UTEC郷治社長が語る『最先端ベンチャーに求められる人材とは』
【2016年12月UTEC×Amateras 合同セミナー】

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)代表取締役社長 郷治友孝氏

“どのようにシーズ・アーリー段階から、優れたベンチャーを見極めるのか”
“次代を創る最先端ベンチャーになるための条件とは”
“最先端ベンチャーで、活躍できる人材の特徴とは”
新しいベンチャーが最先端技術分野に次々と参入している中、次代を担うベンチャーをいかに見極めるのか?
大学発の最先端ベンチャーに投資しているベンチャー・キャピタル 株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治社長にその手法や、要件を伺い、更に最先端ベンチャーには相応しい人材像について語って頂きました。

郷治友孝氏

代表取締役社長
郷治友孝氏

1996年通商産業省(現経済産業省)入省、株式会社ジャフコ、金融庁出向などを経て、2004年UTEC共同創業。シード・アーリー段階からの投資活動及び全般統括を手がけている。現在数々の投資先の役員に就任し、経営支援を行っている。

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)
https://www.ut-ec.co.jp/

設立
2004年04月

《 Mission 》
ベンチャー・キャピタリストが献身して起業家を支援することで、起業家、研究者、投資家の間で、研究成果の事業化と利益の還元を行う最も先進的なベンチャー・キャピタル・ファームになること
《 事業分野 》
ベンチャー・キャピタル(VC)
《 事業内容 》
東京大学などの大学・研究機関等の技術や人材を活用するベンチャー企業への投資活動を通じたベンチャー・キャピタル・ファンド運営業務

優れたベンチャーに共通する三つの要素

アマテラス:

今日のテーマである「最先端ベンチャーに求められる人材とは」について、郷治さんには投資家としての立場から、私は人材支援をする立場からお話ししたいと思います。 では、一つ目のお題である「どのように優れたベンチャーを見極めているのですか」について郷治さんに伺いたいと思います。

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC) 代表取締役社長 郷治友孝氏(以下敬称略):

投資家の視点ということですが、要はお金を入れる立場ですね。皆さんからすると、人材として、自らのキャリアとして、どのように優れたベンチャーを見極めるか、ということになりますが、この二つはかなり共通していると思うので、その観点からお話しさせて頂きます。大きくは三つの要素があると思います。

一つ目は、その会社が提供している、つまり売っている製品・サービス・技術がどのくらい素晴らしいのか、どのくらいインパクトがあるのか、ということです。
UTECはユニークな技術・研究成果を実用化しているベンチャーに投資をしています。
規模はまだ小さいけれども、或いは起業前でまだ会社はできていないけれど、製品やサービスにどのような個性があるのか、強み、優位性は何なのか、といったことに注目することは、UTECにとって必須です。

二点目は、「チーム」と私はよく言っていますが、一緒に働く人、一緒に組む人が誰なのか、共感して一緒に頑張れる人なのかという点です。ある意味当たり前なのですが、特定の一人だけではなくチーム単位で考えます。
ベンチャー企業には非常にリスクがあり、不確実性も高い。そういう中で一緒に困難を乗り越えることができ、楽しい時も苦しい時も、頼りになる仲間たちが周りにいるかどうかは、とても大切だと思うのです。

三点目は、ビジョンや理念といった、「何を成し遂げたいのか」という事業の背景を見ます。人間にとって仕事はお金の為だけではなく、やっていることに遣り甲斐があるとか、そこで苦労してもよいと思えるような、共感できるものが必要だと思います。

以上のような3つの要素について考えると、僕らは投資家ではあるのですが、「単に儲かればいい」という発想で投資するかというと、そうではないのです。例えば、「上場株を買う」といった方策は儲かるかもしれませんが、そういったことはしたことがありません。やはり理念や人といった面がしっかりしていることが重要です。

多角的な情報収集が最先端技術を見極める秘訣

アマテラス:

トラックレコードや実績として、UTECは技術でブレイクスルーしているような会社に投資をされていると思うのですが、どうやってその技術を見極めているのでしょうか。

郷治友孝:

ベンチャーキャピタル(以下、VCと表記)の世界で何が強みになるかというと、技術シーズや案件・ディールを集めたり、発掘したりする部分と、お金を集める部分との両方があるのですが、UTECの場合はご存知の通り、大学と密に連携しているので、大学関連の色々な情報ソースや学会等から多様な技術の話が寄せられます。そして、他にも様々な事業計画の話も寄せられてくる中で、見極め能力が研ぎ澄まされていくのではないかと思っています。
また、色々なご相談を頂く時にその話だけを参考にするのではなくて、同じ分野や他分野の最新動向を調べたり、話を聞いたりするようにしています。
その中で、「投資をしたい」と思えるような、可能性のある話というのは光るのです。勿論、投資前に知的財産や特許についての調査等をしっかり行うのですが。

アマテラス:

今回UTECと一緒にセミナーをしようと考えた理由の一つに、転職を希望する方がベンチャー企業を探す際に「どうやって探したらいいのか」と困られることが多いのです。そういった時に信頼のあるVCが投資しているベンチャー企業から探すというのは一つの有効な手立てです。 例えば技術系や最先端領域のベンチャーに行きたいとなったら、UTECのような最先端領域に詳しいベンチャーが投資している先から選ぶというのは良い案です。今回のセミナーはそういった思いがあり、企画しました。私自身、技術ベンチャーの見極めは難しいと感じます。

郷治友孝:

先程、製品やサービスの優位性の話をしました。そのことは技術についても同様で、同じ技術を扱う他社や、先行技術との比較は常にやっています。ですから、一つの話だけを聞いて、その良し悪しを判断するということはなく、色々な情報ソース等から検討しているというのが肝心です。
他のVCについても同様な取組みがあると思いますが、特に先端技術についてはそういったことをしています。

「本気」の社長の下に優れた人材が集まる

アマテラス:

人材紹介会社の立場から私がこの質問に答えるとすると、「どうしてその事業をやっているのか」という起業動機を私は掘り下げていきます。 やはりいい会社には人が集まります。もっと言えば、志がとても強烈で、「ここでやりたい」という思いが原体験に基づいている会社には、本気の人が集まるのです。 ですので、郷治さんが仰ったように技術やビジネスモデルも伴っていないといけないと思うのですが、志の『本気度』についてもかなり社長に迫っています。 私の大好きな吉田松陰の言葉に「かくすれば、かくなるものと知りながら、やむにやまれぬ大和魂」というものがあります。素晴らしい社長にはやむにやまれぬ思いがあって始めた人がいます。「誰が何と言おうとやめられない」というくらいの社長の下には、優秀な人が集まりますし、結果的に優秀な人が集まった会社が成功します。ですので、私は社長の動機を重視しています。

ベンチャーで活躍できるのは、自ら考えて動ける人

アマテラス:

では、次のお題に移ります。郷治さんの目から見て、ベンチャーで活躍している人と活躍できていない人とでは何が違うと思いますか。

郷治友孝:

ここは藤岡さんの専門だとは思います、誰かから言われたことをこなして、決められたジョブディスクリプションの中で優秀な人ということではないと思います。どんどん先回りをして、何かあったとしてもリスクや問題点などを考えて動ける方が、ベンチャーで活躍できると思います。勿論求められているジョブディスクリプションも必要ではあるのですが、言われたこと以上をするというのが大切だと思います。

アマテラス:

それができる人たちというのは、どうしてそれができるのでしょうか。

郷治友孝:

先ほど三つの要素について申し上げましたが、それぞれの要素について深く考えているか、共感しているかどうかだと思います。

理念に深く共感し、プライドを捨てる

アマテラス:

私も「理念への共感の強さ」が分岐点だと思います。ベンチャー支援の仕事を14年程していますが、経歴とパフォーマンスの間にはあまり関係がないと感じています。よいパフォーマンスをしている人に共通することは、その会社のビジョンに圧倒的に共感していることです。 共感していると何ができるかというと、プライドを捨てられると思います。前歴のドリームインキュベータ社長の堀紘一さんに私が第一声で言われたことは、「うちの会社で働くには、まずプライドを捨てろ」ということでした。 プライドがあると、色々なことに邪魔をする。プライドを捨ててビジョンに強く共感すれば、自分の得意ではない領域や苦手なこともやろうと思え、素直に働けるということでした。 つまり、何でもできるのです。 ベンチャー企業では何でもしなくてはならず、自分の得意な領域だけ出来ていればいいというわけではありません。そういう時に邪魔をするのが『プライド』だと思うのです。

郷治友孝:

本当にそうだと思います。逆説的ですが、「人から評価をされよう」と思って仕事をしてはいけない。上司から褒められようと思って、仕事をするものではない。

アマテラス:

ベンチャーには破天荒でもハイパフォーマンスな人たちが結構いますが、そういう方たちは「評価されるかどうか」よりも、「やったことを後から承認させる」位の覚悟を持っているように感じます。

ベンチャーには自分で世界を変える可能性がある

アマテラス:

では次のお題です。今のタイミング(※イベント実施は2016年12月)でベンチャーに参画する意味や働く意味、魅力は何でしょうか。

郷治友孝:

多様なことが出来ることです。指示待ちではなくて自分で求めるとか、ビジョンに共感して自分で先回りをするとかがあると思います。
勿論大企業や官公庁でもそれはできますが、より不確実な状況でそれが出来るのです。
2017年以降世界情勢がより混迷していく中で、不確実ではあるけれど、それは同時に自分でコントロールできる、変えられる余地が大きいということです。
全ての人がそういった状況に向いているわけではないのでしょうが、関心があり、ビジョンに共感できる分野で、自らが直接動けるというチャンスがある。

アマテラス:

私がベンチャー支援に携わり始めた2004年頃は、ベンチャーにいると「変人」と言われるような状況で、入社にあたり『親ブロック』や『嫁ブロック』にあうようなことが多かった。しかし、今はようやく少し市民権を得てきたように感じます。メディアでも取り上げられてきていますが、新卒でベンチャーにいく東大出身者がいる時代になった。これは10年前には考えられなかったことです。 5年後、10年後にはベンチャーで働くことはもっと普通のことになっていると思いますが、これが意味することは、5年後、10年後に活躍するには、ベンチャーでの働き方に慣れていないと、厳しい労働環境の中をサバイバルできない可能性があるということです。 これからは所属している企業の規模ではなく、「個」の力をつけないと生き残れない時代になるでしょう。企業として知名の低いベンチャーで働くには「個」の力をつけなければならず、それは大変なことです。言い換えれば、ベンチャーは「個」の力をつけるのにはいい環境です。 ベンチャーに人材を紹介する仕事を6年程していますが、弊社の紹介でベンチャーに転職した方で後悔されている方はほとんどいません。 2011年の東日本大震災翌日に起業をしたのですが、震災を機に人々の価値観が変わったように感じます。震災をきっかけに「人はいつ死ぬか分からない」と感じ、「生きているうちに好きなことをしよう」という考える方が増えたように思います。 「今好きなことをしたい」と思ってベンチャーに行き、その結果失敗したとしても、意外とその次があったりするので、結果的に良い方に転ぶのです。 以上で、UTEC代表の郷治さんとのパネルディスカッションを終わりたいと思います。 郷治さん、今日はどうもありがとうございました。

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)

株式会社東京大学エッジキャピタル(UTEC)
https://www.ut-ec.co.jp/

設立
2004年04月

《 Mission 》
ベンチャー・キャピタリストが献身して起業家を支援することで、起業家、研究者、投資家の間で、研究成果の事業化と利益の還元を行う最も先進的なベンチャー・キャピタル・ファームになること
《 事業分野 》
ベンチャー・キャピタル(VC)
《 事業内容 》
東京大学などの大学・研究機関等の技術や人材を活用するベンチャー企業への投資活動を通じたベンチャー・キャピタル・ファンド運営業務