働いている人やその思い、特にトップの考えを疎かにしがちです。特にエンジニアの方の場合には、最新技術取得を目的にしがちなために、転職回数が無駄に増えがちなところがあります。しかし技術は流行り廃りがあるものです。今日最先端のものがある日突然時代遅れになるというのは、日本のガラケーやプラズマテレビ、ブルーレイディスクなどを見ればよくわかるのではないかと思います。機械学習やディープラーニングを始め今日主流となっている人工知能の技術も、明日には違うものになっていたっておかしくはないでしょう。

 しかし経営者の考えやその企業のビジョンを第一に考えて転職活動を行えば、技術やビジネスだけに頼らない自分にあった環境を見つけることができます。自分が成し遂げたいことは何か。その成し遂げたいことに近い考え方を持つ企業と経営者は誰か。これらを真剣に考えることによって、「人工知能」などの流行りのある言葉に惑わされることもなく皆様にあった企業を見つけることができるのではないかと思います。

参考文献

この記事を書いた人

アバター画像


アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。