フードテック(FoodTech)スタートアップ(2):フードデリバリー・出前ベンチャーの課題

日本で数少ない速達型の宅配業者bento.jp(http://appmarketinglabo.net/boost-bento/)

 

「すべての飲食業はデリバリーを検討しなければ生き残れない。」これはスターバックスのハワード・シュルツCEOの言葉です。

アプリで飲食店に料理を注文するなどの形態をとる、飲食店のオンラインデリバリー(いわゆる出前)は市場規模の巨大さ・成長性から、数多くのベンチャー企業/スタートアップが勃興している分野です。多くの企業が初期段階での資金調達を実現していることからTechcrunchやTech in Asiaなど海外メディアを賑わせています。しかし規模が拡大し株式上場やバイアウトなどより高い目標にまで至ったケースはそれほど多くありません。シリーズ:フードテックの第二弾はそんなオンライン・テイクアウト業界が見せる可能性と規模拡大に関する課題に関して、皆様にお伝えできればと思います。

世界中で勃興するフードデリバリー/テイクアウトスタートアップ

東南アジア・南アジアで注目されるテイクアウトベンチャーの一つ・foodpanda。
Rocket Internetの子会社で、ゴールドマン・サックスなどからの多額の資金調達で話題となった。(出典:https://www.foodpanda.com/)

 飲食店のオンラインデリバリーが注目されるのはその成長性の高さにあります。米国を例にすると、2012年時点での市場規模は700億ドル(約8兆6000億円)ある飲食店デリバリーサービスの13%、約9億ドル(約1100億円)を占めるにすぎません。しかし飲食店デリバリーに占めるオンラインの比率は年々高まり、2016年には30%、2022年には49%にまで到達すると言われています。今から10年も経たないうちに、4兆円産業が創造されることを考えるとその影響力は極めて高いといえます。

 実際ベンチャー・キャピタルによる投資も盛んで、AirbnbやDropboxなどを育てたことで知られるY Combinatorからは、6ドル(約700円)の弁当を配達する「Spoonrocket」や地元のレストランの食材を取り扱う「Doordash」などが排出されています。他にも2014年4月に上場した「Grubhub」などが有名です。

 また米国だけでなく世界各地でスタートアップが出ているのも特徴です。フードデリバリーは米国に限らず世界各国で成長分野として知られています。インドを例にすると、同国のオンラインサービス市場202億5,000万ルピー(約384億7,500万円)のうち17%を占めるまでに成長しており、多くのベンチャー企業/スタートアップがTech in Asiaなどの報道機関により紹介されています。韓国の「配達の民族」は2014年時点で同国の市場シェア60%、合計ダウンロード数1000万件を達成する人気アプリとなっています。イギリスを中心に香港・シンガポールなど12国への展開を図ろうとしている「Deliveroo」、中国の「饿了么」、インドネシアの「Klik Eat」もそれぞれ実績を出しているスタートアップとして著名です。これらの中にはゴールドマン・サックスなど大手の金融機関・VCから注目されている事例もあり、注目度の高さが伺えます。

UberEAT。IT業界の巨大企業からもフードデリバリーサービスに注目する動きは見られる。(出典:http://ubereats.com/eats/seattle/)

   独立系だけでなく、この業界は専業のモデルの他、配車業種やEコマースからなど異業種参入が多いのも特徴です。Rocket Internet(ドイツ・ベルリンに本社を置き世界各地でWebサービスを運営する企業。日本では靴のECサイト・ロコンドを運営する株式会社ジェイドへの出資で知られる。)では欧州を中心に29カ国で「DeliveryHero」、南アジア・東南アジアを中心に「Foodpanda」の2社を展開。それぞれ多額の資金調達が話題となっています。また、2015年5月よりUberが米国・カナダの一部都市で開始した「UberEATS」は大きな話題を呼びました。配車アプリを巡っては中国のDidiやインドのOlaといった競合もフードデリバリーへの参入を発表しており、注目を集めています。その他では2015年9月よりシアトルにてレストランの食事を配達するサービスを開始したAmazonなどIT業界の巨人たちにも参入する動きがみられます。

日本は既存の競合多し。しかし隙間はあり参入企業は出始めた。

日本で数少ない速達型の宅配業者bento.jp(出典:http://appmarketinglabo.net/boost-bento/)

 では、日本ではどうでしょうか。古くから出前文化があり、かつ狭い範囲に多数の飲食店がある日本では、もともと競争が激しく海外ほど外食デリバリーに関するスタートアップが増えている訳ではありません。

  しかしフードデリバリー市場が巨大なのは日本でも変わりありません。2014年における日本の食品宅配市場は、1兆9348億円の規模を誇っており、食関連市場が総じて縮小していくなかでも、堅調に推移している業種となっています。このため宅配市場に参入する、あるいは強化する動きが各業種で見られます。

 そのなかには、ベンチャー企業/スタートアップも含まれます。代表例としては弁当宅配のbento.jpが挙げられます。同社は弁当の注文が入るとあらかじめ配置した人員のうち一番近くにいる人が届けに行くという仕組みを提供することで、注文してから20分以内に配送することを実現いたしました。このスピード感が話題を呼び、アプリのダウンロード数は万単位に達し、リピート率は50%を超えるまでになっています。

  このほかの代表的企業としては関東・関西の190店舗が作成した弁当を届ける「くるめし弁当」を運営するJFD株式会社、福岡を拠点に多種多様な業態のデリバリーサービスを展開する株式会社デリズなどが挙げられます。

フードデリバリー業界は過当競争気味。生き残りをかけた戦いへ。

わずか1年で閉鎖されてしまったLINE WOW。フードデリバリー業界は日本に限らず世界中で淘汰が進んでいる業界でもある。(出典:http://linecorp.com/ja/pr/news/ja/2014/872)

  フードデリバリー/外食テイクアウト分野に参入するスタートアップが世界中で増える一方、撤退する企業、淘汰される企業も相次いでいます。日本を例にすれば、「dely」、「渋弁」、「LINE WOW」など参入後わずか1年以内でサービスが終了したものも存在します。

 海外でも状況は同様です。近年では、地域撤退や人員削減などのリストラやサービス閉鎖などの状況が相次いでいます。その際、従業員の解雇などが行われ混乱をきたすことも目立ってきています。特にインドの「TinyOWL」のリストラ策は賃金未払いや事後の小切手提供など極めてずさんなものであったために、怒った解雇者により創業者が人質に取られるなど、大変な混乱に陥ってしまいました。

 また、衛生面や登記面などの観点から規制当局による勧告を受けるケースも目立ちます。上海市では、飲食店営業許可が下りていない店からの配達が可能になっているなどの4つの理由から、前述した「饿了么」などのフードデリバリー/外食テイクアウトのスタートアップに対し、50,000元から200,000元(約96万円〜約382万円)の罰金の可能性も視野に入れて調査を進めています。近年では中国を始めとする新興国でも食の安全・安心に対する問題への関心が高まっていることから、この手のスタートアップでは衛生面での対応は極めて重要な経営課題になっていると言えるでしょう。

持続可能なビジネスモデルを作れる人材と急拡大を支える管理部門の幹部人材

日本における出前・デリバリーのスタートアップとして注目される株式会社デリズ。幹部人材を積極的に求める会社の一つだ。(出典:http://delis.co.jp/hp/)

 数多くのスタートアップが登場してはいるものの、淘汰の激しいフードデリバリー市場。この市場で生き残るためには他社との明確な差別化が欠かせません。現状では配達時間や契約店舗数を売りにする企業が多数見られますが、これらの売りは他者でも真似られるシステムが多いため完全な差別化とはなっていないケースが目立ちます。今後は、bento.jpのようにレストランの料理以外の別の製品を運ぶ、デリズの「出前本」ように様々なジャンルの商品を一つの媒体にまとめるなどビジネスモデルを組み替えることによる差別化が必要になるでしょう。そのための人材こそがフードデリバリーや外食テイクアウトのベンチャー/スタートアップでは求められる要素になるかと思います。

 また「TinyOwl」や「饿了么」の事例を見ても明らかなように、従業員や政府との関係を良好に保つための社内環境の整備に携われる人材は強く求められていると言えます。従業員にモチベーションを保ち続け会社の危機の際には説明責任をきっちり果たす人事担当者や、食品には必ずつきまとう衛生上の問題を防ぐために対応策をとれる品質管理系の人材は業界内で確実に求められる人材ではないかと思います。

参考文献

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アマテラス編集部

「次の100年を照らす、100社を創出する」アマテラスの編集部です。スタートアップにまつわる情報をお届けします。