「暗黙知」として眠る世界レベルのコア技術をSaaS化し、建設業界全体のDXを推進する

株式会社Arent代表取締役社長 鴨林 広軌氏

昨今の建設業界において、人手不足や高齢化は深刻な課題です。職人や技術者が長年の経験により身に付けたノウハウを後進に継承することは簡単ではなく、業界全体のDXが急務だと言われています。

株式会社Arentは、この属人化した技術を解き明かし、システム化を行うことで「暗黙知の民主化」に取り組んでいます。千代田化工建設株式会社(以下、千代田化工建設)との共同プロジェクトでは、高度なコア技術をグローバルバーティカルSaaS化することに成功し、今や世界中のプラントエンジニアリング会社等で使われるプロダクトとなっています。

代表取締役社長の鴨林氏は大学では数学科を専攻したもののウォーレン・バフェットに共感し、ビジネスを志すようになります。卒業後はファンドマネージャーやエンジニアとして多くの経験を積み、Arent社創業後は高い技術力と知見で建設業界のDXを推進しています。

 今回のインタビューでは創業までのストーリーやこれまでに直面してきた様々な困難をはじめ、「常に社員にフェアでありたい」という鴨林氏の誠実な思いや、「建設業界のDXと言えばArent」と言われる存在になるために行っているチャレンジなどについて詳しく伺いました。

鴨林 広軌氏

代表取締役社長
鴨林 広軌氏

京都大学理学部数学学科卒。株式会社MU投資顧問の株式運用部門にてアナリスト。その後2012年グリー株式会社に転職、2015年に独立し、Arent前身の株式会社CFlatに参画、現在Arentにて代表取締役社長。

株式会社Arent

株式会社Arent
https://arent.co.jp/

設立
2012年07月
社員数
86名(2023年12月時点)

≪MISSION≫
暗黙知を民主化する
属人化しブラックボックスと化した高度な暗黙知を見つけ出し、高い数学力、深い業界知識で解き明かし、ビジネス化する。そしてモデル化する力でシステムへと昇華。誰もが使える「知」の民主化へ。
≪事業分野≫
SaaS
≪事業内容≫
技術的な裏付けに基づいた、極めて精度の高いDXコンサルティング。
そしてその地続きで、人材や製品の開発も引き受ける。
Arentは、あなたと共にプロジェクトを一気通貫で背負います。

小さなことでも褒められた経験が何事にも前向きにトライする原動力に

アマテラス:

はじめに、鴨林さんの生い立ちから伺います。現在の仕事に繋がる原体験などがあれば、ぜひお聞かせ下さい。

株式会社Arent 代表取締役社長 鴨林広軌氏(以下敬称略):

宮崎県延岡市という温暖な地域に生まれ、大学で京都に出るまではずっと地元の公立に通っていました。両親とも比較的放任主義と言いますか、何でも自由にやらせてもらえる環境だったと思います。

原体験として記憶にあるのは、両親からよく褒められたことです。それがゲームでもテニスでも、私が楽しんで打ち込んでいることであれば決して否定せず、どんなに小さな成長でも手放しで誉めてくれました。これは自分を信じる力に繋がり、何事にも前向きにトライする私の原動力になっている気がします。

京大在学中にウォーレン・バフェットに影響を受け、ビジネスに興味を抱く

鴨林 広軌:

大学は、京都大学の理学部数学科に進学しました。数学が好きだったこともありますが、「自分以上に子供の頃から何かに没頭して来た天才たちに会ってみたい」という思いがあり、そういう仲間に出会えるのは京都大学ではないかと考えたのが大きな理由です。

入学してみると、期待していた以上に天才たちに出会うことができましたが、一方でその天才たちが数学の勉強や研究に打ち込む姿を見ているうちに「自分が本当にやりたいことは数学ではないのではないか」と思うようになりました。

そこから自分が本当にやりたいことを探すため、様々なビジネス本を読み漁ったりする中で起業を意識するようになりました。特に影響を受けたのはウォーレン・バフェットで、彼の投資や経営に向き合う姿勢に非常に共感を覚え、ビジネスの世界に強く興味を抱くようになったのです。

あと大学時代で外せないのは、共同経営者の佐海との出会いです。クラスメートとして知り合い、お互いに田舎出身だったことや共通の趣味があったことで意気投合し、よく下宿先に入り浸っていました。あの頃の関係が現在に繋がったことを、大変感慨深く感じています。

投資顧問会社で投資、グリーでエンジニアリングを学び創業へ

鴨林 広軌:

大学卒業後、MU投資顧問でキャリアをスタートしました。いずれ起業することは決めていたので、ファンドマネージャーとしてお客様の対応をする中で、様々な業界や成功する経営者などのリサーチを行っていました。
その中で気が付いたのは、どの業界においても今やITスキルが不可欠だということです。そこで、ゲーム事業やDX事業で圧倒的な業績があり、優秀なエンジニアを擁するグリーへの転職を決意します。グリーではエンジニアとしてBIシステムの構築や「CubicTour」の開発に携わりました。

その後、コンサルやシステム開発を行う株式会社アストロテックソフトウェアデザインスタジオ(以下「アストロテック」)の代表に就任し、ほぼ同時期に、大学の同級生だった佐海の誘いで株式会社CFlatに参画しました。結果的には、この2つの会社が合併して現在の株式会社Arentとなります。

アマテラス:

Arent社誕生の経緯について、もう少し詳しく教えていただけますか?

鴨林 広軌:

きっかけはアストロテックとプラントエンジニアリング大手の千代田化工建設様が取り組んだ空間自動設計プロジェクトです。
先方と詳細を詰める中で、「これはCFlatの技術やノウハウを活かせるのではないか」と感じる場面がありました。CFlatは技術力が非常に高く、CADに強いエンジニアも揃っています。アストロテックと力を合わせれば素晴らしいサービスが作れるはずだと確信し、2019年に両社を合併、2020年に社名をArentに変更し、リブランディングを行いました。

Arent社オフィスにて

経営者の思考を理解しPDCAを回せる人事担当者を愚直に探し、採用の壁を乗り越える

アマテラス:

創業当初は、多くのスタートアップ経営者が仲間集めや資金繰りの壁を経験しますが、鴨林さんはどのようなご苦労がありましたか?

鴨林 広軌:

最初に突き当たった壁はやはり仲間集めです。Arentとして再スタートを切り、最初は社員もリファラル中心に順調に増えていたのですが、人事部を作り本格的に採用活動を始めた頃から急に採用が止まってしまうという事態が起きました。

そもそもリファラルが限界に来ていたこともありますが、やはりそれぞれが意識高く人探ししていた頃と比較すると、一般的な採用に移行したことで訴求力がやや弱くなったのかもしれません。
採用に成功しているスタートアップの事例を参考にしたり、採用広報等テクニカルなアプローチをしてみたりと、色々な手を打つもののうまく行かないという状態が1年ほど続き、「これは上場も危ういのでは」と危機感を抱きました。

試行錯誤を繰り返す中で出会ったのが、人事担当者として採用した元サイゼリヤの店長です。人事としてのキャリアは短いものの、私たちの思考を正しく理解してPDCAサイクルに落とし込む能力が非常に高く、彼を人事担当に据えてからは人事の業務が一気にスムーズになりました。採用プロセスも改善し、昨年はスカウトだけで20人以上の採用に成功しました。

現在も採用チームとは密にコミュニケーションを取り、戦略や求める人物像をジョブディスクリプションに落とし込みながら効果的に採用を行っています。こうして採用の壁を乗り越え、チームを強化することができました。

JV立ち上げでは大企業との文化の違いを乗り越える難しさを経験

アマテラス:

事業の立ち上げや組織マネジメントでは、どのような壁に直面しましたか?

鴨林 広軌:

事業立ち上げで思い出すのは株式会社PlantStreamの設立です。千代田化工建設様とのプロジェクト本格化にあたりジョイントベンチャーを立ち上げたのですが、大企業とスタートアップという全く違った会社同士ゆえの難しさに直面しました。

例えば最初のジョイントベンチャー契約書の作成だけでも、お互いの条件をすり合わせるのに半年を要しましたし、定期的な人事異動や複雑な意思決定プロセスなど、私たちとは全く違った大企業ならではの仕事の進め方が壁となりました。
先方の意思決定に関してはロジックを用いて丁寧に説明を行ったりと、スタートアップ的な感覚と大企業の文化との相互理解を深める努力をしながら問題を解決しています。

組織マネジメントについては、合併による組織の統合は思っていたよりもスムーズに行きました。現在は社員数も増えて来たので、キーエンス社の組織運営を目標としてマネジメント体制の整備を行っているところです。
キーエンスやリクルートでの業務経験があるCRO三木がジョインしてからは、自社内のモニタリングツールの導入などを行いつつ、KPIの設定やPDCAを回すための準備を進めています。

アマテラス:

組織の急成長に伴う難しさを感じる場面はありますか?

鴨林 広軌:

やはり創業当初と違い、特にベトナムを中心に見えなくなっている部分は間違いなく増えています。そして、見えなくなっているからこそKPIやモニタリングツールが必要だと考えています。
例えばベトナムのメンバーに関しては、モニタリングツールを通じて仕事への集中度を把握し、KPI達成度と合わせて評価しています。クリアに数値化することで私たちも迅速に改善策を打つことができますし、結果的に社員に対する公平性の確保にも繋がっていると思います。

 

 

千代田化工建設と共同開発したプラント空間⾃動設計ツール。PlantStream🄬は千代田化工建設の熟練技術者のノウハウが落とし込まれており、1000本もの配管をわずか1分で自動設計が可能。

業務のモデル化により、チームとしてより高度な問題を解決できる体制に

アマテラス:

建設業界のDXに特化した会社の中でも、Arent社の高い技術は目を引くものがあります。技術的優位性を保つために、どのような取り組みをされているのでしょうか。

鴨林 広軌:

たしかに私たちは建設業界においてデジタル技術の開発に強みを持つ会社として評価をいただいています。
ただ、個人的には天才的なプランナーやPMが必要なのは任天堂の「100人の凡人より1人の天才」に代表されるようなtoCの世界で、toBは別物だと思っています。例えばERPシステムに求められるのは現場のニーズをしっかり把握しプロダクトに作り込む愚直さや根気強さで、1人の天才プランナーが作れるものではありません。

そこで、私が現在取り組んでいるのは業務のモデル化です。例えばユーザへのヒアリング、業界のプロダクトの情報収集など役割を細かく分割し、それぞれが知見のある分野で担当業務をこなすことで、チームとして高度な問題を解決できる体制を整えたいと考えています。

IPOにより営業・採用の円滑化や給与の改善が実現

アマテラス:

Arent社は2023年3月には東証グロース市場にIPOを実施しました。IPOの前後で大きく変わったと感じることはありますか?

鴨林 広軌:

主に2点あります。1つはIPOにより営業や採用がやりやすくなったこと、もう1つは業績が伸びるほど自社株やストックオプションなどの制度を用いて社員に利益を得てもらえるようになったことです。前職より大幅に給与を下げてジョインしてくれたメンバー達も多くずっと心苦しく感じていたので、やっと肩の荷が下りた気がしています。

IPO後はスタートアップマインドのある人材の採用しにくくなる傾向があるとも聞きますが、当社は大企業との協業やM&Aも多く、子会社の社長などをはじめポジションも豊富です。
ストックオプション制度などは職種を問わず公平なインセンティブにもなり、高いモチベーションにも繋がると思いますので、引き続きやる気のある社員をどんどん採用していけたらと考えています。

「建設業界のDXならArent」と言われる存在になるために

アマテラス:

Arent社の今後の展望をお聞かせいただけますか?

鴨林 広軌:

Arentは「暗黙知の民主化」を実現し、建設業界のDXを推進することをミッションとしています。高い技術力と豊富な知見を活かして企業に眠る高度なコアな技術を探し出し、誰もが操作できるプロダクトにして行きたいと考えています。

日本の会社に眠るコア技術は世界的にも高い競争力を持っていることも多く、プロダクトをSaaS化して世の中に広めることができれば、業界全体の生産性の向上にも繋がるはずです。このような取り組みにより、いずれは「建設業界のDXと言えばArent」と言われる存在になることを目指しています。

アマテラス:

将来像の実現に向け、現在感じている課題や今後の取り組みなどについて教えて下さい。

鴨林 広軌:

営業先では特にPlantStreamへの関心度が高く、「こんなノウハウも入れてほしい」「うちのコアな技術でも対応してほしい」という要望を受けることもあります。
実は私たちはPlantStream以外にも様々な取り組みを行っており、これらの成果を積極的に発信するとともに、ArentのDXの方向性を明確に打ち出していく必要があると考えています。同時に開発体制のモデル化を進め、今後数年かけて事業の成長スピードを加速していく計画です。

中長期的な視点では「建設業界のDXと言えばArent」を実現するために、バーティカルSaaS市場で強い地位を築くことを目標にしています。
日本のバーティカルSaaSは連携が不十分で、結果的に有効なソリューションが提供できていないケースも見られます。今後はそういった企業をM&Aし、バーティカルSaaS化することで大きな利益を生み出すしくみを作っていくつもりです。この新しい取り組みを営業・開発の双方からしっかりサポートできるような体制を整備することが私のミッションだと思っています。

2023年3月にグロース市場に上場。上場を支えた社員と記念撮影。(最前列中央が鴨林氏)

ミッション、文化、行動が密接に結びついた組織を実現したい

アマテラス:

鴨林さんの考える理想の組織像ついてお聞かせ下さい。

鴨林 広軌:

組織像としては、キーエンス社を1つの目標としています。ミッションが全社に浸透し、皆が当然のようにPDCAを回す状態になっています。

キーエンス社の企業文化が浸透するSHIFT社も素晴らしいモデルケースです。従業員に対しLTV(Life Time Value)の概念が取り入れられており、在籍期間中に生み出す利益の期待値を最大化する施策が展開されています。給与ややりがい等多くのKPIが設定され、それらをモニタリングしながらPDCAを効果的に回すことで業績向上と高い従業員満足度のどちらも達成しています。

私たちもこの両社のようにミッション、文化、行動が密接に結びついた組織を作りたいと考え、様々な取り組みを行っているところです。

求める人物像は「高い自由度とアウトプットへの責任」を心地良く思える人

アマテラス:

このタイミングでArent社に参画する方には、どのようなことを期待しますか?

鴨林 広軌:

Arentのミッションをしっかり理解し、理想とする組織の実現に向けて意欲的にチャレンジしてくれる人を希望しています。

2023年にはIPOも達成し、会社の規模も大きくなって来ましたが、実際のところはまだまだ仕組みづくり、組織づくりの真っ最中です。これから参画される方には組織改革に向けてどんどん声を上げていただきたいと思っていますし、私もメンバーからの声はできる限り取り入れ、共により良い会社に成長させたいと考えています。

また、私がいつも皆に伝えているのは、「高い自由度にはアウトプットへの責任が伴う」ということです。私が求めるのは長時間の労働でも会社に出社することでもなく、どのような働き方でも構わないので成果を出すことです。このような働き方を心地良く思って下さる方であれば、とても楽しく働いていただけるはずです。

私が創業当初からずっと大切にしていることの中に、「社員に対してフェアでありたい」という思いがあります。経営者として高い成果を出した社員には給与でしっかり報いたいと考えていますし、社員の平均年収の引き上げを目指すと同時に、どのタイミングで入社しても不公平が生じない給与制度を導入しています。

優秀な社員たちがやりがいを持って働くことで業績や株価が上がり、それが再び社員に還元される。そんな幸せな循環で、誰もが高い満足度を持って働ける環境を整えて行きたいと思っています。

Arentには子会社もたくさんあり、裁量権を持って活躍する機会はいくらでも提供することができます。ぜひ一緒に建設業界のDX、新規デジタルビジネスの創出に挑戦しませんか。

アマテラス:

本日は素晴らしいお話をありがとうございました。

この記事を書いた人

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片山 真紀

慶応義塾大学経済学部出身。 新卒で大手通信会社にて営業およびシステムエンジニアとして衆議院、JICAや日本・海外の大学などでシステム構築を担当。 家族の海外赴任帯同と子育て期間を経て、アメリカのITコンサルティング会社で知的財産の専門家向け判例データベースのアナリストとしてデータ収集・分析等に従事。 2017年10月からライターとしてアマテラスに参画、60人以上のCEOや転職者インタビュー記事を執筆。

株式会社Arent

株式会社Arent
https://arent.co.jp/

設立
2012年07月
社員数
86名(2023年12月時点)

≪MISSION≫
暗黙知を民主化する
属人化しブラックボックスと化した高度な暗黙知を見つけ出し、高い数学力、深い業界知識で解き明かし、ビジネス化する。そしてモデル化する力でシステムへと昇華。誰もが使える「知」の民主化へ。
≪事業分野≫
SaaS
≪事業内容≫
技術的な裏付けに基づいた、極めて精度の高いDXコンサルティング。
そしてその地続きで、人材や製品の開発も引き受ける。
Arentは、あなたと共にプロジェクトを一気通貫で背負います。