人材育成からマッチング・社会実証・ベンチャーファンドへの出資まで幅広く支援する

名古屋市 経済局 イノベーション推進部スタートアップ支援課長 鷲見敏雄氏

名古屋市では、アントレプレナー教育や、ビジネスアイデアの事業化プロセス体験プログラム、個別メンタリングなどを通して、小中高生から若手起業家まで幅広くイノベーター人材を育成しています。

また、起業家、新規事業担当者、大学・行政関係者など、多様な人材がグローバルに交わるコミュニティを作り、イノベーションのきっかけとなる場を提供しています。そのほか、社会課題を解決するための先進技術の社会実証を支援し、実証実験の場を提供するなど、スタートアップを多角的に支援している自治体です。

今回お話を伺ったのは、名古屋市役所のスタートアップ支援課長である鷲見敏雄氏。スタートアップ支援課が掲げるミッションや具体的な取り組み内容、名古屋のスタートアップに見られる特徴などをお伺いしました。

鷲見敏雄氏

スタートアップ支援課長
鷲見敏雄氏

1998年名古屋市役所入庁。名古屋市立大学勤務を経て、市民経済局(現経済局)において、産業振興に取り組む。
インキュベーション施設の運営やロボカップ2017名古屋世界大会、名古屋市IoT推進ラボなどのロボット・IoT関連施策を進める。
2018年には「なごやイノベーション戦略」を立案し、中部経済連合会との連携による「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」や旧小学校施設を活用したインキュベート施設「なごのキャンパス」の開設に関わり、現在、スタートアップ支援室の現課長として、各種スタートアップ施策や社会実証支援事業を推進。

名古屋市 経済局 イノベーション推進部

名古屋市 経済局 イノベーション推進部
https://nagoya-innovation.jp/

≪MISSION≫
<3つの要素>
人材の育成と成長の支援、共創促進の支援、グローバル化の支援。
私たちは3つの要素にフォーカスしてすべての挑戦者を後押しします。
全ての挑戦者が称えられるカルチャーを創り出し世界を変える新たな価値創出を加速させます。

地域企業や経済団体とも連携し、スタートアップ支援に取り組む

アマテラス:

名古屋市スタートアップ支援課のミッションについて教えてください。

名古屋市 経済局 イノベーション推進部 スタートアップ支援課長 鷲見敏雄氏:

歴史的に見ても名古屋は製造業を中心に日本の経済・産業界を牽引してきた地域で、言い方を変えれば「スタートアップが増えなくとも経済が成り立っていた地域」でもあります。一方で、昨今は、「100年に一度の変革期」と呼ばれる状況下で、古くから名古屋の経済を支えてきた企業にも大きな変革が求められる時代になってきています。

このような中、次世代においても名古屋が日本の経済をリードしていくためにはイノベーションが必要不可欠であり、その起爆剤がスタートアップになるのではないかと考えています。

そこで、中部経済連合会とも連携しながら「スタートアップの誕生・成長」と「既存産業の発展」の両輪で経済成長や新しい産業の創出などを目指していくということが、名古屋市スタートアップ支援課のミッションの一つとなっています。

単純に行政主導の取り組みだけで完結したり、スタートアップ内のみでの成長を目指したりするのではなく、スタートアップが成長するために地域企業や経済団体も一体となって支援に取り組んでいる点が、その他の地域にはない特徴だと思います。

アントレプレナー教育支援で次世代を担う起業家を育成

アマテラス:

具体的な支援としては、どのような取り組みを行っているのでしょうか?

鷲見敏雄:

いくつかの柱があります。一つ目は、人材育成、つまり次世代を担う起業家を育成していくことです。就職だけでなく起業の選択肢も考えてもらうための施策として、アントレプレナー教育に力を入れています。

東海エリアでは「Tongaliプロジェクト※」が進行していますが、本プロジェクトの対象に至るまでの小学生から高校生までへの教育も重要であると考え、こうした子ども達に対するアントレプレナー教育にも取り組んでいます。

※東海エリアの学部生・大学院生・ポスドクター・教職員・卒業生を対象に、次世代の起業家を育成・支援する多面的なプログラムを提供するプロジェクト

アマテラス:

起業家教育について、もう少し具体的な内容を教えていただけますか。

鷲見敏雄:

全国的に見ても、名古屋市の起業家教育のモデルは良い評価を受けています。段階に応じた起業家教育を行っているのが大きな特徴です。

例えば、小学生にはカードゲームを使って会社の仕組みを体験できるプログラムを用意しています。「技術」や「資材」といったカードを組み合わせることで新しいプロダクトが出来上がり、それを売ったり交換したりすることで財産を増やしていく、というのがゲームの大まかな仕組みです。また、実際の起業家の方にも参加いただき、交流するイベントも開催しています。

中学生に対してはITと絡めたプログラムを用意しています。学校全体でIT教育が進んでいることを受けて、名古屋市では全国に先駆けて、本年(2024年)よりAI技術に関するプログラムを導入しました。本プログラムは、対象を中学生から中高生に拡大して運営しています。

高校生については、起業家としてビジネスプランを作るプログラムを用意しています。最初に各グループへ2万円を提供し、それを元手に起業家体験ができる珍しいプログラムとなっています。これまで実際に起業をした子もいましたし、起業家になるために起業について学べる大学に進学をしたという子もいましたね。

また、本年(2024年)より、起業家教育授業を開始しました。従来のプログラムは学校外で実施するもので、個人の応募型でしたが、教育委員会と連携することで、学校の授業の中で全ての児童生徒が受けられるようになりました。現段階では名古屋市の全ての学校で実施しているわけではありませんが、現時点では起業に対し興味関心が薄い子ども達にも起業の意識を高めてもらうきっかけになればと考えています。

名古屋市ではディープテック(※)系スタートアップの誕生・成長が大きなカギを握っていると考えており、高校でも大学レベルの高い技術を使いながら起業を体験する「高校生ディープテックプログラム」の取り組みも新たに始めています。

例として、成層圏にバルーンを飛ばす実験の中で、自分たちのビジネスの仮説検証も行うという取り組みがあります。研究的な側面とビジネス的な側面を同時に学び、チャレンジする形で、起業家能力を養成しています。

※科学的な発見や革新的な技術に基づいて、世界に大きな影響を与える問題を解決する取り組み

2019年に開業した「ナゴヤイノベーターズガレージ」は、中部圏のイノベーションハブとして、新たな人的ネットワーク、コミュニティの場を提供している。

2019年に開業した「ナゴヤイノベーターズガレージ」は、中部圏のイノベーションハブとして、新たな人的ネットワーク、コミュニティの場を提供している。

マッチングと社会実証支援でオープンイノベーションにつなげる

アマテラス:

支援にはいつくかの柱があるとのことでしたが、ほかにはどのような取り組みがあるのでしょうか。

鷲見敏雄:

二つ目は、オープンイノベーションの促進です。愛知・東海エリアには多くのグローバル企業が集まっており、経済成長を図るには既存の企業とスタートアップが融合しいかにオープンイノベーションを起こしていくか、が今後の成長のカギを握っていると思います。

一例として、本エリアの代表的なユニコーン級スタートアップの「TIER IV」や「SkyDrive」などが挙げられますが、いずれもオープンイノベーションが事業のベースになっています。今後も、地域の産業や大学が培ってきた技術と掛け合わせてスタートアップを生み出し、ベンチャーキャピタルや金融機関の投資などと併せて支援していくことが重要であると考えています。

その中で、名古屋市としてもさまざまな事業会社がスタートアップとコラボレーションしていけるよう、既存企業とスタートアップとのマッチング支援を行ったり、協業の伴走支援を手がけたりしながら、オープンイノベーションを図っています。

オープンイノベーションを図る上では、社会実証の取り組みを進めていく必要性も感じています。スタートアップが新たなチャレンジをしていく上で必要となる実験を、社会に受け入れてもらわなければならないためです。

最近では新たな取り組みとして「NAGOYA CITY LAB※」をスタートしました。これまでも行政が受け皿となりスタートアップと実証を進めてきましたが、やはり行政だけで進めていくことには限界があるため、昨年より民間のフィールドの中で社会実証を行う取り組みを進めています。

参加した多くのスタートアップから好評をいただいており、これをきっかけに地域外から名古屋に進出するスタートアップも見られます。

※スタートアップなどが有する先進技術を名古屋市内で社会実証することを推進する名古屋市の事業

「グローバル拠点都市」に選定、地域性を生かしたファンドも

鷲見敏雄:

三つ目は、グローバルを意識した取り組み推進です。内閣府より、愛知・名古屋および浜松地域はスタートアップ・エコシステム「グローバル拠点都市」に選定されており、グローバルに挑戦するスタートアップの育成や海外展開支援、海外スタートアップの当地域への進出支援などを行っています。

以前より本地域の企業は海外進出を積極的に行っており、シリコンバレーをはじめ海外企業とのネットワークができているので、その関係性を生かして海外の起業家や研究者から直接トレーニングを受けられるといった魅力的なプログラムを設けています。

最近はグローバル拠点都市として、ジェトロ(日本貿易振興機構)と連携し、海外に渡航するプログラムや海外出展するプログラムなども手がけています。

最後の四つ目は、ベンチャーファンドへの出資です。本地域は東京との距離が近いため、スタートアップは東京のファンドから出資を受けるケースももあります。一方で、シードの段階にあるスタートアップの場合は地域で目が行き届いた方が良いと考えており、愛知県や大学と連携したファンドへ出資し、地域として投資も進めています。

質の高い技術が集積しており、ディープテックやDX関連スタートアップが活躍できるチャンスは多い

アマテラス:

鷲見さんが現在携わっている仕事内容について教えてください。

鷲見敏雄:

名古屋市のスタートアップ推進課の責任者という立場にあります。また、スタートアップエコシステムの拠点都市を構築すべく、産学官連携で「Central Japan Startup Ecosystem Consortium」を設けて取り組みを進めていますが、その中で「名古屋市スタートアップ支援課長」として全体の取りまとめを行っています。

アマテラス:

県外から移住して名古屋のスタートアップで働くことにはどのような特徴があるとお考えでしょうか?

鷲見敏雄:

名古屋にはさまざまな技術が集積しているため、ディープテック系スタートアップの数が多く、質も高いです。名古屋大学はノーベル賞受賞者を最も多く輩出している大学の一つですし、本地域には研究開発型の企業が多く集まっています。

また、優秀なグローバル企業が多く集まっており、BtoBのスタートアップが活躍しやすい環境です。ディープテックやDX関連の事業が盛んになっており、BtoB市場を目指したスタートアップがさまざまな地域から名古屋に集まっている状況です。

一例を挙げると、ドローン関連のスタートアップが名古屋に急速に集まってきていて、本社ごと移転してくる事例もいくつか見られます。本地域には優れた技術者が多くいるだけでなく、航空宇宙の最大の集積地として魅力が大きいことも背景にあります。

なので、名古屋市はこうした分野のスタートアップの起業や勤務によって活躍できるチャンスは非常に多い地域だと思います。

名古屋市役所でのインタビューの様子。インタビュアーの藤岡(左側)とインタビュイーの鷲見氏(右側)

名古屋市役所でのインタビューの様子。インタビュアーの藤岡(左側)とインタビュイーの鷲見氏(右側)

生活費が安く、ライフスタイルに合わせた生活がしやすい地域

アマテラス:

県外から名古屋への移住については、どのような魅力があるとお考えでしょうか?

鷲見敏雄:

本地域は産業が強く、愛知県と大阪府のGDPは同程度で、1人あたりのGDPでいうと東京に次いで高水準です。それだけ豊かである一方で、生活費は比較的安く済みます。マンションや一戸建ての相場価格を見ると、東京や大阪に比べて大幅に安く、これらの地域と比べて裕福に暮らしやすいです。自家用車を持ちやすいのもメリットの一つでしょう。

娯楽施設にも困りませんし、少し郊外まで出かければ自然が溢れていて、アウトドアスポーツも盛んです。「所得が高い一方で、生活費が安く、ライフスタイルを楽しみやすい」というのが本地域の魅力ではないでしょうか。

子どもの育てやすさについても、評価が高い地域です。子どもの医療費が無料であることに加えて、子どもを放課後に預けられる「トワイライトスクール」という取り組みも積極的に行っています。公園の数も多く、世界的に見ても内容が非常に充実した科学館があるなど、子どもをのびのびと育てられる地域だと思います。

東京からも近く、名古屋移住に対するネガティブ要素は少ない

アマテラス:

それでは反対に、県外からの移住で名古屋のスタートアップで働くことについて、ネガティブに感じやすい点、ギャップを感じやすい点があれば教えてください。

鷲見敏雄:

「名古屋は閉鎖的」という昔からのイメージがありますが、最近はむしろオープンな雰囲気を感じています。産学官でオープンイノベーションを進めていて、新たな意見や多様な価値観を受け入れていく空気ができていますので、県外からの移住で不安に感じる必要はありません。

私の実体験として、名古屋に転勤・移住してきた人の意見を聞く中でも「名古屋に来て良かった」という声ばかりで、「名古屋に来て困った」という声はないですね。強いて挙げれば、「ディズニーランドやUSJレベルのテーマパークが近くにない」という不満を漏らしている人はいましたが(笑)。

確かに最先端の情報が入ってくる東京と比べると見劣りする人もいるかもしれませんが、新幹線を使えば東京まで最短1時間半ほどで行けてしまうので、大きなデメリットとして感じにくいのではないでしょうか。「多少のギャップはあっても簡単に埋められる」というのが、東京から見た名古屋の魅力の一つだと思います。

2024年7月には「NAGOYA CONNÉCT」4周年記念イベントを「なごのキャンパス」にて開催

2024年7月には「NAGOYA CONNÉCT」4周年記念イベントを「なごのキャンパス」にて開催

ネットワーク作りやスタートアップとのマッチングも支援

アマテラス:

最後に、名古屋のスタートアップで働くことに迷っている人に向けてメッセージがあればお願いします。

鷲見敏雄:

名古屋のスタートアップにとって人材確保は最大の課題ですので、ぜひ皆さんのお越しをお待ちしています。「NAGOYA CONNÉCT※」をはじめ、名古屋のスタートアップや事業会社とのネットワーク作りの場は非常に多く設けられています。興味のある分野をお伺いし、関連するスタートアップを直接ご紹介することも可能です。

特に本地域では現在CxO人材が少なく、多くのスタートアップで経験者を求めています。東京をはじめ県外のスタートアップでCxOポジションの経験があり、即戦力のある方は重宝されるはずですので、ぜひ検討していただければと思います。

※名古屋市が主催し、ボストン発、世界5か国15都市(※2024年10月時点)で実施するVenture Caféが名古屋を中心に運営するイノベーション促進・交流プログラム

アマテラス:

名古屋のスタートアップで働くことの魅力が大変よくわかるお話でした。ありがとうございました。

この記事を書いた人

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。

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https://nagoya-innovation.jp/

≪MISSION≫
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人材の育成と成長の支援、共創促進の支援、グローバル化の支援。
私たちは3つの要素にフォーカスしてすべての挑戦者を後押しします。
全ての挑戦者が称えられるカルチャーを創り出し世界を変える新たな価値創出を加速させます。