月間2000万ページビューを誇る国内最大級の医療情報口コミメディアを運営している株式会社QLife。
『医療と生活者の距離を縮める』ことを目指し、医療業界と生活者の間に存在する大きな情報格差をネットメディアを使って解消しようとしている有望な医療ベンチャーです。
「評判の良い病院はどこなのか?」
「もらった薬は本当に適切なのか?」
ほとんどの方がこのような疑問を持ったことがあると思います。それに答えるコンテンツを、自社サイトだけでなく多くのサイトやツールに提供している、知る人ぞ知る企業です。QLifeはインターネットにいるDr.コトーかもしれません。
株式会社QLifeの創業経営者、山内善行氏に迫りました。
代表取締役社長
山内善行氏
1965年生まれ、東京大学工学部都市工学科卒。
米国ボストンの都市計画・商業施設開発コンサル会社を経て、1994年にマーケティング会社の株式会社カレンを設立、代表取締役に就任。
金融・自動車・飲食品はじめ様々な分野のトップ企業のネット・マーケティングを手掛ける。特にEメールマーケティング(EMM)とブログマーケティングは、日本の先駆事例を生みだした。
2006年にカレン会長に就任、株式会社QLifeを設立して社長に就任。
2009年にカレン会長を退任。
株式会社QLife(キューライフ)
https://www.qlife.co.jp/
- 設立
- 2006年11月
- 社員数
- 18名(2013年4月時)
《 Mission 》
『医療と生活者の距離を縮める』
《 事業分野 》
シニア・ヘルスケア
《 事業内容 》
医療特化の「メディア × ITソリューション」事業を展開 病院検索サイト『QLife』を運営(月間PV2000万 / 2013年4月時) 各種医療アプリを提供
カレンで培ったノウハウを活かせる分野を探し、『医療分野』に辿りついた。
QLife設立の経緯を教えてください
大学の工学部都市工学科を卒業後、ボストンで都市計画・商業施設開発コンサルティングの仕事をしていました。その後日本に帰国し、1994年にマーケティング事業を行う株式会社カレンを設立し、そのカレンの子会社が今のQLifeになります。
最初の会社設立は28-29才頃ですが、学生時代の友人や先輩などにお願いして1,300万円のお金を集め、資本金にしました。一人50-100万円という額ですが、30才前後の人にとっては大金です。銀行口座に本当に全額が振り込まれているという連絡を受けたときは、とても感動したのを覚えています。
そして、メールを使って『企業とユーザーをつなげる』ダイレクトマーケティングの手法を考え、企業向けにコンサルティングを行っていました。今でこそ、メールマーケティングやブログマーケティングは一般的ですが、日本でメール・ブログマーケティングの体系だった手法を最初に確立して発表したのはカレンです。企業とユーザーとの距離がまだまだ大きかった時代で、メールやブログという消費者側のツールを企業が使うことで、両者の距離を縮めることができました。カレンはメール・ブログマーケティングの先駆者として成長し、一時期100名くらいの会社になりました。
カレンからQLifeが生まれてきた背景は?
企業向けにコンサルティングを行うビジネスを、スケール面で成長させる難しさに直面しました。そのため社長を辞めて、自分より経営力のある人にカレンを任せることにしました。そして自分は、受託ビジネスではなくproduct out型*の事業を立ち上げたいと考え、2006年にカレン子会社の形でQLifeを設立、社長に就任しました。QLifeの現取締役の藤田は、この時カレンから一緒に来たメンバーです。
その後、様々な会社からも出資を受けたりして、現在ではカレンとQLifeは資本関係を解消し別会社となっています。
*product out = 製品ありきの販売戦略。マーケットのニーズよりも製品のスペックを上げることに注力し、「モノがあるから売る」といった発想。
医療関連出身ではない山内社長がなぜ医療メディアを手掛けたのですか?
カレンで培ったノウハウは、『企業とユーザー(個人)の距離を縮める』手法でした。このノウハウを活かせる場所で、かつカレンとバッティングしない分野を探したところ、「医療分野」こそが最も距離が大きく、かつ距離を縮めた時の社会的インパクトも大きいことが分かりました。
実は、私だけでなく社員にも医療関係出身者はゼロです。ですがフレッシュな頭で考えたからこそ業界常識に捉われないチャレンジができたし、これからもそうしていくと思います。
QLifeは創業から現在に至るまでどのような壁に突き当たり、どうやって乗り越えてきたのですか?
最初の最初から壁でした。設立当初はフリーペーパーを事業の中心にしました。東京の目黒区、世田谷区、大田区という富裕層既婚女性が多く住むエリアをターゲットして、「日本の健康・医療のトレンドセッター」を形成しようと、医療・健康情報のフリーペーパーをその地域に思い切って大量投下しました。世田谷の三軒茶屋にオフィスを設けたのも、ユーザーの地元にいないと感覚ズレすると思ったからです。
しかし、結果は大失敗。フリーペーパーをこの地区に大量投下したのは計4回、期間は8か月、使ったお金は1億円強。
撤退理由は投下したフリーペーパーに対し、手応えがなかったからです。懸賞やプロモーション企画に対して応募がない、投稿がない、レスポンスがない・・・途中からはフリーペーパー事業で日本一のノウハウとインフラを持つサンケイリビング新聞社の全面協力を得て試行錯誤しましたが、これ以上やっても無駄と判断し、打ち切りの結論に至りました。多数の人に大きな迷惑をかけ、これは大きな挫折となりました。
当時、QLifeが提供している医療メディアは3つあり、
1. フリーペーパー
2. 座談会
3. 病院口コミのネットメディア
を行っていましたが、自分達が昔から得意であった<3.病院口コミのネットメディア>に特化して再生を図りました。このネットメディアが、現在の病院口コミサイトのQLifeです。
出資してもらったお金を使い切っていたため、再度資金調達をしてスタートしました。
病院口コミサイトのQLifeはどうやって軌道に乗ってきたのでしょうか?会社が黒字化するまでに結局3年の月日と、追加で1億円を要したと聞いています。
まず、QLifeの基本コンセプトである“ポジティブ情報しか載せない”ことがユーザーや医療関係者から高く評価されていました。なかなか黒字化はしなかったのですが、フリーペーパー事業と違い、明らかに手応えを感じていました。
ユーザーである生活者からは発展途上のサービスに対してのお礼、感謝、喜びの声が多く届いていました。
中には、感動的な口コミもありました。
“QLifeを見て親の病院を決めました。その病院で親が亡くなりましたが、ここの病院にして良かった。自分もこの病院で最後を迎えたい、ありがとう。”
口コミ審査担当の社員がこのような投稿を読み、涙ぐみながら仕事をすることもありました。
また、医療界や製薬業界からも応援の声が多く届いていました。
当時は病院の口コミなんてタブーとされていましたが、実は同時に、ほとんどの人が保守的な業界を変革して欲しいと内心は思っていたのです。そのため「口コミ」と聞いて驚き眉をひそめた人が、実際のQLifeの真面目な取り組み姿勢を見た途端に「君達は必ず成長する!期待できる!」と言ってくれるようになったのです。
製薬会社がQLifeに広告を掲載してくれるまで時間がかかりましたが、事業の成長をあたたかく見守って応援してくれました。QLifeは画期的なコンテンツを持っていたわけではなく、愚直にアクセスを伸ばす努力を続けるうちにナンバーワンになっただけです。そして製薬会社に対しては、一般的なネットメディア会社ではできないIT技術を駆使したソリューション型の提案をしました。このアクセスの伸びとIT技術の組み合わせで、QLifeは3年でやっと黒字化を迎えることができました。
それにしても黒字化までの期間が3年とは長いですね。精神的には相当辛かったのではないですか?
資金調達が難しい時期で、VCに何社あたっても決裁が通りませんでした。資金繰りがあと数か月でショートするという危機もありました。ですが、医療業界全体がより患者志向に移行していくトレンドのなかで、「患者の声」がどんどん集まってくるQLifeに事業性がないはずはないと思っていました。
そして、仕事を通じて『医療』というものに魅力を感じることができたことがあると思います。
今ではQLifeは月間ページビューが2000万に及ぶ国内最大級の医療メディアに成長しました。この成長の要因はどこにあるのですか?
スピーディに様々な新サイトを投入したり、改善している点が大きいと思います。医療分野で新しいIT技術をネットで使うならQLife、という位置付けになっているのではないでしょうか。
クライアントがQLifeのサービスを利用する主な理由は?
シンプルに、医療現場へのメディアとしての影響力がNO.1だからです。
医療のエンドユーザである患者の生の声を、日本で最も保有する会社であり、現在、月間利用者数が600万人と最大級規模のサイトを運営しています。でもそれは「影響力」のうちの一つでしかなく、4万人の医療者専用サイト会員、ダウンロード数350万超の医療系アプリ群、日本最多実績の患者満足度調査、30社超へのコンテンツ供給チャネルなど、実は一般の方々からは見えないところで、メディア力が拡大しています。
QLifeが目指す姿を実現するための経営課題は?
素早く業容拡張することです。その前提には「人材採用」と「組織づくり」という2つの課題があります。「人材採用」には当然、人材育成・早期戦力化という課題がついて回りますし、「組織づくり」はベンチャーらしさを維持しつつ大人の会社になるのは簡単でないので、これから様々な課題に直面するだろうと考えています。
QLifeの直近の経営課題は?
今期のスローガンは「圧倒化」です。現在の事業を推進するための武器は手に入りましたが、それを圧倒的な武器にしたいと思っています。医療分野のなかでは、サイトやアプリのユーザー数も、提供している商品のバリエーションも、既にNO.1だとは思いますが、もっと競合を圧倒するレベルに達しないといけません。医療は大資本からの競合参入が頻繁な分野なので、早く事業基盤を確立させたいと思っています。
では、QLifeの中長期の経営課題は?
「医療者向け」事業の確立を目指します。「生活者向け」サイトで出発したQLifeですが、理念の実現には「医療者向け」も必要なので、専門的なサイトも複数運営しています。でも全然お話になるレベルではないので、この事業基盤も確立させて収益力をさらに高める考えです。
QLifeが求める人材について教えてください。
一言でいうと「骨太&AGILITY(俊敏)」がQLifeの人材像です。医療現場では崇高さと泥臭さの両方が必要です。情報やITをそこに提供するからには、「本質を考え抜く力」と「マルチスキル」の両方が必要です。「マルチスキル」と言うと格好良く聞こえますが、悪く言うと「何でも屋」、まあ実際に何でもやるわけではないですが少なくともスピリットとしては何でも屋が求められるので、専門スキルを身につけたい人、専門職としてのキャリアパスを目指す人は、QLifeには向いていません。
さらには、AGILITY、つまり人が驚くスピードで動く俊敏さが求められます。ただし俊敏であるためには、「謙虚」な人格がないとフットワーク軽くならないし、「人への優しさ」がないと乱暴に現場をかき乱すだけで生産性に繋がりません。しかも医療の本質は「人が人をケアする」気持ちですから、謙虚さと人への優しさがなければ「医療の情報発信」という私達の仕事は出来ません。
最後に山内さんの夢を教えてください。
1)医療情報
2)医療サービス
3)医療金融
の3つを提供する会社になりたいですね。
今QLifeは1)の医療情報を生活者と医療者に提供しています。情報を得た人は、適切な医療サービスを求めるようになりますが、物理的な理由や金銭的な理由で、それが実現するとは限りません。だから将来的には、そのようなニーズにも応えられる事業まで提供できるようになりたいと思っています。
日本の医療分野は40兆円と巨大です。でも40兆円が適切に使われているとは言い難く、誰もが変化を望んでいます。改善余地は非常に大きい。わずか1%変わるだけで4000億円のインパクトです。しかも人の人生をより幸せにするインパクトです。医療にはもっともっとやれることはあるのです。そんな医療業界のなかで、QLifeは新しいアイデアを発案するだけでなく、実際に実現している会社として注目を集めつつあるし、それを続けることで大きく成長していきたいと思っています。
山内さんありがとうございました!
株式会社QLife(キューライフ)
https://www.qlife.co.jp/
- 設立
- 2006年11月
- 社員数
- 18名(2013年4月時)
《 Mission 》
『医療と生活者の距離を縮める』
《 事業分野 》
シニア・ヘルスケア
《 事業内容 》
医療特化の「メディア × ITソリューション」事業を展開 病院検索サイト『QLife』を運営(月間PV2000万 / 2013年4月時) 各種医療アプリを提供