レガシー産業から先端スタートアップCXOへの道を切り拓く「染み出し」キャリアアップモデル〔後編〕

「先端スタートアップCXOへのキャリアアップを目指したい!」というレガシー企業のビジネスパーソンに向けて、当社では「染み出し」型のキャリアアップをおすすめしています。

「“染み出し型キャリアアップモデル”って何?」という方は、前回のコラムでその考え方の全体像をお伝えしているのでぜひ読んでみてください。

 

染み出しによるキャリアアップの全体像がある程度理解できたら、「自分の場合はどのように染み出せばスタートアップCXOを目指せるのか?」という点かと思います。

この後編では、「染み出し」型のキャリアアップモデルを具体的に実践していくための手法について解説していきます。染み出し型モデルによって、あなたに合ったキャリアアップの方向性を見出すことができればと思います。

キャリアアップの第一歩はスキル・経験の自己分析と方向性決めから

染み出し型のキャリアアップが実現するための第一歩は、現時点でのスキルや経験をたな卸し、何が自分の武器になるかを正確に把握することです。

武器になるものをきちんと理解していれば、あとはそれが求められるフィールドを選んで転職し、キャリアアップをしていけばいいのです。方向性さえ間違えなければ、人それぞれスピード感は違えど、着実に先端スタートアップへと染み出していけるでしょう。

逆に言うと、自分の武器も把握せずに、やみくもに転職をしてしまうと、染み出しのキャリアアップどころか、スキルも経験も通用しない場所でのゼロスタートになってしまいます。

そういった事態を避けるためにも、染み出しのキャリアアップを目指す場合、最初の自己分析と方向性決めが極めて重要です。

この機会に自分のスキルや経験を見直したいと思われた方は、自分用の分析シートを作成しながら読み進めて頂ければと思います。

自己分析:染み出し型キャリアアップモデルの3軸とは

染み出し型キャリアアップを実現していくためには、次の3つの軸をもとに自分の武器を分析していく必要があります。

1.スキル軸
2.業種軸
3.ビジネスモデルツール軸

それぞれの軸について、くわしく解説していきます。

1.「スキル軸」とは?

スキル軸は、これまでの仕事で磨いてきた「成果を出せるスキル」を軸としてキャリアを構築するものです。

「成果を出せる」ことは前提として、スキルの種類によって今後のキャリアアップにおいて染み出せる範囲が異なります。

具体的には、以下の通りです。

専門性が高いスキル群1は、業種・フェーズに影響を受けずに成果を発揮できるという特徴があります。コーポレート(財務経理・人事・総務・広報・法務)の専門スキル、エンジニア、WEB/UIUXデザイナーといったスキルです。例えば、大企業でもアーリーステージのスタートアップでも財務経理で求められる基本スキルは変わらないため、一部上場企業の財務経理メンバーが業種を超えて、規模の小さなスタートアップに転職することが可能です。

ただし、スキルは変わらないと言っても、ワークスタイルやカルチャーは大きく変化します。大企業時代は上司が細かに指示してくれたのに、アーリースタートアップに行くとレポートラインがCXOになり、仕事が丸投げされたり、締切のスピード感が10倍くらい早まったりします。スタートアップ特有のスピード感や業界特有の慣習などになじむ努力は必要となります。

スキル群2は、大きく業種をまたぐことは難しいものの、近隣職種への染み出しであれば成果を発揮できるスキルです。営業・事業開発・マーケティング・企画といったいわゆるビジネスサイド職種は、ビジネスモデルや顧客特性が異なる業種で早期の成果創出は難しいですが、顧客層やビジネスモデル、商習慣が近い業種へ染み出すような転職はお勧めです。

最後のスキル群3は、教育や医療業界のように、規制や独自ルールが多い業界で発揮されるスキルです。他業界での応用が難しいため、業種を超えた転職は難しい傾向があります。逆に言えば、他業種人材が参入しても早期の成果創出が難しく、参入障壁がある業種だとも言えます。キャリアアップを目指す場合は、早期に同業界のスタートアップへの転職を検討しましょう。

例:
教師→Edtechスタートアップへの転職は可能
医師・医療関係者→医療スタートアップへの転職は可能

2.「業種軸」とは?

次は、業種軸です。保有スキルに規定される部分はあるものの、経験業種によっても染み出しの範囲が変わります。

その範囲を分類し、特徴をまとめたのが以下の表です。

業種群1は、幅広い業界を取引先としてビジネス展開を行っているため他業界に関する知見が一定あります。また、業界にこだわらず価値を出せる仕事をしていることで、転職の選択肢が広くなります。

他方、最も染み出しの範囲が狭い業種群3は、いわゆる規制業種や閉鎖的な業界です。これらの業界では、その業界独自のルール対応が求められる一方で、業界を超えたポータブルなスキルが習得しづらく、結果として転職の選択肢が狭められます。]

とはいえ、業種群3に一度就職してしまったら終身雇用以外のキャリアアップ方法はないのか、というとそんなことはありません。

例えば、医療業界の規制や独自ルールの中で活躍してきたMRの場合、顧客やビジネスモデルが大きく変わる他業界の営業職に転職しても思ったような成果が出せないことがあります。しかし、近隣業種である医療スタートアップへと転職すれば、医者への営業スキルや医療業界への知見を活かし、成果につなげることができます。

業種群3は染み出し範囲が限られますが、言い換えると他業種からの参入が難しいとも言え、その業界知識を武器に、同業種の最先端領域へと染み出すことをお勧めします。

3.「ビジネスモデルツール軸」とは

最後の「ビジネスモデルツール軸」とは、先端的なビジネスモデルやツールに関する経験を指します。

代表例としては、以下のようなビジネスモデルやツールで成果を出した経験が挙げられます。

・SaaS
・B2B/B2C/C2Cプラットフォーム
・EC
・サブスクモデル
・The Model型の分業型営業組織構築

スキル軸や業種軸で仮に染み出しの範囲が限定されていたとしても、ビジネスツール軸に属する経験を有していれば、可能性は大きく広がります。

なぜなら、先端スタートアップはビジネスモデルやツールなども先端的なものを取り入れようとする傾向があり、その分野の経験者を求めてしばしば採用をかけるからです。

たとえば、The Model型の営業組織を立ち上げ、一定の成果を上げた実績があるカスタマーサクセスマネジャーであれば、業界を問わず、スタートアップから引き合いがあるでしょう。

レガシー産業にいたとしても、ビジネスモデルツール軸に該当する分野の経験者であれば、スタートアップへの転職も比較的容易です。

とはいえ、スタートアップでは「継続して成果を出すこと」こそが重要です。その分野を単に経験しているだけでは意味がなく、すでに成果を出していることはもちろん、その成果を転職後にも再現することが求められます。

面談時の自己アピールにも役立ちますので、自分がどのように動き、どんな成果を具体的に出したのかを見直し、自身の体験として詳細を語れるようにしておきましょう。

具体例から考えるキャリアアップの方向性

ここまで、自らのキャリアを「スキル」、「業種」、「ビジネスツール」の3軸から分析することで、そこから染み出せる範囲がある程度想定できることをお伝え致しました。3軸からの自己分析が終わったら、次はいよいよキャリアアップの方向性決めです。

染み出しによるキャリアアップをよりリアルにイメージしやすいように、5名の具体例を紹介します。5パターンの事例を通じて、キャリアアップの方向性決めの考え方を学び取っていただければ幸いです。

Aさん(コンサルティング会社のコンサルタント)の事例

Aさんの場合、3軸分析は以下の通りです。

・スキル軸:コンサルタント(スキル群1)
・業種軸:コンサルティング(業種群1)
・ビジネスモデルツール軸:該当なし

業種またぎが可能な専門性の高いスキルと、同じく染み出し範囲の広い業種が組み合わさっているため、キャリアアップの選択肢が非常に幅広い事例といえます。実際、コンサルタントとして培った分析力・企画力を活かし、事業企画としてスタートアップ企業で活躍しているコンサルティングファーム出身者は一定数います。

但し、実行経験の少なさはコンサルタントの弱みとなるため、コンサルタントとしての経験年数が長いと、その年収の高さも相まってスタートアップへのチャレンジが難しくなる傾向があります。

Bさん(メガバンクの法人営業)の事例

Bさんの場合、3軸分析は以下のようになります。

・スキル軸:法人営業(スキル群2)
・業種軸:メガバンク(業種群3)
・ビジネスモデルツール軸:該当なし

規制業種である金融機関勤務のBさんは、業種軸から見ると同一・類似業界への転職がお勧めです。他方、法人営業のスキル軸で考えるともう少し幅が広がり、無形商材を扱う法人営業としてキャリアアップすることも可能です。

豊富な財務知識や中小企業の経営者相手に多数の折衝を行ってきた経験を最大限に活かせる転職先としては、企業を顧客としたフィンテックのスタートアップなどが挙げられます。

Cさん(大手電機メーカーの広報)の事例

Cさんの場合、3軸分析は以下の通りです。

・スキル軸:広報(スキル群1)
・業種軸:大手電機メーカー(業種群2)
・ビジネスモデルツール軸:該当なし

業種またぎが可能な専門性の高いスキルを持つCさんの場合は、キャリアアップの選択肢が多い状況です。広報スキルをベースとした上で5年後10年先を見据え、自分が活躍したい業界やキャリアに繋がる経験ができる企業を選ぶべきでしょう。例えば、B向けサービスの広報として経験を重ねれば市場価値が高まります。

Dさん(物流企業の物流企画)の事例

Dさんの場合、3軸分析は以下の通りです。

・スキル軸:オペレーション管理・企画(スキル群2)
・業種軸:卸・物流(業種群2)
・ビジネスモデルツール軸:該当なし

卸・物流を行う企業でサプライチェーンの最適化設計等を行っていたDさんの事例です。オンライン化が進む一方で、それを支える物流ビジネスは拡大しています。物流×企画の経験を活かしてロジステッィク(物流)スタートアップや、企業数は限られますが自社で物流機能を持つスタートアップといった方向性が考えられます。

Dさんは、ファッションサブスクスタートアップにて最先端の還元物流を経験してキャリアを磨き、市場価値を高める選択をしました。

Eさん(大手IT企業のインサイドセールス)の事例

最後に、ビジネスモデルツール軸の要素も併せ持つEさんの3軸分析を見てみましょう。

・スキル軸:インサイドセールス(スキル群2)
・業種軸:IT企業(業種群1)
・ビジネスモデルツール軸:The Model型の分業型営業組織構築

様々な業種のDX化に取り組むIT企業経験者は染み出せる業種が広くなります。それに加えて、The Model型の分業型営業組織に従事した経験は、B向け事業にてThe Model型の分業型営業組織を導入及び導入検討する多くのスタートアップから評価されるでしょう。

大手企業では分業型営業組織の一端を担う存在だったのが、その経験を活かして営業組織構築の中核人材としてキャリアを積める可能性があります。

まとめ:自らのスキルを磨いて値札を高め、100年時代を生きる

レガシー産業で働くビジネスパーソンにもスタートアップのCXOへの道は開かれています。そのエッセンスは以下です。

・スタートアップ転職に必要なことは「名札」ではなく「成果を出せるスキル」と心得る。
・今いるカイシャで「スキル」を確立する努力をする。
・スタートアップ村に入るのは早いほどよい。
・スタートアップ村でスキルを活かして成果を出し「自分の値札(市場価値)」を持つ。
・スタートアップ村を染み出すように上昇し、他社から”値札”を提示される人材になる。
・CXOへの道は無数にあるがスキル・業種・ビジネスモデルツールという3軸を駆使する。

世界のプロサッカー市場で長友選手や本田圭佑選手はトップレベルまで駆け上がりました。
彼らが高いサッカースキルを有していたのは確かですが、彼ら以上に才能に恵まれた選手はたくさんいたはずです。トップレベルに到達できたのは「道の選び方」に工夫があったからだと思います。

成熟したサッカー市場でトップに昇り詰めるのは大変ですが、スタートアップビジネスは変化が早く、裾野の広い成長市場ですので工夫次第で業界トップになりやすい世界です。
ここで示した ”スキル・業種・ビジネスモデルツール” を駆使すればCXOの道を創出することが出来ると思います。

ただし、本コラムで繰り返してきましたが、それを実現させるベースは”スキル”です。

レガシー産業では、サラリーマンとして生きるためには”カイシャ人”である必要があります。しかし、”カイシャ人”の寿命は45歳で実質的に終わってしまいます。

人生100年時代。このコラムを読んでいただいた方の多くは生涯現役の「社会人」として働いていきたいと思っているはずです。そんな方々にアマテラスは「スタートアップCXO」をキャリアオプションの1つとして提案します。その過程でスキルを磨き続け、自分の値札を上げ続ける努力をしてほしい。安定はカイシャに求めるのではなく自分に求めてほしい。

このコラムをきっかけに生涯現役のビジネスパーソンで溢れる社会になりますように。

この記事を書いた人

アバター画像


藤岡 清高

株式会社アマテラス代表取締役社長。iU 情報経営イノベーション大学客員教授。 東京都立大学経済学部卒業後、新卒で住友銀行(現三井住友銀行)に入行。法人営業などに従事した後に退職し、慶應義塾大学大学院経営管理研究科を修了、MBAを取得。 2004年、株式会社ドリームインキュベータに参画し、スタートアップへの投資(ベンチャーキャピタル)、戦略構築、事業立ち上げ、実行支援、経営管理などに携わる。2011年に株式会社アマテラスを創業。 著書:『「一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?」と迷う人のスタートアップ「転職×副業」術』