製鉄業の脱炭素実現に向けて、画像認識AIを活用した最先端の鉄リサイクルに挑む

株式会社EVERSTEEL代表取締役 田島圭二郎氏

世界で最も多く使用されている金属といえば、鉄です。全産業の中で最も二酸化炭素(CO2)排出量が大きいことでも知られる鉄鋼業界は今、石炭を燃やして鉄鉱石から鉄を作る「高炉法」から鉄スクラップを溶かしてリサイクルで鉄を作る「電炉法」へと、極めて大きな転換期を迎えています。

しかし、鉄のリサイクル原料である鉄スクラップには鉄以外の不純物や爆発物等が混入するケースが多く、多くの現場では目視によって不純物を取り除いているものの、判定のバラツキや見逃しが品質面・安全面から深刻な課題とされてきました。

そんな社会課題に対して、独自のアプローチから解決を図ろうと取り組んでいるスタートアップが株式会社EVERSTEELです。同社の代表取締役である田島圭二郎氏は東京大学での鉄鋼材リサイクルの研究とスイス工科大学での画像解析技術の研究をもとに創業し、その後も鉄リサイクルに特化した画像解析技術の研究開発に力を注いできました。

しかし、田島氏は林業の家系の生まれであり、東京大学大学院の研究室に入るまで鉄鋼業とは特に縁がなかったといいます。なぜそんな彼が、画像認識AIを駆使した鉄スクラップの不純物除去という事業を立ち上げたのか。その生い立ちから創業までの経緯、そして経営者として今後目指す未来について、詳しくお話を伺いました。

田島圭二郎氏

代表取締役
田島圭二郎氏

東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻修了。大分の林業家系に生まれ、幼少期から環境課題を解決できるビジネスに関心を持つ。2019年スイス連邦工科大学での研究開発を起点に、鉄スクラップに特化した画像認識システムを構築。中学時代からの同期である佐伯真と、2021年3月EVERSTEEL社を共同創業。

株式会社EVERSTEEL

株式会社EVERSTEEL
https://eversteel.co.jp/

設立
2021年03月
社員数
8名

《 Mission》
鉄の未来を切り拓く
《 事業分野 》
AI・IoT
《 事業内容 》
EVERSTEELは、鉄鋼材のリサイクル原料である「鉄スクラップ」をAIで自動解析し、効率的な品質管理を可能にするアプリケーションの開発を行う東京大学発のスタートアップです。電炉最大手の東京製鐵を始め、複数の業界大手鉄鋼メーカーとの実証実験を経て、当社のアプリケーションは、国内10社弱の現場へと導入検討が進んでいます。

何百年も北九州の森を守り続けた林業の家系に生まれる

アマテラス:

まず、田島さんの生い立ちからお伺いします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば教えてください。

株式会社EVERSTEEL 代表取締役 田島圭二郎氏(以下敬称略):

私の生まれは、大分県の中津江村という人口1000人足らずの小さな村落です。実家は鎌倉時代から林業を営んできた家系で、九州北部一帯の広大な森を何百年と守り続けた家です。そのため、夏は下草刈り、冬は木の枝の間伐・剪定と、幼い頃から林業に触れる機会がありました。

両親とも「環境に良い林業」にこだわり、利益を度外視してでも森を大事に守ってきました。反面、林業は非常に儲けが少なく、両親が家計のやりくりに悩む姿も見てきました。

そういった環境で育ったからでしょう。「環境課題を解決しながら、きちんと儲かるビジネスで起業したい」という思いを、物心ついた頃から胸に抱いていました。 「起業」という選択肢も自然と浮かんできたように思います。

その背景には、父の影響がありました。父は生涯現役であることを大事にしていて、それこそ「起業しなければ人生ではない」ぐらいの信念を持つ人です。一生を賭けてやれる仕事を見つけたほうがいいという父の教えをずっと聞いて育ったので、自ずとそういった考えが育まれた気がします。

父の助言から、将来の選択肢を広げるために東大へ

田島圭二郎:

進学してからは、中学高校と地元の男子校で過ごしました。自由な校風だったことから、型にはまらない考え方や価値観を持つ同期が多く、学生時代はそういった友人たちからも影響を受けていたように思います。

実は、後にEVERSTEELを一緒に立ち上げた共同創業者の佐伯真とも、中学時代に出会いました。中高大と一緒に学生生活を過ごした彼は、まさに型にはまらないアントレプレナー気質の人間で、やや保守的な傾向の強い私をいつも励まし、背中を押してくれる存在です。学生時代に彼と出会えたのは、本当にありがたい縁だったと感じています。

その後、東京大学工学部に進学したわけですが、進路を決める時は正直迷いました。環境問題に取り組みたいという思いはあったものの、具体的な業界や業種は見えていなかったので、適切な大学や学部がイメージできなかったのです。

このときも父のアドバイスが役立ちました。進路の相談をしたところ、「やりたいことが明確になった時に、その仕事に就ける確率を上げたほうがいい」と言ってくれたのです。学歴があれば、その分、選択肢の幅が広がりやすくなります。それなら、できる限り上を目指そうと行動した結果が、東大入学だったのです。

砂漠マラソンに熱中し、自らの幅を広げた大学時代

田島圭二郎:

入学して1年目は、サークルの飲み会に参加したり、同級生たちと遊んだりと、楽しく過ごしていました。ただ、自分の中で何かが違うという思いもあり、あらためて自分が何をしたいかを考えるようになりました。

そんな折、兄からグランドキャニオンの砂漠マラソンへと誘われました。7日間かけて200キロ以上、砂漠をひたすら走る過酷なレースです。元々海外にはあまり興味がない方だったのですが、その時はタイミングが合ったのでしょう。

そこから砂漠マラソンに一気にのめりこみました。「海外へ行け」と昔から父がよく言っていたのですが、期せずしてその言葉通りに世界を経験し、自分の幅が広がり、後の起業にも繋がっていったように感じています。

アマテラス:

その後、大学院にそのまま進学されたわけですが、専攻をマテリアル工学科にされたのはどのような経緯だったのでしょうか。

田島圭二郎:

マテリアル工学科には、ポリマーや金属といった様々な材料を取り扱う研究室があります。その中の1つに、資源循環をテーマに環境課題に特化したリサイクル専門の研究室を見つけたときに、私が取り組みたい環境課題と相性がよいと考えました。

その研究室で最も専門的に扱っていたのが、鉄のリサイクルです。各種材料と比べても、鉄は市場に出回る物量が多く、CO2の排出量も圧倒的です。研究室への所属を機に、私も鉄のリサイクルに興味を持ち、研究を始めることになりました。

現場を見て定まった研究テーマとスイス留学の決断

田島圭二郎:

研究室では最初、「鉄の中にどんな不純物が混じると、どのような機能低下が起こるか」を調査していたのですが、いくら事象の整理をしていても前に進まないと感じ、思い切って現場を見に行くことにしました。

そもそもなぜ、鉄のリサイクル工程で不純物が混じってしまうのか。大学から紹介されたスクラップ工場に行って、その答えがわかりました。鉄のリサイクルはどうしてもお金になりにくく、しかも選別はほぼ手作業です。不純物の除去に十分な手間をかけられないまま、先の工程に進めざるを得ないのが実情です。

「これは何か違うな」と、現場を見て思いました。鉄のリサイクルよりも前に、スクラップからいかに不純物を取り除くか。そこの課題をまず解決すべきだと考えたのです。

ちょうどAIの画像認識技術が目覚ましい発展を見せていたタイミングだったこともあり、「不純物除去をAIで効率化できないか」を自分の研究テーマにしようと決めました。ところが、そこで1つ問題が生じました。

私が所属していたのは、材料工学の研究室です。AIは専門外でしたから、研究テーマを進めていくためには、研究室の外に学びを求める必要がありました。どうせなら自分が選べる範囲の中で、画像認識技術における最高峰で学ぼうと思い、スイス連邦工科大学へと留学することにしました。

周囲に合わせるか、自分の信じる道を貫くかの分岐点

田島圭二郎:

AIの勉強をするためだけに、院を1年休んで留学するわけですから、学年も1つ下がります。当初、学年が落ちることへの懸念はさほどなかったのですが、とはいえ、日本にいる友人たちから就活等の話を聞くにつれ、次第に焦りが生じました。「起業ぐらいしなければ、きっと追いつけない」と思いました。

留学して半年ほど経った頃、分岐点がやって来ました。「うまく単位が取れれば、1年ではなく半年、学年を落とせば済む」と教授に言われたのです。その代わり、期間が半分になる分、研究が半年できなくなり、せっかくの学びが半端で終わってしまうリスクも考えられました。

「起業も研究も諦めて、半年落として皆に追いつく」のか、「1学年落とし切って、その分今の研究をやり抜き、起業に繋げる」のか。人生を左右する大きな決断を迫られました。

私は大抵、大きな判断を下すときは自分ひとりで決めないようにしています。様々な方々の支えがあって、ここまで来れたのだと常々思っているからです。この時もスイスから父に電話で相談しました。

起業の覚悟を決め、帰国後に共同創業者とチームを結成

田島圭二郎:

鉄スクラップを扱う工場は、エクセルのようなデジタルツールすらほぼ使っていないような現場ばかり。そこにAIを持ち込んで、本当に通用するのか。何もかもが未知数でした。自分としては価値ある研究だと思っていても、世界的に見れば、研究の価値を見出しているのは自分と自分の教授だけ。

父には包み隠さず、自分の思いを素直に打ち明けました。このときの父の言葉は、今でも忘れられません。「その課題が本当に人生をかけるべき価値があるものだと思うのか?」と尋ねられて、「自分ではそう思っている」と答えました。

「なら、いいんじゃないか」父の答えはシンプルでした。「そういうものか」とすとんと心に落ちました。それで肚が決まり、「1年落とす代わりに、この研究で起業します」と教授にメールで宣言したのを、よく覚えています。

そうして1年みっちりスイスで研究に打ち込んだ後は、学びを事業に変えるべく動き出しました。ちょうど帰国したタイミングで「本郷テックガレージ」のプログラム募集が始まっていたので、応募してみたところ無事に採択いただきました。

「本郷テックガレージ」は、東大の学部生・院生の技術的なサイドプロジェクトを支援するプログラムなのですが、中高と同期だった佐伯もたまたま同時期に参加しており、話をしたところ意気投合。一緒にチームを組むことになりました。

未踏アドバンスト事業に挑戦し、運転資金を獲得

田島圭二郎:

プログラムの支援を受けている中で、ふと「本郷テックガレージの卒業生は未踏アドバンスト事業にもよく応募している」という話を耳にしました。それなら挑んでみようと 、現在のEVERSTEELの事業内容で応募したところ、審査を通過。幸いにも、創業前のフェーズで資金提供まで受けることができました。

そのおかげで資金的にはゆとりが生まれましたが、正直なところ「これで本当に事業としてやっていけるのか?」という不安はありました。その不安を越えて起業に踏み切れたのは、共同創業者の佐伯、そして何よりお客様方のおかげです。

創業前のタイミングにも関わらず、わざわざ鉄鋼メーカーの方々が声をかけて下さったことで、社会からのニーズが明確にあるのだと体感できました。業界の課題に対して、お客様と一緒に取り組んでいける見通しが立ったのは、大きかったです。

とはいえ、創業1年目は売上が立たず、資金は減っていく一方でした。未踏アドバンストでの採択実績から、投資の話も起業間もない段階で複数いただいていたのですが、佐伯とも相談して、当面は受けない方向で進めることにしました。

結果的には、投資を受けなかったことでお客様から売上をいただくことにコミットでき、プロダクトを妥協なく作り込む事ができたので、判断自体は良かったと考えています。

夢を語り、現場に溶け込み、お客様との信頼を築く

田島圭二郎:

売上が上がらない間は当然、苦しい部分もありました。ただ、佐伯と二人でルームシェア生活をしながら、時に落ちているソファを一緒に拾ってきたり、徹夜明けにちょっといい酒を飲み交わしたり、ひとりではなかったからこそ、楽しみを忘れることなく乗り切れたように思います。

ただ、最初の頃は本当に何もかもがわからないことだらけで、壁にぶつかってばかりでした。私たちは研究側の人間だったので、現場のことを全然分かっておらず、どんなプロダクトをつくるべきかも定まっていませんでした。

営業に行っても、プロダクトがまだ出来上がっていない状態なので、「なぜ会社を立ち上げたか」とか、「鉄鋼業界にどういうことをもたらしたいか」といった話をひたすらしていました。

ある意味、当時のEVERSTEELは夢を売っているような会社だったように思います。それでも共感くださったお客様が、「形になるかすら分からないもの」にお金を出してくれたことには、ひたすら感謝しかありません。

もちろん現場の方々と距離を縮めるための努力は惜しみませんでした。「鉄スクラップをAIで解析する」というのは、業界の従来の常識からするとあり得ないことです。話を持っていっても、最初は「そういうのは出来ないから」の一言で終わることがほとんどでした。

ですが、現場に泊まり込む勢いで1週間2週間、一緒に過ごしていくと段々仲が深まり、話を聞いてもらえるようになります。そうして現場の方々との関係を深めていった姿を見て、管理職クラスの方も導入を前向きに検討くださったように思います。

我が子のようにお客様に育てていただいたプロダクト

田島圭二郎:

現場を肌で知っていくと「お客様が何に価値を感じるか」「どんなプロダクトを作ればいいか」が徐々に見えてきました。手探りだったものが事業として少しずつ形を成していき、トンネルを越えられそうな手応えを掴んだのもこの頃です。

作りたいものが明確になっていくと、私と佐伯だけでは到底リソースが足りないということもわかってきました。EVERSTEELは一見すると画像認識AIの会社と思われがちですが、実は幅広い技術を結集しなければ、私達のプロダクトは成り立ちません。

鉄スクラップの現場は、夏は高熱になりやすく、粉塵も舞うため、機械にとっては非常に過酷な環境です。そのため、AIやソフトウェアの分野のみならず、ハードウェアやインフラ・ネットワークの高度な知見も不可欠です。

振り返ってみれば、創業して最初の1年は値付けの仕方すら分からず、見積もりを安く出しすぎてお客様から心配されてしまうこともありました。「ダメだね」「賢くなってきたね」とAIの成長を我が子のように見守ってくださるお客様方に支えられて、ここまでプロダクトを育ててこれました。

幸い、東大IPCのファーストラウンドプログラムに採択されたことで、ベンチャーキャピタリストの方から諸々のアドバイスを受けて、経営の土台を固めることができました。ここからは、さらなる飛躍にむけてハイスキルな方々の採用により力を入れていきたいと考えています。

「今」こそ求められる鉄鋼業の脱炭素実現を目指して

アマテラス:

最後に、EVERSTEEL社の今後の展望について教えてください。

田島圭二郎:

2023年9月にDCMベンチャーズより資金調達を受けました。中国や競合企業の動向を踏まえて、開発スピードをさらに加速させていくための意思決定だったのですが、担当の原健一郎氏からは当社の「Why Nowの大きさ」を高く評価いただきました。

「高炉法」から「電炉法」へと、未だかつてない転換期を迎える鉄鋼業界。そこに画像認識AIの技術の躍進が掛け合わさり、「今」確実に求められる事業をしているという自負が私たちにはあります。

「鉄鋼業業界全体の脱炭素」という地球規模の大きなビジョンに向けて、当社はこれからも本質と向き合いながら、事業を育てていきます。目指す成果が出るまでには、長い時間がかかるでしょう。それでも私は、折れることなく、人生をかけて旗を振り続けていきます。

EVERSTEELは今、フルタイムのメンバーがまだ10名にも満たない小さな会社です。一方で、作りたい世界観は非常に大きく、チャレンジングな課題に総力戦で挑んでいます。

私達のビジョンやミッションに共感いただいた上で、「脱炭素」の実現に向けて一緒に根気強く取り組んでくださる方にとっては、任される裁量も大きい分、やりがいを強く感じてもらえると思います。ビジネスとして社会課題の解決を本気で成し遂げたい。そんな強い意欲をお持ちの方との新たな出会いを楽しみにしています

アマテラス:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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多田 ゆりえ

広島県広島市出身。国際基督教大学卒業後、外資系製薬会社のMRとして勤務。その後、心身を壊し、10年ほど障がい者雇用の現場を経験。30代で県立広島大学大学院に飛び込み、社会福祉学を専攻。並行して、社会福祉士資格を取得。「データ扱いではなく、人の物語に光を当てたい」との思いから、大学院卒業後、インタビューライターとして起業。翌年に株式会社心の文章やとして法人化した後、会社を休眠させて、合同会社SHUUUに参画。ベンチャーキャピタルJAFCO様の広報サポートの他、スタートアップ領域の広報に広く携わる。2024年より東京に拠点を移し、社名を株式会社YEELに変更し、会社を再始動。フランチャイズ支援と広報サポート事業の2軸で展開する。アマテラスには、2022年8月よりパートナーとして参画。

株式会社EVERSTEEL

株式会社EVERSTEEL
https://eversteel.co.jp/

設立
2021年03月
社員数
8名

《 Mission》
鉄の未来を切り拓く
《 事業分野 》
AI・IoT
《 事業内容 》
EVERSTEELは、鉄鋼材のリサイクル原料である「鉄スクラップ」をAIで自動解析し、効率的な品質管理を可能にするアプリケーションの開発を行う東京大学発のスタートアップです。電炉最大手の東京製鐵を始め、複数の業界大手鉄鋼メーカーとの実証実験を経て、当社のアプリケーションは、国内10社弱の現場へと導入検討が進んでいます。