昨今、ニュースやSNSを通じて「スタートアップ」や「ベンチャー」といった単語を目にする機会が増えました。政策としても、岸田政権は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、今後5年間でスタートアップの数を10倍に育てていく方針を打ち出しました。同年11月に策定されたスタートアップ育成5か年計画を皮切りに、オープンイノベーションへの税制優遇や政府からの資金調達支援など、一昔前と比べるとスタートアップを取り巻く環境も充実してきています。
また、アメリカのドラマ「シリコンバレー」や映画「ソーシャル・ネットワーク」、韓国ドラマ「スタートアップ」といった作品を通じて、スタートアップのことを知った方もいるでしょう。学生時代に起業する人も徐々に増えており、キャリアの選択肢としてもスタートアップやベンチャーはある程度市民権を得てきたように思います。
とはいえ、「スタートアップとはそもそも何なのか?」という問いに対して即答できる人は、多くないように見受けられます。実際メディアによっても定義が微妙に異なるため、混乱してしまう方もいらっしゃるでしょう。今回はあらためて、私達アマテラスの視点からスタートアップの定義について考えていきたいと思います。
- 目次 -
スタートアップとは?ベンチャーとの比較とアマテラスの基準
スタートアップとは、ビジネスを通じて社会や人類の課題解決を志し、革新的なアイデアをもとに商品やサービスを生み出し、その事業化を通じて社会にインパクトを与える企業を指します。
「Start up」という英単語には「開始する、起動する」という意味があり、もともとはアメリカ・シリコンバレーで新興企業を指して使われ始めた言葉といわれています。英語のニュアンスから、スタートアップ=創業期の会社だと誤解する方もおられますが、起業からの年数は特に関係がありません。
あくまでも日本の業界内のニュアンスですが、一般的にスタートアップというと、革新的なビジネスモデルやテクノロジーを活用して、短期間で急成長を志向する組織体をイメージする傾向にあります。
革新的なアイデアをいち早く事業化し、市場のシェアを獲得するために、急成長を目指すスタートアップが多いのは事実です。そのため、ベンチャーキャピタル(以下、VC)やエンジェル投資家から資金調達をして、事業のスピードを加速させ、最終的にイグジット、つまりM&AやIPOによって企業の創業者や経営者、出資者が保有する株式を売却するなどして投資資金を回収する出口戦略を目指すケースが多く見られます。
反面、あえてVCなどからの資金調達を行わず、安定的で着実な成長を目指していく起業もあります。新しい事業や新サービスを提供しつつも、急成長を目指さない企業のことを日本の業界内では「ベンチャー」という和製英語で表現することが多いようです。
スタートアップとベンチャーといった区分は日本独自のもので、言葉の定義を厳密に追求する必要はないというのがアマテラスの考え方です。アマテラスでは採用支援をさせて頂く企業を厳選していますが、「スタートアップ厳選の仕組み」で述べているように、基準として以下の5項目を設けています。
- 社会課題解決にチャレンジしているか?
- 競争優位性となる強み(コア・コンピタンス)を持っているか?
- ルールブレイカー(rule breaker)であるか?
- 市場規模は魅力的な大きさか?
- 回収エンジン(マネタイズ)の仕組みがあるか?
また、事業内容やビジネスモデルだけではなく、経営者の方とも実際に面接させて頂き、人間力やビジョンが感じられる企業だけをご紹介するようにしています。なぜなら、トップである経営者が人間として魅力的かつ信頼できるかどうかという点が、スタートアップの価値を判断する際に最も重要なポイントだと考えているからです。
そのため、アマテラスでは厳しい審査を行っており、一般的な定義からするとスタートアップに該当する企業だとしても、以下のような場合はご紹介していません。
- 経営者から志が感じられない会社
- 事業に新規性・社会貢献性がない会社
- 大企業の下請け、受託業務のみ
- 経営者が採用・社員教育・育成を重要視していない会社
スタートアップの成長フェーズとは:事業軸と資金調達軸
スタートアップは、事業の成長段階に応じて、4つのフェーズに分けられます。
- シード(事業アイデアはあるが、製品やサービスが確立されていない段階)
- アーリー(製品やサービスの販売が開始され、顧客からのフィードバックを得ている段階)
- ミドル(ビジネスモデルを改善し、急成長フェーズに入る段階)
- レイター(事業が軌道に乗り、売上が安定して完全に黒字化している段階)
スタートアップの成長フェーズを表す言葉として「シリーズ」という表現もありますが、こちらは投資家が企業へ投資をするための目安となる考え方として用いられます。資金調達のシリーズは、投資ラウンドとも呼ばれており、以下のように対応しています。
アマテラスでは特に、事業フェーズがミドルまでの企業の採用支援に力を入れています。なぜなら、そういった企業ほど高い成長ポテンシャルを有しているからです。
革新的なビジネスアイデアを事業化しようと取り組むスタートアップの場合、製品やサービスが一定以上認知され、ビジネスモデルが浸透するまでは赤字ということも珍しくありません。この赤字期間は一般的に「死の谷(Valley of Death)」と呼ばれており、この谷を越えられるかどうかが一つの山場です。
逆に「死の谷」さえ越えてしまえば、組織の急成長・急拡大が期待できるため、ストックオプションなどを通じて大きなリターンを得やすいというのもスタートアップの大きな特徴でしょう。
スタートアップと大手企業との違い
大手企業とスタートアップ、それぞれの働き方を具体的に比較してみると、以下のような違いがあります。
大手企業と比べてスタートアップは組織の規模が小さく、事業も収益化途上にあります。そのため、業務フローが確立されておらず、不確定な中でも決断・推進し、高速でPDCAを回しながら変化に対応していく力が求められます。
そのため、新卒採用が多い大手企業と比べて、スタートアップは中途採用がほとんどです。事業フェーズにもよりますが、収入面でいえばスタートアップの給与は大手企業の7〜8割程度であり、経営状況によっては減額されることもあります。
スタートアップの起業後10年存続確率はわずか5%。大手企業と比べて、「事業の失敗(会社のリビングデッド化)」「急なリストラ(人員整理)」「給与ダウン」が一定の頻度で起こりえる厳しい世界です。
それでも、スタートアップ転職を選ぶ方が近年増えている理由として以下の5点が挙げられます。
- スキルアップの最短の近道である
- 成功すれば「高い給与」が、才能があれば「高い役職」が与えられる
- 仕事の裁量が大きい
- 学歴を問わず、スキルに応じた活躍が期待できる
- 時短やリモートワーク等の柔軟な働き方を選べるケースが多い
スタートアップ転職の魅力については、弊社CEO藤岡の著書「『一度きりの人生、今の会社で一生働いて終わるのかな?』と迷う人のスタートアップ『転職×副業』術」で詳しく述べていますので、ぜひ参考にして頂けたらと思います。
スタートアップで働くことは、決して楽ではありません。しかし、大手企業で働く中で「自らのキャリアを正しく恐れ、サバイバルの力を身に付けていきたい」と考えている方にとっては非常に前向きな選択になることでしょう。
スタートアップ市場の動向と課題:最も不足しているのは「人」
一昔前に比べると、スタートアップの資金調達環境は大幅に整ってきています。アメリカには到底及ばないものの、国内スタートアップへの投資額は2013年と比べ10年で10倍もの規模に成長しました。「Japan Startup Finance 2022」によると、2022年の国内スタートアップ資金調達額は、過去最高だった2021年を超え、8774億円を記録しました。
そのため、「人・モノ・カネ」という企業の経営資源のうち、カネについてはある程度充足してきているといえます。また、スタートアップの多くはITサービスに関連しているため、ネット環境が整っている今、モノ不足で事業に悪影響が出ることもほとんどない状態です。
そうなると、残された課題は「人」、つまり人材不足です。特に、「社長の右腕、左腕になる人」が不足しているスタートアップが多く、事業拡大のネックになってしまっています。
特にSDGsに沿った社会課題の解決に取り組んでいる企業や、SaaSや人工知能といったこれからの伸びが確実に期待できるようなTech領域のスタートアップの経営者からお話を伺うと、優秀な技術者や幹部人材の確保に悩んでおられるケースが大半です。
素晴らしいアイデアがあり、資金調達も出来て、いよいよ規模を拡大するというタイミングで、その流れをさらに加速できるような人材採用を支援すること。それがアマテラスの使命だと考えています。
まとめ
スタートアップの定義は諸説ありますが、アマテラスでは、ビジネスを通じて社会や人類の課題解決に貢献すること、そして革新的なアイデアをもとに商品やサービスを生み出し、業界の新たなルールを創出しうる企業をスタートアップと呼んでいます。
スタートアップの10年存続確率は5%という厳しい世界です。事業の失敗や人員整理といった変化が当たり前に起こる環境ではありますが、その分、裁量のある仕事を任されやすく、最短でスキルアップできたり、学歴や年齢に関係なく一発逆転が狙えたりといったスタートアップならではの魅力もたくさんあります。
スタートアップ支援の環境が整いつつある中、最も足りていないのは「人」です。経営者目線で会社に対してどんな貢献が出来るのか、プロフェッショナルとしての意識を持ち、創意工夫しながら課題に対して前向きに取り組める人材を多くのスタートアップが求めています。
大手企業で働いていた方が、自らのキャリアを見直し、副業などからスタートアップに飛び込むケースも増えてきています。これからの時代を生き抜く力を培い、会社の看板に依存しないキャリアを目指す方はぜひスタートアップ転職を一つの選択肢として前向きに考えてもらえたらと思います。
自分が本当にスタートアップで通用するのか?という疑問を持たれた方は、ぜひ以下のコラムも合わせてお読み下さい。皆様のキャリアを考える上で今後の参考になれば幸いです。