モノづくりとスタートアップの融合で最もイノベーションが起こる場所。充実した支援で産業の成長を加速させる

愛知県経済産業局スタートアップ推進課主査 金丸良氏

愛知県は、地域の強みである圧倒的な産業集積を基盤に、伝統的なモノづくり文化と高い技術力を掛け合わせることで新たなイノベーションを生み出し、産業の成長を加速させるエコシステムの構築を目指しています。その取り組みの一環として、2018年に「Aichi-Startup戦略」を策定し、これに基づいて「STATION Aiプロジェクト」を推進してきました。

このプロジェクトの中心的存在となるのが、日本最大のスタートアップ支援拠点「STATION Ai」です。2024年10月1日からスタートアップ企業やパートナー企業などが順次入居を開始し、10月31日にグランドオープンを迎えました。

今回お話を伺ったのは、愛知県の経済産業局、スタートアップ推進課で働く金丸良氏。スタートアップ推進課での仕事内容やSTATION Aiについて、愛知県のスタートアップ事情など、ざっくばらんにお話しいただきました。

金丸良氏

主査
金丸良氏

愛知県庁に入庁後、中小企業の 経営支援等に従事した後に、大手民間シンクタンクに出向し、民間企業と地方自治体の協業に関する業務に携わる。県庁に戻った後は、航空宇宙産業支援を経て、現職。スタートアップ推進課では、スタートアップの資金調達支援や海外展開支援を担当。中小企業診断士。

愛知県経済産業局スタートアップ推進課

愛知県経済産業局スタートアップ推進課
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/startup/

≪主な業務≫
スタートアップの起業や事業化、スケールの支援、スタートアップ支援機関等との連携、STATION Aiのスタートアップ支援コンテンツの検討等

スタートアップ推進課の立ち上げ当初から携わる

アマテラス:

現在、金丸さんが携わっているお仕事について教えていただけますか?

愛知県経済産業局スタートアップ推進課 主査 金丸良氏 (以下敬称略):

愛知県庁の経済産業局、スタートアップ推進課に所属しており、スタートアップやオープンイノベーションに取り組む事業会社の支援などを手がけています。「STATION Ai」というスタートアップ支援やオープンイノベーションの推進に特化した拠点のソフト面での支援の設計をSTATION Ai株式会社と一緒に取り組んでいます。スタートアップ推進課は2019年に設立された部署で、立ち上げ当初から私も携わっています。

日本で最もイノベーションが起こる場所「STATION Ai」

アマテラス:

愛知県とSTATION Aiの関係について、教えていただけますか?

金丸良:

もともとSTATION Aiは、スタートアップを起爆剤にイノベーションを起こす目的のもと、愛知県庁が構想したものです。スタートアップ推進課を立ち上げた2019年に構想を公開しました。

STATION Aiの構想は、愛知県知事の「日本で最もスタートアップが集積する場所を作る」という考えを象徴する拠点として始まりました。STATION Ai事業は、整備・運営を担う事業者を愛知県が公募し、ソフトバンク株式会社を選定、同社の100%子会社である「STATION Ai株式会社」が受託事業者となっています。

STATION Ai株式会社が10年間の施設運営権を保有するため、一般的な行政の委託事業と比べて裁量が大きいことが特徴です。

今年10月にオープンしたSTATION Aiの外観。500社のスタートアップと200社のパートナー企業が入居する。

今年10月にオープンしたSTATION Aiの外観。500社のスタートアップと200社のパートナー企業が入居する。

数多くの企業との関わりがスタートアップ支援で生かされる

アマテラス:

続いて、金丸さんの生い立ちやキャリアについて教えていただけますか?

金丸良:

南山大学の法学部を卒業後、愛知県庁に入庁しました。入庁後は中小企業支援や航空宇宙産業支援などの産業系の部署を長く担当しました。そのほか、民間企業(シンクタンク)に1年ほど出向しています。2019年9月にスタートアップ推進課に異動してから5年以上この仕事をしています。

アマテラス:

金丸さんがスタートアップ支援の部署に携わるようになった背景について、お聞かせいただけますか?

金丸良:

人事異動ではあるのですが、異動直近の航空宇宙産業支援の部署で新規事業の企画やスタートアップ支援の事業にも関わり、プライベートでもNPOや中小企業の事業開発などのプロボノも経験していたため、スタートアップ推進課に配属されたことに違和感はありませんでした。スタートアップ推進課でも、それまでに培ってきた企業や人との繋がりを活用できる機会も多くありましたし、なにより新しいことに挑戦することを前向きに捉えてもらえる部署のため、性に合っていて楽しく働かせていただいてます。

愛知県はモノづくり企業とのビジネスにぴったりの場所

アマテラス:

ずばり、愛知県でスタートアップを起業する魅力はどこにあると思いますか?

金丸良:

スタートアップの起業・経営に必要なリソースが最も集まっているのは東京で間違いないはずです。東京以外の地域で起業する意義が大きいケースは、「それぞれの地域が持っているリソースを上手に使いたい場合」だと思っています。

特に愛知県の場合だと、モノづくり企業が非常に強い地域です。たとえば工場の生産効率化などのサービスを提供するスタートアップであれば、工場を保有するモノづくり企業の近くに拠点を構えることで、工場・製造の現場における課題感を掴んだり、現場とコミュニケーションを取りやすいといった観点で、愛知県でのスタートアップの起業をとてもオススメします。

また、愛知県は行政がスタートアップ支援に力を入れている地域ですので、1社に対するサポートが手厚く、体制が充実している点も魅力ですね。

STATION Ai内に設置されているテックラボ。施設内でも簡易なモノづくりが可能。

STATION Ai内に設置されているテックラボ。施設内でも簡易なモノづくりが可能。

ほどよく便利で住みやすい愛知県の魅力

金丸良:

愛知県は住みやすい街だと思います。「ほどよく便利で、ほどよく混み合っていない」というのが、私の実感としてもあります。電車やバスなどの交通機関も東京の都心部ほど混雑しませんし、とはいえ交通網が発達しているので住みやすいと思いますね。

実際に東京から名古屋に移住してきて起業した人からは、「名古屋駅からそれほど離れていないエリアの物件でも家賃が安い」という声を聞くこともあります。

STATION Aiは東海地方でオープンイノベーションに取り組みたい人にぴったり

アマテラス:

それでは、STATION Aiに入居する魅力はどんなところにあると思いますか?

金丸良:

STATION Aiの特徴として、スタートアップやオープンイノベーションのサービスがこれほどまでに充実している施設は、全国的に見ても珍しいと思います。メンターへの相談、独自のアクセラレーションプログラムの実施、ファンドによる投資だけでなく、さまざまなフェーズにある起業家が入居し、交流することで、成功談・失敗談も含めて多くの学びを得ることができます。

また、現在、東海地方でオープンイノベーションに取り組みたいという事業会社を中心に約200社のパートナー企業にご入居いただいており、こうした事業会社との協業にも取り組みやすい施設だと思います。施設自体も交流しやすいように設計され、コミュニティマネージャーが入居者相互の紹介や、交流イベントを企画しています。

既存企業とスタートアップの連携が盛んになりつつある

アマテラス:

それでは反対に、県外から愛知県に移住してスタートアップで働くデメリットや、想定外な点をお教えいただけますか?

金丸良:

起業家の観点でいえば、愛知県は製造業が盛んなので、ハードウェアエンジニアの人数は多い一方で、ソフトウェアエンジニアの人数が少なく採用に苦労するという声を聞くことがあります。

大企業の人材採用力が強いので、こうした企業と真正面から競合する分野での人材採用は苦労する可能性があります。とはいえ、人材の流動性も高まってきているので、大企業から飛び出して挑戦したいと考えている人材は、スタートアップにとって採用の狙い目となるかもしれません。

県外から移住して愛知県のスタートアップで働いている人からは、東京と比べてスピード感がゆっくりしているという意見を聞くことがあります。愛知県のスタートアップは、製造業系の「toB」ビジネスが比較的多く、様々な導入テストが必要なため、時間がかかるケースが多いかと思います。スタートアップにスピード感があるイメージを持たれている方だと、「一つひとつの案件にかける時間が長いな」と感じることがあるかもしれません。

もともと愛知県は社内イノベーションが盛んな地域で、スタートアップの起業が少ない地域ではありました。しかし、この数年で風向きが変わってきていて、既存企業がスタートアップとの連携に力を入れる事例も増えてきています。以前と比べると、現在はスタートアップが事業会社との協業にも取り組みやすくなっていると思います。

インタビューは愛知県のSTATION Ai(名古屋鶴舞にある国内最大級のオープンイノベーション拠点)にて行った。金丸氏(右側)とインタビュアーの弊社藤岡(左側)

インタビューは愛知県のSTATION Ai(名古屋鶴舞にある国内最大級のオープンイノベーション拠点)にて行った。金丸氏(右側)とインタビュアーの弊社藤岡(左側)

スタートアップに向いていないと思う人ほど愛知県に来てほしい

アマテラス:

どんな人が愛知県のスタートアップで働くのに向いていると思いますか?

金丸良:

良い意味で、向き不向きはないと思っています。イノベーションには多様性が重要で、スタートアップも多様なので、いろいろな属性の方が集まるべきでしょう。私としては「向いていないと先入観を持っている人」ほど、一度スタートアップの世界に足を踏み入れて欲しいという気持ちがあります。

地域×イノベーションの観点では、それぞれの地域の文化は尊重しなければならない一方で、同質的な人ばかりでは新しいことは起こりにくいと思っています。外から来た人がその地域の文化と交わることで、新しいことを考えるきっかけを作るというのが地域のイノベーションには不可欠です。STATION Aiのような尖った施設はそれだけで人を呼び込みやすいので、こうして集まった人たちを交わらせる仕掛けを私たちの方で設計していきたいと考えています。

愛知県のスタートアップ特有の雰囲気を感じてほしい

アマテラス:

愛知県のスタートアップで働くことに迷っている人に向けてメッセージがあればお願いします。

金丸良:

先ほどもお伝えしたように、愛知県のスタートアップは製造業系の「toB」ビジネスが比較的多いことが特徴です。工場への導入案件などでは、ハードウェアや工場現場での経験など、他のスタートアップとは違ったスキルセットを求められることもあります。

一方で、愛知県のスタートアップの多くは、経営面や財務面、マーケティングなどの領域の経験者も求めています。これまで他のスタートアップでこうした経験をしてきて、実力を試したいという方は重宝されるはずですので、ぜひ検討していただければと思います。

アマテラス:

貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

愛知県経済産業局スタートアップ推進課

愛知県経済産業局スタートアップ推進課
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≪主な業務≫
スタートアップの起業や事業化、スケールの支援、スタートアップ支援機関等との連携、STATION Aiのスタートアップ支援コンテンツの検討等