スタートアップの採用戦略:人材採用の効率を高める採用手法や面接の注意点とは

スタートアップのデータベースINITIALやジャパンベンチャーリサーチのデータによると、国内スタートアップの資金調達額は2022年度で約8774億円と、10年前と比べて約15倍にまで伸びています。さらに「数年内には1兆円に達する」との見通しもあり、以前と比べるとスタートアップの資金調達環境は大幅に改善されてきているといえるでしょう。

そんな中で、現在の日本のスタートアップ業界における最も大きな課題の一つが、人材採用です。「人」「モノ」「カネ」のリソースのうち、「カネ」については先述の通り、2023年は市場が冷え込んできているとはいえ、全体的にハードルは下がってきています。

「モノ」についても、現在のスタートアップ企業の多くがITサービス関連のため、「モノ」不足で事業に悪影響が出ることはほとんどなくなりました。問題は、「人」です。

素晴らしいアイデアがあり、資金調達もできているにも関わらず、人材採用が上手くいかないために足踏みをしているスタートアップをこれまでたくさん見てきました。特に「起業した社長の右腕、左腕になれる人材」が最も不足しているのは間違いありません。

今回は、人材採用で悩むスタートアップの経営者や人事担当者に向けて、適切な採用手法の選び方や面接における注意点をまとめました。

スタートアップの採用はなぜ難しいのか?

そもそもなぜ、スタートアップの人材採用は難しいのでしょうか?一般的に大手企業よりも難易度が高いと言われるスタートアップの人材採用ですが、その背景には、以下のような理由があります。

  1. 企業の知名度が低く、求職者に認知されていないケースが多い
  2. リソースが潤沢ではないため、採用活動への投資が不十分になりやすい
  3. 採用担当者を専任で設けていないことが多く、採用手法等をアップデートしづらい

1については、昨今では映画「ソーシャル・ネットワーク」や韓国ドラマ「スタートアップ」をはじめ、メディアに取り上げられる機会が増えた結果、一昔前に比べると認知自体は拡大してきたように思います。

また2についても、2023年に入って市場が冷え込みを見せているとはいえ、岸田政権が打ち出した「スタートアップ育成5ヵ年計画」の影響などもあり、スタートアップを取り巻く環境が充実してきているのは間違いありません。

終身雇用制度の崩壊など社会の変化に対応して生き残るために「会社に依存するのではなく、スキルアップを経て、個人が自立する道」としてスタートアップ転職を選ぶ人が増えました。実際に、アマテラスでも転職希望の登録者がコロナ前と比較して約3倍(2019年と2022年の比較)に増えています。

スタートアップは事業が収益化途上にあるため、即戦力となる人材を求める反面、給与条件においては一般企業よりも2〜3割下がる傾向にあります。また、スタートアップに転職すると、事業の失敗や急なリストラ、給与ダウンはいつでも起こりうる”前提条件”になります。とはいえ、電通やタニタが社員を個人事業主化するなど、大手企業での雇用体系も変わりつつある今、労働条件面だけで転職先を選ぶケースは少なくなっているように思います。

では、スタートアップの採用は今後楽になるか?というと残念ながらそうではありません。むしろ、採用競争は今後も激化していく可能性が高いと考えられます。なぜなら、求職者以上にスタートアップの数が増えてきており、かつ市場の冷え込みから採用する人材採用に対する要求水準も上がってきているからです。

スタートアップの即戦力となる人材は、求職者の総数が増えたとしても、数が限られます。だからこそ、自社に合う優秀な人材にどうアプローチしていくかが多くのスタートアップにとって重要な経営課題になるでしょう。

スタートアップに適した採用手法は?成果を出すための留意点

自社にあった優秀な人材を獲得するために最も大きな壁になるのが、前項の3で挙げた専任の採用担当者がおらず、採用手法やトレンドに対するアップデートが追いつかないという点です。

スタートアップのフェーズによっても異なりますが、立ち上げ初期の段階は、採用にコストを割けない分、リファーラル中心で採用している企業を多く見かけます。最近はSNSに力を入れている企業が増えているため、人づての紹介だけではなく、発信を通じて人材を獲得しているケースも見受けられます。

こういったアーリーの段階では、採用担当者を設けてもコスト対効果が見合わないため、経営陣がリソースを注ぎ込みながら、組織の拡大に向けてコア人材を集めていくやり方のほうが効率的でしょう。

そこからある程度組織の基盤が整い、成長フェーズに入っていくと、リファーラルだけでは採用が追いつかなくなっていきます。具体的には、資金調達に成功した後や商品・サービスの売上がある程度安定し始めた段階から、別の採用手法を模索し始めるケースが多いようです。

ここで旧来なら、求人広告媒体で募集を出したり、人材紹介エージェントを活用したり、といった採用手法が一般的でした。ただ、これらの媒体だと大手企業と同じ土俵で戦うことになるため、知名度や投資可能な予算の差からスタートアップは不利になりがちです。また、これらの媒体だとアプローチ先を絞り込みづらく、自社のカルチャーに合った人材を集めにくいという声もよく耳にします。

そのため、最近スタートアップの採用でよく用いられている採用手法がダイレクトリクルーティングやRPO(Recruitment Process Outsourcing:採用代行サービス)です。ダイレクトリクルーティングにも様々な種類がありますが、スタートアップ志向の強い求職者が多い媒体を選べば、自社に合った人材を見つけやすくなるでしょう。

RPOサービスは、社外の採用のプロに採用業務を委託できるため、先述した3の課題をカバーできる手法だといえます。アマテラスでも厳選したRPOと提携を結んでいます。

ただし、RPOを使う場合でも、ターゲットの選定や訴求すべき魅力、応募が来た後の面談については、自社で考えながらPDCAを回していく必要があります。採用に関わる全てのタスクを丸投げできるわけではないという点は注意が必要です。

いずれにしても、経営陣を中心に社員全体が採用に対する優先度を上げてコミットしない限り、期待するような成果は出にくいものです。人材採用は組織の成長を大きく左右する最重要の経営課題という認識を持った上で、フェーズに応じた採用活動に取り組んで頂けたらと思います。

面接のポイント:スタートアップで活躍できる人材を採用するには?

何らかの採用手法を用いて応募者が集まってくると、次はいよいよ選考です。一般的には、書類選考と面接を行うケースが多いでしょう。スタートアップの規模感によって面接回数は異なり、社長面談1回だけのケースもあれば、人事担当者・マネジャー・社長という3段階の面接で選考することもあります。

スタートアップの選考プロセスで見極めるべきポイントは、主に以下の3点です。

  • 即戦力となるスキルがあるか
  • 志望動機がカルチャーマッチするか
  • スタートアップマインドがあるか

即戦力となるスキルがあるか

スタートアップとしては応募者に期待する成果があるため

「どのようにして、その成果を出そうとするのか?」
「これまで、どういうやり方で成果を出してきたのか?」
「それは、再現性がありそうかどうか?」

などを必ず聞きます。基本的には「なぜ?」を5回繰り返して話を深掘りしていけば、その人の成果が入社後にも期待できるかどうかは判断できるでしょう。仕事にきちんとコミットしてきた人であれば、具体的な話が聞けるでしょうし、フリーライダー的にたまたまその部署にいてチームで成果を出しただけといった人であれば話にボロが見えてくるはずです。

志望動機がカルチャーマッチするか

こういった質問で即戦力となるスキルが本当にあるのかどうかを見極めるのはたしかに重要ですが、それと同じくらい重要視すべきなのが志望動機です。なぜならスタートアップは基本的に単一でニッチな事業をしているため、その人がモチベーションを保ってその事業に取り組めるかどうかが重要な見極めポイントになるからです。

「そのモチベーションの源泉は何か?」
「その人の持っているエネルギーの方向性が何なのか?」
「どうしてこれをしたいと思っているのか?」

スタートアップの場合、社長自身が何らかの問題意識をもってその事業に取り組んでいます。そのため、上記のような質問をする際には、

「私はこういう問題意識を持っているから、この事業をやっている。あなたはどうなの?」

と社長自ら自己開示をしながら会話のキャッチボールを行うとよいでしょう。このときの応募者の反応から自社のミッションやビジョン、バリューに対する共感度合いを推し量る事ができますし、自己開示されたことで応募者も本音が話しやすくなります。

一般的に、経営陣との面談は選考プロセスの終盤になりがちですが、スタートアップの場合は必ずしもそうとは限りません。カルチャーマッチを重視するスタートアップの場合、早い段階から社長が志望動機について本音で話せる場を設けた方が効率的だからです。

実際に、候補者の人生やキャリアと自社の相性を重視した採用を行っているKURANDO社の事例では、代表取締役の岡澤一弘氏が1次面接前のカジュアル面談を実施するという独自の選考プロセスで、アマテラスで短期間に正社員4名の採用に成功しています。

(参考記事:https://amater.as/article/2023/07/11/caseinterview/

逆に、少人数の会社なのに、ある程度のポジションになる予定の人材の面接で経営者が出てこないスタートアップは、応募者側から「採用の本気度」を疑われる可能性があります。面接は、スタートアップ側が人材を選ぶ場であると同時に、応募者からも選ばれる場であるという点を常に意識しておきましょう。

スタートアップマインドがあるか

スタートアップは高速でPDCAを回しながら、日々チャレンジを続ける組織です。「事業のHOWをより良く実施すること」が求められがちな大手企業と違い、スタートアップでは「経営のWHYをいかに解決するか」が問われます

そのため、今まで持っていた思考のクセをアンラーンした上で、事業環境の急速な変化にも食らいつき、不可能を可能にしていく力が求められます。

どれだけ優れたスキルを持ち、明確な志望動機がある人でも、こういったスタートアップマインドを持てる人でなければ、入社後にその能力を十二分に発揮できなくなってしまうでしょう。

面談の際に、スタートアップマインドがある人かどうかを知る方法として、スキルの確認に加えて、「これまで打席に立った数」や「失敗経験」についても詳しく質問することをおすすめしています。応募者がどれだけのチャレンジを繰り返し、かつ失敗をどう越えてきたのかというところから、その人の仕事に対する姿勢を知ることができるからです。

まとめ

スタートアップの採用競争は今後も激化していくと予想されます。採用手法は様々ですが、人材採用の成否が組織の成長を大きく左右するという意識を持った上で、スタートアップの経営者を含め、会社全体で採用活動にコミットしていく必要があるでしょう。

選考過程では、①即戦力となるスキルがあるか②志望動機がカルチャーマッチするか③スタートアップマインドがあるか、の3点はしっかりと見極めましょう。そのためにも、特にスタートアップの場合は経営者が出来る限り早い段階で直接面談をしたほうが効率的です。

なお、アマテラスでは、スタートアップ転職を希望する人に対し、以下の「ベンチャースピリッツ宣誓3ヶ条」に同意してもらっています。

  • 原因自分論宣言:全ての原因を自分にあると考える。他人のせいにしない
  • 創意工夫宣言:出来ない理由を考えるのではなく、どうすれば出来るかを考えその可能性に向けて行動する
  • プロフェッショナル宣言:プロフェッショナリズムを発揮し、参画時に約束した成果を出すためにベストを尽くす。

これらの資質は、短期型・成果型のスタートアップでは特に鋭く求められる資質のため、同意してくれた人にのみ、企業を紹介するようにしています。そのため、スカウトの返信率も高く、面談時にも自社のカルチャーに合った人と出会いやすいと評価頂いています。

アマテラスに興味・ご関心を持たれた方は、資料を無料でダウンロードできますので、ぜひご一読ください。人材不足に悩んでおられるスタートアップの皆様の、採用のお役に立てれば何よりです。

この記事を書いた人

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多田 ゆりえ

広島県広島市出身。国際基督教大学卒業後、外資系製薬会社のMRとして勤務。その後、心身を壊し、10年ほど障がい者雇用の現場を経験。30代で県立広島大学大学院に飛び込み、社会福祉学を専攻。並行して、社会福祉士資格を取得。「データ扱いではなく、人の物語に光を当てたい」との思いから、大学院卒業後、インタビューライターとして起業。翌年に株式会社心の文章やとして法人化した後、会社を休眠させて、合同会社SHUUUに参画。ベンチャーキャピタルJAFCO様の広報サポートの他、スタートアップ領域の広報に広く携わる。2024年より東京に拠点を移し、社名を株式会社YEELに変更し、会社を再始動。フランチャイズ支援と広報サポート事業の2軸で展開する。アマテラスには、2022年8月よりパートナーとして参画。