フードテック(FoodTech)スタートアップ(6):生き残るフードデリバリー・出前ベンチャーとは何か?

以前私は「フードデリバリー・出前ベンチャーの課題」(http://ow.ly/ZPSz0)という記事を書き、市場規模の大きさから世界中で外食店のメニュー配達・出前を事業に営むベンチャー企業/スタートアップが増えているものの、近年閉鎖されるサービス・リストラが行われるサービスが相次いでいるということをお伝えしました。実際記事執筆後4ヶ月が経過しましたが、インドの配車サービスOlaがフードデリバリー事業を休止するなど、更に撤退事例が増えています。

では、現在フードデリバリー事業を営んでいるベンチャー企業/スタートアップはどのような生き残り策を図ろうとしているのでしょうか?またその中から見える、生き残るためのポイントとしてはどのようなものがあるのでしょうか?その答えを、アマテラスなりに考えてみました。

フードデリバリーを営むベンチャー企業/スタートアップは玉石混交

以前の記事(http://ow.ly/ZPSz0)でも書いたように、フードデリバリー事業は日本だけを見ても1兆9348億円(生協の配達なども含める食品配達事業全体)と極めて大きく、市場成長性も堅調なものとなっています。それが故に参入する企業は多く、数ある業界の中でも特に盛り上がっている業界になっています。

しかしそれが故に参入する企業の質もまちまちで、優良ベンチャー/スタートアップかどうかと言われると疑問符を投げる必要のある企業も多くなっています。私自身、VCなどのアドバイスを受け、短期間にフードデリバリー事業から撤退したのち、単なる大手Web会社の下請け制作会社になってしまった会社や食領域とは全く関係のない社会的意義の薄い事業を営むようになってしまった会社を知っています。食関連のスタートアップに関心のある私にとって2015年卒および2016年卒の際就職活動先として考えていただけに、食に関する想いのなさを知って非常にショックを受けました。このような事例もあるため、フードデリバリー事業を営むスタートアップをご紹介する際には慎重にならざるを得ません。

生き残りをかけるフードデリバリーベンチャーの例;株式会社おかん

「オフィスグリコ」の応用事例として知られテレビなどでも紹介されることが多くなった「オフィスおかん」。日頃の食事では不足がちな野菜メニューなど健康によいメニューが多いのが強みだ。(参考:https://company.okan.jp/)

そんな中、興味深いと思うフードデリバリー系のベンチャー企業/スタートアップがあります。法人向け社食宅配サービス「オフィスおかん」や個人向け惣菜定期宅配サービス「おかん」を営む株式会社おかんです。

特に注目されているのが「オフィスおかん」です。このサービスは企業が一定金額を支払うとオフィスに冷蔵庫と専用ボックスが設置され、地方の惣菜店が製造した1ヶ月以上保存可能なお惣菜を配送するという仕組みで成り立っています。商品一つ一つが食べやすく栄養バランスの取れたものであることや単価が100円からという低価格で済むということ、オフィスで24時間いつでも使え好きな時間に食事を摂取することができるという点から、従業員の健康を維持するための福利厚生の手段として人気を集めています。実際働く時間が不規則で食事が乱れがちなIT系ベンチャー企業/スタートアップでの導入が進んでいます。

このサービスを開発した背景には沢木社長の苦い経験があります。沢木氏は新卒入社した企業にて労働時間が400~500時間という激務をこなした際食事が乱れがちとなり、健康診断で「要再検査」という項目が続発する事態となってしまいました。また結婚し子どもが生まれたこともあり、自身の健康を想う機会も増えたそうです。そこで職場に簡単に健康に良い食事をとれる方法はないのだろうか、という考えからオフィスで食べる、という手段を見つけ起業に至りました。

アマテラスではこれまで多くのベンチャー企業/スタートアップの栄枯盛衰を見てきましたが、妻子持ちで初めて起業した事例は少なく注目に値します。また事業についても「働く人に健康に良い食事を手軽に提供する」というターゲットやコンセプトが明確なものになっており、競合の多いフードデリバリー業界において差別化がしっかりした事例であると思います。

フードデリバリーベンチャーに重要なのは「食に対する想い」。

株式会社おかんの例、あるいは以前の記事で書いたこと(http://ow.ly/ZPSz0)を検討すると、フードデリバリーベンチャーが生き残るポイントには、以下の3点が考えられると思われます。

1.差別化十分なビジネスモデル

2.顧客管理や衛生管理などの内部統制

3.経営者の食に対する想い

このうち1.や2.についてはビジネスを成り立たせる上で確かに必要なもので、多くのメディア報道ではこちらが重要視されています。フードデリバリーについても例外ではなく、「健康にいいメニューを自動販売機で販売」・「高級レストランの料理をオフィスでも」というビジネスの特徴が、我々の耳に入ってきます。

しかしフードデリバリーをベンチャー企業/スタートアップという企業体の営む活動となる場合、「3.経営者の食に対する想い」が一番重要な要素になると思います。フードデリバリーに限らず、飲食店・食料品店など食に関する分野は市場参入障壁が低く競争の激しい分野です。その中でも参入し生き残っている企業、およびその企業を動かす経営者には少なからず食に対する強い想いがある人が多いと思われます。その姿勢は伝統を重んじる「瓢亭」や「なだ万」などの老舗料亭、あるいは世界中で賞賛される「Noma」などのレストランの事例を見れば、少なからず我々にも伝わっているのではないでしょうか。

もちろんベンチャー企業/スタートアップにおいても同じことが言えます。これまでアマテラスがフードテックとして紹介した企業の創業者には、震災のボランティアを通じて漁業に関する問題の大きさを知って起業したフーディソンの山本社長、農産物生産と農産物流通両方の現場を見て農業に感謝の気持ちがないことを痛感し起業に至った農業総合研究所の及川社長、友人が経営するITスタートアップと比較し洋菓子業界の構造の古さを変えたいと想い起業したBAKEの長沼社長など、食に対し強い想いがありました。この姿勢がフードデリバリーに関するベンチャー企業/スタートアップにも問われます。先述したおかんの沢木社長のように、妻子持ちという不利な条件を乗り越えてでも食品配達という業界に対し強いビジョン・拘りのある経営者が運営していく必要があると思います。逆に経営者が単に儲かるから、市場規模が大きいからという考えで参入する企業は厳しいと言えるでしょう。

ビジネスモデルや内部統制は真似しようと思えば誰でも真似られることですが、経営者の想いは真似ることはできません。だからこそフードデリバリー系の企業に限らず皆様がベンチャー企業/スタートアップに転職する場合には、自分たちの所属する業界に対し経営者がどのような想いを持っているかに注目して転職先を選ぶべきではないかと思います。

参考文献

  • 矢野経済研究所「食品宅配サービス市場に関する調査結果2015 –コンビニ宅配やネットスーパー宅配、在宅配食は今後も成長-」https://www.yano.co.jp/press/pdf/1414.pdf
  • 三浦天紗子 「【株式会社おかん】逆算思考で、なりたい未来をつかみ取る。~輝き人 第13回~」キャリタスPRESS 2015年12月3日  https://career-tasu.com/media/okan/

この記事を書いた人

アバター画像


アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。