エアモビリティ社会の実現に向けて、京大発の技術を駆使し、空のインフラ整備を担う

メトロウェザー株式会社代表取締役 古本淳一氏

人や物資を空中で自由に移動させることができる技術として注目されているエアモビリティ。第5期科学技術基本計画にて提唱された未来社会の青写真「Society5.0」にも組み込まれており、今までにない空の利活用に期待が寄せられています。

しかし、ドローンや空飛ぶクルマといった次世代モビリティの社会実装には、安全性・経済性・環境性という3点の課題解決が欠かせません。特に交通システムにおいて最も重要な要素である安全性については、長年議論がなされてきました。

そんなエアモビリティ社会の実現に向けて、都市の風況を可視化する技術を駆使し、空の安全性を担保するインフラを整備しようと取り組んでいる京都大学発のスタートアップがあります。それが、メトロウェザー株式会社です。

メトロウェザー社代表取締役の古本淳一氏は、京都大学の研究室で長年大型レーダー研究をしてきた実績があり、長年アカデミアの世界で活躍されていました。そこから、なぜ起業という道を選び、エアモビリティ事業に挑んだのか。創業までのストーリーやプロダクト開発への想い、そしてグローバル展開を見据えた今後のビジョンについて詳しく伺いました。

古本淳一氏

代表取締役
古本淳一氏

2019年まで京都大学生存圏研究所で助教として研究・教育活動を行いながら2015年にメトロウェザー株式会社を創業。計測・制御・通信などの知識を活用した新しいレーダー観測技術の開発の他、社会的課題解決に直結させる研究に力を入れ、最先端計測技術・デバイス開発を駆使した高性能コヒーレント・ドップラー・ライダーを開発。近年は米国展開に向けて国際標準化戦略の企画・立案、米国でのロビーイング活動も行なっている。京都大学博士(情報学)・技術士。

メトロウェザー株式会社

メトロウェザー株式会社
https://www.metroweather.jp/

設立
2015年05月
社員数
33人

《 Mission 》
世界の風を制する
《 事業分野 》
次世代Tech
《 事業内容 》
メトロウェザーは、ドローンが活躍する「エアモビリティー社会」の実現のためのラストワンマイルである「空のインフラ整備」を担う京都大学発のスタートアップです。小型ドップラー・ライダー「Wind Guardian」により都市の風況=空のインフラをリアルタイムに可視化し、風況を実測するだけでなく予測する事でドローンをはじめとするエアモビリティの安全なインフラ構築を実現していきます。また、昨今被害規模が拡大し続けている、集中豪雨や突風についても予測することで防災分野にも貢献できます。

電子電気の専門から気象分野におけるレーダー技術活用へ

アマテラス:

まず、古本さんの生い立ちからお伺いします。現在に繋がる原体験のようなものがあれば教えてください。

メトロウェザー株式会社 代表取締役 古本淳一氏(以下敬称略):

私が生まれ育った家は、京都にあるごく平凡な家庭だったと思います。子どもの頃から手に障がいがあったのですが、両親は特に気にすることなく、大らかに育ててくれました。「勉強しろ」とも言われることなく、中学まではのびのびと過ごしていました。

高校は地元の進学校に入ったのですが、地域柄、由緒ある家柄の子ども達が多く、周囲のレベル差を目の当たりにする日々でした。ただ、そこで周りの影響を受けたことで、自然と大学の目標も高くなり、結果、京都大学の工学部電気電子工学科に進学を果たしました。

京都大学に入ってからは、電気電子を専門に学んでいました。そこから気象分野に関わるようになった最初のきっかけは、4回生の研究室決めです。当時最も人気があった研究室は半導体分野でしたが、私はもう少し主流から少し外れたところで、かつ自分を生かせる研究をしてみたいと考えました。

そうして、たまたま入ったのが大気のレーダーを扱う研究室でした。「電気のことをやっていたはずなのに何故だろう」という思いはありつつも、気象の勉強を深めていく中で、ニッチな分野だからこそのやりがいを感じていきました。研究室時代に学んだことは、一つの原体験であり、今のビジネスを支える考え方の土台になっていると感じます。

予算を獲得するまでの地道な積み重ねを研究室で学ぶ

アマテラス:

研究室では、どのようなことをされていたのですか?

古本淳一:

滋賀県信楽町にアジアで唯一ここにしかない、直径100メートルほどの巨大なレーダーがあるのですが、そこでひたすら気象の観測データを取っていました。研究生活は本当に面白くて、自分たちにしか出来ない仕事をしている実感や自負がありました。

思えば当時からずっと、私は自分の専門性に閉じることなく、違う領域に生かしながら、人や社会に喜んでもらえる展開を作ろうと取り組んできたように思います。研究室時代から変わらないその思いは、現在の事業にもそのまま引き継がれています。

あと今のビジネスにつながる部分としては、予算の取り方がとても上手な研究室だったので、資金調達の際には先生方のやり方を真似させてもらいました。といっても特別な手法があったわけではありません。毎日のように足を運び、説明を重ねながら、少しずつ味方を増やしていく。そんな地道な積み重ねの大切さを先生方から学びました。

京都大学では結局、博士課程まで進み、その後ポスドクを経て、助教としてレーダーの管理をしていました。観測所の草刈りの世話から電気工事、お客様対応に至るまで、幅広くこなす何でも屋状態だったので、大概のことは自分で対応できる力が身につきました。

インタビューは京都府宇治市のメトロウェザー社オフィスにて行った。古本氏(左)とインタビュアーの弊社藤岡(右)

インタビューは京都府宇治市のメトロウェザー社オフィスにて行った。古本氏(左)とインタビュアーの弊社藤岡(右)

共同創業者と共に、アカデミアからスタートアップ起業の道へ

アマテラス:

そこからメトロウェザー社を立ち上げられたわけですが、長年の研究生活から起業へと踏み切るには相応の覚悟が必要かと思います。創業までの経緯について詳しく教えていただけますか?

古本淳一:

起業に踏み切ったきっかけは、大学に居続けることへの危機感でした。というのも、私が助教になったあたりから、気象の研究に取り組む学生数が目に見えて減っていったのです。やがて学生の総数が私が学部生だった頃の半数近くなり、教員の数も少なくなっていくのを見て、このまま続けていくのは難しいだろうと考えました。

共同創業者である取締役COOの東邦昭がポスドクとして私の下に入ってきて約5年経った頃、どうやら起業という選択肢があるらしいという話を耳にしました。当時はほとんど知られていないキャリアパスでしたが、「このまま大学にいても仕方ない」と思い、未知の世界へと踏み出しました。

大学ではあまり外の社会と接点を持っていなかったため、当初は何もかもが分からないことだらけでした。帳簿の付け方から法律的なことまで、ビジネスに必要な知識を一つずつ勉強しながら創業期を東と二人で乗り切りました。

起業してから今に至るまで、上手くいかないことの方が多い8年でした。様々な経験を東と一緒にしてこれたことに感謝しています。私がもし倒れてしまったとしても、事業を続けていける体制作りはとても重要なことですし、これからも大切にしたいと思っています。

プロダクトが出来るまでの5年間を耐えてからの急成長

アマテラス:

ディープテック系のスタートアップの場合、どうしても研究開発に先行投資がかかるかと思いますが、どのようにして資金の壁を突破されたのでしょうか?

古本淳一:

都市の風況を可視化する装置、ドップラー・ライダーが出来たのは、2020年のこと。顧客から期待される要件を満たす「ちゃんと動く製品」が出来るまでに5年かかりました。それまでは、自分たちの給与を払うのすら精一杯という中、ひたすら耐える日々でした。

5年は長いとよく言われますが、とにかく必死だったので、あまり悲壮感はなかったように思います。色々な投資家に出会ったり、イベントに出たり、新たな挑戦を繰り返しては自分たちを変え、おかげさまでNEDOをはじめ、様々なところから支援を頂くことができました。

特に、2018年にリアルテックファンドから資金調達できたのが本当に大きかったです。当時まだプロダクトが完成していない状態だったにも関わらず、当社の可能性を信じてくれたグロース・マネージャーの木下太郎さんには感謝しかありません。

そこからは木下さんにもサポート頂き、アマテラスでも採用させてもらいながら、徐々に仲間を増やしていきました。当社の社員数は現在33名。昨年までは片手ほどの人数だったので、この1年で急成長を遂げてきたかたちです。

メトロウェザー社が生み出したドップラーライダー「Wind Guardian」

技術者から経営者への変化とコミュニケーションの重要性

アマテラス:

組織が拡大してくると、経営者の立ち位置や求められる役割も変わってくるかと思いますが、そのあたりの変化はいかがでしたか?

古本淳一:

人が増えてくるにつれて、私に求められる役割が技術者から経営者へと変わっていきました。社長の仕事として、みんなが働きやすい環境をいかに作るかをひたすらに考え、様々な経営者に話を聞いたり、コーチングを受けたりしました。また、R&Dの仕事も手放し、現場に任せることにしました、

今まで通りのことを続けていても、結局、私の時間と効率で全てが決まってしまい、それ以上の成長が見込めなくなってしまいます。だからこそ組織が拡大していくスピードに合わせて、自分自身も同じように変えてきました。

30人の壁を越えて、次はいよいよ50人の壁が待っています。そのフェーズになると、私の目が行き届かない社員も出てくるでしょう。そうなった時に、「創業の想い」やここまで事業を立ち上げてきたベンチャーマインドをいかに伝え定着させていくか。そのあたりが今後の大きな課題でしょう。

メトロウェザーではもともと、メンバー間のコミュニケーションを大切にしてきました。なぜなら、ハードウェア領域から組み込みソフトウェア、UI/UX、クラウドといったところまで、幅広い技術を結集させたものづくりには、横の連携が欠かせないからです。

コミュニケーションは一方通行ではなく、立場や上下関係なく、双方向であるべきだと私は考えています。今後組織が大きくなっていっても、私や東が言いたいことを伝えるだけではなく、みんなの声をよりしっかりと受け止めながらやっていきたいと思います。

メトロウェザー社全社定例会議の様子

大学のリソースを活用し、現場の声をもとに技術を磨く

アマテラス:

メトロウェザー社のビジネスは世界との戦いかと思いますが、どのように技術を磨いてこられたのでしょうか?

古本淳一:

「誰もが認める技術があるのは当たり前。そこから上を目指さないとビジネスにならないよ」と創業時に、メンターをはじめ多くの方から教えていただきました。そこから、技術は最低限のベースラインとして捉えながら、研鑽を重ねてきました。

2019年までは京都大学に籍を置いていたので、大学のリソースもフル活用させてもらいました。競合の動向については、開示されている情報をひたすらネットで調べて、あとはとにかく現場に足を運び続けました。

「ちゃんと動く製品」として世の中に出すために必要な最低基準は、顧客とのコミュニケーションの中でしか見極めることができません。だからこそ、お客様の会う度に、「今求められているものは何なのか?」を伺い、試作段階のプロダクトにダメ出ししてもらいました。厳しい意見を下さる方も多く、お客様からの愛を感じました。

また、お客様からの声をもとに改善を繰り返していたドップラー・ライダーを、ある日、ドローンの実験で五島列島に持っていったことがありました。その時、一緒に実験をしていた航空会社の方から「これは絶対いけるよ」と言ってもらえた時のことを今でもよく覚えています。

自分たちの目線ではなく、お客様から「これは使うべきものだ」と言っていただけたことが本当にありがたかったですし、メトロウェザーが目指すビジョンの背中を後押ししてもらえたように思います。

アメリカでの市場展開を見据えた次のフェーズへ

アマテラス:

最後に、メトロウェザー社の今後の展望について教えてください。

古本淳一:

今後の展望としては、航空宇宙業界の中でも存在感の強いアメリカの市場でどう成功させていくかが大きな課題です。もちろん国内市場もおろそかにはできないので、アメリカで型式証明を取ってから日本に持ち込まれたホンダジェットのような形が理想です。

当社のプロダクトは実証期を終えて、これから製品期へと移行していきます。ものづくりの体制についても、完全なアジャイル開発から徐々に仕組みが出来ていき、ウォーターフォール開発の要素が入ってきます。そうなると自然、品質管理やプロダクトマネージャーの人材も必要になってくるでしょう。

会社としてもゼロイチのフェーズを越えて、ようやく先に進んでいく段階です。だからこそ、自らの専門性を超えてさらに1歩踏み出せるような人が仲間になってくれたらと思います。変化の激しい業界だからこそ、失敗してもいいので、スピード感を持って、柔軟に取り組んでもらえたらうれしいです。

当社は各専門分野のプロフェッショナルばかりが集まっている会社ですから、学ぶ意欲さえあれば、成長の機会はいくらでもあります。お客様の声を直で聞きながらものづくりをしたい方にとっては、他にはないやりがいが感じられる職場です。空のインフラ整備という当社のビジョンに共感してくれる方との出会いを楽しみにしています。

アマテラス:

本日は素敵なお話をありがとうございました。

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多田 ゆりえ

メトロウェザー株式会社

メトロウェザー株式会社
https://www.metroweather.jp/

設立
2015年05月
社員数
33人

《 Mission 》
世界の風を制する
《 事業分野 》
次世代Tech
《 事業内容 》
メトロウェザーは、ドローンが活躍する「エアモビリティー社会」の実現のためのラストワンマイルである「空のインフラ整備」を担う京都大学発のスタートアップです。小型ドップラー・ライダー「Wind Guardian」により都市の風況=空のインフラをリアルタイムに可視化し、風況を実測するだけでなく予測する事でドローンをはじめとするエアモビリティの安全なインフラ構築を実現していきます。また、昨今被害規模が拡大し続けている、集中豪雨や突風についても予測することで防災分野にも貢献できます。