AIインフラを創造し、日本の人工知能開発をアノテーション分野から推進する

FastLabel株式会社代表取締役 上田英介氏

人間のように自然な対話を行ってくれる人工知能(AI)チャットボット「ChatGPT」のリリースにより、AI研究の分野は以前にも増して注目を集めるようになりました。アメリカや中国をはじめとする世界各国では、AI研究に投資する予算額も年々増加傾向にあります。

日本は残念ながらAI研究や教育においてアメリカや中国に遅れを取っており、世界的に見るとAI後進国だともいわれています。そんな中、モデルやアルゴリズムに偏重していたこれまでのアプローチではなく、データに焦点を定めたデータセントリックな開発手法を用いてAIインフラの創造を目指すスタートアップ企業があります。それがFastLabel株式会社です。

AIインフラの創造を通じて、日本を再び「世界レベル」に押し上げようと取り組むFastLabel株式会社。代表取締役CEOの上田英介氏はアメリカでAIの可能性を体感した後、イギリスのAIベンチャーで開発経験を積んだ実績のあるエンジニアです。

彼が何故FastLabel株式会社を立ち上げたのか、創業前後の経緯や組織の成長の先に見据えている未来についてお伺いしました。

上田英介氏

代表取締役
上田英介氏

九州大学理学部物理学科情報理学出身。株式会社ワークスアプリケーションズでソフトウェアエンジニアとして会計製品の開発に2年間従事。2年目に開発者として初めてロサンゼルス支社へ赴任。アメリカの商習慣に合わせたAI-OCR請求書管理サービスを設計・開発。その後、イギリスのAI企業でMLOpsのアーキテクチャ設計や開発を行い、大手銀行のDXプロジェクトを推進。AIの社会実装をする中で感じた原体験をもとにFastLabelを創業。

 FastLabel株式会社

FastLabel株式会社
https://fastlabel.ai/

設立
2020年01月
社員数
67名(うち役員、正社員35名)

《 Mission 》
AIインフラを創造し、日本を再び世界レベルへ
《 事業分野 》
AI・IoT・Robo
《 事業内容 》
AI開発プロセスを効率化するプラットフォーム「FastLabel」を提供することで、日本企業、および産業のDXを推進しています。 画像、動画、音声、3D、文章など、様々な非構造化データに対応。データセントリックなアプローチでAI開発のPDCAを高速に回すインフラを創造し、グローバルで100兆円を超えるマーケットに挑みます。

初の海外で緊急手術を受けた経験から育まれた自立心

アマテラス:

まず、上田さんの生い立ちについてお伺いします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば、教えてください。

FastLabel株式会社 代表取締役CEO 上田英介氏(以下敬称略):

私の地元は、徳島の自然豊かな田舎です。中学教師をしている両親の下、三人兄弟の真ん中として生まれ育ちました。両親には、比較的自由に育ててもらったように思います。

原体験としてよく覚えているのは、小学一年生の頃、初めての海外旅行で家族とモンゴルに行った時のことです。確か10日程度の旅行だったのですが、渡航してすぐに盲腸になってしまった私は、観光を楽しむ間もなく緊急手術を受けることになりました。

当時のモンゴルは医療環境があまり整っておらず、点滴も受けられない状態でした。ひたすら注射を打たれながら、旅行を続ける家族と離れて、一人きりの入院生活を過ごしました。当時は英語もほとんど話せなかったため、意思疎通もままなりませんでした。

その時強く感じたことは、最後に頼れるのは自分だけという思いでした。ある意味、自立心が育まれた瞬間だったのかもしれません。

さらに後から聞いた話なのですが、両親は海外旅行保険に入っていなかったため、私の手術には何百万円もの医療費がかかったのだそうです。ところが、現地にいる日本人の方をはじめ、様々な方が助けてくださったお陰で、全額支払えたのだと教えてもらいました。

どれだけ大変な状況だとしても、手を差し伸べてくれる人はいるということも、その時の経験から学ばせてもらったように思います。

スウェーデンで学んだ専門性を活かした生産性の高い効率的な働き方

上田英介:

中学高校は、ひたすら部活動に励む日々でした。中学では野球、高校ではラグビーに打ち込みました。どちらの部活でも、自分が表立って活躍するというより、チームの足りない部分をオールマイティに埋める役割をしていたように思います。

メンバー一人ひとりの個性を活かしながら、チーム全体で勝つというマインドセットを意識し始めたのもこの頃かもしれません。特にラグビーは、野球以上にプレイヤーの数が多く、戦術の幅も広いので、作戦を考えるのがとても楽しかったことをよく覚えています。

その後、九州大学に進学してからは、私の興味関心は海外のことや英語学習に向けられました。高校までは興味がなかった分野だったのですが、新しいことをしたいという思いが強くなったのです。そして、交換留学制度を使い、韓国やスウェーデンに行きました。

中でもスウェーデンは私にとってなじみやすく、かつ学びが多い国でした。スウェーデンで特に印象深かったのは、彼らの教育や仕事に対する価値観や文化でした。
スウェーデンの学校の授業料は基本的に無料です。そのため、学生達は費用の負担を気にすることなく、大学や大学院に進み、最低1つ以上の専門領域で修士号を取るのが一般的です。30歳くらいまで働かずに、複数の修士号を取得するケースも珍しくありません。

だからこそ、彼らは社会に出てからは、いかに専門性を活かし、効率よく生産性を高められるかという点を重視します。そういったスウェーデンでの働き方や仕事への価値観は、私にとってとても好ましいものでした。

革新的な取り組みに惹かれて、急成長企業の最前線に飛び込む

アマテラス:

交換留学でそういった価値観に触れてから就職活動を始められたわけですが、ファーストキャリアはどのような基準で選ばれたのでしょうか。

上田英介:

就職活動の時には、先進的な取り組みに携われるような仕事につきたいと考えていました。そんな折にたまたま、ワークスアプリケーションズが人工知能型のERP(Enterprise Resource Planning:企業内のヒト・モノ・カネを一元管理するシステム)を新製品として出すというニュースを目にしました。

今でこそAIを活用したERPは色々リリースされていますが、2015年当時、その新製品は非常に革新的でした。競合他社と比べると、5年くらい先を進んでいる印象を受けたのです。それがワークスアプリケーションズへのエントリーを決めたきっかけでした。

ワークスアプリケーションズは当時、3000名ほどの社員を抱え、さらに900名もの新卒採用を行っていました。課題をクリアした人から所属を決めていく突破型の研修を一番に抜けた私を待っていたのは、組織の急成長に対応する現場の最前線でした。

ソフトウェアエンジニアとして会計ソフトの開発に携わること1年、転機が訪れたのは入社した翌年のことでした。ロサンゼルス支社への赴任が急遽決まったのです。そこで私は、日本よりも5年以上先を進んでいるアメリカのAI事情を知ることになりました。

FastLabel社オフィスにて行われたインタビューの様子。上田氏(左)とインタビュアーの弊社藤岡(右)

日本の5年先を進むアメリカでAIの課題感をリアルに学ぶ

上田英介:

当時のアメリカではすでにAIブームは過ぎ去っており、ビジネス上のメリットや費用対効果をシビアに判断しながら、その技術を開発に組み込んでいる状況でした。そのため、AIへの期待感だけではなく、多くの企業が抱えるAIやアノテーションへの課題感を肌で知ることができました。

その後、会社の経営上の判断から、ロサンゼルス支社は赴任後わずか1年で閉鎖になったのですが、AIの領域が今後のソフトウェアの進化において重要な役割を持つという認識は揺るぎませんでした。

支社の閉鎖に伴い、今後のキャリアをどうするかを考えました。どうせならプロジェクトマネージャーに近いポジションで、AI領域の開発に携われる仕事に就きたい。そう考えた私は、日本には戻ったものの、そこからイギリスのAIベンチャーへと転職することにしました。

転職後は、想像していた以上に大変でした。ロサンゼルス支社での経験があるとはいえ、そこまで英語ができるわけでもありませんでしたし、当然文化も違います。現地のメンバーと一緒に働きながら、必死で食らいつき、機械学習領域の知見を深めていきました。

そうして、あっという間に2年経ち、自分が学んできたことや経験をもとに何が出来るのかということを改めて考えるようになりました。次のキャリアをどうするか模索していたタイミングで、私に声をかけてくれたのがワークスアプリケーションズの先輩だった鈴木健史です。

ロサンゼルスでの経験をもとに、創業後の事業領域をアノテーション分野に絞る

上田英介:

当時鈴木はすでに別の会社を立ち上げていたのですが、彼もまたちょうど事業の変更も含めて、方向性を模索していたところでした。彼と意見交換をしているうちに、二人が得意とする分野をかけ合わせた事業ができないかという話になりました。

そうして、2020年の初めに立ち上げたのがFastLabelです。創業当初は、特に分野を限定することなくAI領域全般で事業のアイデアを探っていたのですが、そこでふと思い当たったのがロサンゼルス支社で実感したアノテーションへの課題感でした。

そこで仮説を立てながら、テストマーケティングを通じて企業のニーズを探ってみたところ、アノテーションに対する課題が日本でも顕在化していることが分かりました。そこで、当社が注力する業務領域をアノテーション分野に定めました。

私達は過去の経験から、AIというテクノロジーは今後数十年かけて社会実装されていく領域であり、時間とパワーを費やす価値があると確信していました。だからこそ、AI開発を支えるアノテーション分野の事業は確実に発展していくと見込んだのです。

私も鈴木もエンジニアですから、プロダクト開発自体はスピード感を持って進められました。ちょうどSaaS絶頂期だったこともあり、シード期の段階では多くの方から当社の事業を支持いただき、ジェネシア・ベンチャーズなどから資金調達もできました。

リファラルでの人材採用も進み、そのまま順調に進むかと思われたタイミングで訪れたのがAIの「幻滅期」です。

AIの幻滅期とSaaSの冬の時代を乗り越え、シリーズA資金調達を実施

アマテラス:

ITアドバイザリ企業のガートナー・ジャパンが公開しているハイプ・サイクル(テクノロジーの成熟度や採用状況等の指標となるリサーチデータ)によると、日本では2019年からAIの幻滅期に入ったとされています。その頃の市場や投資家の反応はいかがでしたか?

上田英介:

ちょうど2021年に入った頃、AIに対して寄せていたそれまでの期待が過度だったと投資家達が気付き始めました。概念実証(PoC)止まりで実運用まで進めないプロジェクトが相次ぎ、多くの人が理想と現実のギャップを感じ始めていました。

そんな情勢下でしたから、AI関係のスタートアップというだけで当時はネガティブな目で見られがちでした。さらにSaaSについても冬の時代に差し掛かっていたため、FaslLabelにとってはシード期よりもシリーズAでの資金調達の方が遥かに大変でした。

それでも、諦めずに投資家たちと会い続けていくなかで、当社のビジネスモデルや大企業への販路開拓が出来ている点を評価くださったのがジャフコグループです。ジャフコグループにリードで入っていただき、その他、事業会社の方々からも支援いただくことができました。

ソニーやNTTドコモベンチャーズといった事業会社の方々からは、ユーザー目線で非常に良いサービスであるとポジティブに評価いただきました。彼らの事業とのシナジー効果も高いということで、投資に踏み切っていただいたようです。

厳しい情勢下での資金調達でしたが、その分、投資家視点でのリターンに対する考え方や他のAI関連スタートアップとの棲み分けなど、様々な気付きを得られたと思います。

AI開発プロセスを効率化するプラットフォーム「FastLabel」

アルゴリズムからデータ中心の時代へと変化するAI市場に対応し、さらなる発展を目指す

アマテラス:

シリーズAの資金調達をされる中で、具体的にどのような気付きを得られたのでしょうか?

上田英介:

AIの市場はこれから、アルゴリズム主導からデータ中心の時代へと大きな転換期を迎えていきます。第1世代のAI企業と比べて、アルゴリズムで差別化できる時代は終わりました。これからは、データをいかに集め、作成し、そして改善をしていくかが鍵だと私達は考えています。

当社は、そういったAIの市場変化に対応し、データの作成や改善といった部分でポジショニングを図っている国内唯一の企業です。だからこそ当社のデータソリューションは大手企業からも支持されていますし、投資家の方々もそういった点に関心を持ってくださったのだと気付きました。

とはいえ、現状の評価に甘んじて、立ち止まることはありません。さらに先を目指してアクセルを踏み続けていくために、FastLabelは今後、人を増やしながら事業を拡大していくフェーズに入ります。

そのため、プロダクト開発が主軸だった意識を、これからは組織としてのパフォーマンスを最大化する方向に向けていく必要があります。メンバー全員の意識のベクトルをいかにすり合わせていくかが、今後はより重要になっていくでしょう。

組織全体のマインドを整え、ベクトルを統一するために取り組んだパーパスとバリューの策定

アマテラス:

2023年1月23日にパーパスとバリューを新たに制定されたと伺っています。その背景には、今後の組織づくりに対するお考えもあるかと思いますが、そのあたりを詳しく教えていただけますか?

上田英介:

当社の事業戦略を考えると、市場において競争優位に立っている今だからこそ、顧客のニーズに応えてさらにシェアを拡大していく必要があります。つまり、今こそ攻めるべきタイミングなわけです。

しかし、競合他社より優位に立っていると、どうしても意識が守りに向きやすくなる人も一定数出てきます。そのため、今後の展開を見据えて、経営者サイドと現場との齟齬がないように組織全体のマインドを早期に整える必要がありました。

そこで策定したのがパーパスと3つのバリューです。当社のもともとのミッションである「AI革命のインフラになる」をベースに、「AIインフラを創造し、日本を再び「世界レベル」へ」というパーパスを定めました。

また、採用の軸としても3つのバリューを徹底し、当社の考え方と合う人をより厳選することにしました。これまではリファラル主体の採用でしたが、今後は別の採用手法も取り入れていきます。そのため、現段階で会社の方向性を明確に言語化できたのは非常に大きかったと思います。

パーパスやバリューを決める中で、会社とベクトルが合わない数名のメンバーは退職しましたが、結果的に会社はよりよい状態になりましたし、残ったメンバーもいきいきと活躍してくれています。今思えば、そこでの別れは必要な痛みだったのでしょう。

バリューを軸に、顧客への提供価値や問題解決と向き合い続ける仲間を求めて

アマテラス:

バリューを軸にした採用ということですが、FastLabel社ではどういった人材を求めておられるのでしょうか?

上田英介:

当社のバリューは「Customer Geek」「Issue Driven」「No Buts」の3本柱です。このタイミングでFastLabelに参画されるメンバーは、自ずと今後の当社の中核を担っていくことになります。だからこそ、私達のバリューに共感し、そして実践できる方と一緒に会社をより大きく成長させていきたいと考えています。

具体的には顧客への提供価値を何より追求できるかどうか。そして、何かしらの問題に直面した際に、「できない」ではなく「できるようにするためにはどうすればいいか」を考えられる方かどうかという点を私達は採用で重視しています。

もちろん人それぞれ、やりたいことも違うでしょうし、会社に求めるものも違うでしょう。また、今の時代、当社が一生の職場というわけでもないはずです。そのため、FastLabelでのキャリアがその方の市場価値の向上に繋がるかどうかという点も大切にしながら、新たな出会いを創っていきたいと考えています。

バリューを軸に仲間を集め、現在は60名超のスタッフがいる

変化の激しいAI市場で、日本有数のテック企業を共に創り上げるチャンス

アマテラス:

最後に、FastLabel社の今後の展望について教えてください。

上田英介:

アノテーション領域におけるグローバルのスタンダードを創り出していくべく、当社は今後、2年3年先を見据えた準備段階に入っています。国内に限らず、マーケットを世界規模に移しながら、年間100億円規模の売上をまず安定させ、上場まで進めていく方針です。

そのためにも、まずは2024年にアノテーション市場での国内売上ナンバーワンを目指します。そこからさらに、アノテーションに限らず、AI全体の開発プロセスを高度化するようなものを事業展開していく予定です。

これからFastLabelとして出来ることは確実に規模感が増していきます。プレスリリースにしても、今年は他の企業との提携や合同の発表が増えていく見込みです。シード期から信頼や実績を着実に積み重ねてきたからこそ、ようやくここまで来れました。

ただでさえ技術の進歩が激しいAI市場ですから、まさにこの2、3年が勝負です。私達はAIラボという最先端の技術や研究をキャッチアップするための専門部署を社内に設け、日本有数のテック企業の地位を確立するべく、研究開発にも常に力を入れています。

組織がこれからダイナミックに成長をしていく中で、チャンスボールは常に転がっている状態です。これから新しいことにチャレンジしていきたいという方や、日本を代表するテック企業を一緒に創っていきたいという方はぜひ、当社で最高のチャンスをつかみ取ってもらえたらと思います。

アマテラス:

本日は貴重なお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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多田 ゆりえ

 FastLabel株式会社

FastLabel株式会社
https://fastlabel.ai/

設立
2020年01月
社員数
67名(うち役員、正社員35名)

《 Mission 》
AIインフラを創造し、日本を再び世界レベルへ
《 事業分野 》
AI・IoT・Robo
《 事業内容 》
AI開発プロセスを効率化するプラットフォーム「FastLabel」を提供することで、日本企業、および産業のDXを推進しています。 画像、動画、音声、3D、文章など、様々な非構造化データに対応。データセントリックなアプローチでAI開発のPDCAを高速に回すインフラを創造し、グローバルで100兆円を超えるマーケットに挑みます。