「教育現場をひっくり返す」反転授業の可能性

Posted By on 2016年10月27日

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◆はじめに

schooやレアジョブ、葵ゼミなどオンライン学習塾系の教育ベンチャーが台頭してきて久しいが、最近は映像授業等、新しい教育の形が学校など公共機関にも及んできている。そこで映像授業を更に有効に生かすために生まれてきた概念が『反転授業』だ。今回は教育現場を一変する力があるであろう『反転授業』に焦点を当てて考えてみた。

 

 

 

◆そもそも反転授業とは

教育業界では常識となりつつある概念『反転授業』だが、メディアに取り上げられる際に誤解を含む表現がされていることが多々あり、正確に理解されていないように感じる。

ここで改めて確認すると、「反転授業」とは、従来教室で行われていた講義(教師によっては教科書を読み上げるだけの作業の時間)を宿題としてオンラインで行い、従来は宿題として扱われていた演習を授業で行うことを言う。

文字通り、教育を反転させているのだ。

 

反転授業のメリットは、大きく4つある。

1.教師が生徒の「分からない」に応えることに集中できる

2.生徒が理解できるまで授業を繰り返し見られる

3.受講から時間が経った授業でも、気兼ねなくもう一度確認できる

4.教師のくだらない冗談等、自分に不必要な箇所をスキップできる

 

中でも、1.教師が生徒の「分からない」に応えることに集中できる事は特筆すべき点だ。今まで自分が受けてきた学校での授業を思い出して欲しい。教師が生徒の疑問に応える時間は、授業のなかの何%だっただろうか。おそらく10%もないだろう。日本には学習指導要領があることにより、各授業で教えなければならない範囲が決まっており、教師は決められたペースで授業を行いたいという心理が働く。そのため進捗が遅れると生徒の疑問に答えられないという状況を生み出すこともあった。

 

他方、反転授業ではそもそも「教室は教師が生徒の疑問に答える場」として捉え、従来行なっていた教科書通りに進めるだけの授業を宿題として事前にやってきてもらうことで、教師はゆとりを持って生徒の質問に答えることができる。また質問に答えるだけではなく、生徒が実験などの体験を通して事象を理解する時間を増やすことができる。これはオンラインで授業が受けられる状況を作ったテクノロジーの発展の賜物だ。

 

反転授業の基となる概念を提唱したサルマン・カーン氏はTEDに出演した際に、このテクノロジーによって「教育の場をより人間的に」することができると言った。

 

教室をより人間的なものにする努力はもっぱら『生徒あたりの先生の数』に 向けられています。私たちから見ると 重要な指標は 『生徒あたりの貴重で人間的な先生の時間』であるべきなのです。」(TEDより)

 

 

 

◆反転学習がブレイクスルーした「生徒が理解する」過程

「教育の場をより人間的に」とはどう言うことなのだろうか。

1956年に教育心理学者のベンジャミン・ブルーム氏によって提唱された「ブルームの6分類」に沿って考えて行きたい。

ブルームの6分類

ブルームの6分類

ブルームは「人の学び」の過程には6つの段階があると定義している。下から順にRemembering(記憶)、Understanding(理解)、Applying(応用・適用)、Analyzing(分析)、Evaluating(評価)、Creating(創造)だ。

 

従来の教室で扱っていたのは、記憶と理解の段階だった。そのため応用の段階(問題演習など)は「宿題でやっておいて」と生徒に投げられ、授業でより高次な「応用」や「分析」を扱うことを軽視した。

 

 

(ベネッセ教育総合研究所より)

(ベネッセ教育総合研究所より)

こうした状況で「学校の授業だけでは理解できない」と言う生徒が増加し、

2014年には学習塾に通う高校生は全国で25.3%に昇った。(グラフはベネッセが高校生を対象とし2014年に行われたアンケート全4回の結果。各回が2014年のいつ実施されたのかは不明。)

また、同アンケートでは塾に通う理由として「学校の勉強がわかるようになるため」と答える生徒は偏差値55以上で35.8%、偏差値45未満で55.6%に昇った。

 

(ベネッセ教育総合研究所より)

(ベネッセ教育総合研究所より)

学校は生徒が理解できないのであれば、より基礎的な「記憶」「理解」の段階に時間を割かざるをえず、その後宿題として「応用」を課すと、生徒は宿題ができず「学校についていけない」と頭を抱えていた。

筆者は学習塾に2年ほど勤めていたが、「学校で言ってることは分かるんだけど、問題が解けない」と言う生徒は多くいた。原因として学校がカバーする「理解」の段階と理解度を測る宿題として課された「応用」の乖離が進んでいたからだと考えられる。

 

その状況を打破すべく『反転授業』と言う概念が出てきた。『反転授業』では「学ぶ」過程では比較的低次な「記憶」「理解」を宿題で完了させ、授業で演習に取り組むことでより高次な「応用」や「分析」を扱う。

 

生徒が演習に取り組んでいる過程を見ることで教師は生徒の苦手分野を把握しやすく、教師がそれを生徒に伝えることで生徒も自分がわかっていない部分を自覚しやすくなる。

そうして初めて生徒と教師の関係がよりダイナミックになる。「記憶」「理解」より高い次元で生徒と教師の会話が展開される。漠然とした「なんとなく分からない」ではなく、「ここの分野のここがなぜこうなるのかが分からない」等、やりとりがより具体化されるようになる。

反転授業の効果についてはアメリカで研究が進んでおり、2013年に発表された反転授業に関する複数年にわたる研究の報告書によると反転授業を用いた方が試験の点が5.1%高かったという。

 

もちろん映像授業で扱う「記憶」「理解」の質が低ければ元も子もない。そこで現在日本で反転授業を扱っている事例を以下に挙げて行きたい。

 

◇全国約700の高校が活用するスタディサプリ(https://studysapuri.jp/)スクリーンショット 2016-10-21 17.21.54

2016年春、受験サプリから改名し「スタディサプリ」となった。リクルートが展開し、全国700者高校のカリキュラムに入りこみ、反転学習にも用いられているようだ。同社では珍しい個人からも課金させる本サービスは、月額980円という破格さもあり、受験生の2人に1人が使っているとうたっている。元々の名前が「受験サプリ」だったこともあり、高校生の受験を考えている層に強みがある。

授業を制作しているのは予備校大手のベネッセで、一定のクオリティは担保されているものの、質問ができないというのが弱点。

 

◇<<第2回 日本ベンチャー大賞 社会課題解決賞受賞>>ボトムアップに取り組むすらら(http://surala.jp/)

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2016年に第二回日本ベンチャー大賞 社会課題解決賞を受賞した教育ベンチャー すららネットが展開している「すらら」は独自のアルゴリズムを用いて苦手分野を分析し、個人の得意、不得意に合わせてアニメーションで授業を行う「次世代個別指導塾」をうたっている。「そもそも勉強が苦手」な層や病気等、事情によって学校に行けない層のフォローアップに強みを持つ。私立、公立を問わず、全国の学校や塾に導入され、反転授業を実現している。最近では日本で得た見識を用いて、インド、スリランカ等の発展途上国にも進出。教育格差の是正を目指している。

 

 

◇JMOOC公認サービス gacco(http://gacco.org/)

スクリーンショット 2016-10-21 17.21.24

大学の授業を無料で受けられるサービス・MOOC(Massive Open Online Courses)。一般には大学レベル授業を扱い、インターネットを通じてオープンにアクセスできること、コース修了の認定証を発行することといった特徴をもつ。アメリカではMITやハーバードが創設したMOOC:edx(https://www.edx.org)などが有名だが、2013年日本にもMOOCが上陸。JMOOCと名付けられた。JMOOCに加盟しているサービスは4つあるが、特にgaccoは通常の映像授業の配信にとどまらず実際の対面授業も行うなど、反転授業を取り入れている。

 

 

 

◆ベンチャー企業が『反転授業』を機会にする条件

現在、反転授業を市場として捉えている企業は多くなく、プレイヤーは限られているのが現状だ。しかし反転授業はもっと大きく取り上げられるべき概念であると感じ、先に挙げた3つのサービスから現在 BtoC のオンライン学習塾を主戦場としている教育ベンチャー企業が『反転授業』をビジネス機会とするための条件を探ってみた。

 

  1. 対面授業を行える教育現場を持っている

反転授業には対面授業などリアルな教育の場が必要不可欠である。リクルートやすららは学校や塾、gaccoでは大学等と提携し対面授業を行っておりBtoCのデジタル教育を展開するベンチャーは教育現場を持つ組織との連携(BtoBtoC)が有効だと考えられる。

 

  1. 学校が使い易いカリキュラムや作り易いプログラムの採用が求められる

教育の現場を持つために必要なことなので、若干1.と被るが教育現場で使い易い、または作り易い仕組みを作ることは必須だ。リクルートはベネッセ、gaccoは大学と提携して映像授業コンテンツを作っている。BtoCのオンライン学習塾の場合、独自のカリキュラムで作る事が多いが、BtoBtoC の場合は、学校に作ってもらう場面も出てくる。よりBのニーズに応えたコンテンツ制作を心がけなければならないだろう。

 

  1. ネットを導入できる

反転授業の課題の一つに家庭のネット環境によって映像授業を受講できるかを左右されてしまうことが挙げられる。従来の BtoC であればネット環境がある子供達のみが対象だったが、BtoBtoC となる事でネット環境がない子供達も対象となる可能性が出てくる。勉強とは関係のないところで授業についていけなくなる子供をなくすために学校教育や家庭にどう教育ICTを取り入れるか等の検討は必要だ。

 

  1. 市場を作る覚悟がある

反転授業には上に挙げたものの他にも「映像授業でその単元を理解してしまった場合、対面授業に必要性を感じず、学校を休んでしまう子供もいるのではないか」、「日本ではオンライン教材の整備がまだまだ進んでいない」等の問題点がある。反転授業の概念自体には既存の教育のあり方を変える力があるが、その実現には一つ一つの問題を解決していく気概も求められる。

 

 

 

◆まとめ

2005年にYouTubeが生まれ、それ以後動画は私たちの日常に急速に溶け込んできた。テクノロジーの進化は今や教育分野にも及んでいる。カーン氏の掲げる「教育をもっと人間的にする」。技術と教育哲学の高度な融合がさらに進んでいくことを期待している。

 

 

<<参照記事>>

『ビデオによる教育の再発明』TED サルマーン・カーン

http://www.ted.com/talks/salman_khan_let_s_use_video_to_reinvent_education?language=ja

 

ベネッセ教育総合研究所 第4回学習調査報告書・国内調査 高校生版

http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakukihon4/kou/hon2_1_22.html

 

Bloom’s Taxonomy of Learning Domains

http://berd.benesse.jp/berd/center/open/report/gakukihon4/kou/hon2_1_22.html

 

『「反転授業」とは何か? 成績が大幅にアップとの報告も【争点:教育】』 The Huffington Post

http://www.huffingtonpost.jp/2013/09/26/flipped-class_n_3993388.html

 

『反転授業の効果は試験の点で5%アップ…それが“大きな成功”と言える理由』Tech Crunch Japan

http://jp.techcrunch.com/2013/09/19/20130918the-flipped-classroom-boosts-grades-5-why-thats-as-big-as-we-can-expect/

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Posted by 又吉 陽二郎